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第十章
≪Ⅳ≫この感覚は【1】
しおりを挟む「何だかさ……、本当にヴォルは規格外だよなぁ」
遠くを見ながら告げるベンダーツさんですが、私も言いたくなるその気持ちは十分に分かります。
「魔法省師団とやり合っても仕方のない事だ」
「そりゃ、そうなんだけどねぇ」
足元に視線を移したベンダーツさんですが、その大地は遥か彼方にある事を私も知っていました。
現在、私達は地に足をつけていません。
これは文字通りでして、私達の誰もが同じ状況でした。
「まさか、結界ごと宙に浮かぶとは思わないっしょ」
溜め息をつくベンダーツさんです。
私達は手探りで接近する魔法省師団と刀を交える事なく、そのまま上空へと浮き上がったのでした。
魔法省師団はヴォルの探知魔法を感じてから、視界に映っていないにも関わらず近付いて来たのです。人海戦術なのか──50人の団員が横一列になって歩み寄ってくる姿は、とても気持ちの悪いものでした。
「俺等が見えていたら圧巻だったろうなぁ。ってか、驚く顔を見たかったかも」
「姿を見られれば素性が明らかになる。一時の感情の為に後々の面倒を作る必要はない」
「まぁね~。けど、空を飛べるなんて聞いてないんだけど」
「言ってないからな」
ベンダーツさんの不満も、一言で切り捨ててしまいます。
私達は姿隠しの魔法結界ごと──馬車も含めて──全て、ヴォルの魔力のみで空中移動中をしていました。
確かにこれを見える人がいたら、大きな口を開けて呆けて見いってしまいます。
「それでも、今まで一度も空を飛んだ事はないですよ?」
「……ここは魔力に満ちている」
私の言葉には、逡巡した末に答えてくれました。
『魔力に満ちている』状態とは、一体どの様な事なのでしょうか。
「あのさぁ。俺等にも分かるように話してくれない?魔力所持者の感覚は分かんねぇっての」
「俺もこの感覚は初めてだ。だが、ここより南にある火の島から魔力が溢れてきている」
ベンダーツさんも疑問に思ったようで、私の脳内の問いと同じ質問をヴォルに投げ掛けました。実際に魔力を感知出来ないので、認識すら不可能なのです。
ムッとしているベンダーツさんを宥めるつもりではないのでしょうが、ヴォルも少し困っている様子でした。
確かに『初めて感じる』ものというのは、言葉にし辛いものなのです。それはもう、感覚の問題でした。
「何、それ。余計に良く分からないんだけど。とにかく、何だ?火山島に魔力の何かがあるって事ね?」
大雑把なベンダーツさんの解釈でしたが、ヴォルも実際にそれを目にした訳ではない筈です。
そしてマヌサワ村には魔法省師団の方々がいるので、入る事は勿論近付く事すら出来ないのでした。つまりは進む道は一つです。
「確かめてみるしかないですよね。もしかしたら、魔力の坩堝かもしれませんし」
「あ~、そうなる訳ね。普通に考えると危ないとか、近寄らない方が良いとかなるんだけどねぇ」
私の言葉に頷いたヴォルでしたが、ベンダーツさんは苦笑いをしていました。
──言われてみれば確かにそうです。
強いヴォルやベンダーツさんと長い間一緒なので、私自身は戦闘能力皆無なのですけど行ける気になっていました。
いつの間にか、私の中の『普通』が変わってしまっていたようです。──大丈夫でしょうか、これ。
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