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龍王と魔物と冒険者
135話目
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最高位冒険者ベイビー・フランクリンとエンドのシンドゥラ。互いに剛と剛の戦い。
先手を取ったのは敏捷性で勝るフランクリンだが攻撃を当てた際にそのシンドゥラの堅牢な鎧に戦慄していた。まるで生身で鋼鉄にぶつかる感触。屈強な肉体を持つフランクリンにして骨が軋む。
「ふんっ!」
「攻撃が効いてない!?というかなんでさっきより鎧も強くなってるですか!意味不明ですよ、アナタ」
「ふんっ 簡単なこと。達人は武器を己が手足とする!ならば、防具も肉体にすることができよう」
「???言ってること意味不明よ。武器は武器。防具は防具よ。分かった、じゃあこれならどうね」
すばしっこく攻撃を掻い潜り、フランクリンはシンドゥラの肩に乗る。続いて右手による平手打ち。
「この程度!当て身技など通すものか」
「それはどうでしょ」
強力だがやはりシンドゥラの頭部を守る兜により阻まれる。だが右手が接触してコンマ0.01秒以内に今度は左手で右手とは異なる打撃を与えた。するとどうなるか。衝撃が反響して身体が内部で激しく鎧に打ちつけられる結果となるのだ。
「ぐはっ!いったいこれは」
「わーお!攻撃の振動は通すから、右手で打った振動に反する力を左手で打って増幅させたね。効いたでしょ?」
「鎧通しというやつか!見た目によらず、特殊な技も持っているのだな。なんという名だ?」
「んー。私今の初めてやりました。だから今のに特に名前ないね。ネーミング募集するよ」
「ふ、ならば喰らったオレが名付けよう。悶絶破壊地獄木霊打ち、でどうだ」
「いやダッサッッッ!!!」
「なんかネーミングも長いし!」
「む、そうか。け、結構良いネーミングセンスだと思ったのだが、やはり貴殿は計り知れない女子だな」
オークの脳は比較的小さい。だがフランクリンの攻撃(悶絶以下略)により脳は的確に揺らされており、足元すら覚束ず身に付けている全てが重く感じる。長期戦は不利だ。ならば、と防具を全て脱ぎ捨てて少しでも身体を軽くする
「戦いの最中で男女を持ち出す必要ありますか?あるのは強い弱いだけね」
「……そうだな。非礼を詫びる。ベイビー・フランクリン殿。このシンドゥラ、貴殿と1人の武人として戦えること光栄に思う」
「本当に礼儀正しいね、お前……ところで防具捨てて良いの。もう防げないよ?」
「心配ご無用だ。いくぞ フランクリン殿」
「長いから特別フランで呼ぶの許すね。
いつでも始めていいよ。シンドゥラ」
「「……」」
決着をつけるために凄まじい踏み込みと共に互いの拳が交差する。首が同時に大きく跳ね上がる。だがそれにも怯まずに直ぐに拳打をぶつけ合う。血と肉のぶつかり合い。肘打ち、掌打、飛び膝蹴り、手刀。互いに剛を主体とした似通った戦闘スタイル。その全てが破壊に特化した一撃必殺。そのどれもが小手先ではない全力の一撃であり当たれば絶命しかねないだろう。防いでるわけでも躱しているわけでもないがマトモに攻撃を浴び続けてそれでも2人は立っている。
そこから4分44秒後に決着は着いた。立っていたのは────。
「……ここは」
パチリとマトローナは目を覚ます。誰かの背中におぶられて城の外を歩いている最中に気が付いた様だった。
「目が、サめたんですね、姉御。へ、へへ」
それはフードの背中であった。彼は呼吸も整わず、息も絶え絶えといった様子で火の手が上がる森の中をマトローナを抱えて独りで逃げていたのであった。
「どれくらい寝ていた。他のみんなは」
「わかりません、なんにも。」
「下ろせ!戻らない、ッッッ~!」
痛みが吹き返して、言葉にならない。それをみてフードも言い聞かせるようにぼやいた。
「今更モドってもどうにもなりませんよ……それに今の姉御じゃみすみす死ににいくようなもんだ」
「煩い。離せ、逃げるなんてアーカーシャ様に合わせる顔が!」
「姉御、俺あんたには生きててほしい。それにアーカーシャってひとも姉御が生きてるほうがゼッタイよろこびますよ」
「会ったことも無い、お前なんかが!」
背中で暴れるが離す様子はない。マトローナはそこで漸く気付く。自分の手にベッタリとくっ付く夥しい血の量に。彼女の血ではない。では誰のだ。決まっている。フードの血だ。
