【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino

文字の大きさ
19 / 72
2章 2回戦目

18.俺なりの気遣い

しおりを挟む

 俺が自分の趣向を打ち明けると、尚輝くんの表情はみるみる焦ったものになって、青ざめていった。
 あ、ヤバい、泣いちゃう?
 
 やっぱりイメージと違うってパターンか。
 もう慣れたけど、やっぱり俺は俺だしそう思われるのは辛かったりもするんだよね。
 だって無理して合わせて食いたくもないもん食っても楽しくなくね?それなら安くて旨いもん食った方が幸せじゃん。

 一応客だしフォロー入れとくか~。


「あ、だからと言って尚輝くんのデートが嫌って訳じゃないよ?普段味わえないリッチ感っての?大人なデート出来て楽しいよ?」


 俺が一生懸命作った接客用の笑顔とセリフで凍り付いた空気を和らげようとするけど、尚輝くんは強張った表情のまま立ち上がり、ガバッと俺に向かって腰を折って頭を下げて来た。

 い、いきなり何!?
 近くにいたファミリーがめっちゃ見て来て、手を繋ぐより恥ずかしいんだけど!!


「すみませんでした!!全く伊吹さんの気持ちも考えずに自分の思い描いたデートを押し付けていましたっ!本当にごめんなさいっ」

「えええ!?そんな事で謝らなくていいって!てかやめてよ!恥ずいじゃん!」

「自分の好みの方と一緒に過ごせると思い舞い上がっていて、伊吹さんの気持ちを大切にするのを疎かにしてました……あ!レストランキャンセルします!待ってて下さい!!」


 めっちゃ謝罪されて、急いでスマホでどこかに電話を掛け始める尚輝くん。
 俺はそんな尚輝くんの姿をポカンと見ていた。

 もしかして俺、とんでもなくマズイ事言っちゃった?
 引かれるかなとは思ったけど、まさかこんな大事になるなんて思わなかったよ。

 電話を終わらせた後、尚輝くんはまた俺の方を向いて焦ったように話し始めた。


「すみません、言い訳になってしまうのですが、好きな人とデートをするのは伊吹さんが初めてなもので……どうしたら満足していただけるのかいろいろ調べたりしたのですが、力不足でした」

「いや、俺も深く考えずに話して悪かったよ。あのさ、もうキャンセルしちゃった?」

「はい。もう勝手に予約したりしませんっ」

「いや、勝手に予約してもいいのよ?でもそれは特別な時とかにした方がいいよ。毎回されちゃうと感動が薄れちゃうし、俺みたいな一般人には特別な時ぐらいの方が嬉しいから」

「分かりました!頭に入れておきます!あの、それは次もあると言う事で受け取っていいんでしょうか!?」


 あ、しまった。
 そう言う事になるよな。
 フォローのつもりで言っただけなんだけど、何か期待させちゃった。
 でもいっか、いつまでもヘコヘコされてるのも嫌だしな。


「いいよ。でもさ、尚輝くんはこういうお店使うのはもう辞めた方がいいよ。それか他の人探すべきかな」

「えっ!それは……やっぱりさっきの失敗が響いてますか!?」

「そうじゃないけど、尚輝くんってすげぇ良い子だからさ~、俺みたいな奴といつまでもデートなんかしてないで本気で相手してくれる人と出会ってそっちに金使った方がいいって話。正直罪悪感ハンパないんだよ、尚輝くんを騙してるみたいでさ」


 これは今日の最後に言おうと思ってた事だ。
 今日1日尚輝くんと素でデートをして過ごして感じた事だ。
 こういう仕事をしてる俺からしたら絶対逃したくないかなりの太客だ。それこそ他へ行かれるなんて何が何でも阻止するだろう。
 だけど、尚輝くんは本当に純粋で、真っ直ぐで良い子なんだ。
 だからちゃんとした人と巡り合って幸せになってもらいたいって思ったんだ。
 思考がジジイかな?

 尚輝くんを傷付けるかも知れないけど、早めに伝えた方がいいと思う。
 まだ若いし、未来があるんだから尚更ね。

 
「……分かりました。伊吹さんの迷惑になる事はしたくないです。今まですみませんでした」

「だから謝らなくていいって!もー、尚輝くん真面目過ぎ~」


 見て分かるぐらいに元気を失くした尚輝くんに、俺はどうしたらいいのか分からなかった。
 俺からそう言う話しをした以上変な事言って気を持たせてもなぁ。

 大きな体をしょんぼり丸めて肩を落とす男に、俺は隣でどうしたもんかと少し複雑な気持ちでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。

きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。 自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。 食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(2024.10.21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

本気になった幼なじみがメロすぎます!

文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。 俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。 いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。 「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」 その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。 「忘れないでよ、今日のこと」 「唯くんは俺の隣しかだめだから」 「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」 俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。 俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。 「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」 そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……! 【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)

処理中です...