「結婚しよう」

まひる

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第四章

9.限界だ【5】

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「問題ない。ほら、背を向いてやる」

 フッと笑みを浮かべたヴォルは、私をそのまま床に下ろしてくれました。
 そして言葉通りに背を向け、私を促します。

「あ、ありがとう、ございます」

 オドオドしてしまうのは仕方のない事なのですが、お風呂に入りたい気持ちの方が強いのですよ。
 私はハラリとシーツを床に落とし、ヴォルの作ってくれたお湯の球体に触れます。

「……っ」

 温かい──とか思っていたら、またあの足を伝う感覚が。
 私は慌ててお湯の中に入りました。

「もう良いだろう?」

「ヴォルっ?!」

 お湯の中でホッとしたのもつかの間、突然後ろから抱き締められてしまった私です。

「触れていたいのだ。……嫌か?」

 甘い声でそんな事を問われては、嫌と言える筈もないですよ。

「そ、そんな言い方……ずるい……です」

「ずるい、か。……メルになら、いくら言われても良いな」

 背中に密着する肌が揺れていました。笑っているのでしょう。
 何だか本当にヴォルが楽しそうで、私もつられるように笑ってしまいました。

「そうだ、メル。一つ言っておく」

 はい?思わず振り向きそうになりましたが、危ないです。
 私は──いえ、ヴォルもですが──服を着ていないのですから。

「側室の件は気にするな」

 その言葉にビクッと肩が震えました。
 それをヴォルが宥めるように抱き締めたまま、触れている腕を優しく撫でてくれます。

「俺はメル以外いらない。側室も断っている」

「本当……に?」

「あぁ。だが、周りの奴等が騒いでいる。……無理矢理女を宛がわれたくなくて外に出たのに」

 後半の呟くような声に、ヴォルの悲痛な叫びが聞こえるようでした。
 遺伝子が欲しい、と言われていたのでしたね。──ヴォル自身の感情を関係なく。

「私はヴォルが何者でも、ヴォルが好きです。そばにいたいです。声が聞きたい、姿を見ていたい」

「そうか……。俺は……どうしたら良い?」

「私は……ヴォルに触れられていたい、です」

 自分の気持ちを言葉にします。
 でも問い掛けには蚊の鳴くような弱々しい声でしか返せませんでした。それでもヴォルには伝わったようです。
 背中越しに抱かれていたのが、勢い良く半回転させられました。えぇ、気付いた時には正面で抱き合っていましたよ。

「あ……、あ……あの……っ」

 戸惑う私です。だってあの──、当たっているのですけど。

「ここではこれ以上触れ合えないな」

 独り言のようにヴォルが呟きました。
 え?それってどういう……?

「ぅきゃ~?!」

 私の中で疑問が生まれたのですが、それに答えが出る前に肩に担ぎ上げられました。──はい、荷物のようにです。
 えぇっ?! どうなっているのですかっ?
 唖然としている間にお湯の球体から出ます。いえ、出されました?

「あ、あのっ!?」

「メルに触れたい」

 そして私はアッという間に温風で乾かされ、再び寝室へ連行されました。
 はい、夕食は諦めなくてはならないようです。
 私、お腹空いたって言いましたよね?
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