風紀委員 藤堂正道 -最愛の選択-

Keitetsu003

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女を黙らせるにはこうするんだろ? 前編 朝乃宮千春SIDE

2/8 その九

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「ついたぞ」
「……」

 何ここ?
 藤堂はんに連れてきてもらった場所は……おしゃれな喫茶店やなくて、古くさい店。
 絶対放課後デートではない。

 はぁ……。
 桜花ちゃんはまだ藤堂はんにギュッと抱きついたまま、泣いてるし……。
 藤堂はんは桜花ちゃんを抱っこしたまま、店に入る。

「桜花、ほら」
「……」

 藤堂はんは桜花ちゃんを地面に下ろす。
 桜花ちゃんは最初は藤堂はんから離れなかったけど、藤堂はんが根気よくあやして、ようやく離れた。
 そして……。

「……」

 桜花ちゃんは口を開いたまま、鼻水を垂らしながら店の中を見渡す。

「どうだ、桜花。ここは駄菓子屋といって、お菓子専門のお店なんだ」
「……」
「ここにあるモノ全部、お菓子なんだぞ」

 そう、藤堂はんがウチと桜花ちゃんを駄菓子屋に連れてきた。
 テレビでしか見たことなかったけど、ほんま、古くさい店。
 なんやチープなお菓子ばかり並んどる。

 藤堂はんにはガッカリや……。
 こんなんで桜花ちゃんが喜ぶ……。

「ここはてんごくですか!」

 喜ぶんかいぃいいい!
 どこでそんな言葉覚えたん?

 桜花ちゃんは目をキラキラさせ、店の中を走り回ってる。
 可愛ええええええええええええええええええええええええええええ!

「おい、ガキ! 店の中で走り回るんじゃないよ!」
「!」

 店の奥から年配の女性が出てくる。
 その鋭い声と眼光に、桜花ちゃんはウチの後ろに隠れる。

「こんにちは、桜さん」
「楓んとこの孫かい。そのガキは?」
「義信さんが預かった子でして、訳あって、俺達が面倒を見ています」

 年配の女性がウチをジッと見つめてくる。
 ウチはかるく会釈する。

「……あんた、楓の姉の……」
「大叔母はウチの祖母です」

 そう、楓おばさまの姉は、御館様の正妻にあたる。
 つまり、ウチと藤堂はんは親戚同士……にフツウはなるんやけど、祖父である御館様が息子の嫁、ウチの母様を手籠めにして生まれたのがウチ。
 そうなると、ウチと藤堂はんの関係は……まあ、今はどうでもええ。

「星渡りの世話職の末裔か……」

 星渡りの世話職? なんのこと?
 年配の女性はウチに興味をなくしたのか、藤堂はんに話しかける。

「ねえ、ママ……」

 桜花ちゃんは不安げな顔でウチのスカートをクイクイと引っ張る。
 ウチは桜花ちゃんを抱き上げる……前に。

「桜花ちゃん、チンしよっか」
「ありがとうございます」

 まずはティッシュで鼻水を拭いた後、抱き上げる。
 桜花ちゃんはウチに抱きつきながらも、店のお菓子をジッと見つめている。

 さて、どうしよ? 桜花ちゃんはお店の女性におびえてるけど、お菓子には興味津々やし、藤堂はんを待ってみる?
 そう思っていたら、藤堂はんが戻ってきた。
 藤堂はんはいつも見せる厳つい顔つきではなく、穏やかな顔で桜花ちゃんに語りかける。

「桜花、今日はお菓子を五個、買ってやる」
「ご、ごこも!」
「そうだ。五個買ってやる。欲しいものを選んでこい」
「やったぁああ!」

 ちょ! 桜花ちゃん!
 桜花ちゃんは鼻の穴を膨らませ、暴れる。
 ウチは桜花ちゃんを下ろすと、すぐに桜花ちゃんはお菓子を物色し始める。

 これほど嬉しそうな桜花ちゃん、見たことない。
 保育園の事など、なかったかのように目の前のお菓子に夢中になっていた。

 藤堂はんと目が合う。

「こういうやり方は不味いか?」
「ええんとちゃいます? 桜花ちゃんが喜んでくれるなら」

 藤堂はんが桜花ちゃんの涙を止めたくて必死に考えた案をウチはとがめる気は更々なかった。
 でも、一つ心の中で言わせて……。

 ウチにもサプライズ、プリーズ!
 ウチ、頑張ったんやで! ご褒美があってもええんとちゃいます!

 妻がこんなにも旦那の為に尽くしてるのに、デートの一つや二つ、誘うべきや!
 って、誰が妻やねん!

「桜花、これなんてどうだ?」
「これ! テレビでみたことある!」
「これはどうだ?」
「ほしい!」

 ええっと、あれは確か……ペロペロキャンディーとヤングドーナツ?
 他にも藤堂はんがいろんなものを桜花ちゃんに勧める度に、桜花ちゃんの目はキラキラと輝かせている。

 ええな~、ウチも買ってほしい。
 ふいに藤堂はんと目が合った。

「……朝乃宮も食べてみるか?」

 ええっ~こんな安っぽいモンを食べさせるの~。
 答えは勿論……。

「……いただきます」

 ま、まあ、桜花ちゃんが好きそうなお菓子を知っておいて損はないし、ウチもいただこ。

「おすすめあります?」
「そうだな……これなんてどうだ?」

 藤堂はんが選んでくれたのは……キャベツ次郎?
 何これ? 美味しいの? って、この台詞、リアルで言いそうになったわ。

「ほら、桜花。持ちきれないだろ? かごだ」
「ありがとうございます!」

 桜花ちゃん、めちゃ喜んでる……。
 なんや……悔しいわ……ウチだって桜花ちゃんの為に美味しいご飯作ってるのに……安物のお菓子の方がええの?
 それやったら……。

 ウチはあることを思いついた。
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