39 / 45
番外編1 伊吹、デートクラブを辞める
1※伊吹side
しおりを挟む尚輝くんとラブホで人には言えないような時間を過ごした後、俺は事務所に来ていた。時間は夕方の6時。事務所の中にはパソコンをいじっている店長が一人だけだった。
俺が来た事に気付くと、とても嬉しそうに笑い立ち上がって出迎えてくれた。
「伊吹じゃないかぁ♪今日はどうしたんだい?あ、座って座って♪えっと~、今お菓子出すからね♪」
「どーも」
うちの店長はいつもこんな感じで俺の顔を見ると孫でも来たかのようにとても良くしてくれる。
とにかく俺は店長からめちゃくちゃ気に入られている。
ふんわり優しそうな話し方をするのが特徴的で、俺には特に甘やかすように接してくれる。
見た目はいつもスーツで普通のサラリーマンって感じの真面目そうな男。歳は40歳手前だってのは前に聞いている。こうして仕事してる姿を見ると知的な感じにも見えなくはない。喋るとアホそうだけど、店長やってるぐらいだからまともな人間なんだと思う。多分な。
ちなみに俺は店長には借りがある。実は今借りてるマンションの保証人になってもらっているんだ。職業についても協力してくれていて、俺に何かあれば店長に連絡が行くようになっている。つまり店長は俺の保護者のようなもの。
それもあって俺は店長の過保護さについては何も言う気は無かった。
たまに電話とかすっぽかしたりすると、勝手に家まで来られたりするのは嫌だけどな。
店長に言われて客用のテーブルに座ろうと椅子に尻を付けた瞬間、腰と尻に激痛が走り顔を歪めてテーブルの上に前屈みに倒れてしまった。
「いっぎぃ!?」
「どうしたんだい!?」
その姿を見た店長は慌てて心配そうに近寄って来た。
痛みの原因には心当たりがあったけど、言える訳がない。だって、この痛みは尚輝くんとセックスしたからだ。
俺はついさっき男とヤッた。人生初体験だった。それも挿れられる方。ホテルにあったローションとかを使って、経験は無いけど知識はある尚輝くんに任せてた。尚輝くんの事を意識してから男同士での付き合いについては調べてはいた。だからどういうセックスの仕方をするのかは分かってはいたけど、いざ実践するってなるとずっと最中は恥ずかしさと痛みで死にそうな思いをしたんだ。
「な、何でもない……俺立ってるわ……」
「腰が痛いのかい?伊吹の明日の予約は……」
「入ってる……それは大丈夫だから……」
「本当に?とても辛そうだけど、無理しちゃダメだぞ?」
店長が俺の事を心配してくれてるのが伝わって来て、今日ここに来た目的を無事に果たせるのか不安になった。
そう、俺はこの仕事を辞める事を伝えに来たんだ。
多分、いや絶対反対されるんだけどね。
「店長、今日は話があって来たんだ」
「何だい?」
俺の背中を摩りながら優しく聞いて来る店長に、俺は心が痛んだ。
マンションの保証人になってもらってるけど、死ぬまでここで働けとか言われてないし、マンション借りる時に店長にした借金は全て返済済みだから、別に辞めるのは俺の自由だと思っている。
俺はこの仕事を始めた頃から店の看板としてワガママも言わずに働いて来たし、借りは十分返したと思っている。
だけどいざ辞める事を伝えようと思うと一歩踏み出せないもんだ。
俺が俯いて何て言おうか迷っていると、事務所に一人の男が入って来た。男性スタッフのマナブだ。
「送迎終わりましたーっと。あ、伊吹さんじゃないですか。お疲れ様でーす♪」
「お疲れ。マナブ元気そうだな」
「ええ、お陰様で♪伊吹さんに会えるなんてラッキーだなぁ♪」
マナブは俺とタメの25歳で、昼間は普通に一般企業で会社員として働き、仕事終わりはここで副業として夜だけスタッフをやっている。
茶髪で今時の若者って感じの見た目で、ボーッとしている感じに見えるけど、仕事はキッチリこなしスタッフの中では優秀な男だ。
