53 / 72
4章 まさかの目覚め!?
52.確かめる決意
しおりを挟む結局俺は、尚輝くんに本当の事が言えなかった。
あの後「何でもない」って言って黙ると、尚輝くんはしつこく聞いてこようとしなかった。
だけど、明らかに俺の態度が変わったのに気付いて気遣うようになったのが良く分かった。
やたら話し掛けて来るし、俺の気を引こうと居酒屋へ行こうと言い出したりもした。
だけど俺は断った。今は楽しく飲めなそうだからな。
こんな事、この仕事をしていてやってはいけない事の上位に入るような行動だろ。
客の前で機嫌を悪くして、空気を悪くさせ、客に気を遣わせるなんて、キャストとして失格だ……
でもどうして客に嘘をついただけなのにこんなに後悔してるんだろ。
一生懸命に場を盛り上げようとしてる尚輝くんを見てるとどんどん罪悪感が込み上げて来て今すぐに帰りたくなった。
「伊吹さん」
「ん?」
尚輝くんの呼び掛けに薄く答えると、尚輝くんは少し寂しそうに笑ってこう言った。
「そろそろ20時です。今日も楽しいデートありがとうございました」
「え、嘘?もうそんな時間?」
慌ててスマホを開いて時間を確認するとまだ19時を回った所だった。
いや、それにしても俺ってば何時間こうしてるんだって話だよ。はぁ、さすがに愛想尽かされたかな。
「まだ1時間あるじゃん」
「いえ、今日は早く帰って休んで下さい。伊吹さんの体調が心配です」
どこまでも俺を気遣う言葉に、もう限界だった。
今すぐに謝らなきゃいけない。なのに言葉が出て来ない。
何を言えばいい?
何て言えば尚輝くんを傷付けなくて済む?
あ、そうか、俺は尚輝くんを傷付けたくないのか。
「尚輝くん、もう少し一緒にいて欲しいんだ。お願い出来る?」
「っもちろんです!」
「ちょっと真面目な話したいからさ、んー、俺んち来る?」
「い、いいんですかぁ!?」
自分でも驚くような事を言ってると思うよ。
だって客には家は勿論、連絡先だって絶対に教えた事がないんだ。
これからもそれは継続させるつもりだった。でも尚輝くんなら信じられると思ったんだ。
それに、尚輝くんにはそれぐらいしてもいいと思うんだ。
「一人暮らしだから気遣わなくていいよ。あ、無いとは思うけど、この事は秘密な?」
「嬉しいです!ありがとうございます!」
見て分かるぐらい喜んでる尚輝くんを見たら、少しだけ胸のつかえが取れた気がした。
客である尚輝くんを招くのには、俺もこの気持ちを確かめたかったんだ。
尚輝くんに対する他の客とは違った感情は何なのか、きっとこのままじゃダメな気がするんだ。
場合によってはもう店を通して会うのは辞めるべきだと思ったからだ。
俺は尚輝くんを大切にしたいんだ。
それから俺はタクシーを呼んで、尚輝くんを住んでるマンションに連れて行く事にした。
20
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
【完結】少年王が望むは…
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。
15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。
恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか?
【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~
天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。
「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」
「おっさんにミューズはないだろ……っ!」
愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。
第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる