とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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残された時間でできる事

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 白の塔のてっぺんに到着し、女神から呼ばれた理由を教えてもらってから四日が経った。この四日間、毎日残業の為ワンモアに一切ログインできていない。まあ、あくまで社会人にとって大事なのは仕事である。それにうちの会社は残業が基本的に少ないから良い会社ではある。

 そんな会社なのだが、突如想定外の仕事が入ったらしく従業員総出で残業を行わないといけないという状況に陥っていた。その分残業代には普段以上の色を付けると工場長は約束をし、何とか協力して欲しいと社員皆に頼んできたのだ。社員側も普段ちゃんとスケジュールを回しているのに、こんなことになるのは本当に想定外なのだろうと疑いはしなかった。普段の工場長の人徳もあった事も影響している。

 なので皆が快く工場長の頼みを引き受け、うちの会社にしては非常に珍しい四日連続で午後の十時まで残業をすると言う事に。普段よりもきつかったことは事実だが、皆が協力し合って残業に励んだ結果……期限内に仕事を収めることが出来たらしい。

 この結果に工場長は大喜びで、必ずこの残業に対して相応の対価を支払うと改めて宣言した。その翌日は、全員が休暇を与えられていた。もっとも、自分は久々の残業続きで疲れてしまい午前中は寝て過ごしてしまったが。昼食を外で食べ、それから掃除に選択と言ったこまごまとしたことを行い、結局ワンモアにログインできたのは晩御飯を食べた後であった。

(五日ぶりのログインか……何か変わった事が起きたかな?)

 ゲームに関する掲示板も見る余裕はなかったので、もしかしたらちょっとした出来事があったかもしれないな~なんてことを思いながらログインするためのVRヘルメットをかぶってワンモアの世界へ。数日来なかっただけなのに、この場所の喧騒がちょっと懐かしく思えた。とりあえず大雑把に歩き回り、周囲の雰囲気を感じる事から始めた。

(あんまり雰囲気に変わった所は無さそうかな? 大きな発表とかがあればこういう人が集まる場所の雰囲気ってのは結構ガラッと変わるから、そう言った大きな発表はなかったとみていいのかな)

 そう思いながら白の塔の入り口付近へと足を運ぶと、今までは無かった筈の立て看板が作り出されていた。確認してみると、今まで白の塔を踏破した人の人数が書かれていた。そこに掛かれていた数は九〇二人とある……うーん、どれぐらいの人が挑んだ上でこの数字なのか、分母が分からないから何とも言えないなぁ。

 でも、まだ二か月以上残り時間はあるのだから踏破者の数はもっと増えるだろう。むしろ増えてくれないと最後の決戦が辛くなる。自分個人としては人の意地を見せる事が目的なので勝つことが全てではないが、それでも数がいなければ戦いにすらならない可能性が高い。そうなったら人の意地を見せるも何もない。

 何せ相手は女神、そしてワンモア世界における最後の戦いだ。弱いと言う事はまずないだろう。有翼人のボスであったロスト・ロスがかわいく思えるほどの強さでこちらを薙ぎ払ってくるだろうから……対抗するためには数がいなければ始まらない。だからこそ、踏破者がもっと増えてくれないとな……白でも黒でもいいから。

 立て看板を見ながら最終戦闘の流れを予想していると、不意に肩を軽く叩かれた。振り返ると、そこには外套とフードで顔や装備が分からない様にしていたプレイヤーが一人。そして、少しだけフードをずらして自分にだけ顔が見えるようにしてきた。あれ? この顔には見覚えがあるぞ。

(すいませんアースさん、ちょっとお付き合いいただけませんか?)

 小声で、そのプレイヤーは自分に声をかけてくる。自分はその言葉にうなずく事で同意した。なぜなら、このプレイヤーはファストの鍛冶場で色々と関わる事が多かった親方の弟子の一人だったのだ。なぜここに居るのだろう? という疑問が当然沸いてくる。親方はこの塔にやってくるつもりはないと言っていた。ならば当然弟子である彼がここに居るはずがないのだが。

 その疑問も、おそらく彼に同行すればわかるだろう。だから自分は素直に応じて後を付いている。歩くことしばし、あまり人気のない場所に移動して──突如、親方を始めとして彼のお弟子さん達が見えるようになった。何らかの方法で視認できないようになっていたらしい。

