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番外編1 伊吹、デートクラブを辞める
2※伊吹side
しおりを挟む事務所の隣の部屋の小部屋で店長と二人きり、小さなテーブルに向き合って座っていた。
ここは様々な面談などで使われる事が多く、中は簡単な作りになっている。
そして店長は真っ直ぐに俺を見ていた。
「さぁ伊吹、話してごらん」
「実は辞めようと思ってるんだ。真面目にな」
「それはいつ?」
思ったよりも普通に聞いていてくれた。
俺の読みでは「ダメ」と言われるものだと思っていたから少し拍子抜けした感じ。
「出来れば次の仕事見つかってからって思ってたけど、なかなか見つからなくて……だから先に辞める日にちを決めて自分を追い込もうと思ったんだ」
今のままでも十分生活出来るぐらいの収入はあるから、俺の性格だとそれに甘えて仕事探しも曖昧になると思ったんだ。
今の仕事を辞めようと思ったのは元々年齢的にも潮時かと思っていたんだ。そして尚輝くんを好きになりその気持ちは強まった。今度は年齢とかよりも尚輝くんを大切にしたいと言う気持ちが大きく働いたんだ。
俺の事を顔だけじゃなく全てを見て好きと言ってくれる人だから、収入が減ってでも大事にしたかった。そして早く尚輝くんのお父さんに会えるようになって安心させてあげたいんだ。
そこまで店長に話すつもりはないけど、俺はそう心に決めているから反対されても辞めるつもりでいる。
「そう。分かった」
「え、それだけ?」
「何だい?止めて欲しいのかい?も~本当なら止めたいよ~!伊吹がいなくなったら店は勿論、僕が辛いよ~!」
「止めて欲しいってか、止められると思ってたから」
「大切な人が出来たんだろ?それなら僕が止める理由は無いよ。伊吹の人生なんだから好きにしてもらいたい」
さも分かってましたと言うかのように、俺の辞める理由を当てて来た。
なるべくポーカーフェイスを心掛けて話す事にした。
「店長、何でそう思うんだ?俺、何も話してないよな?」
「伊達に伊吹好きをやってないよ。僕はいつでも伊吹の事を見ているんだ。伊吹の変化なら誰よりも先に気付ける自信があるんだよ」
「それ喜んでいいのか?」
「はは、きっと僕に子供がいたらこんな気持ちだったんだろうなって思うよ。伊吹のような不安定な子は、他の子より気に掛けたくなる」
確か店長は今は独身だ。結婚はしていたけど、この仕事を始めるに当たって離婚したと聞いた。子供はいない。店長が子供好きだなんて初めて知ったな。
「話が逸れたね。うん、今回は止めないよ。でも話を聞くと不安になるな。まだ次が見つかってないと言うけど、見つかるまではうちでスタッフの仕事をやってみるのはどうだ?」
「俺が、スタッフを?」
それは考えてもいなかった事だった。
ずっとキャストとしてこの店に携わって来たけど、正直言って他のキャストよりもスタッフとの交流のが多い。見た感じ電話とパソコン業務と、キャスト達の送迎やその他対応。あとは入店希望者の面談などか。店長の仕事ってなると俺の分からない事があるからもっと他にもありそうだけど、他のスタッフのマナブやミカさんを見てるとそんな感じ。
いや、でも接客は無くなるけど、店自体には残るって事だよな?それってどうなんだ?尚輝くんの不安は無くならないんじゃないか?
尚輝くんは俺が今の仕事をするのを嫌だって言ってくれたんだ。そりゃ普通に好きな人が他の人とデートするなんて嘘でも無いなとは思うよ。でも尚輝くんはずっと「行ってらっしゃい」って笑顔で見送ってくれてたし、「体には気を付けて」って優しい声を掛けてくれてたんだ。そんな尚輝くんに本当は嫌でしたなんて言いにくそうに言われたら……♡
いやぁ~、あの時の尚輝くんは可愛いかったなぁ♡
「伊吹?その表情は前向きに考えてくれるって事?」
「ハッ!悪い!違う事考えてた!」
ついさっきの尚輝くんを思い出してニヤけちまってたか!俺が慌てて顔を引き締めると、店長は笑い出した。
「まったく伊吹は面白い子だね♪でも幸せそうで安心したよ」
「えっとー、俺がスタッフやるって話だけど少し考えもいい?次の仕事が決まるまでなら悪くない話だと思ってるんだ」
「勿論さ♪伊吹なら僕だけじゃなくて他のスタッフ達も歓迎するよ。伊吹の良い所はね、そうやって流されない所だと思うよ。自分の意思を持ってやっている。迷ったりしたらすぐに切り替えて次に行こうとする所も良いよね」
「俺ってそんな風に思われてたの?実際そんな事もねぇけど」
「ううん。仕事っぷりを見ていたら分かるよ。どんな仕事でも受けて真面目に取り組んでいたのは僕らも高く評価しているんだ。見た目の華やかさを武器にしながらも自分に損のないように振る舞ってる所なんか器用で大好き♡」
「だから買い被り過ぎだって……この顔のせいで今までどんなけ苦労して来たと思ってんだよ。マジで人間不信になりかけたからね」
「でも今幸せなんだろ?それならそれでいいじゃない♪そんな辛い事があっても今笑えているのは伊吹、君が努力して来たからなんだよ」
「……そうですか」
どこまでも褒めちぎってくる店長に、恥ずかしくなって来たからそれ以上は何も言わない事にした。
他人に顔以外を褒められる耐性がない俺はこういう時照れて気まずいなと思ってしまうんだ。
尚輝くんから言われるのなら素直に嬉しいなと思えるんだけど、他からだと疑いから入ってしまう。
ああ、俺も尚輝くんみたいに変われたらな。
内面を褒められても素直に「ありがとう」って言えるようになりたい。
正直胸張れるような生き方はして来てない。性格だって自分でも捻くれた奴だと思っていたけど、他人からそんな評価をされている事を知り、こんな俺でもいいんだと泣きそうな程感動していた。
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