15 / 45
1章 大切な人
14.マイナス思考とプラス思考
しおりを挟む伊吹さんはジッと俺を見た後に、トンと俺の肩の辺りに倒れて頭を当てて来た。
「いいよ、尚輝くんがしたくなったらで。その代わりにさ……」
「何ですか?何でも言って下さい!」
まさかの答えに俺は食い付いた。
伊吹さんの顔は見えないけど、声色は明るく感じる。
嫌われなくて良かった!
「…………」
「伊吹さん?その代わりにって何ですか?」
「…………」
あれ?伊吹さんから返事が無い。
俺はまさかと思って伊吹さんの肩を掴んで離し、顔を見てみる。
そこには気持ち良さそうに目を閉じてる可愛い伊吹さんがいた。
これは寝てるのか?
飲み過ぎると寝ちゃうって言ってたけど、本当だったんだ。
「……可愛い♡」
さっきまで陽気に喋っていたのに、突然大人しくなって寝てしまうなんて、まるで子供みたいだなと思った。
このままだとちゃんと寝れないだろうから寝室に連れて行こうと思うんだけど、俺が寝室に入っていいものなのか。
前に来た時に寝室を見せてくれたから場所は分かる。でも伊吹さんの寝室って思うと意識しちゃって悪いなって思っちゃうんだ。
俺はやっぱり伊吹さんを起こす事にした。
「伊吹さん、ここで寝たら風邪引きますよ」
「…………」
声を掛けたぐらいじゃ起きないのか。
ならばと肩を揺らしてみる。それでもゆさゆさと揺れるだけで目は閉じたまま。
揺らした反動で伊吹さんの頭がカクンってなって、後ろに倒れそうになったから、慌てて両腕で支えた。
再び伊吹さんの体に触れて、その細い体にドキドキしてしまう。
冷蔵庫にも何も入って無かったけど、ちゃんと食べてるのかな?デートの時は普通に食べてるのを見るけど、好き嫌い多いみたいだし、健康状態が心配だな。
一人暮らしだから手を抜いちゃうのも仕方ないけど、伊吹さんには健康でいてもらいたい。
今度ご飯を作ったら食べてくれるかな?
俺は実家暮らしだけど、父さんは仕事で忙しくて家にいなかったから、俺のご飯はいつもお手伝いさんが作ってくれてたんだ。それをたまに手伝ったりしてたから簡単な物なら作れるけど……
勝手にそんな事しても気味悪いとか思われるかな。料理は女性ってイメージが強いし、やっぱり俺みたいな男と可愛い女の子に作って貰うのとじゃ違うよな。
伊吹さんは喜んでくれないかも……
伊吹さんの寝顔を見ながらまたマイナスな事を考えていたと反省する。
ダメだな。こんなんじゃ愛想尽かされても仕方ないだろ。
俺は伊吹さんの彼氏なんだ!
いつまでも嫌われたらどうしようとか考えるのは良くないよな!
きっと伊吹さんは喜んでくれる!
無理矢理そう考えて、右腕で眠る伊吹さんを支えながら左手を伸ばして自分のバッグを取る。中からスマホを出して早速レシピ検索だ!
「あ……」
やる気を出した所でスマホの画面に出ていた着信の通知を見て言葉を失う。
数時間前にあったものだけど、俺は伊吹さんとのデートの時はマナーモードにしているから気付かなかった。
着信の相手は大我くんからだった。
急に現実に戻されるような感覚だった。
伊吹さんと両想いだと言う事が分かり、自分の気持ちとの葛藤などもあったけど、こうして伊吹さんと上手くやっていけると思った矢先に、俺の今の悩みの一つである友達の大我くんからの着信に思わず動揺してしまった。
大我くんも伊吹さんの事が好きだ。
それで俺と大我くんは仲良く二人で伊吹さんの事を愛そうと言っていた。だけど、俺はこうして大我くんの居ない所で伊吹さんと付き合って抱き締め合ったりしてる。
こんなの友達を裏切ったようなものだ。
俺は心がキュッと痛み、伊吹さんを支える腕も震えていた。
俺はまたマイナスな事を……
伊吹さんの事は勿論大切だ。
だけど、俺に笑って良くしてくれる大我くんの事も大切な友達なんだ。
スマホを持っている左手を床に付けて俺はどうしたらいいのか分からず、ただボーッとしていた。
大我くんに伊吹さんとの事をちゃんと話さなくちゃ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
【完結】口遊むのはいつもブルージー 〜双子の兄に惚れている後輩から、弟の俺が迫られています〜
星寝むぎ
BL
お気に入りやハートを押してくださって本当にありがとうございます! 心から嬉しいです( ; ; )
――ただ幸せを願うことが美しい愛なら、これはみっともない恋だ――
“隠しごとありの年下イケメン攻め×双子の兄に劣等感を持つ年上受け”
音楽が好きで、SNSにひっそりと歌ってみた動画を投稿している桃輔。ある日、新入生から唐突な告白を受ける。学校説明会の時に一目惚れされたらしいが、出席した覚えはない。なるほど双子の兄のことか。人違いだと一蹴したが、その新入生・瀬名はめげずに毎日桃輔の元へやってくる。
イタズラ心で兄のことを隠した桃輔は、次第に瀬名と過ごす時間が楽しくなっていく――
恋をあきらめた美人上司、年下部下に“推し”認定されて逃げ場がない~「主任が笑うと、世界が綺麗になるんです」…やめて、好きになっちゃうから!
中岡 始
BL
30歳、広告代理店の主任・安藤理玖。
仕事は真面目に、私生活は質素に。美人系と言われても、恋愛はもう卒業した。
──そう、あの過去の失恋以来、自分の心は二度と動かないと決めていた。
そんな理玖の前に現れたのは、地方支社から異動してきた新入部下、中村大樹(25)。
高身長、高スペック、爽やかイケメン……だけど妙に距離が近い。
「主任って、本当に綺麗ですね」
「僕だけが気づいてるって、ちょっと嬉しいんです」
冗談でしょ。部下だし、年下だし──
なのに、毎日まっすぐに“推し活”みたいな視線で見つめられて、
いつの間にか平穏だったはずの心がざわつきはじめる。
手が触れたとき、雨の日の相合い傘、
ふと見せる優しい笑顔──
「安藤主任が笑ってくれれば、それでいいんです」
「でも…もし、少しでも僕を見てくれるなら──もっと、近づきたい」
これは恋?それともただの憧れ?
諦めたはずの心が、また熱を持ちはじめる。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる