風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/8 その十

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「~~♪ ~~~♪」
「おでかけ~♪ おでかけ~♪」

 よっしゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ!
 明日はデェエトォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオやぁああああああああああああああ!

 ホテルのレストランを出て、ウチは桜花ちゃんと一緒に家路についていた。
 ウチと藤堂はんの作戦で桜花ちゃんはご機嫌。逆に元気がありすぎて困るくらい。
 桜花ちゃんは元気いっぱいに走り回ってる。

 藤堂はんはバイト先から連絡があって、バイトに行ってもうたけど……ふふふっ、まさかあんなチャンスがわいてくるなんて思ってもみいひんかったわ。
 そのチャンスを見事ゲット!

 流石はウチ! 自分の才能が怖いわ!
 ピンチこそチャンス!
 桜花ちゃんを利用してデートの約束を取り付けた!

 まあ、勝ち馬に跨がった気分やけど、そんなんどうでもええ!
 結果がすべて。
 ウチは明日、藤堂はんとデート!
 これがすべて!

 それに! それに! フフフフッ!
 藤堂はん、テレてたし! テレてたし!

「ママ! ママ! おでかけ! おでかけ!」

 まあ、桜花ちゃんと一緒やけど、想定内。
 はよ、明日にならんかな~。楽しみや!

「お姉様!」
「……」

 なんやろ……聞き覚えのある声が聞こえてきた……。
 ウチは身を隠し、声のした方を確認する。
 すると……。

「はぁ! はぁ! はぁ!」
「へへっ、ラッキーだぜ! こんなところで御堂に出会えるとはな!」
「しかもめっちゃ弱ってるぜ! コイツの首をとれば……」
「ナンバーズも夢じゃねえぜ!」

 御堂はんと黒井はんが男達に取り囲まれていた。その数二十。
 普段の御堂はんなら問題ないやろうけど、ウチに負けたのがショックで体が相当弱っとる。
 あれではボコられるのは時間の問題やろ。

 さて、どうしよ?
 もう御堂はんは敵やし、助ける義理はない。
 ウチが手を下さんでも、勝手に大怪我する。それなら……。

「御堂はん、さよなら」

 見捨てる。
 青島の勢力図やレッドアーミーのことなんてどうでもええし。

「それにいい女じゃねえか~。たっぷり楽しませてもらおうぜ~」
「勿論、二人ともな~」
「……」

 はぁ……。

 ピピピ。

「……あの、女の子が複数人の男に乱暴されそうになってます……はい……場所は……」

 警察くらいは呼んだるわ。フツウに犯罪やし。
 御堂はんなら警察が来るまでもつやろ。相手はただの雑魚やし。

 ウチが助けてもええんやけど、御堂はんは怒るやろうしな~。
 ウチが助け船だしたことは知られへんほうがええやろ。

「ママ?」
「なんでもありません、帰ろっか」
「うん!」

 ウチは桜花ちゃんと一緒にマンションに帰る。
 御堂はん、堪忍な。
 ウチな藤堂はんのことがなかったら、あんさんのこと、好きやった。
 けど、ウチが護るべきモノは家族だけ。それ以外は敵。
 そう敵なんや……。



「おでかけ! おでかけ!」

 家に帰った後も、桜花ちゃんはずっとウチのスカートを引っ張ってとる。
 料理中でも桜花ちゃんはウチにひっついてきて離れへん。

 困った子や、ほんま。
 けど……気持ちは分かる! 分かるで!

「桜花ちゃん、おでかけするの?」
「うん! パパとママとおでかけ!」

 おばさまも桜花ちゃんも笑顔で、ウチは幸せいっぱい。

 なあ、藤堂はん。この気持ち、分かる?
 藤堂はんがいるだけで、ウチはこんなにも幸せな気分になれる。

 咲は今日が最良の日になるって言ってたけど、違うと思う。
 確かに藤堂はんとデートまでとりつけたことは嬉しい。でも、きっと、もっと、幸せな事が起きる予感で胸がいっぱいになる。

 こんなん、初めてや。
 初めてがいっぱいの毎日。生きてるって事がこんなにも嬉しい。
 涙が出そうになる。

 だからこそ……ウチは護る。
 この幸せな生活を……誰にも……誰にも……邪魔させへん……もし、障害になるモノがあったら……すべて排除する……。
 必ず……必ずや……。

 誰にも……誰にも奪わせない……必ず……必ず……ウチのたった一つの居場所を護る……護るんや……。
 その為なら……なんでもやる……鬼にもなってみせる……。
 だから……もう……ウチから奪わんとって……お願いやから……ウチかて……人並みの幸せが欲しい……たとえ、もうすぐ終わりが来ると知っていても……そのときまでは……。

「千春ちゃん?」
「なんでもありません」

 ウチは笑顔を見せる。
 おばさまは鋭いからきっと見抜かれる。
 だから、精一杯虚勢をはらんと。

「千春ちゃん。今日の晩ご飯は私が準備しますから、桜花ちゃんの相手をしてもらえます?」
「えっ? でも……」
「ママ! ママ!」
「……」
「お願いできます?」

 はぁ……桜花ちゃんがずっとウチにまとわりつくから料理どころやないわな。
 今日の桜花ちゃん、二割増しでウチにかまって光線浴びせてくるし。

 可愛えんやけどな~、仕事から帰ってきた藤堂はんに最高の料理を食べさせたいから待って欲しいんやけど……。

「今日は正道さんの分はいりませんから。まかないを食べて帰ってくるでしょうし、夜遅くに食べて早く寝るのは体によくありませんから」

 そう言われてしまうと、ウチも断念せざるを得ない。
 旦那様に美味しい料理を食べさせるのは新妻の仕事やのに……って、誰が新妻やねん!
 しゃあない。

「桜花ちゃん。ママとお風呂入ろっか」
「はいる!」

 ウチは桜花ちゃんをお風呂にいれ……。

「ねえねえ、ママ! あしたはどこにいくの!」

 と、明日のことばかり聞いてきて……。

「ママ! どこにいくの!」

 夜ご飯、スープをこぼしながら、明日のことばかり聞いてくる。
 よほど楽しみなんわ分かるけど……。
 ご飯を食べ終わっても……。

「ママ! ママ!」

 全然眠る気もなく、ひたすらウチに話しかけてくる桜花ちゃん。
 そんな桜花ちゃんにウチは……。

「桜花ちゃん、明日はたっぷり遊ぶから、そろそろ寝よな」
「やだぁ! はやくおでかけしたい!」

 ワガママを言ってきかない。
 そろそろウチもうんざりしてきた。

 そんなんウチかてそうや。せやから、明日の向けてシミュレーションしておきたいのに……。
 それに桜花ちゃんとおでかけするのなら……やっぱり、気になることがある。
 せや、いいこと思いついた。

「桜花ちゃん、ゲームしよっか?」
「ゲーム! やる!」

 大はしゃぎする桜花ちゃん。
 ウチもニッコリと微笑んだ。



「桜花ちゃん。スプーンはグーで握らず、親指と人さし指、中指でスプーンを掴む。お皿の水をこぼさんようすくい」
「……できた」
「出来てません、こぼれてます。もう一回」

 ウチはゲームという名の調教……教育を施している。

 桜花ちゃんのマナーは悪い。食事をこぼし、口を汚す食べ方にずっと気になってた。
 藤堂はんも気にしてたけど、何も言わん。
 桜花ちゃんが美味しくご飯を食べられているのならそれで満足してる。要はあまやかしている。

 ウチかてあまり言いたくなかったけど、おでかけとなれば別。
 周りに人がいるのなら、行儀の悪いところを見られとうない。桜花ちゃんも女の子なんやし、そういうとこ気にしてもらわんと。
 それにバキューン持ちから始めて、徐々に手先を起用に動かすことが出来ればお箸を上手に扱うことが出来る。
 スプーンは基礎練習にもってこいや。

「ねえ、ママ」
「な~に、桜花ちゃん?」
「これはなにかちがう……たのしくない……ゲームじゃない……」
「ちゃんとしたゲームです。ちゃんとスプーンを持ててこぼさずにコップに入れることが出来たら、十点。百点満点を目指して頑張ろ~な~」

 高さの違う器に三本の指でスプーンを握り、こぼさないよう水を入れる。
 単純に見えて、かなり難しいはず。
 考えさせて行動させるのも訓練。

「桜花ちゃん! えらい! ちゃんと出来るやん!」
「そ、そう?」

 桜花ちゃんはにやっと笑う。

「これを後、十回! 頑張れ! 桜花ちゃん!」
「……じゅっかいも?」

 そんな馬鹿なって顔芸しても、ウチはにっこりを笑い……。

「頑張れ!」

 応援する。

「……がんばる」

 まあ、無理やろうな……。
 そもそも桜花ちゃん、十も数を数えるの、指を使わないと無理やし。
 五数えられたらお御の字。
 まあ、頑張り、桜花ちゃん。これで時間を潰して……その後は……。

「ママ~、むり~」
「桜花ちゃん、よう頑張りましたな~。それじゃあ、このゲームは終わりにしましょうか」
「やったぁあああああああ!」
「次はフォークのゲームしましょっか」

 桜花ちゃんの顔がオーマイガーって顔になっとる。
 ウチはとびっきりの笑顔で告げる。

「素敵なレディーになる為のゲームです。目指せ、女子力アップ!」
「……おうかちゃん、もうゲームしたくない……」
「ううん~、桜花ちゃんがおねむなら、もうやめようかな~」

 さあ、どうする?
 泣きわめく? それとも駄々をこねる?
 ちょっと意地悪やったかな?

 けど、マナーは基本やし。絶対に訓練は必須。
 ウチの条件に、桜花ちゃんは……。

「……」

 スタスタと移動し、無言でお布団に入り……。

「すぴ~~……すぴ~……」

 寝てもうた。
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