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理太郎

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【890 カエストゥス 対 帝国 ㉔ ブレンダンの決意】

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「ほっほっほ、どうした?じじい一人に何を臆しておる?帝国兵とはその程度か?」

ブレンダン・ランデルの前には、帝国兵の累々たる屍が積み上がっていた。
そしてそのどれもが、すさまじい力で押し潰されたかのように、頭を、胸を、腹を、地面にめり込ませて息絶えていた。

「くっ、ば、化け物か!?」
「い、いったいなんだあの攻撃は!?まるで見えない!」
「これが、カエストゥスのブレンダン・ランデル・・・・・」

ブレンダンに挑発されても、帝国兵は動けなかった。
近づけば正体不明の攻撃で、押し潰されてしまうからだ。
止む事のない吹雪に体を打ち付けられながら、剣を握りこの緊張状態に立ち尽くすしかなかった。

「ほっほっほ、これがワシの魔空の枝じゃ。お主らでは突破できんぞ」

右手に持つ細い枝を軽く振って、その存在を主張するように見せる。
これは樹齢千年を超える霊木の枝で作られた、ブレンダンの魔道具、魔空の枝。

その恐るべき破壊力は、上から下へ振るだけで、圧縮した空気で敵を潰す事ができる程である。


「どうした?かかってこないのか?ならばしかたないのう・・・・・」

剣を構える。矢をつがえる。魔力を向ける。帝国兵達はブレンダンを前に戦意を失ってはいなかった。だが近づく事はできず、ただ一定の距離で睨む事しかできなかった。

なぜなら、近づく事は死を意味するからだ。


「来ないならワシからいかせてもらおうか!」

ブレンダンは前に出ると、右手に持つ30センチ程度の枝を、真横に振るい一線する!

魔空の枝の能力は、空気で押し潰すだけではない。
枝に宿る霊気、そこに魔力を合わせて発するこの力は、霊魔力。

霊気を帯びたブレンダンの魔力が、帝国兵へと向けて広く散布される。
目に見えない程に極小の粒子となった霊魔力を躱すべはない。


帝国兵達は一瞬何をされたのか理解できなかった。
ブレンダンが手にしている枝を真横に振るったが、これまでのように押しつぶされる事もなく、何も起きなかった。

いったい何をした?いや、何もしていないのか?
帝国兵達が怪訝な顔をしてみせたその直後だった。

「何も反応できんとはな、もうちょっと目を鍛えよ。いや、もう遅いな。ボンッ!じゃ」


眩い光が帝国兵達を包んだを思われたその時、耳をつんざく轟音と共に大爆発が起きた。

数十、いや数百人の帝国兵を一斉に爆死させる。魔空の枝の霊力もさることながら、齢70を迎えたブレンダンの技の冴えは驚異的だった。
射程外で爆発を逃れた帝国兵達も、あまりの力の違いを目の当たりにし、いよいよ恐怖を感じて尻込みする者も現れ始めた。

「戦意喪失か?ワシもな、虐殺が趣味なわけではないんじゃ。見逃してやりたい気持ちもある。じゃがこれは戦争じゃ。ワシらも多くの仲間を失った・・・だから諦めろ」


同情するように目を細めて、ブレンダンはもう一度魔空の枝を振るった。

霊気を帯びた魔力が散布されるが、帝国兵達にそれを躱す手段はない。もはやブレンダンにされるがままである。そしてブレンダンが魔力を解放すると再び大爆発が起きた。

爆風と火炎が帝国兵達を呑み、その命を蹂躙していく。


「・・・虚しいのう」

圧倒的な強さで、すでに千人を軽く超える命を奪った。
戦況はカエストゥスが優勢に進めている。勝利も見えてきた。だがブレンダンの心には、勝利への高揚感も、帝国を圧倒している優越感も何も無い。

