とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ

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話をすることによって、もう一度あの綱渡りと向き合う

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 魔王領に関する機密などは出来る限りぼかしつつ、有翼人の存在と過去の魔王様との戦い。洗脳装置の一件、そして脳だけになってなお戦い続けていた有翼人の女性科学者との出会いと協力。そこから準備と戦いに向けての情報集めに駆け回った事。そしていよいよ地上連合とこちらについた一部の有翼人と共に戦ったあの日の記憶。それらをできる限り丁寧に伝えていく。

 話を隣で聞いて何時ツヴァイも「あの時の戦いは、そんな所から始まっていた話だったのかよ!?」と何度も驚くシーンもあった。まあ、ツヴァイも断片的にしか知らない所が多々あったからな……特にあの時自分が使っていたパワードスーツの真実には驚愕していた。一方で話を聞いている女性プレイヤーは目に涙を浮かべていた。

「その身を捨てて、脳だけを移植してなお孤独に戦う……言葉にすれば短い一文だけになりますが、それを実際にやった彼女はどれほど孤独に戦ってきたのか想像も出来ません。そして最後に彼女は報われて静かに眠る事が出来たのですね……本当に良かった」

 この点については、自分も完全に同意する。特に彼女が最後、静かに眠る事が出来る結末を迎える事が出来たのは救いだっただろう。無念を抱えていくよりは、ずっといい結末だ。

「自分もあの方がどれだけの絶望とかすかな希望を抱いて戦い続けたのか、その心中を推し量る事なんかできません。実際、自分は彼女の戦いの最後にちょっとだけ参加して戦っただけにすぎませんからね。正直、あの戦いで彼女に出会えていなかったら勝てたかどうか、怪しい所があります」

 実際あのパワードスーツのパワーと能力には非常に助けられたし、彼女の長年の準備が無ければあの最終決戦で奥義を振るう所まで持って行けたかどうか……多くの有翼人を同時に相手取ったのにもかかわらず自分のMPやアイテム、そして精神力をできうる限り温存して戦う事が出来た事は非常に大きい。

「あれ、ほんとにすごかったからな……だからこそ、最後は自壊して新しい争いの火種にならねえように消えるって考えは俺も理解できるぜ。もしあれが残ってアースの手元にあったら、塔へと登り始めるまでの間にアースはどれだけの悪党に狙われたか予想が出来ないぜ」

 ツヴァイもそのパワーをその目で見ているので、そんな言葉と共に一人で頷いていた。もしツヴァイの言う通りにあのパワードスーツが半壊とはいえ残ってしまったら、模倣するためのデータを取る為に欲しがるものや修理して自分で使うために奪おうとするものなどがわんさか沸いてきただろう。それをあの科学者である彼女が予見していないわけがない。

「私は動画でしか知りませんでしたが……パワードスーツってプレイヤーが攻め込んで返り討ちにあっていて、レイドボスって騒がれてたあの存在だったんですね。プレイヤーが何百人と押し寄せてもそれをものともしないパワーと装甲に加えて機動力まである。残っていたら間違いなく新しい騒動の火種だったでしょうね」

 女性プレイヤーもツヴァイと同意見だったようで、しきりに頷きながら自分の話を記録していた。

「そして最後は自分の魔剣を砕いた上に自分のHPが永続的に一定量失われるまさに最終奥義とも言っていい技で、有翼人のボスであるロスト・ロスを斬りました。その一撃でロスト・ロスの身を守っていた不可視のシールドはその存在を断ち切られ、最後にパワードスーツに脳を移植していた彼女がその拳で決着をつけた。これがあの戦いの顛末です」

 そして彼女は、自分に頼んで自壊コードを入力され自分の永久の眠りについたと締めくくった時は、女性プレイヤーだけでなくツヴァイもぼろ泣きしていた。正直自分も目の裏と喉にかなりくるものがある。自分はあの女性科学者の長い孤独な戦いに最後だけ参加させてもらったエキストラに過ぎないとはいえ、彼女の想いをくみ取れるだけの時間は共に過ごした。

 そしてあの時の想いはそうそう薄れる物じゃない。自分は今一度、心の中で彼女の冥福を祈った。たとえ生まれた世界が異なっていたとしても彼女は『生きて』いた。だからこそ、悼みたい。他の人の意見など知った事ではない、自分がそうしたいと思うからそうすると言うだけの話である。

「ホントにあの時、有翼人のボスを打ち取れてよかったと今改めて思うぜ。そしてあのとどめを刺した時、アースが自分でやらなかった理由が理解できたぜ。俺がもしアースと同じ立場だったら絶対同じことをしたぜ」

