150 / 287
鑑定結果
しおりを挟む
「うおおおぉい! ケイ! 家の計画はどうするんじゃああああっ!」
今度こそ出かけるぞ! と意気込んでいたところに、ドルガンさんが目を血走らせながら怒鳴り込んできた。
「おはようドルガンさん。計画ね、もちろんこれから伺おうと思ってたところだよ」
「なんでもいいから早くせんかい! あのラクール樹をいじくり倒せないまま、毎日を過ごすのはもう気が狂いそうじゃ!」
唾を吐き散らしながら熱い思いを語るおっちゃん。うーん、汚い。ササッとルーナがよって顔を拭いてくれた。
「すんません、じゃあちょっと中で話しましょう」
「うむ。手短にな」
ソワソワしているドルガンさんをカリンに許可を取って、半ば応接室となっている部屋に連れて行く。
んで、手短に要件を再度伝えていった。
・一般的な人の家をベースに、とにかく大きめに作ってほしい。
・シンプルでいいので個室をとりあえず十個ほど設計して欲しい。
・寝室(繁り部屋)を大きめに。
これは亜人たちの部屋へのこだわりが強すぎるので、複雑な内装はリンカと森の木々たちに頼んで『根付いてもらう』ことになったからだ。それで別途、各亜人たちにはゆっくり自分たちの部屋を樹木たちに頼んで改造してもらうと。
外装に関してはリンカたちは専門外だし、僕としてもまんま木の洞みたいなお家よりかは住み慣れた、まっとうな形のお家の方がいいので、ドルガンさんにお願いすることになった。
ただ、内装に関してはリンカたちに魔力を渡す必要があるので僕はめっちゃレベルを上げていく必要があるんだよね。ダンジョンに潜ってコツコツ魔獣を倒していけば徐々に上がっていくはず。森に戻って先輩に挑めばすぐだろうけど、それはもうちょっと実力がついてからにしたい。
「ということなんですが、いいですか? 僕が言うのもあれだけど、けっこうざっくりした依頼なんですが……」
「とにかくデカく、外装を立派にじゃろ? 内装は自分たち好みにしたいからシンプルでいいってのも、まあ分かる。コンセプトが分かればなんてこと無いわい。わしらはプロじゃ。客にソリューションを提供し、結果にコミットするのが仕事じゃい」
自信満々に言い放つドルガンさん。これ翻訳元、なんて言ってるのかすげえ気になる。言葉だけ聞くとダメなベンチャー企業っぽくてちょっと不安になってきた。
「ふん。不安そうな顔じゃな。ドゴンの仕事ぶりも見ておるじゃろ? 安心せい。わしらはデイライトで一番の大工じゃ。必ず満足させてみせる」
と、言い切る大工の親方。はあ、自信がある人っていいなあ……。僕なんかは、責任を被るのがこわいから、いっつも迂遠な言い逃れしてばっかなんだよね。
「分かりました。お任せします。概算、いくらくらいになりそうですか?」
「ふーむ。そうじゃな。ま、デカいが内装に手間をかけなくていいぶん安くできる。今回は材料費もかからんし、三億ソルンってところじゃろ」
さ、さんおく……。
とんでもない、数字だ。しかし払えてしまうのがもっとこわい。
「分かりました。お支払いします」
ドン! と机の上に朱金貨を置くと呆れた顔をされた。
「こんな大金持って帰れるか! ギルドの口座に振り込んでおけ!」
そ、そりゃそうッスよね……。
その足でドルガンさんの仕事場に直行し、大量のラクール樹たちを放出してきた。「うおおおお!」とドルガンさんがなかなか気持ちわるい笑みを浮かべて、頬ずりしていたので、とってもイヤな顔をしていたら、ツカツカと事務の女性がやってきてレンチのようなもので彼の頭をぶん殴った。
ガチン!