その血は赤黒く濁っていた。内臓がやられているのだ、彼自身動くだけでも身が捩れるほどの激痛に襲われているはずだ。
マトローナも直ぐに理解した。これは早く手当てをするべきだと。
「お前、この怪我、早く止血しないと」
「ん?あぁ、へ、へへ、さっき戦ったときにチョっとね。
でも、ちゃーんと姉御がヤラレタ分もきっちりノシ付けて返しときましたからね。ザマーみろってんだ、バイデハンチョー……」
「……そうか。頑張ったんだな、お前も。丁度いい。あっちの木陰で休めそうだぞ」
「それとここまで助けてくれてありがとう。
兄貴の方とはどこかで逸れたの?」
「……ええ、兄貴は先に遠くにイってます。だから今のコトバちゃんとオレのほうからツタえときますよ。アトから逢えるとおもうんで。へ、へへ。よろこびますよ」
「ッッ~!姉御の方こそケガのほうはダイジョーブですかい?」
「こんな時まで。自分の心配をしてろ」
マトローナを下ろしてフードは近くにあった木に寄りかかる。
止血しようと糸を出したマトローナは彼と向かい合ってその姿にギョッとする。背中からだと見えなくて分からなかったが、フードの負っていた傷は重傷という言葉が生温く感じるほどの最早損傷であった。身体の部分部分が抉られて消失していたのだ。応急処置でなんとかなるレベルではない。もうこれは医術に心得が無いマトローナがどう手を付ければ良いのか分からない程のものである。
「っああ!なんだこれ!どうしたら、縫合して、それから」
分からない。分からない。分からない。マトローナには何も。糸で傷口を縫う。それでもポッカリと空いた孔から出血は止まらなかった。手で圧迫して止めようとしても、指の隙間から絶え間なく流れ落ちてゆく。血が。命の残量が。
止まれ止まれ止まれ。そんな彼女の願いも虚しく、血は流れ続けていた。
思わず道を振り返り確認してそして愕然とした。とっくの昔に失血死してもおかしくない血の海が延々と奥まで続いていただけだった。
「姉御、おれ、」
「喋るな。いや、喋ってろ。意識を保たせとけ。
大丈夫だ。腕の良い薬師を知ってる。そいつの魔力を辿る」
「少し、揺れるぞ」
マトローナも十分重傷で死に体だ。少なくとも当分は絶対安静にしなければならない程の怪我を負っているのは間違いない。そんな身体の悲鳴を無視して糸で自分とフードの身体を括り付ける。そこから、糸を木に飛ばしてくっ付け、伸縮させることでスイングしながらの高速移動を行った。
「姉御……にあわないかもしれねーねど…おれジツは料理が好きでさぁ…だから いつか 兄貴といっしょにどこでもいいから…料理のお店をもつのがユメだったんだ……そんでみんなにうめえって言ってもらうんだ……できるかな」
「出来るよ。だって美味かった。私が保証する。丁度いい、バルディアでお店を出すといい。お前ならきっとやれる」
「へ、へへ やったぜ 姉御のおスミツキ……だ」
「お、おい!?目を開けろ!」
「……」
「死ぬな!おいっ!」
揺すっても呼びかけても反応しない。焦るマトローナの背中で無言のフードが不意に笑った
「ビックリ しました? 姉御の 背中で 死ぬわけないじゃないですか」
「おまえっ! 私を驚かせるなんて良い度胸ね。回復したら兄弟共々地獄を見せてあげるから覚悟なさい」
「だってよ 兄貴」
安心してもいられない。マギルゥとの距離はまだ大分先だ。急がないといけない。フードがいつ限界を超えてもおかしくないのだから。
(……なんで私笑っちゃうくらい今こんなに必死なのかしら?)
弱肉強食の世界で生きてきたマトローナにとって死とは特別なものではなく身近なものであった。だから躊躇わずに相手の命を奪えるし大切な仲間が死んでもある種受け入れることが出来た。命とは簡単に終わる必然の理だと理解しているからだ。マトローナだけじゃない。生物は死を受け入れている。
いつの時代もどこの世界でも人だけが死に抗う。死を拒む。
マトローナは昆蟲人に進化して、少しだけ感覚が人に寄ってしまっていた。果たして今の彼女は強くなったのだろうか。弱くなったのだろうか。一概には言えない。
血が抜けて、生気が抜けていく。だというのにフードの体は寧ろどんどん異様に重くなっていく────これが命の重みなのだと今のマトローナは痛感した。
「んがー!ま、マトローナ!?そんな大怪我で動いてお前大丈夫なのか!?」
「わ、私のことはいいから、こいつの治療を早く……フード、着いたぞ!頑張った……な……」
「私、を、バカに、してるのか……?
