【完結】取り柄は真面目な事だけです

pino

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1章 大切な人

13.臆病な自分

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「正直俺も怖いよ。尚輝くんの事は好きだけど、体が受け付けなかったらどうしようって。でも、好きな人とはそういうのもしたいじゃん。だからさ、試してみよ?ダメ?」

「もしダメだった場合、嫌いになりませんか?俺は伊吹さんに嫌われたくありません」

「ならない♡好きは変わらないから♡」

「俺も好きです!し、失礼します!」


 ヘラッと笑って「好き」と言われて俺は意を決して伊吹さんを抱き締めた。
 伊吹さんを両腕で包んで出来るだけ優しく抱き締める。伊吹さんの香水の匂いと少しお酒の匂いがして、胸がくすぐったくなった。
 そして震える腕で感じたのは、伊吹さんは思っていたよりも細かったと言う事。強く抱き締めたら折れてしまうんじゃないかと言うぐらいに細かった。
 凄い!今俺、伊吹さんを抱き締めてる!!


「あはは♪失礼しますって何~?」

「伊吹さんっ!嫌じゃないですか!?嫌だったらすぐに言って下さい!」

「全然嫌じゃない♡尚輝くんて何かスポーツしてんの?良い体してんね」

「いえ、スポーツは得意じゃないので……」

「そうなんだ?俺も運動嫌ーい♪」

「い、伊吹さんっ!?」


 俺の体に腕を回してギューっと抱き付いて来る伊吹さん。可愛い過ぎるっ!そして幸せ過ぎる!
 あの伊吹さんに抱き付かれてるなんてっ!
 今日はいろんな記念日です!

 そして俺の腕の中にいる伊吹さんが顔を上げて俺をジッと見て来る。ま、まさかこれは!?
 

「尚輝くん、して?」

「伊吹さんっでもっ」


 この流れはきっとキスをするのが普通なんだろう。だけど俺は初めてで、上手く出来るのか、本当にしてもいいのか不安でいっぱいだった。
 てかどうやればいいんだ?いや、唇と唇を合わせるのは知っている。だけど、いざ実践するとなると本当にそれだけでいいのか分からなくなる。
 そもそも唇と唇を合わせる意味はなんだ?
 その前に言う事、やる事があるのでは?
 リップクリームなどで唇の手入れをしていない事を指摘されないか?
 ああ、何だこれ?自分でも訳の分からない事ばかりが頭に浮かぶ!!

 
「ごめんなさい……少し待っ」

「待てない♡」


 やっぱり俺には無理だと諦めかけた時、伊吹さんの顔が寄って来て唇に唇を当てられた。
 キ、キスだぁ!それも伊吹さんからのキスだ!
 俺の頭はショート寸前だった。
 いや、もう既に頭の配線類は全て千切れているのかも知れないっ!!

 勝手にグルグルする頭を一生懸命落ち着かせようとしてると、キスをして来た伊吹さんが離れて行き、照れたように「へへ」と笑ってこう言った。


「……しちゃったね♡」


 俺の混乱する頭の中で真っ黒なウイルスが発生した。
 そのウイルスはたちまち広がり、俺の中の善を支配していく。

『このまま押し倒しちゃえよ。伊吹を尚輝色に染めてやれ』
『そうだそうだ!酒飲んでて良い気分になってるんだから好きにやっちまえ♪』

 拡散されたウイルスがあちらこちらでそんな事を囁く。

『ダメです!本当に大切に想っているのなら今日はここまでにしておきましょう!』
『そうです!きっと尚輝さんの真面目さに惚れたのですから、紳士な姿を見れば更に惚れるでしょう!』

 真っ黒なウイルスと戦おうと立ち上がる善の細胞達。
 俺の頭の中で戦っているウイルスと善の細胞達の声に、目の前にいる可愛い伊吹さんを重ねる。

 何が正解なのか、すぐに答えが出なかったのは俺にウイルス側のやましい気持ちもあったからだ。
 俺だって伊吹さんとしたい。
 だけど、嫌われたくないし、本当に大切にしたいと思うから、ゆっくりやって行こうと思っていたんだ。

 今ここでウイルスの考え通りに動いても、上手くいく保証も無いし、もし失敗したら幻滅されたり嫌われる確率の方が大きいだろう。

 それならば、俺が出す答えはこうだ。
 俺は伊吹さんの肩に手を置き真っ直ぐに目を見た。


「伊吹さん、今日はここまでにしませんか?意気地なしだと思うでしょうが、俺は伊吹さんを大切にしたいと思っています。今はこうして側にいられるだけでも十分に幸せです。伊吹さんも同じ気持ちでいてくれるならば、どうか俺にもう少し時間を頂けませんか?」

「尚輝くん……」

「せっかくの良い雰囲気を壊してしまいごめんなさい。でも、これが俺なんです。勉強ならどんな問題でも落ち着いて解く事が出来ますが、伊吹さんの事になると緊張してしまい思うように行かないのです。伊吹さんが許してくれるのであれば、俺がもう少し慣れるまで暖かい目で見ていただけたら……嬉しいです……」


 しっかりとハッキリと言うつもりが、最後はもう泣きそうだった。
 難しいと思われていた伊吹さんと両想いになる事。それがやっと達成出来たのに、俺のこの答えのせいで伊吹さんをガッカリさせてしまうかもしれない。

 それでも俺はこうして触れているだけでも怖くて仕方ないんだ。

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