マナブがこう言うのも、俺は給料を受け取る以外では事務所に顔を出さないからだ。たまに店長とかに話があれば来るけど、それ以外は滅多に来たりしない。
だから最近入ったスタッフとかはまだ会った事がない人もいるぐらいだ。
マナブは俺が始めてから一年後にスタッフとしてやって来たから数回話した事がある。タメなのに会った頃から敬語にさん付けなのはスタッフとキャストとしての線を引くと言うマナブのこだわりらしい。
「マナブくん、次の送迎までに明日の出勤状況とメールのチェックお願い出来る?僕は別室で伊吹と話してくるから」
「分かりました。やっておきます」
「お願いね♪それじゃあ伊吹行こうか」
「うん」
俺は店長に背中を押されながら隣の部屋に移動した。気を利かせてくれたのか、それとも店長は俺が話そうとしている内容が分かったのか、ニコニコ笑顔のまま事務所に通じるドアをパタンと閉めた。
0
あなたにおすすめの小説
下っ端公務員の俺は派遣のαに恋してる【完結済】
tii
BL
市役所勤めの野々宮は、どこにでもいる平凡なβ。
仕事は無難、恋愛は停滞、毎夜の癒しはゲームとストゼロだけ。
そんな日々に現れたのは、派遣職員として配属された青年――朝比奈。
背が高く、音大卒で、いっけん冷たそうに見えるが、
話せば驚くほど穏やかで優しい。
ただひとつ、彼は自己紹介のときに言った。
「僕、αなんです。迷惑をかけるかもしれませんが……」
軽く流されたその言葉が、
野々宮の中でじわりと残り続ける。
残業続きの夜、偶然居酒屋でふたりきりになり――
その指先が触れた瞬間、世界が音を立てて軋んだ。
「……野々宮さんって、本当にβなんですか?」
揺らぎ始めた日常、
“立場”と“本能”の境界が、静かに崩れていく。
☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。
【第13回BL小説大賞】にエントリーさせて頂きました!
まこxゆず の応援 ぜひよろしくお願いします!
☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。✩☪︎⋆˚。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
夢の続きの話をしよう
木原あざみ
BL
歯止めのきかなくなる前に離れようと思った。
隣になんていたくないと思った。
**
サッカー選手×大学生。すれ違い過多の両方向片思いなお話です。他サイトにて完結済みの作品を転載しています。本編総文字数25万字強。
表紙は同人誌にした際に木久劇美和さまに描いていただいたものを使用しています(※こちらに載せている本文は同人誌用に改稿する前のものになります)。
【第一部完結】カフェと雪の女王と、多分、恋の話
凍星
BL
親の店を継ぎ、運河沿いのカフェで見習店長をつとめる高槻泉水には、人に言えない悩みがあった。
誰かを好きになっても、踏み込んだ関係になれない。つまり、SEXが苦手で体の関係にまで進めないこと。
それは過去の手酷い失恋によるものなのだが、それをどうしたら解消できるのか分からなくて……
呪いのような心の傷と、二人の男性との出会い。自分を変えたい泉水の葛藤と、彼を好きになった年下ホスト蓮のもだもだした両片想いの物語。BLです。
「*」マーク付きの話は、性的描写ありです。閲覧にご注意ください。
【完結】王子様と一緒。
紫紺
BL
田中明夫は作家を目指して10年、全く目が出ない男だ。
ある日、書店の前で金髪青い目の青年が突然話しかけてきた。最初は胡散臭く思っていたのだが……。
南の国の第2王子アスラン、その護衛トーゴー、田中が住むアパートの大家や住人の奨励会員などなど。
様々な人間模様と恋模様が織りなすBL多めのラブコメ開幕です!
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる