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第十章
3.安心する【4】
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「ん~……、困ったねぇ」
相変わらず、言葉程あまり困った様に聞こえないベンダーツさんです。
現在の私達は、マヌサワ村のすぐ近くにいました。実際に私でも遠くに入り口が見える程度の距離なのですが、今はこれ以上近付けません。
目的地の目と鼻の先にいながら、何故入って行かないのか──それは。
「どうする?このまま隠れていても仕方ないでしょう?」
ベンダーツさんがヴォルに問い掛けます。
何故ならば私達は目下、姿隠しの魔法結界の中で息を潜ませているからなのでした。
勿論結界はヴォルの魔法なので、簡単に見破られる筈もありません。しかしながらそうまでして何故身を隠しているのか──が問題でした。
「簡単に通してもらえると思うのか」
ヴォルの静かな問い掛けに、ベンダーツさんは苦笑いを浮かべます。
結果は聞かずとも分かると言いたげでした。
「あはは~……、無理だよねぇ。ちなみにこの不可視の魔法結界って、このまま移動は出来るよね?」
「……あぁ。だが、相手は魔法省師団だ。あれらは、対魔力所持者向けの戦闘集団。不可視の魔法結界など、近付けばすぐに見抜かれる」
ベンダーツさんは結界での移動を気にしたようです。
これは通常の守りの結界と違う種類なのですが、ヴォルにとっては造作もない事のようで不機嫌そうに答えるだけでした。
それよりも、話題の中心である『魔法省師団』です。現状の待機状態はこれが原因で、分かりやすく言えば目の前に兵隊さんがいるのです。
私達は少し前にパリーナ平原を抜けたのですが、マヌサワ村に入ろうとしたところで感知された異常な魔力でした。ヴォルが周辺警戒の為に発動していた魔法なのですが、そこにばっちりと魔力を持つ集団──しかも完全武装済みを発見したのです。
怪しすぎて、そのまま近付く気にもなれませんでした。
「けど、何でこんなマグドリア大陸最南端の小さな村に魔法省師団?しかも外まで警備が厳しくて、魔法石化現象の確認すら出来ないじゃん」
ベンダーツさんが馬車の向こう側を睨みます。
現在は結界の中で相手側から見えないとはいえ、何となく馬車の陰に隠れてしまうのは人としての本能でした。
「さぁな。あれらが魔法省師団である事は装備や旗の紋様から確実だ。だが理由までは見えない」
「そりゃ、あれが擬装だとはさすがに思えないけどさぁ。だってあの鋭い目付き、明らかにその筋の人だよね」
自身の目をつり上げて見せるベンダーツさんに、私は思わず笑ってしまいます。
これも私の為に気を使ってくれているのでしょうが、隠れているという緊張感は半端ないのでした。笑顔もすぐに消えてしまいます。
しかしながら、この距離で表情が確認出来るベンダーツさんが凄いと思ってしまいました。
「これ以上近付く事は見つかる危険が出てくるんだろうけど、ずっとここにいる訳にもいかないでしょう?何とかしてマヌサワの様子を知る事が出来ないかなぁ。……逆に、堂々と正面切って乗り込んでいく?」
「それは面倒なくて良いが、俺が逆の立場なら見付けたらほぼ確実に攻撃をする」
待機時間に嫌気が差してきたのか、ベンダーツさんの『当たって砕けろ作戦』が発案されます。しかしながら当たり前のようにヴォルが言い返しました。
そしてこの相手から隠れている状況でありながら、椅子に腰掛けている彼はカップを傾けています。場所的に草原とはいえ、至極くつろいでいるようにしか感じられませんでした。
「んじゃ、どうするんだよぉ。って言うか、何で魔法省師団がここにいるかって話だよな?普通、セントラルから出ないじゃん?」
「魔法石以外の、何か別の目的があるとか……ですかね?」
私が小さく呟きます。
独り言のつもりでしたが、何故だか一斉に二人の視線が向けられました。