(これぐらいの対策は当然だな、今ここに親方がいると知れば修理や装備の身長を目的としたプレイヤーが押しかけてくる状況が容易に想像できる。だが、親方だってそれは分かっているはずだしそれを避けるためにこの塔には関わらないと言っていたのでは……その考えを曲げるしかない事情にぶち当たったのだろう)

 自分がそう考えているうちに、ここまで自分を案内してきたお弟子さんは親方に「アースさんをお連れしました」と親方に報告している。

「アース、久しぶりだな。この周辺であれば大声で話さない限りは大丈夫だ。声を出していいぜ」「親方、お久しぶりです。しかし……なぜここに? 自分が言うまでもなく親方がここに居るとなったら親方達の都合なんか考えない連中が押しかけますよ?」

 自分の言葉に、親方も「それはそうなんだがよ」と珍しくはっきりしない感じで頬を書いている。何かがあったのは間違いない。ただ、その何かがまだ分からない。

「とりあえず、これを見てくれないか?」「これは──武器の設計図ですね? しかしこれが何──なんだこれ?」

 親方が手渡してきた複数の紙を確認してみるとそれらは武器の設計図だった。今更だが、ワンモアのシステム上こういった設計図のやり取りは基本的にはしない物なのだが……それを重々承知しているはずの親からが見せてきたのはなぜか? それは、この設計図に書かれている武器がどれもこれも、過去に自分が作ってきたようなギミック付きの武器だったのだ。

 ガントレットに爪を仕込む暗器っぽい物から、中盾にニッパーの様な爪を仕込み、いざとなればその刃で相手を断ち切ろうと考えている事が伺えるもの、スネークソードの刃を複数並列のようにつなげてみた物、等々とにかく一般的な武器の形からはかけ離れている事が伺える。

「それらはな、ワンモア世界の住人達から渡された注文書なんだ。こういったものを使ってみたい、しかし町にいる鍛冶屋にはこんな狂った物など作れないと断られたんだそうだ」

 まあ、それはそうだ。あまりにも一般的な形からは逸脱しすぎている。お前が言うなと言われると非常に耳が痛くなってしまうのだが……事実だから仕方がない。

「だが、こんな変な武器を作って、なおかつ自分で運用している人物がいた。戦いの場で使っている所を見て、自分でも握ってみたくなったというのが注文理由だそうだ。アース、お前さんには心当たりがあるよな?」

 ──なに、つまり? こんな武器を欲するようになるワンモアの住人が生まれた原因は今までの自分の旅路にあると? 確かに設計図は、自分が使ってきた八岐の月、両腕につけている仕込みのある盾、そして足に付けている専用の蹴りをアシストする補強具などを模している物が非常に多い。

「ハッキリ言って、俺も数多の武器防具を作ってきたという自負はある。だがよ、それはあくまでベーシックな物だ。もちろんスネークソードも作ってきたが、盾の中に仕込みを入れたり、機構を突っ込んだりした物は一切作ってこなかったし作り方すら予想できねえ。だが、アースならば……これらの設計図を基にある程度簡略するなりすれば、近い物は作れるんじゃねえか? って思ってな。すがる思いで弟子に連れてきてもらったんだ」

 親方が来るつもりが無いと言っていた塔にやってきた理由は、自分が原因か……あちこちでいろんなギミックを組み込んだ武器で戦ってきた自覚はある。弓もこの八岐の月は色んな人の目に付いているだろうし……それをワンモアの世界の人が見て俺も欲しいとなった訳か。

「あっちゃー……」「アース、一応言っておくがお前さんが罪悪感を感じる必要はねえからな? お前さんがやりたくないというのなら、俺達が正式に断りに行くだけで済む。向こうももし作ってもらえるならとダメで元々と言う事は自覚しているからよ」

 頭を抱えた自分に親方はそう声をかけてくれた。でもなぁ、本来の親方の旅を邪魔したような気分になっちゃうんだよね……それに残り二ヶ月、ただ戦って鍛え続けるだけというのも味気ない話だし、この話を受けてみるか。作れる作れないは別にして、とりあえずやってみよう。自分の持っている知識と経験で、どこまで行けるかを試すのもいいかもしれない。

(何より、自分の作品をこの世界に残せるチャンスでもある訳だし、な)

 自分は、そう考えを纏めてこの制作依頼をできる限り引き受けると親方に伝えた。こうして、残り時間の大半を費やす作業に入っていく事となる。
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