【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino

文字の大きさ
54 / 72
4章 まさかの目覚め!?

53.偽りの自分

しおりを挟む

 タクシーの中、尚輝くんは見て分かるぐらい緊張していた。
 マンションの前まで到着して、尚輝くんが料金を払おうとしてたから、俺はそれを止めて自分で払った。
 そして自分の部屋へ尚輝くんを入れる。
 口数の少ない尚輝くんに、俺まで緊張してしまった。


「何もないとこだけど、適当にくつろいでよ。あ、何か飲むー?コーヒー、紅茶……ビールもあるけど、尚輝くんは飲まないんだよな?」

「あっ紅茶くださいっ」

「了解。ちょっと待ってて~」


 お湯を沸かして紅茶のティーバッグを用意する。
 普段ルナがたまに来るぐらいだから客用のお洒落なティーカップなんてない。俺が使ってるマグカップを使った。
 紅茶を淹れてリビングに持って行くと、尚輝くんはまだ入ってすぐの所に立っていた。


「あはは、座ってて良かったのに」

「緊張してて、すみません」

「そっか。じゃあ一緒に座ろ?」

「……はい」


 かちこちに固まる尚輝くんの手を握ってソファへ案内する。先に尚輝くんを座らせた後、俺も隣に座った。

 さて、本当の事を話そうか。


「あのさ、さっきの大我くんの話だけど」

「はい、何ですか?」

「さっきは知らないって言ったけど、本当は知ってるかもしれないんだ」

「……そうですか」

「その、実は俺が知ってる大我くんと違う人かもと思ったけど、俺は大我くんの事をタイガーって呼んでるんだ」

「大我くんの好きな人は伊吹さん。そう言う事ですか?」

「そう、かも」

「何となく、そうなんじゃないかと思いました。大我くんの話をしてから伊吹さんの様子がおかしかったので……」


 シュンとする尚輝くん。
 まさか勘付いていたなんて。
 いや、尚輝くんは頭良さそうだし、勘付いててもおかしくはないか。


「俺は客には他の客の話はしないようにしてるんだ。高い金払ってくれてるし、そう言う話を嫌がる人もいるからさ」

「はい。伊吹さんの仕事への姿勢や配慮は正しいと思います」

「そう、でもねぇよ。現に尚輝くんに嘘をついた事になるじゃん。なんかさ、今までは当たり前のように嘘なんてつけたのに、尚輝くんに嘘をつくのは心が痛かったんだ。嘘ついてごめんな?」

「謝らないで下さい!伊吹さんが俺に嘘をつくと言う事は俺がまだそれまでの男だって事です。俺がその域に達していないだけですから」

「じゃあさ、今嘘ついてた事を打ち明けたのはどうして?家にまで連れて来て、他の客には絶対しないのに……俺はどうして尚輝くんには特別な事をしちゃうんだ?」


 俺がそんな質問をすると、尚輝くんは照れてるのか、焦ってるのか、言うなればその中間の顔をしていた。
 少しだけ頬を赤めて、視線を泳がせて、姿勢良くしていた体を少しだけ丸めていた。


「あの、俺の勝手な想像ですが、伊吹さんも俺の事を気にしてくれてるって事じゃないですか?違ったらすみません!」

「やっぱそうなんかなぁ?そうだよな~、じゃなきゃおかしいもん。俺」


 俺は見た目には自信があるけど、性格は良い方じゃないのは自分でも分かっている。
 そのせいで昔トラブった事があって、せっかく入った大学でも上手く行かず結局今のバイトをダラダラと続けている。
 この仕事はガッツリ接客業なんだけど、常に良く思われようと意識して自分を作っているから、良い夏川伊吹を保つ事ができるんだ。
 それなら他の仕事も出来るんじゃん?って思うだろ?それが違うんだよな~。
 学生の頃は俺だってカフェでバイトをした事がある。顔が良いからって面接の段階で採用してもらえたんだけど、いざ働いてみたら仕事は接客だけじゃねぇの。ドリンクや料理の提供から、開店、閉店後の作業などは思っていたよりも力仕事が多く、体力の無い俺はすぐに根を上げて使い物にならないと周りの目がそう言っているのが分かった。
「夏川くんて顔は良いんだけどね~。今月グラス何個割った?こんなに物を壊す子は初めてだよ」
 顔は良い。顔は……
 俺だって分かってるんだよ。他には何の取り柄も無いって事ぐらい。

