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理太郎

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【889 カエストゥス 対 帝国 ㉓ 皇帝の歪んだ笑み】

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「ブレンダン様!こ、後方から帝国軍が!」

帝国の城を前にして、カエストゥス軍は帝国軍と、正面から激しい戦いを繰り広げていた。

数で上まっていたカエストゥス軍は優勢に戦いを進めていたが、突如背後から姿を見せた帝国軍によって、挟み撃ちにされる形になった。

「むぅ、帝国兵の数がどうも少ないとは思うていたが、後ろに潜ませておったか」

大陸一の軍事国家であるブロートン帝国。
師団長が壊滅したと言っても、その兵数はカエストゥスを大きく上回る。だが待ち伏せていたはずの帝国軍は、カエストゥス軍10万よりも少なく見えていた。

そこにブレンダンも違和感を感じてはいたが、帝国は兵を温存して機を待っていたのだ。

「前線は今こちらが押しておる。ここで兵を裂く分けにはいかんな。後方にはワシが行く。お前もこのままワシと来い」

「ブ、ブレンダン様が前線を離れて大丈夫なのですか?」

あっさりと身を翻し、後方に下がろうとしたブレンダンに、報告に来た兵士が慌てた様子で声をかけた。ブレンダンの言う通り、確かに今前線はカエストゥスが押している。だがそれは、ブレンダンあってこそだからだ。核となるブレンダンが抜けて維持できるのだろうか?そう思ったからだ。

「案ずるでない。ワシが抜けただけで崩れる程、カエストゥスはやわではないわ。それにほれ、アレを見てみい」

振り返ったブレンダンが目を向けた先には、最前線で一人、まるで竜巻のように剣を振り回し、帝国兵を切り倒していく黒いマントの剣士の姿があった。
弓を落とし、魔法を弾き、鎧ごと兵を真っ二つに叩き斬る姿は、もはや戦場の支配者だった。


「あ、あれはペトラ隊長・・・す、すごい」

「ほっほっほ、大したもんじゃ、短期間でようあそこまでの上り詰めたものだ。今のあやつを止められる者などそうはおらんじゃろう。じゃから安心せい。前線はペトラに任せるぞ」

ブレンダンはそう言葉を残すと、今度こそ振り返らずに後方の援護に向かった。
伝令に来た兵士は、遠目にも分かるペトラの凄まじさに目を奪われていたが、我に返ると慌ててブレンダンの背中を追って走った。






「皇帝陛下・・・作戦通りカエストゥスを後方からの部隊で挟み撃ちにしました。ですが・・・」

玉座の間では大臣ジャフ・アラムが皇帝に一礼をし、戦況の報告をしていたが、その表情は優れなかった。苦々しく歯を噛みしめるのは、必勝を期したこの作戦が、思いもよらない反撃を受けているからである。

「・・・・・」

皇帝は口を閉ざしたままだった。
ジャフに聞くまでもなく、皇帝は窓の外から戦場に目を向け、戦いがどういう局面か理解していた。

「前線は大剣を持った女剣士に押されており、後方はブレンダン・ランデルが、防御不可能な技で兵達を一網打尽にしているそうでございます。そ、そして、アンソニー様ですが・・・・・」

皇帝の実弟、アンソニー・ライアン。その名前を口にして、ジャフはキツく目を閉じた。
皇帝の怒りを買うと思ったからだ。

アンソニー・ライアンが死亡した。精霊使いのアンソニーならば、カエストゥスを殲滅できる。
あれほど期待をかけた男が死亡したなど、どう伝えればいいのか分からなかった。


「フッ・・・フッフッフッ・・・ハハハハハハ・・・・アーハッハッハッハッハ!」

だがジャフの予想に反して、アンソニーの名を聞いた皇帝の口から出たのは、高笑いだった。

驚き顔を上げたジャフが目にしたのものは、額に手を当て、心底おかしくてしかたないと言うように、目尻に涙を浮かべて笑い声を上げていた。

「こ、皇帝・・・?」

怪訝な顔を向けるジャフだったが、皇帝はそれに反応を見せず、そのまましばらく笑い続けた。

「フハハハハハ・・・・・ふぅ・・・ジャフよ、アンソニーが死んだな。あそこまで追い詰め、勝つチャンスは何度もあった。だが、それなのに負けた。なぜだと思う?」

「そ、それは・・・・・」

ひとしきり笑い終えたあと、皇帝がジャフに向けた顔は、口の端を持ち上げた悪意のある笑顔だった。

「自分が絶対的に上だという驕りもあった。圧倒的な実力差ゆえに危機感が足りなかった。しかし、最大の敗因は・・・執念だ」

「執念・・・ですか?」

「そうだ。カエストゥスには絶対に勝つという強い意思があった。それこそ自分の命を使ってでもな。だがアンソニーにはそれが無かった。心に隙があったのだ。これまで常に強者だったアンソニーは、格下に対して必死になれなかったんだ。しかしカエストゥスは必死だった。その結果がこれだ・・・クックック・・・馬鹿で哀れな弟よ。結局余への復讐は叶わなかった」

両手を広げて嘲笑いながら実弟の敗因を語る皇帝に、ジャフは寒気を感じると共に、高揚感を覚えた。

アンソニーとワイルダー、帝国の最終兵器の二人を失っても、皇帝には焦りも動揺も無かった。
それどころか邪魔者を消せた事に歓喜している。

もう帝国にはめぼしい戦力は無い。
兵の数ではカエストゥスを上回っているが、それだけだ。

だがそれでも・・・それでもこの皇帝がいれば勝てる!
狂信的なまでのジャフの信頼は、皇帝を崇拝しているに等しくなっていた。
皇帝さえいれば勝てる。それはジャフの中で絶対えあり、確定してる事なのだ。


「ウィッカーはもはや戦えまい。最後のあの魔法、風と氷の合成か・・・あんな切り札を持っていたとはな。しかしヤツは、アンソニーを倒すために全てを出し尽くした。アンソニーは良い仕事をしたよ」

一度はアンソニーの火柱で瀕死におちいった。このダメージはヒールで回復させたとしても、それで全てが抜けるものではない。
そして魔力も出し尽くした。およそ不可能とまで言われた合成魔法まで使った事には驚かされたが、足りない魔力を生命エネルギーで補って撃ったように見える。

あそこまでの力を使っては、この戦いの中では完全に回復はできないだろう。


玉座から立ち上がると、皇帝は窓際にゆっくりと足を進めた。
そしてつい先刻まで、実弟アンソニーとウィッカー達が、死闘を繰り広げた戦場に目を向けた。


エロールの自爆による爆煙は今だ収まらず、黒い煙は空を焦がしているかのように広がっていった。
ウィッカーの放った風と氷の合成魔法による爪痕は、想像を絶する程だった。
広く、そして深く抉られた地面は、どこまでも続き終わりが見えない。もしこれが城へ向けて撃たれていたならば、崩壊させられていたかもしれない。
ウィッカーとアンソニーの立ち位置によって救われたようなものだ。

だがそれも、たらればの話しである。


「カエストゥスのウィッカーか・・・あれほどの魔法が使えるとは想像以上だ。だが、惜しかったな。そこまで消耗しては、仮にここまで辿りつけたとしても、もはや余と戦う力は残っていまい」


全てを出し尽くし倒れ伏している、カエストゥスの黒魔法使いを見下ろしながら、皇帝は歪んだ笑みを浮かべた。
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