「結婚しよう」

まひる

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第十章

3.安心する【5】

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「別の目的」

「あ……、いえ……」

 ヴォルに私の言葉を繰り返され、余計に焦ってしまいます。
 ──ちょっと待ってください、単なる思い付き発言なのでそんなに真面目に受け取られても困ってしまいますっ。
 内心で焦りながら言い訳を叫んでいる私なのですが、真面目な顔でヴォルとベンダーツさんが何かを考えているようでした。 

「なるほどねぇ。確かに、魔法石化した現地を魔法省師団が視察したところでなぁ。ヴォル、魔力感知を広範囲に出来るよね?ザクッとで良いんだけど、可能な範囲を見てくれないかな。ちょっと危険だけどこのまま隠れていても仕方ないし、ここは次の手を打つ為にも情報収集だよ」

「承知」

 ベンダーツさんの言葉に首肯するヴォルです。そして何の予備動作もなく、ヴォルが魔力を集中し始めたのが分かりました。
 私にも、彼の周りが陽炎のように揺らめいて見えます。

「おぉ~、さすがに反応が良いねぇ」

 ベンダーツさんが感心したように告げたのは、結界の外の出来事でした。
 それまでは見張りらしき二、三人しかいなかったのですが。

「あれだけ黒鎧が出てくると、雰囲気だけで圧倒されちゃうねぇ。まだ俺等の場所が分かっていないだけで、発見次第いつでも戦闘可能な感じだし?」

 ベンダーツさんの視線の先を追い、私も確認してしまいました。
 マヌサワ村から──こんなにもいたのかと思う程、真っ黒な鎧で全身を包み込んだ人達がゾロゾロ出てきます。
 周囲を警戒している様子が見える事から、ヴォルの魔力に反応しているようでした。距離的に離れてはいますが、認識阻害の結界だけでは本当に危ないかもしれません。

「一団が50人だったと思うから、どうやらマヌサワに来ているのは一団まるごとだねぇ。ってか、それ程の何かがあるって事?」

「正解だ」

 不意に聞こえた声に、二人して振り向きました。ヴォルが魔力集中を終えたようで、こちら側へ意識を向けています。
 そして、先程まで彼を包み込んでいた陽炎のような揺らめきがなくなっていました。魔力の放出が終わったようです。

「何か分かったのですか?」

「しかも、良い事じゃないよね?」

 私とベンダーツさんの問いに答えず、ヴォルは結界の外へ軽く視線を向けました。

「この向こうに火の山がある」

 告げられた言葉に、私は首をかしげます。
 火の──山と聞き、火山が思い浮かびました。でもマヌサワのそばに火山などはなく、これといって大きな山もなかった筈です。

「正確には火の島だな。このマグドリア大陸とは少し離れている」

「そんな島、地図には載っていないよ?」

 ヴォルの言葉を受けて調べていたようで、ベンダーツさんが手元に地図を広げていました。
 薄く伸ばした魔物の皮に書かれたそれは、どうやらこの世界の大陸の位置と形を記されている物のようです。
 ヴォルが示した方角は海で、しかもこの辺りは波打ち際が岩場だらけで船がつけられませんでした。マヌサワが港として発展しない理由です。

「しかも、大陸と離れているならどうやって行くのさ」

 ベンダーツさんの当たり前の質問でした。
 普通、大陸間は船で移動します。勿論、魔力所持者の方々だって同じでした。

「俺を誰だと思っている」

「……ヴォルだよ?」

「ヴォルですよね」

 何の意味があるのか、今度はヴォルが当たり前の質問を返します。
 ベンダーツさんと私が揃って答えると、それに気を良くしたヴォルがわずかに笑みを浮かべました。

「俺は俺だな。この当たり前が……心をくすぐる。……行くか」

「な、何?行くのは良いけど……、ねぇ?」

 ヴォルと私の間を行き来するベンダーツさんの視線でしたが、私にもその真意が分かりません。
 分かるのはヴォルが楽しそうな事でした。

「メル」

 私に向け、ヴォルから手を伸ばされます。
 それはもう、当然の事ながら掴むしかありませんでした。

「はい」

 私は迷わずその手を取ります。
 真意が分からずとも、ヴォルの手を拒む理由はないのでした。
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