あの──特別に何かが分かって口にした訳ではないので、別の何かを期待されても何も出てきませんから。
相変わらず、言葉程あまり困った様に聞こえないベンダーツさんです。
現在の私達は、マヌサワ村のすぐ近くにいました。実際に私でも遠くに入り口が見える程度の距離なのですが、今はこれ以上近付けません。
目的地の目と鼻の先にいながら、何故入って行かないのか──それは。
「どうする?このまま隠れていても仕方ないでしょう?」
ベンダーツさんがヴォルに問い掛けます。
何故ならば私達は目下、姿隠しの魔法結界の中で息を潜ませているからなのでした。
勿論結界はヴォルの魔法なので、簡単に見破られる筈もありません。しかしながらそうまでして何故身を隠しているのか──が問題でした。
「簡単に通してもらえると思うのか」
ヴォルの静かな問い掛けに、ベンダーツさんは苦笑いを浮かべます。
結果は聞かずとも分かると言いたげでした。
「あはは~……、無理だよねぇ。ちなみにこの不可視の魔法結界って、このまま移動は出来るよね?」
「……あぁ。だが、相手は魔法省師団だ。あれらは、対魔力所持者向けの戦闘集団。不可視の魔法結界など、近付けばすぐに見抜かれる」
ベンダーツさんは結界での移動を気にしたようです。
これは通常の守りの結界と違う種類なのですが、ヴォルにとっては造作もない事のようで不機嫌そうに答えるだけでした。
それよりも、話題の中心である『魔法省師団』です。現状の待機状態はこれが原因で、分かりやすく言えば目の前に兵隊さんがいるのです。
私達は少し前にパリーナ平原を抜けたのですが、マヌサワ村に入ろうとしたところで感知された異常な魔力でした。ヴォルが周辺警戒の為に発動していた魔法なのですが、そこにばっちりと魔力を持つ集団──しかも完全武装済みを発見したのです。
怪しすぎて、そのまま近付く気にもなれませんでした。
「けど、何でこんなマグドリア大陸最南端の小さな村に魔法省師団?しかも外まで警備が厳しくて、魔法石化現象の確認すら出来ないじゃん」
ベンダーツさんが馬車の向こう側を睨みます。
現在は結界の中で相手側から見えないとはいえ、何となく馬車の陰に隠れてしまうのは人としての本能でした。
「さぁな。あれらが魔法省師団である事は装備や旗の紋様から確実だ。だが理由までは見えない」
「そりゃ、あれが擬装だとはさすがに思えないけどさぁ。だってあの鋭い目付き、明らかにその筋の人だよね」
自身の目をつり上げて見せるベンダーツさんに、私は思わず笑ってしまいます。
これも私の為に気を使ってくれているのでしょうが、隠れているという緊張感は半端ないのでした。笑顔もすぐに消えてしまいます。
しかしながら、この距離で表情が確認出来るベンダーツさんが凄いと思ってしまいました。
「これ以上近付く事は見つかる危険が出てくるんだろうけど、ずっとここにいる訳にもいかないでしょう?何とかしてマヌサワの様子を知る事が出来ないかなぁ。……逆に、堂々と正面切って乗り込んでいく?」
「それは面倒なくて良いが、俺が逆の立場なら見付けたらほぼ確実に攻撃をする」
待機時間に嫌気が差してきたのか、ベンダーツさんの『当たって砕けろ作戦』が発案されます。しかしながら当たり前のようにヴォルが言い返しました。
そしてこの相手から隠れている状況でありながら、椅子に腰掛けている彼はカップを傾けています。場所的に草原とはいえ、至極くつろいでいるようにしか感じられませんでした。
「んじゃ、どうするんだよぉ。って言うか、何で魔法省師団がここにいるかって話だよな?普通、セントラルから出ないじゃん?」
「魔法石以外の、何か別の目的があるとか……ですかね?」
私が小さく呟きます。
独り言のつもりでしたが、何故だか一斉に二人の視線が向けられました。
あの──特別に何かが分かって口にした訳ではないので、別の何かを期待されても何も出てきませんから。
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