 だから今のバイトは自分を偽ってニコニコして話を合わせるだけでいいから続けられているんだ。
 それ以外は求められないから、顔以外何の取り柄もない俺でも「ありがとう」って言ってもらえる仕事なんだ……

 そんな俺が、客に嘘をついて心が痛くなるなんておかしいんだ。


「おかしくなんかありません!伊吹さん、素直になりましょう!」

「尚輝くん……」


 俺を真っ直ぐに見て励ますように言う尚輝くん。
 さっきまでの緊張していた強張った顔じゃなくて、俺の良く知るキリッとした顔だった。
 ああ、なんかホッとするな。
 それと、心につっかえてた物が取れたような気分だ。
 やっぱり尚輝くんに本当の事を話して正解だったのかも。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話

タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。 「優成、お前明樹のこと好きだろ」 高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。 メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?

ブラック企業の寮で、同期とだけは恋に落ちないと決めていた~同室生活・過労案件・限界メンタル―それでも、唯一の味方が、隣にいる。

中岡 始
BL
「限界社畜、恋に落ちたら終わりだと思ってた――でも、一緒に辞めて起業しました。」 ブラック企業で出会った新卒ふたり。 職場は地獄、寮は同室、心は限界寸前。 “ちゃんとした社会人”を目指す白井と、マイペースに生き延びる藤宮。 恋なんてしない、期待なんてしない――そう思ってたはずなのに、 「お前がいたから、ここまで来られた」 気づけば手を取り、会社を辞め、仲間たちと“理不尽の外側”へと走り出す。 すれ違い、涙、ほうじ茶プリンとキスの夜。 これは、仕事と恋に潰れかけたふたりが、 一緒に人生を立て直していく、再起系BLラブコメディ!

王子様と一緒。

紫紺
BL
田中明夫は作家を目指して10年、全く目が出ない男だ。 ある日、書店の前で金髪青い目の青年が突然話しかけてきた。最初は胡散臭く思っていたのだが……。 南の国の第2王子アスラン、その護衛トーゴー、田中が住むアパートの大家や住人の奨励会員などなど。 様々な人間模様と恋模様が織りなすBL多めのラブコメ開幕です!

【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜

星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; ) ――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ―― “隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け” 音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。 イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――

恭介&圭吾シリーズ

芹澤柚衣
BL
高校二年の土屋恭介は、お祓い屋を生業として生活をたてていた。相棒の物の怪犬神と、二歳年下で有能アルバイトの圭吾にフォローしてもらい、どうにか依頼をこなす毎日を送っている。こっそり圭吾に片想いしながら平穏な毎日を過ごしていた恭介だったが、彼には誰にも話せない秘密があった。

過去のやらかしと野営飯

琉斗六
BL
◎あらすじ かつて「指導官ランスロット」は、冒険者見習いだった少年に言った。 「一級になったら、また一緒に冒険しような」 ──その約束を、九年後に本当に果たしに来るやつがいるとは思わなかった。 美形・高スペック・最強格の一級冒険者ユーリイは、かつて教えを受けたランスに執着し、今や完全に「推しのために人生を捧げるモード」突入済み。 それなのに、肝心のランスは四十目前のとほほおっさん。 昔より体力も腰もガタガタで、今は新人指導や野営飯を作る生活に満足していたのに──。 「討伐依頼? サポート指名? 俺、三級なんだが??」 寝床、飯、パンツ、ついでに心まで脱がされる、 執着わんこ攻め × おっさん受けの野営BLファンタジー! ◎その他 この物語は、複数のサイトに投稿されています。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

猫と王子と恋ちぐら

真霜ナオ
BL
高校一年生の橙(かぶち)は、とある理由から過呼吸になることを防ぐために、無音のヘッドホンを装着して過ごしていた。 ある時、電車内で音漏れ警察と呼ばれる中年男性に絡まれた橙は、過呼吸を起こしてしまう。 パニック状態の橙を助けてくれたのは、クラスで王子と呼ばれている千蔵(ちくら)だった。 『そうやっておまえが俺を甘やかしたりするから』 小さな秘密を持つ黒髪王子×過呼吸持ち金髪の高校生BLです。

処理中です...