ただ虚しいだけだった。


「・・・これが戦争か・・・皇帝ローランド・ライアン、貴様はこれだけ血を流してでも、大陸を制したかったのか?」


振り返り、皇帝が座する城を睨みつける。
この戦争を起こした張本人、ブロートン帝国皇帝ローランド・ライアン。

平和を脅かされ、多くの仲間を失った。

そして自分自身も、数えきれない程の命を奪う事になった。

強く、硬く拳を握り締める。
決して許してはいけない。皇帝だけはここで必ず倒さなければならない。


「ウィッカー・・・・・」

全てを託した弟子の名を口にする。



さっきのアレは、おそらくウィッカーの魔法じゃ。
巨大な風と氷の渦が、大地を抉りながらはるか先まで突き進んでいった。

あんな黒魔法は存在しない。
いや、見た事がないと言った方が正しいじゃろう。

考えられるものは一つ、風と氷の合成魔法じゃ。
これまで一度も成功した事がなかったはずじゃが、この土壇場え成功させたという事か。

大したものじゃ・・・だがそれは言い換えれば、一度も成功した事のない魔法に懸けねばならない程、追い詰められていたとも言える。

あの炎を纏ったヤツは、それほどの相手だったという事か。


「無事で、いるのか」

あの魔法を撃って以降、強い魔法は使われていない。
おそらく決着はついたのだ。だがウィッカーが勝ったにしても、全てを出し尽くした事は間違いないはずじゃ。それほどの魔法を放ったのだ。

皇帝へあと一歩というところまで来た。
しかし皇帝との戦い託した弟子が今、おそらくは危険な状態でいる・・・・・


ワシもあそこへ行くべきか・・・・・いや、行かねばならんだろう。


「じゃが・・・」

今、後方はワシの魔空の枝で戦況を支配しておる。
数では帝国が上じゃが、師団長という主力を欠いたこやつらなど、何人いようがワシの相手ではない。
しかし、ワシが抜ければどうなる?

あらためて顔を戻し、帝国兵達を見る。

ずいぶん数は減らしただろう。最初は魔空の枝を知らずに突撃をしてきたからのう。
向かってくる端からどんどん潰してやったから、楽なもんじゃった。
しかしちとハデにやり過ぎたかのう。こう警戒されると、ここからは膠着状態になるか。

「・・・うまくないのう。これでは時間がかかり過ぎる」

帝国兵達も退く分けにはいかない。かと言って魔空の枝を前にして、突撃などできるはずもない。
ワシが自分から攻めてきた事を見て、さらに大きく距離を取られたが、決して剣は下げない。

まぁ当然じゃろうな。自分の国が戦場なのだ。退いてどこに行く?退く事は死と同意義なのじゃ。
しかしこれでは、しばらく睨み合いになるじゃろう・・・・・


ウィッカーの応援に行きたくとも、これでは・・・・・


「ブレンダン様、ここは私達にお任せください」

どうしたものかと顎を撫でると、後ろから部下の一人に声をかけられた。
ワシに戦況を報告してきたあの兵士じゃった。

「・・・何を言うとるんじゃ?今ここはワシが支配しとるんじゃ、抜けれるわけがなかろう?」

「ブレンダン様のおかげで、帝国軍は1/3は数を減らしました。現在の兵数はほぼ五分です。これならば私達だけでも戦えます。ブレンダン様には、ブレンダン様にしかできないお役目があるはずです」

「・・・ワシにしか、できん役目か・・・」

確かに兵の数では五分じゃ。だが、だからこそ、ここでワシが抜けていいのだろうか?

「ブレンダン様、皇帝を討ってください。ここは私達が引き受けます」

真っすぐな目でワシを見る兵の言葉に、ワシは決心した。

「・・・分かった。では、ここは任せるぞ!」

「はい!お任せください!」


ワシは帝国兵に背を向けて走り出した。
帝国側からざわめきが起きる。ワシがここでこの場を離れた事に、意表を突かれておるのだ。
動揺を見逃さず、ワシの代わりにさっきの兵が突撃の号令をかけた。

確かにここが攻め時だ。これならば任せておいて大丈夫じゃろう。

では、ワシはワシの意思で考えよう。

ワシは皇帝を討つ!ウィッカーよ、待っておれ!
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