「ぐおおおおっ」
「不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
「い、いえいえ。大丈夫ですか? いい音しましたけど」
「問題ありません。あと百回は殴らないと死にません。お客様が住まわれる家に、変なシミでもついたらご先祖様が守ってきた評判が落ちてしまいます。ご安心ください。また同じようなことをしたら、気絶するまで殴っておきます」
「ほ、ほどほどで」
にこりと笑う事務員産の手に握られるレンチが鈍い色を放っていてめっちゃ怖い……。
『じゃあ、僕は行くからあとはよろしくね』
『……』
『たまに見に来るからね』
ラクール樹たちにもお別れを言って、教会に戻る。ドルガンさんの頬汗が染みた家にならないか心配だけど、まああのお姉さんに任せておけば大丈夫だろう。レンチさばきに一切躊躇いがなかった。殴り慣れてるんだろうな。
教会に戻るとスーツのような服をビシッと着込んだシルビアと司祭服に着替えたカリンが待っていた。
「ケイ、もう用件は終わった?」
「うん。今度こそいけるよ」
「よし。じゃあ行こうか。はー、緊張するなあ。なんか、五年くらい待っていた気がする」
「シルビア、使徒様はお忙しいのです。無理を言ってはいけません」
少し疲れた顔でシルビアは言った。すんません。僕の段取りが悪くて……。
「でも、ワクワクするよ。このコスモディアはすべてを変える可能性を秘めてるからね」
シルビアは得意げな顔で重厚な鞄を叩いた。中には完成品のコスモディアが四本入っている。等級ごとに分かれていて、銅、銀、金、朱だ。
「しかしシルビア、相手はあのアーサー・オルスフィンだと聞いています。策はあるのですか?」
カリンが友人に心配げそうに声をかける。
「ふっふっふ。わたしだって、馬鹿じゃない。ちゃんと対策は立ててきたよ。ずっと引きこもってたわけじゃないんだからね」
ドヤ顔で胸を張るシルビア。
「ここまで長かった……。リディアお婆ちゃんがすべてを始めて、すべてを失って。お父さんとお母さんが命をかけて底から這い上がり、私に託した。だから、絶対に成功させなくちゃいけないんだ」
シルビアは精悍な顔つきで空を仰ぐ。思わず肩を抱いて『できるさ、僕たちなら』とか言いたくなったけどヘタレなのでできません。
「大丈夫。成功するさ。物はできてるんだ。効果も実証済み。気楽にいこう。うまくいくよ」
「えへへ……。そうだよね。うん、うまくいく。大丈夫。ブラス商会……いやブラタネリ商会はここから再出発するんだ」
彼女はすーはーすーはーと深呼吸を何回かして、よし、と気合を入れる。その商会名でやっぱいくのね。
『プテュエラ、護衛お願いね』
『心得た』
セキュリティもばっちりだ。万事憂いなく交渉に臨める。
「あっ、と。そうだ。ケイ、カリン。今のうちに打ち合わせしておきたいんだけど……」
小声で僕の耳に口を寄せるシルビア。さらにカリンも顔を寄せてくる。ふぉっ、不意のASMRといい匂いのサンドイッチでぞわぞわするぜ。
そうして僕らは商業ギルドへと向かった。
………………
…………
……
「こ、これは……っ!」
グレードごとに分けられた、四つのコスモディアポーションを鑑定し終えた商業ギルドの新副ギルドマスターである……だれだっけ。
苗字だけは覚えてるジャックナイフさんだ。見た目はくたびれたおっちゃんなんだけど、かなりやり手らしい。鑑定魔法も使える。前副ギルドマスターのアルフィンさんに代わって、就任したんだよね。
そんな彼が顔をぷるぷるさせて驚愕に打ち震えている。……後退した髪の毛が数本はらりと落ちているように見えるんだけど、大丈夫かな。
「ラーク、黙っていては何も分からん。鑑定結果を言え。簡潔にな」
ギルドマスターのアーサー氏が促す。そうだ、ラークさんだ。タバコの銘柄みたいな名前の人だね。
「ギルドマスター……。これは、たいへん、たいへんに、素晴らしいものです」
ラークさんは一言一言区切りながら、噛みしめるように言った。
「落ち着け。何が素晴らしいのか言え」
「ま、まずこの最低グレードである『銅』のポーションですが、高品質のアセンブラポーションと同等の効能があります」
「……続けろ」
顔面蒼白のラークさん。アーサー氏は無表情のまま頷く。めっちゃこわい。その顔で詰められたら漏らして泣く自信がある。
ただちょっと疑問に思ったことがあったのでシルビアに小声で尋ねた。
(アセンブラポーションにもグレードってあるの?)
