【完結】取り柄は真面目な事だけです

pino

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番外編1 伊吹、デートクラブを辞める

1※伊吹side

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 尚輝くんとラブホで人には言えないような時間を過ごした後、俺は事務所に来ていた。時間は夕方の6時。事務所の中にはパソコンをいじっている店長が一人だけだった。
 俺が来た事に気付くと、とても嬉しそうに笑い立ち上がって出迎えてくれた。


「伊吹じゃないかぁ♪今日はどうしたんだい?あ、座って座って♪えっと~、今お菓子出すからね♪」

「どーも」


 うちの店長はいつもこんな感じで俺の顔を見ると孫でも来たかのようにとても良くしてくれる。
 とにかく俺は店長からめちゃくちゃ気に入られている。

 ふんわり優しそうな話し方をするのが特徴的で、俺には特に甘やかすように接してくれる。
 見た目はいつもスーツで普通のサラリーマンって感じの真面目そうな男。歳は40歳手前だってのは前に聞いている。こうして仕事してる姿を見ると知的な感じにも見えなくはない。喋るとアホそうだけど、店長やってるぐらいだからまともな人間なんだと思う。多分な。
 ちなみに俺は店長には借りがある。実は今借りてるマンションの保証人になってもらっているんだ。職業についても協力してくれていて、俺に何かあれば店長に連絡が行くようになっている。つまり店長は俺の保護者のようなもの。
 それもあって俺は店長の過保護さについては何も言う気は無かった。
 たまに電話とかすっぽかしたりすると、勝手に家まで来られたりするのは嫌だけどな。

 店長に言われて客用のテーブルに座ろうと椅子に尻を付けた瞬間、腰と尻に激痛が走り顔を歪めてテーブルの上に前屈みに倒れてしまった。


「いっぎぃ!?」

「どうしたんだい!?」


 その姿を見た店長は慌てて心配そうに近寄って来た。
 痛みの原因には心当たりがあったけど、言える訳がない。だって、この痛みは尚輝くんとセックスしたからだ。
 俺はついさっき男とヤッた。人生初体験だった。それも挿れられる方。ホテルにあったローションとかを使って、経験は無いけど知識はある尚輝くんに任せてた。尚輝くんの事を意識してから男同士での付き合いについては調べてはいた。だからどういうセックスの仕方をするのかは分かってはいたけど、いざ実践するってなるとずっと最中は恥ずかしさと痛みで死にそうな思いをしたんだ。


「な、何でもない……俺立ってるわ……」

「腰が痛いのかい?伊吹の明日の予約は……」

「入ってる……それは大丈夫だから……」

「本当に?とても辛そうだけど、無理しちゃダメだぞ?」


 店長が俺の事を心配してくれてるのが伝わって来て、今日ここに来た目的を無事に果たせるのか不安になった。
 そう、俺はこの仕事を辞める事を伝えに来たんだ。
 多分、いや絶対反対されるんだけどね。


「店長、今日は話があって来たんだ」

「何だい?」


 俺の背中を摩りながら優しく聞いて来る店長に、俺は心が痛んだ。
 マンションの保証人になってもらってるけど、死ぬまでここで働けとか言われてないし、マンション借りる時に店長にした借金は全て返済済みだから、別に辞めるのは俺の自由だと思っている。
 俺はこの仕事を始めた頃から店の看板としてワガママも言わずに働いて来たし、借りは十分返したと思っている。
 だけどいざ辞める事を伝えようと思うと一歩踏み出せないもんだ。

 俺が俯いて何て言おうか迷っていると、事務所に一人の男が入って来た。男性スタッフのマナブだ。


「送迎終わりましたーっと。あ、伊吹さんじゃないですか。お疲れ様でーす♪」

「お疲れ。マナブ元気そうだな」

「ええ、お陰様で♪伊吹さんに会えるなんてラッキーだなぁ♪」


 マナブは俺とタメの25歳で、昼間は普通に一般企業で会社員として働き、仕事終わりはここで副業として夜だけスタッフをやっている。
 茶髪で今時の若者って感じの見た目で、ボーッとしている感じに見えるけど、仕事はキッチリこなしスタッフの中では優秀な男だ。

 マナブがこう言うのも、俺は給料を受け取る以外では事務所に顔を出さないからだ。たまに店長とかに話があれば来るけど、それ以外は滅多に来たりしない。
 だから最近入ったスタッフとかはまだ会った事がない人もいるぐらいだ。
 マナブは俺が始めてから一年後にスタッフとしてやって来たから数回話した事がある。タメなのに会った頃から敬語にさん付けなのはスタッフとキャストとしての線を引くと言うマナブのこだわりらしい。


「マナブくん、次の送迎までに明日の出勤状況とメールのチェックお願い出来る?僕は別室で伊吹と話してくるから」

「分かりました。やっておきます」

「お願いね♪それじゃあ伊吹行こうか」

「うん」


 俺は店長に背中を押されながら隣の部屋に移動した。気を利かせてくれたのか、それとも店長は俺が話そうとしている内容が分かったのか、ニコニコ笑顔のまま事務所に通じるドアをパタンと閉めた。

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