 とツヴァイの感想。

「一時は夫婦となり、その後は世界の為に元夫を討つためだけに全てをなげうったその生涯……彼女が居なかったら、地上は本当にどうなっていたのでしょうか。彼女も有翼人のボスと同じ悪意に満ち溢れた存在であったなら、今の地上は存在していないんですね」

 こちらは女性プレイヤーの感想。そう、間違いなく彼女が悪党であったなら今の地上はない。もっと早く戦いが発生し、プレイヤーがこの世界に参加した時は全てが有翼人の思うがままという地獄が完成していたことは間違いない。

「全てを知った今だからこそ、ぞっとするという言葉で済みますけどね──ワンモアの世界はそんな薄氷の上に成り立っていた訳ですから」

 形は違えど、自分達が住んでいる現実世界だって実はそう大差ない。何処かの誰かがとんでもない引き金を引いたら核兵器を打ち合ってお互いがお互いを滅ぼして数多の命があっという間に吹き飛んでしまう危険性を孕んでいるのだ。そう言う点では、自分達が生きている世界とこのワンモアの世界、どちらも薄氷の上に存在しているような物なのだ。

「あの戦いは誇張抜きで世界の運命を左右する戦いだったんだな……確かにとんでもない相手だったけどよ、こうしてアースの話を聞いて改めて勝ててよかったと思うぜ。もしあそこで負けていたらと思うと、寒気が止まんねぇ」

 ツヴァイの気持ちはよく理解できる。あそこで負けていたら本当にどうなっていたか。ツヴァイ達やグラッド達の協力を取り付ける事が出来なかったら? 真同化が無かったら? 雨龍砂龍師匠が居なかったら? あの女性科学者との出会いが無かったら? 秘かにヒーローチームが来ていてくれていなかったら? 何処か一か所欠けただけでも勝率はがた落ちした事は間違いな──いや、勝てなかった可能性が高い。

「寒気が止まらないのは私も同じですよ。こうして話を伺って、本当にどこか一つでも欠けていた場合地上連合軍が負けてプレイヤーが洗脳されて、地上の人々を虐殺して回るなんて絶望という言葉ですら温い話になったのでしょうから」

 女性プレイヤーも唇を震わせつつ話を聞き終えた感想を口にした。彼女の言う通り、そのシナリオが敗北した時の流れだったのは間違いないと自分も考える。当時の掲示板でもその展開を迎えただろうと言う考察があったからな。

「このような話を教えていただき、本当にありがとうございました。あの戦いの裏にはそんな多くの出来事が絡み、そしてあの結果に繋がるまでに多くの犠牲があった事を知れました。ワンモアが終了した後に乗せるという約束も必ずお守りいたします。正直、編纂が大変ですがやる価値は十分にありますね」

 そう口にした女性プレイヤーはゆっくりと頭を自分に向かって下げた。自分も話を聞いてくれた彼女に向かって下げる。話すべきことは話し終えた。後は彼女の編纂に任せる事にしよう。

「というか、そう言った話を聞いて思ったけどよ。アースが居なかったらこれ詰んでたんじゃないか? 他の誰も代役が務まらないだろ」「いや、その場合は魔王様がひそかに動いたと思う。流石にこの事態では前例がないとか言っている場合じゃないし」

 ツヴァイの言葉に自分はそう返答する。あくまで今回は魔王様の代役がこなせる自分がいたからこうなっただけで、自分がいなかった場合は魔王様自身が動いたはずだ。魔王様が売業だけの理由は十二分にあったのだから。

「でもその場合は、魔王様が直々に動くことで大騒ぎになってた可能性は否めないな。噂好きなやつはマジで多いからなー……プレイヤーもワンモアの世界も変わりなくな」

 そしてツヴァイの予想には同意する。噂好きな人ってホントいるからな。そう言うスピーカーな人に秘密がバレると大変なんだよね、とにかく相手が誰だろうとお構いなしだし、噂を流される方の影響なんて欠片も考えずにしゃべりたくてしょうがない性質なんだから。無論、そんな事をすれば当然信頼してもらえなくなるけど。機密やプライベートを簡単にしゃべる人に教えたり見せたりしないだろう?

「そうなれば有翼人達の目に留まっていた可能性は否めないですね。アースさんは普通の人の見た目だからこそ、有翼人達も気にしなかったのでしょうし」

 当時も思ったが、最後の地上連合軍が攻め込むまでの間、有翼人側には自分達の考えや行動が漏れていないと思っていてもらわなきゃいけなかった。が、魔王様が地下に向かえばロスト・ロスが何かに勘づいてしまうという可能性は確かにある。改めて綱渡りな事をやっていたんだと通解させられる。悲惨なエンディングにならなくてよかったけどさ。
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