2回も同じ手をくうわけ、ないだろ。だから早く目をあけろ!」
その問いかけにもう返事は返ってこなかった。
マトローナがマギルゥと合流したのに要した時間は決して短くはない。人は心肺が停止してから何分で救命が可能か。5分か10分か。どちらにせよフードの命は既に溢れ切っていた。
「ごめん。もう彼は……」
マギルゥの呟きにマトローナは無言で呻くだけであった
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「ふんっ!」
「攻撃が効いてない!?というかなんでさっきより鎧も強くなってるですか!意味不明ですよ、アナタ」
「ふんっ 簡単なこと。達人は武器を己が手足とする!ならば、防具も肉体にすることができよう」
「???言ってること意味不明よ。武器は武器。防具は防具よ。分かった、じゃあこれならどうね」
すばしっこく攻撃を掻い潜り、フランクリンはシンドゥラの肩に乗る。続いて右手による平手打ち。
「この程度!当て身技など通すものか」
「それはどうでしょ」
強力だがやはりシンドゥラの頭部を守る兜により阻まれる。だが右手が接触してコンマ0.01秒以内に今度は左手で右手とは異なる打撃を与えた。するとどうなるか。衝撃が反響して身体が内部で激しく鎧に打ちつけられる結果となるのだ。
「ぐはっ!いったいこれは」
「わーお!攻撃の振動は通すから、右手で打った振動に反する力を左手で打って増幅させたね。効いたでしょ?」
「鎧通しというやつか!見た目によらず、特殊な技も持っているのだな。なんという名だ?」
「んー。私今の初めてやりました。だから今のに特に名前ないね。ネーミング募集するよ」
「ふ、ならば喰らったオレが名付けよう。悶絶破壊地獄木霊打ち、でどうだ」
「いやダッサッッッ!!!」
「なんかネーミングも長いし!」
「む、そうか。け、結構良いネーミングセンスだと思ったのだが、やはり貴殿は計り知れない女子だな」
オークの脳は比較的小さい。だがフランクリンの攻撃(悶絶以下略)により脳は的確に揺らされており、足元すら覚束ず身に付けている全てが重く感じる。長期戦は不利だ。ならば、と防具を全て脱ぎ捨てて少しでも身体を軽くする
「戦いの最中で男女を持ち出す必要ありますか?あるのは強い弱いだけね」
「……そうだな。非礼を詫びる。ベイビー・フランクリン殿。このシンドゥラ、貴殿と1人の武人として戦えること光栄に思う」
「本当に礼儀正しいね、お前……ところで防具捨てて良いの。もう防げないよ?」
「心配ご無用だ。いくぞ フランクリン殿」
「長いから特別フランで呼ぶの許すね。
いつでも始めていいよ。シンドゥラ」
「「……」」
決着をつけるために凄まじい踏み込みと共に互いの拳が交差する。首が同時に大きく跳ね上がる。だがそれにも怯まずに直ぐに拳打をぶつけ合う。血と肉のぶつかり合い。肘打ち、掌打、飛び膝蹴り、手刀。互いに剛を主体とした似通った戦闘スタイル。その全てが破壊に特化した一撃必殺。そのどれもが小手先ではない全力の一撃であり当たれば絶命しかねないだろう。防いでるわけでも躱しているわけでもないがマトモに攻撃を浴び続けてそれでも2人は立っている。
そこから4分44秒後に決着は着いた。立っていたのは────。
「……ここは」
パチリとマトローナは目を覚ます。誰かの背中におぶられて城の外を歩いている最中に気が付いた様だった。
「目が、サめたんですね、姉御。へ、へへ」
それはフードの背中であった。彼は呼吸も整わず、息も絶え絶えといった様子で火の手が上がる森の中をマトローナを抱えて独りで逃げていたのであった。
「どれくらい寝ていた。他のみんなは」
「わかりません、なんにも。」
「下ろせ!戻らない、ッッッ~!」
痛みが吹き返して、言葉にならない。それをみてフードも言い聞かせるようにぼやいた。
「今更モドってもどうにもなりませんよ……それに今の姉御じゃみすみす死ににいくようなもんだ」
「煩い。離せ、逃げるなんてアーカーシャ様に合わせる顔が!」
「姉御、俺あんたには生きててほしい。それにアーカーシャってひとも姉御が生きてるほうがゼッタイよろこびますよ」
「会ったことも無い、お前なんかが!」
背中で暴れるが離す様子はない。マトローナはそこで漸く気付く。自分の手にベッタリとくっ付く夥しい血の量に。彼女の血ではない。では誰のだ。決まっている。フードの血だ。
その血は赤黒く濁っていた。内臓がやられているのだ、彼自身動くだけでも身が捩れるほどの激痛に襲われているはずだ。
マトローナも直ぐに理解した。これは早く手当てをするべきだと。
