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三十章
三十話 スイカズラ -献身的な愛- その四
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「先輩、お待たせいたしました」
「……獅子王先輩から聞いたか?」
「はい、すべて聞きました」
空港の外に出た私は、先輩と落ち合った。
空は曇っていて、風が冷たい。フェンスの向こう側には飛行機が飛び立っている。あの飛行機の中に、獅子王さんはいるのだろうか。
先輩はフェンスの向こう側を見つめたまま、振り向こうとしない。
私達はそのまま、動かずに空を見上げていた。しばらくすると、白い雪が舞い降りてきた。どうりで寒いわけだ。雪はしんしんと降り続いている。
「……すまない、伊藤」
「謝らないでください。それより、先輩は大丈夫なんですか? 無理してボロボロじゃないですか」
私を護るために腕を痛め、体はバイクで転んだせいで泥が体についている。私を騙していた事に罪悪感を感じ、それに苛まれ、身も心も傷ついてしまっている。見ていて痛ましい。こんなに傷ついたのに、頑張ったのに、私達では獅子王さん達を幸せにできなかった。本当にやりきれない。
獅子王さんと別れた後、古見君からの着信があったかどうか確認したけど、何もなかった。私はつい黒井さんのメールをチェックした。獅子王さんがいなくなったことが信じられなくて、現実逃避したかっただけなんだけど、見てしまって後悔した。
なぜ、もっと早くチェックしなかったのか。ほとほと、自分のバカさ加減に呆れてしまう。
『件名:報告
○○:○○に校舎裏で獅子王先輩と古見君を見かけました。古見君は泣きながら、獅子王先輩にすがりついていました。橘風紀委員長との勝負に関係があると思い、メールします。
昼間は申し訳ありませんでした。罪滅ぼしとは言いませんが、それでも、私はあなたを応援しています。伊藤さんなら、きっとあの二人を幸せに導けると思います。あの二人の事を誰よりも理解し、心配しているのは伊藤さんですから。頑張ってください』
どうして、チャックしなかったのだろう。チェックしていれば、もっと違った未来があったのかもしれないのに……。
胸が張り裂けそうだった。私こそ、先輩に顔向けできなかった。
先輩は申し訳なさそうに私を見つめている。それが辛かった。
「かまわない。これは自業自得だ。俺は何もできなかった。伊藤に全てを押し付けて、真実を隠して、騙していた。どんな罰でも受けるつもりだ」
「罰なんてないですよ。だれも被害者はいません。獅子王さんは笑って去ってしまいました。古見君もきっと私達のことを恨んでいないでしょう。だから、だれも私達の事を恨んでいませんよ」
罰を受けないのが罰なんだ。罰を受けて償えば、楽になれるだろう。でも、罰を与えられなければ、ずっと償えない。その痛みを抱えたまま、私達は生きていかなければならない。今度は失敗しない為に。
「伊藤は俺や左近を恨んでいないのか?」
「恨んでほしいんですか? それなら恨みますけど」
「いや、いい。帰るか」
先輩は駐車場へ歩き出す。
「待ってください」
私は先輩を呼び止める。まだ終わっていない。肝心なことが残っている。
私と先輩の関係。
先輩は私の為に行動してくれた。私を護ってくれた。体も心も傷だらけになっても、私をいつも助けてくれた。
それなら、私は? 私はどうすれば、先輩を護ることができるの?
私が先輩と一緒にいれば、先輩はこれから先も傷ついてしまう。私は先輩を愛している。その想いが先輩を傷つけてしまう。
先輩を傷つけなくて済む方法はあるの?
愛しい先輩の為に私ができること。
自身の事を考えず、先輩の為に身を尽くすこと。その方法は一つしかない。
胸が締め付けられるように痛い。これを実行してしまえば、もう二度と今の関係には戻れない。
でも、それでも、私は先輩の為に、これ以上先輩を傷つけない為に選ばなければいけない。
先輩……先輩……。
「どうした、伊藤?」
「先輩に伝えておきたいことがあります。私は先輩の事が好きです」
やめて……今ならまだなかったことにできる。そう心が叫んでいる。
唇がふるえ、声が出ない。逃げ出したい。だけど、言わなきゃいけない。だって、先輩の事を愛しているから。
覚悟が決まらない私を後押しするかのように、獅子王さんにキスされたところが熱を帯びる。勇気がうまれ、決心が固まる。
今なら言える。今なら先輩の為に、私の想いを殺すことができる。
さあ、やりとげよう。愛する人の為に私ができることを。先輩、愛しています。
「でも、私の想いが先輩の負担になるのなら、傷つけるのなら、もう終わりにします」
「待て、伊藤。お前は何を言って……」
涙があふれる。でも、笑顔で別れなきゃ……。
先輩……先輩……先輩!