(いや、ないよ。アセンブラポーションは品質の『ブレ』がひどいの。全部同じ価格なんだけど、ものによっては全然回復しなかったり、かといえばすごく効き目があったり)
(なるほどね。じゃあ高品質のポーションの効き目ってどんなもん?)
(お昼ご飯食べてる間に外傷はほぼ癒えるって感じかな。内臓の損傷や骨折も八割くらいは治るよ。ま、そんなのは全体の一割にも満たないんだけどね)
お昼ご飯っていうと、一時間くらいか? それでほぼ全部治るのはヤバいな。
「その前に一つ。ブラス殿。このポーションは安定的に供給可能なのでしょうか」
「可能です。作り方自体は既に完成しています。品質も既存ポーションと比べて極めて安定的に生産できます。ただし、大量生産する場合はそれに見合った設備と人員が必要です」
「ううむ、道理ですな」
いきなり話を振られてもしっかり答えるシルビア。僕だったらあたふたしたあとにプツンと思考が止まって愛想笑いして誤魔化すと思う。
ラークさんはというと頭を掻きむしりそうな素振りをして思いとどまっていた。懸命な判断だ。
「……ギルドマスター。銀、金のポーションもとんでもない代物ですが、基本的には銅ポーションを順当に強化したものです。しかし、この、朱ランクポーションは訳が違う」
ラークさんは一呼吸おいて、まるで口に出すのを恐れるに小声で言った。
「朱ポーションは、外傷の即完治、欠損や先天的疾患の快癒、病魔の根本治療に加え、呪いの解呪効果。……そして、若返りの効能があります」
「若返り、だと?」
そこで初めてアーサー氏の声色に動揺が滲んだ。極僅かだけど、鋼のような表情筋がぴくりと揺らいだ。
「はい。厳密に言うと寿命が延びるわけではありません。しかし、使用したものの肉体や肌、内臓の年齢を若返らせる効果があると、鑑定結果に出ています。」
「つまり死期は変えられないが、現時点より比較的若い肉体を手に入れられるということか」
「さようでございます。もちろん、何十歳も若返る訳ではなく個人差はあるはずですが……。少なくとも肌艶や視力がよくなり、胃腸や肝臓も活性化するでしょう」
「十分すぎる。美肌効果があるなんぞ貴族の御婦人が知れたら恐ろしいことになるぞ。外傷や病魔は癒やせても、普通は老化による内臓や肌の劣化はポーションで止めることはできん」
アーサー氏は低く唸る。猛獣のような迫力だ。
「ラーク。お前はアルフィンや私よりも『鑑定』という分野に秀でている。私はお前のその技能を高く評価している。が、あえて訊くぞ。それは確かなのか?」
「確かです。ギルドマスター。ラーク・ジャックナイフの名に誓って、嘘偽りはありません」
「……分かった」
アーサー氏は重々しく頷いて、シルビアと僕に向き直る。
ヤバい、威圧感がさっきより増している。急に彼がとんでもなく大きく感じられた。
フレイムベアの殺意に慣れた僕でさえちょっとビビるくらいだ。シルビアは顔面蒼白で、足も小刻みに震えていた。
(……!)
その手をそっと握ると、一瞬ピクリとしたあと弛緩していった。そして躊躇いがちに握り返してくれた。ちょっと汗ばんでいたので、あとでペロペロしておこう。
「見事だ、シルビア嬢」
アーサー氏は深く、湖の底にまで届きそうな低い声で称賛を口にした。
「よもや私を戸惑わせるような、圧倒的な結果を持ってくるとはな」
「……恐縮です」
シルビアは無理やり笑顔を作ってそれに応える。
「これならば、例の件一考するに値する」
アセンブラ教会の縄張りを荒らしてまでポーション事業に参入するかって話だね。アーサーさんも覚悟困ったのだろうか。
「それでは商談に入ろうか」
ニヤリ、と笑う顔は恐ろしくも魅力的で引き込まれるような壮絶さがあった。
(使徒様、どうやら手持ち無沙汰のご様子。わたくしの臀部でよければお揉みになりますか?)
