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3章 恋人失格
36.大切な人の本音
しおりを挟む俺は伊吹さんの側から離れず、自由の利く左手で伊吹さんから流れる涙を拭ってあげた。
すると伊吹さんは少しずつ話し出した。
「俺さ、この顔のお陰でモテるんだよ。子供の頃からずっと。だから人並みには付き合って来たんだ」
「…………」
「告られて付き合う事が多くて、調子に乗ってた時期もあった。でも必ずフラれるんだ。思ってたのと違うって言われてな」
「そんな……」
「みんな俺のこの顔を好きになっただけなんだ。俺の中身なんて見てなかったんだ。付き合っていざ性格を知った途端にサヨナラとか酷いだろ?どんなけ俺性格ブスなんだよって……」
話してる途中でも伊吹さんの目からは涙が流れていた。
俺は否定したい気持ちを抑えてちゃんと話を聞く事にした。
「大学に入ってもそんな感じだった。告白されてもどうせ俺の事顔で選んだんでしょ?って心から好きでもない人とも付き合ったりもした。あの頃が一番酷かったかも知れない。バイト先でも顔だけだって言われたり、男友達にも女を集めるのに利用されたりで何もかもに疲れちゃって、そんで大学も辞めちゃったんだ」
「…………」
「顔以外取り柄の無い俺。そんな俺でも今の仕事だけは続けられた。常に良い夏川伊吹を演じていられたから嫌われる事もなかったし、嫌な事を言われる事もなかったからな。そんな時に尚輝くんが現れたんだ」
「はい」
「初めは他の客と同じように思ってたんだ。若者の事を知りたかったからちょうどいいやって思ってたぐらい。なのにおかしな事にどんどん尚輝くんに惹かれてってさ、今なら何で尚輝くんに惹かれたのか分かるよ。尚輝くんは本当の俺を知っても好きって言ってくれたんだ。初めて俺の中身ごと好きになってくれた人なんだ」
「…………」
「そんな尚輝くんに、あんな風に言われたら……嬉し過ぎて……ごめんな?歳を取ると涙脆くなるって本当だな」
「いいえ。伊吹さんはとても綺麗な心の持ち主ですよ。前にも言いましたよね?それ、みんな見る目なかったんですよ。むしろ伊吹さんをフッてくれて感謝です♪だって、今こうして俺が伊吹さんの恋人として一緒にいられるんですから♪」
伊吹さんに笑顔になってもらいたくて髪を撫でながら一生懸命に励ました。
伊吹さんも伊吹さんなりに悩みがあったんだ。いつも俺は伊吹さんの事を綺麗だとか言っていたけどそれも重荷になっていたのかもな。
俺の励ましが通じたのか、伊吹さんはニコッと笑って擦り寄って来た。
「今の尚輝くん、会った頃の尚輝くんみたい♪いつも嬉しい事言ってくれてたよな♪」
「伊吹さんがそうさせてくれたんですよ♪貴方は顔だけではありません。周りを元気にさせる力があります♪俺は臆病でした。そんな自分を変えてくれたのは紛れもない伊吹さんです♪感謝しています♡」
「褒め過ぎだろ!……でも、そう言ってもらえると……嬉しい♪」
お互い顔を見合わせてどちらともなくキスをした。
正直な話、俺も伊吹さんの顔に惹かれて近付いたんだ。たった一枚の写真から始まって、あの時一目惚れをしたから今がある。
だけど、きっかけは顔だったとしても伊吹さんと会って話していく内に心も綺麗な人だと素直に思えたんだ。
伊吹さんは自分の事を顔しか取り柄が無いって言うけど、俺からしたら綺麗な物を他にもたくさん持っているんだ。
それを自慢したり見せびらかしたりしないだけ。
俺は伊吹さんのそんなとこも好きなんだ。
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