「さようなら、先輩……先輩と出会えて、幸せでした……ありがとうございました」
私は風紀委員の腕章を先輩に渡した。
「……獅子王先輩から聞いたか?」
「はい、すべて聞きました」
空港の外に出た私は、先輩と落ち合った。
空は曇っていて、風が冷たい。フェンスの向こう側には飛行機が飛び立っている。あの飛行機の中に、獅子王さんはいるのだろうか。
先輩はフェンスの向こう側を見つめたまま、振り向こうとしない。
私達はそのまま、動かずに空を見上げていた。しばらくすると、白い雪が舞い降りてきた。どうりで寒いわけだ。雪はしんしんと降り続いている。
「……すまない、伊藤」
「謝らないでください。それより、先輩は大丈夫なんですか? 無理してボロボロじゃないですか」
私を護るために腕を痛め、体はバイクで転んだせいで泥が体についている。私を騙していた事に罪悪感を感じ、それに苛まれ、身も心も傷ついてしまっている。見ていて痛ましい。こんなに傷ついたのに、頑張ったのに、私達では獅子王さん達を幸せにできなかった。本当にやりきれない。
獅子王さんと別れた後、古見君からの着信があったかどうか確認したけど、何もなかった。私はつい黒井さんのメールをチェックした。獅子王さんがいなくなったことが信じられなくて、現実逃避したかっただけなんだけど、見てしまって後悔した。
なぜ、もっと早くチェックしなかったのか。ほとほと、自分のバカさ加減に呆れてしまう。
『件名:報告
○○:○○に校舎裏で獅子王先輩と古見君を見かけました。古見君は泣きながら、獅子王先輩にすがりついていました。橘風紀委員長との勝負に関係があると思い、メールします。
昼間は申し訳ありませんでした。罪滅ぼしとは言いませんが、それでも、私はあなたを応援しています。伊藤さんなら、きっとあの二人を幸せに導けると思います。あの二人の事を誰よりも理解し、心配しているのは伊藤さんですから。頑張ってください』
どうして、チャックしなかったのだろう。チェックしていれば、もっと違った未来があったのかもしれないのに……。
胸が張り裂けそうだった。私こそ、先輩に顔向けできなかった。
先輩は申し訳なさそうに私を見つめている。それが辛かった。
「かまわない。これは自業自得だ。俺は何もできなかった。伊藤に全てを押し付けて、真実を隠して、騙していた。どんな罰でも受けるつもりだ」
「罰なんてないですよ。だれも被害者はいません。獅子王さんは笑って去ってしまいました。古見君もきっと私達のことを恨んでいないでしょう。だから、だれも私達の事を恨んでいませんよ」
罰を受けないのが罰なんだ。罰を受けて償えば、楽になれるだろう。でも、罰を与えられなければ、ずっと償えない。その痛みを抱えたまま、私達は生きていかなければならない。今度は失敗しない為に。
「伊藤は俺や左近を恨んでいないのか?」
「恨んでほしいんですか? それなら恨みますけど」
「いや、いい。帰るか」
先輩は駐車場へ歩き出す。
「待ってください」
私は先輩を呼び止める。まだ終わっていない。肝心なことが残っている。
私と先輩の関係。
先輩は私の為に行動してくれた。私を護ってくれた。体も心も傷だらけになっても、私をいつも助けてくれた。
それなら、私は? 私はどうすれば、先輩を護ることができるの?
私が先輩と一緒にいれば、先輩はこれから先も傷ついてしまう。私は先輩を愛している。その想いが先輩を傷つけてしまう。
先輩を傷つけなくて済む方法はあるの?
愛しい先輩の為に私ができること。
自身の事を考えず、先輩の為に身を尽くすこと。その方法は一つしかない。
胸が締め付けられるように痛い。これを実行してしまえば、もう二度と今の関係には戻れない。
でも、それでも、私は先輩の為に、これ以上先輩を傷つけない為に選ばなければいけない。
先輩……先輩……。
「どうした、伊藤?」
「先輩に伝えておきたいことがあります。私は先輩の事が好きです」
やめて……今ならまだなかったことにできる。そう心が叫んでいる。
唇がふるえ、声が出ない。逃げ出したい。だけど、言わなきゃいけない。だって、先輩の事を愛しているから。
覚悟が決まらない私を後押しするかのように、獅子王さんにキスされたところが熱を帯びる。勇気がうまれ、決心が固まる。
今なら言える。今なら先輩の為に、私の想いを殺すことができる。
さあ、やりとげよう。愛する人の為に私ができることを。先輩、愛しています。
「でも、私の想いが先輩の負担になるのなら、傷つけるのなら、もう終わりにします」
「待て、伊藤。お前は何を言って……」
涙があふれる。でも、笑顔で別れなきゃ……。
先輩……先輩……先輩!
「さようなら、先輩……先輩と出会えて、幸せでした……ありがとうございました」
私は風紀委員の腕章を先輩に渡した。
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