(……ものすごく魅力的だけど、やめておくよ)
今度こそ出かけるぞ! と意気込んでいたところに、ドルガンさんが目を血走らせながら怒鳴り込んできた。
「おはようドルガンさん。計画ね、もちろんこれから伺おうと思ってたところだよ」
「なんでもいいから早くせんかい! あのラクール樹をいじくり倒せないまま、毎日を過ごすのはもう気が狂いそうじゃ!」
唾を吐き散らしながら熱い思いを語るおっちゃん。うーん、汚い。ササッとルーナがよって顔を拭いてくれた。
「すんません、じゃあちょっと中で話しましょう」
「うむ。手短にな」
ソワソワしているドルガンさんをカリンに許可を取って、半ば応接室となっている部屋に連れて行く。
んで、手短に要件を再度伝えていった。
・一般的な人の家をベースに、とにかく大きめに作ってほしい。
・シンプルでいいので個室をとりあえず十個ほど設計して欲しい。
・寝室(繁り部屋)を大きめに。
これは亜人たちの部屋へのこだわりが強すぎるので、複雑な内装はリンカと森の木々たちに頼んで『根付いてもらう』ことになったからだ。それで別途、各亜人たちにはゆっくり自分たちの部屋を樹木たちに頼んで改造してもらうと。
外装に関してはリンカたちは専門外だし、僕としてもまんま木の洞みたいなお家よりかは住み慣れた、まっとうな形のお家の方がいいので、ドルガンさんにお願いすることになった。
ただ、内装に関してはリンカたちに魔力を渡す必要があるので僕はめっちゃレベルを上げていく必要があるんだよね。ダンジョンに潜ってコツコツ魔獣を倒していけば徐々に上がっていくはず。森に戻って先輩に挑めばすぐだろうけど、それはもうちょっと実力がついてからにしたい。
「ということなんですが、いいですか? 僕が言うのもあれだけど、けっこうざっくりした依頼なんですが……」
「とにかくデカく、外装を立派にじゃろ? 内装は自分たち好みにしたいからシンプルでいいってのも、まあ分かる。コンセプトが分かればなんてこと無いわい。わしらはプロじゃ。客にソリューションを提供し、結果にコミットするのが仕事じゃい」
自信満々に言い放つドルガンさん。これ翻訳元、なんて言ってるのかすげえ気になる。言葉だけ聞くとダメなベンチャー企業っぽくてちょっと不安になってきた。
「ふん。不安そうな顔じゃな。ドゴンの仕事ぶりも見ておるじゃろ? 安心せい。わしらはデイライトで一番の大工じゃ。必ず満足させてみせる」
と、言い切る大工の親方。はあ、自信がある人っていいなあ……。僕なんかは、責任を被るのがこわいから、いっつも迂遠な言い逃れしてばっかなんだよね。
「分かりました。お任せします。概算、いくらくらいになりそうですか?」
「ふーむ。そうじゃな。ま、デカいが内装に手間をかけなくていいぶん安くできる。今回は材料費もかからんし、三億ソルンってところじゃろ」
さ、さんおく……。
とんでもない、数字だ。しかし払えてしまうのがもっとこわい。
「分かりました。お支払いします」
ドン! と机の上に朱金貨を置くと呆れた顔をされた。
「こんな大金持って帰れるか! ギルドの口座に振り込んでおけ!」
そ、そりゃそうッスよね……。
その足でドルガンさんの仕事場に直行し、大量のラクール樹たちを放出してきた。「うおおおお!」とドルガンさんがなかなか気持ちわるい笑みを浮かべて、頬ずりしていたので、とってもイヤな顔をしていたら、ツカツカと事務の女性がやってきてレンチのようなもので彼の頭をぶん殴った。
ガチン!