「お前、この怪我、早く止血しないと」
「ん?あぁ、へ、へへ、さっき戦ったときにチョっとね。
でも、ちゃーんと姉御がヤラレタ分もきっちりノシ付けて返しときましたからね。ザマーみろってんだ、バイデハンチョー……」
「……そうか。頑張ったんだな、お前も。丁度いい。あっちの木陰で休めそうだぞ」
「それとここまで助けてくれてありがとう。
兄貴の方とはどこかで逸れたの?」
「……ええ、兄貴は先に遠くにイってます。だから今のコトバちゃんとオレのほうからツタえときますよ。アトから逢えるとおもうんで。へ、へへ。よろこびますよ」
「ッッ~!姉御の方こそケガのほうはダイジョーブですかい?」
「こんな時まで。自分の心配をしてろ」
マトローナを下ろしてフードは近くにあった木に寄りかかる。
止血しようと糸を出したマトローナは彼と向かい合ってその姿にギョッとする。背中からだと見えなくて分からなかったが、フードの負っていた傷は重傷という言葉が生温く感じるほどの最早損傷であった。身体の部分部分が抉られて消失していたのだ。応急処置でなんとかなるレベルではない。もうこれは医術に心得が無いマトローナがどう手を付ければ良いのか分からない程のものである。
「っああ!なんだこれ!どうしたら、縫合して、それから」
分からない。分からない。分からない。マトローナには何も。糸で傷口を縫う。それでもポッカリと空いた孔から出血は止まらなかった。手で圧迫して止めようとしても、指の隙間から絶え間なく流れ落ちてゆく。血が。命の残量が。
止まれ止まれ止まれ。そんな彼女の願いも虚しく、血は流れ続けていた。
思わず道を振り返り確認してそして愕然とした。とっくの昔に失血死してもおかしくない血の海が延々と奥まで続いていただけだった。
「姉御、おれ、」
「喋るな。いや、喋ってろ。意識を保たせとけ。
大丈夫だ。腕の良い薬師を知ってる。そいつの魔力を辿る」
「少し、揺れるぞ」
マトローナも十分重傷で死に体だ。少なくとも当分は絶対安静にしなければならない程の怪我を負っているのは間違いない。そんな身体の悲鳴を無視して糸で自分とフードの身体を括り付ける。そこから、糸を木に飛ばしてくっ付け、伸縮させることでスイングしながらの高速移動を行った。
「姉御……にあわないかもしれねーねど…おれジツは料理が好きでさぁ…だから いつか 兄貴といっしょにどこでもいいから…料理のお店をもつのがユメだったんだ……そんでみんなにうめえって言ってもらうんだ……できるかな」
「出来るよ。だって美味かった。私が保証する。丁度いい、バルディアでお店を出すといい。お前ならきっとやれる」
「へ、へへ やったぜ 姉御のおスミツキ……だ」
「お、おい!?目を開けろ!」
「……」
「死ぬな!おいっ!」
揺すっても呼びかけても反応しない。焦るマトローナの背中で無言のフードが不意に笑った
「ビックリ しました? 姉御の 背中で 死ぬわけないじゃないですか」
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「だってよ 兄貴」
安心してもいられない。マギルゥとの距離はまだ大分先だ。急がないといけない。フードがいつ限界を超えてもおかしくないのだから。
(……なんで私笑っちゃうくらい今こんなに必死なのかしら?)
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いつの時代もどこの世界でも人だけが死に抗う。死を拒む。
マトローナは昆蟲人に進化して、少しだけ感覚が人に寄ってしまっていた。果たして今の彼女は強くなったのだろうか。弱くなったのだろうか。一概には言えない。
血が抜けて、生気が抜けていく。だというのにフードの体は寧ろどんどん異様に重くなっていく────これが命の重みなのだと今のマトローナは痛感した。
「んがー!ま、マトローナ!?そんな大怪我で動いてお前大丈夫なのか!?」
「わ、私のことはいいから、こいつの治療を早く……フード、着いたぞ!頑張った……な……」
「私、を、バカに、してるのか……?
2回も同じ手をくうわけ、ないだろ。だから早く目をあけろ!」
その問いかけにもう返事は返ってこなかった。
マトローナがマギルゥと合流したのに要した時間は決して短くはない。人は心肺が停止してから何分で救命が可能か。5分か10分か。どちらにせよフードの命は既に溢れ切っていた。
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