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3章 恋人失格
35.突然の涙
しおりを挟む行為を終えた後、俺はベッドの上でただひたすら伊吹さんを抱き締めて幸せを噛み締めていた。
伊吹さんは疲れたのかぐったりしていたけど、俺は嬉しくて伊吹さんに甘えるように絡み付いていた。
だって、俺にとって叶わぬ夢だと思っていた事が実現したんだもん。好きな人と付き合えて、更に仲の良い事をするなんて、これ以上の幸せなんてないよ。
「伊吹さん♡俺、幸せです♡大好きです♡」
「お、俺もです……」
「大丈夫ですか?何か飲みますか?」
「あ、お水下さい……てか尚輝くんやっぱ若いね。ピンピンしてらぁ」
伊吹さんは良く年齢の事を言うけど、25歳ってそんなに体力無いものなのか?年齢だけを聞くとまだ若いと思うんだけどな。
多分、伊吹さんが特別体力がないだけなんじゃないかな?
「あ、今俺の事貧弱ジジイだと思っただろ?」
「っ!?そんな悪口のような事思ってませんよ!」
「じゃあ何て思ってたのー?」
「やっぱり伊吹さんは綺麗だなって思ってました♡」
「誤魔化しやがったな」
「本当ですよ。俺、伊吹さんと会えて本当に良かったです。理想の人なのは勿論ですが、俺にとってプラスの事ばかり与えてくれるので、感謝しています」
「そう言ってもらえると嬉しいね」
「これからもよろしくお願いします♡」
「こちらこそ……あのさ、尚輝くんは本当に俺でいいの?」
少し落ち着いたのか、苦しそうな表情じゃなくなった代わりに、寂しそうな顔をして聞いて来た。
「伊吹さんがいいです!」
「だってさ、尚輝くんは親の後継ぐんだろ?ほら、お父さんは孫の顔とか見たいんじゃない?」
「……父には理解してもらってます。伊吹さんの事も会わせるつもりでいます。お願いですからこれからも俺といて下さい」
「ん。俺は尚輝くんといるつもりだよ。ただ尚輝くんは俺と違ってまだ選べる道が多いじゃん。尚輝くんは良い子だから幸せになってもらいたいんだ」
伊吹さんがそんな事を言うもんだから俺は悲しくなった。無言でギュウッと強く抱き締めると、頭を撫でてくれた。
俺は今とても幸せな気持ちでいたのに、どうして伊吹さんはそんな事を言うんだろう。俺が後五歳年を取ったら今の伊吹さんの気持ちが分かるのだろうか。
いや、伊吹さんにとって俺は五年経っても五歳年下のままだ。だからその時もまた同じ事を言われそうだな。
そう思ったら俺はいつになく伊吹さんに対して言い返したくなった。
そうだ、今こそ自分の思ってる事を言うべきだ!
「伊吹さん!俺は何があっても伊吹さんと付き合っていきます!父が孫を見たいと言うのなら、説得して諦めてもらいます!俺は伊吹さん以外とはお付き合いする気はありません!」
俺が強く言ったからか、伊吹さんは目を丸くして驚いた顔をして見ていた。
やっと手に入れた理想の人を失うぐらいなら、俺は父を裏切ってでも側にいるつもりだ。実際そんな事出来るかは分からないけど、それだけ伊吹さんとは離れたくないんだ。
父だけじゃない。友達の大我くんの事だって。
俺はもう迷わないって決めたんだ。
どれか一つを選ばなきゃいけないなら迷わず伊吹さんを選ぶんだ。
自分が父に、大我くんにどう思われようが構わない。それが俺だからだ。
そう思わせてくれたのは紛れもない伊吹さんなんだ。
伊吹さんに出会って俺の人生は変わった。
とても良い方向に変わったんだ。
父にゲイだと言う事をカミングアウトするきっかけをくれたのは伊吹さんだし、大我くんと話すきっかけをくれたのも伊吹さんだ。
俺は伊吹さんがいなかったらずっと殻に篭った弱虫のままだった。
「俺にとって伊吹さんは父よりも大我くんよりも大切にしたいと思える人なんです。だから悲しくなるような事は言わないで下さい。どうか俺を伊吹さんの側に居させて下さい」
「尚輝くん……」
「伊吹さ、ん!?」
そっと体を離して伊吹さんの顔を見てみると、綺麗な瞳から大粒の涙が溢れていた。
俺は慌てて起き上がり、泣かしてしまった事を反省すべくティッシュをと枕元に腕を伸ばすと、伊吹さんにその伸ばした腕をギュッと掴まれて引き寄せられた。
ど、どうして泣いてるんだろう?
俺が強く言い過ぎたからかな?
もしかして伊吹さんは俺といるの嫌で泣いてるのか!?
軽くパニックになっていると、伊吹さんは俺の手に自分の手を絡めて愛おしそうに頬に当てた。
その行為がとても綺麗で心を締め付けられる思いになった。
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