「ぐおおおおっ」
「不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
「い、いえいえ。大丈夫ですか? いい音しましたけど」
「問題ありません。あと百回は殴らないと死にません。お客様が住まわれる家に、変なシミでもついたらご先祖様が守ってきた評判が落ちてしまいます。ご安心ください。また同じようなことをしたら、気絶するまで殴っておきます」
「ほ、ほどほどで」
にこりと笑う事務員産の手に握られるレンチが鈍い色を放っていてめっちゃ怖い……。
『じゃあ、僕は行くからあとはよろしくね』
『……』
『たまに見に来るからね』
ラクール樹たちにもお別れを言って、教会に戻る。ドルガンさんの頬汗が染みた家にならないか心配だけど、まああのお姉さんに任せておけば大丈夫だろう。レンチさばきに一切躊躇いがなかった。殴り慣れてるんだろうな。
教会に戻るとスーツのような服をビシッと着込んだシルビアと司祭服に着替えたカリンが待っていた。
「ケイ、もう用件は終わった?」
「うん。今度こそいけるよ」
「よし。じゃあ行こうか。はー、緊張するなあ。なんか、五年くらい待っていた気がする」
「シルビア、使徒様はお忙しいのです。無理を言ってはいけません」
少し疲れた顔でシルビアは言った。すんません。僕の段取りが悪くて……。
「でも、ワクワクするよ。このコスモディアはすべてを変える可能性を秘めてるからね」
シルビアは得意げな顔で重厚な鞄を叩いた。中には完成品のコスモディアが四本入っている。等級ごとに分かれていて、銅、銀、金、朱だ。
「しかしシルビア、相手はあのアーサー・オルスフィンだと聞いています。策はあるのですか?」
カリンが友人に心配げそうに声をかける。
「ふっふっふ。わたしだって、馬鹿じゃない。ちゃんと対策は立ててきたよ。ずっと引きこもってたわけじゃないんだからね」
ドヤ顔で胸を張るシルビア。
「ここまで長かった……。リディアお婆ちゃんがすべてを始めて、すべてを失って。お父さんとお母さんが命をかけて底から這い上がり、私に託した。だから、絶対に成功させなくちゃいけないんだ」
シルビアは精悍な顔つきで空を仰ぐ。思わず肩を抱いて『できるさ、僕たちなら』とか言いたくなったけどヘタレなのでできません。
「大丈夫。成功するさ。物はできてるんだ。効果も実証済み。気楽にいこう。うまくいくよ」
「えへへ……。そうだよね。うん、うまくいく。大丈夫。ブラス商会……いやブラタネリ商会はここから再出発するんだ」
彼女はすーはーすーはーと深呼吸を何回かして、よし、と気合を入れる。その商会名でやっぱいくのね。
『プテュエラ、護衛お願いね』
『心得た』
セキュリティもばっちりだ。万事憂いなく交渉に臨める。
「あっ、と。そうだ。ケイ、カリン。今のうちに打ち合わせしておきたいんだけど……」
小声で僕の耳に口を寄せるシルビア。さらにカリンも顔を寄せてくる。ふぉっ、不意のASMRといい匂いのサンドイッチでぞわぞわするぜ。
そうして僕らは商業ギルドへと向かった。
………………
…………
……
「こ、これは……っ!」
グレードごとに分けられた、四つのコスモディアポーションを鑑定し終えた商業ギルドの新副ギルドマスターである……だれだっけ。
苗字だけは覚えてるジャックナイフさんだ。見た目はくたびれたおっちゃんなんだけど、かなりやり手らしい。鑑定魔法も使える。前副ギルドマスターのアルフィンさんに代わって、就任したんだよね。
そんな彼が顔をぷるぷるさせて驚愕に打ち震えている。……後退した髪の毛が数本はらりと落ちているように見えるんだけど、大丈夫かな。
「ラーク、黙っていては何も分からん。鑑定結果を言え。簡潔にな」
ギルドマスターのアーサー氏が促す。そうだ、ラークさんだ。タバコの銘柄みたいな名前の人だね。
「ギルドマスター……。これは、たいへん、たいへんに、素晴らしいものです」
ラークさんは一言一言区切りながら、噛みしめるように言った。
「落ち着け。何が素晴らしいのか言え」
「ま、まずこの最低グレードである『銅』のポーションですが、高品質のアセンブラポーションと同等の効能があります」
「……続けろ」
顔面蒼白のラークさん。アーサー氏は無表情のまま頷く。めっちゃこわい。その顔で詰められたら漏らして泣く自信がある。
ただちょっと疑問に思ったことがあったのでシルビアに小声で尋ねた。
(アセンブラポーションにもグレードってあるの?)
