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3章 恋人失格
37.全力で応援します
しおりを挟む伊吹さんとホテルを出ると急に現実に戻って来たような感覚になった。
伊吹さんと並んで駅まで歩いて向かっているけど、明日からの事を考えるとせっかく前向きになれた気持ちがなくなりそうで怖くなる。
と同時にさっきまでの夢のような出来事に、少し寂しさが込み上げて来た。
そんな俺の気持ちを知らずか、伊吹さんは「ふぅ」とため息をついてこう言った。
「さてと、俺は事務所寄って帰ろうかな~」
「お仕事ですか?」
「ううん。辞める事店長に言おうと思って」
「今からですか!?」
今の仕事を辞めると言うのに、俺は嬉しさ反面戸惑った。だって急過ぎないか?
一応就活はしてるとは言っていたけど、普通辞めるなら次の仕事が辞めてからだと思っていたけど、もしかして就職先が見つかったのか?
それならお祝いしなきゃ!
「うん。今なら店長いると思うからさ」
「あの、おめでとうございます!次のお仕事はどんなお仕事ですか?」
「いや、まだ決まってないけど……」
俺が笑顔で聞くと、伊吹さんは困ったように笑って答えた。
どう言う事だろう?一度辞めてから本格的に探すって事かな?確かにシフトは減らしたとは言え、やっぱり仕事をしながら就職活動は難しいのかな。それなら伊吹さんの無理のないようにして欲しいし、俺も出来る事なら応援してあげたいな。
「俺のやってる仕事って人に胸張って言える仕事じゃないじゃん?実際グレーなのはみんな他のキャストも承知でやってると思うんだ。お小遣い稼ぎや、事情があってやむを得ずにやってる人、いろんな理由があってデートクラブに在籍してると思うんだ。新しい子入ったと思ったら次の日にはいないなんてのは当たり前の世界だからね。こんな事言ったら誇り持ってやってる人に失礼だけど……でもさ、いざ尚輝くんのお父さんに挨拶するってなった時に堂々と言えるかって言ったらキツいなぁって思ったんだ。初めから分かっててやってたから、俺もバイト感覚でやって来たけど、実際出勤しないと生活出来ないし、そこそこ頑張らないと次に繋げずにまた一から信頼を築き上げなきゃいけなくなる。それなりに良いスタッフに恵まれたからここまでやって来れたのもあるんだ。だから俺はちゃんと期限を決めてそれまではやり遂げようと思う。次の仕事も決まってないのに尚輝くんの事不安にさせちゃうと思うけど、それでもいいかな?」
伊吹さんは笑顔だけど、真剣に心の内を教えてくれた。
俺にとっては全然分からない世界だけど、伊吹さんが今の仕事に対して真っ直ぐに向き合っていたのは知っていたから素直に聞き入れる事が出来た。
とても伊吹さんらしい考えだと思ったよ。
「もちろんです♪俺はどんな伊吹さんでも、伊吹さんが考えて出した答えなら全力で応援します♪だけど、無理だけはしないで下さい。体は一つです。辛かったらいつでも一休みして下さい♪」
「はは、尚輝くんは本当に可愛いな~♪」
「体の心配はしてますけど、伊吹さんが辞めると言ってくれて嬉しいんです。続けると言っても同じ事を言ってましたが、この方が快く応援出来ます♪」
「うん。尚輝くんならそう言うと思った。しばらくは不安な思いさせちゃうと思うけど、尚輝くんが嫌がる事は絶対にしないから、俺を信じて待っていて欲しいんだ。こんな年上でごめんな?」
ずっと困ったような情けないと言うような表情で笑っていた伊吹さんだけど、最後は明るく笑っていた。
そんなの、答えは決まってます。
俺は伊吹さんになら何があっても何を言われても付いて行くつもりです。
どんなに待たされても、いつまでも待ちます。
きっと伊吹さんは俺が不満に思っている事も知っていてくれたんだ。だからずっと悩んでいてくれたのかもしれない。
「はい♪ずっと想い続けて待ってます♪伊吹さんは最高の年上です♪」
初めからずっと綺麗なままの伊吹さんは、今までにないぐらいに綺麗な笑顔を見せてくれた。
作り笑いでもなく、かっこつけた笑いでもなく、本当に純粋に自然と出たような少し目を細めたあどけない笑顔。
どんな伊吹さんの笑顔も好きだけど、この笑顔が一番好きかもしれない。
俺は伊吹さんのこの笑顔で、不安な明日も迎えられる覚悟が出来た。
ただ覚悟が出来ただけで、対処出来るかは分からない。だけどそれでいい。
伊吹さんが頑張るのと同じで俺も自分なりに頑張ってみようと思う。
今までより少しだけ勇気を出して歩き出そう。
そうすれば何かが変わるから。変わらなくてもそれはそれでいいと思うんだ。
だって何があっても伊吹さんが駆け付けて笑ってくれるから。
伊吹さん、俺の気持ちはいつまでも変わりません。
必ず貴方を幸せにします。
どうかこれからも俺の側で笑っていて下さいね♪
✳︎✳︎✳︎完✳︎✳︎✳︎
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