(いや、ないよ。アセンブラポーションは品質の『ブレ』がひどいの。全部同じ価格なんだけど、ものによっては全然回復しなかったり、かといえばすごく効き目があったり)
(なるほどね。じゃあ高品質のポーションの効き目ってどんなもん?)
(お昼ご飯食べてる間に外傷はほぼ癒えるって感じかな。内臓の損傷や骨折も八割くらいは治るよ。ま、そんなのは全体の一割にも満たないんだけどね)
お昼ご飯っていうと、一時間くらいか? それでほぼ全部治るのはヤバいな。
「その前に一つ。ブラス殿。このポーションは安定的に供給可能なのでしょうか」
「可能です。作り方自体は既に完成しています。品質も既存ポーションと比べて極めて安定的に生産できます。ただし、大量生産する場合はそれに見合った設備と人員が必要です」
「ううむ、道理ですな」
いきなり話を振られてもしっかり答えるシルビア。僕だったらあたふたしたあとにプツンと思考が止まって愛想笑いして誤魔化すと思う。
ラークさんはというと頭を掻きむしりそうな素振りをして思いとどまっていた。懸命な判断だ。
「……ギルドマスター。銀、金のポーションもとんでもない代物ですが、基本的には銅ポーションを順当に強化したものです。しかし、この、朱ランクポーションは訳が違う」
ラークさんは一呼吸おいて、まるで口に出すのを恐れるに小声で言った。
「朱ポーションは、外傷の即完治、欠損や先天的疾患の快癒、病魔の根本治療に加え、呪いの解呪効果。……そして、若返りの効能があります」
「若返り、だと?」
そこで初めてアーサー氏の声色に動揺が滲んだ。極僅かだけど、鋼のような表情筋がぴくりと揺らいだ。
「はい。厳密に言うと寿命が延びるわけではありません。しかし、使用したものの肉体や肌、内臓の年齢を若返らせる効果があると、鑑定結果に出ています。」
「つまり死期は変えられないが、現時点より比較的若い肉体を手に入れられるということか」
「さようでございます。もちろん、何十歳も若返る訳ではなく個人差はあるはずですが……。少なくとも肌艶や視力がよくなり、胃腸や肝臓も活性化するでしょう」
「十分すぎる。美肌効果があるなんぞ貴族の御婦人が知れたら恐ろしいことになるぞ。外傷や病魔は癒やせても、普通は老化による内臓や肌の劣化はポーションで止めることはできん」
アーサー氏は低く唸る。猛獣のような迫力だ。
「ラーク。お前はアルフィンや私よりも『鑑定』という分野に秀でている。私はお前のその技能を高く評価している。が、あえて訊くぞ。それは確かなのか?」
「確かです。ギルドマスター。ラーク・ジャックナイフの名に誓って、嘘偽りはありません」
「……分かった」
アーサー氏は重々しく頷いて、シルビアと僕に向き直る。
ヤバい、威圧感がさっきより増している。急に彼がとんでもなく大きく感じられた。
フレイムベアの殺意に慣れた僕でさえちょっとビビるくらいだ。シルビアは顔面蒼白で、足も小刻みに震えていた。
(……!)
その手をそっと握ると、一瞬ピクリとしたあと弛緩していった。そして躊躇いがちに握り返してくれた。ちょっと汗ばんでいたので、あとでペロペロしておこう。
「見事だ、シルビア嬢」
アーサー氏は深く、湖の底にまで届きそうな低い声で称賛を口にした。
「よもや私を戸惑わせるような、圧倒的な結果を持ってくるとはな」
「……恐縮です」
シルビアは無理やり笑顔を作ってそれに応える。
「これならば、例の件一考するに値する」
アセンブラ教会の縄張りを荒らしてまでポーション事業に参入するかって話だね。アーサーさんも覚悟困ったのだろうか。
「それでは商談に入ろうか」
ニヤリ、と笑う顔は恐ろしくも魅力的で引き込まれるような壮絶さがあった。
(使徒様、どうやら手持ち無沙汰のご様子。わたくしの臀部でよければお揉みになりますか?)
(……ものすごく魅力的だけど、やめておくよ)
56
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
うちの冷蔵庫がダンジョンになった
空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞
ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。
そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる