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理太郎

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1295 異様な魔力を持った男

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「ロブギンス団長、やはり帝国は黒魔法使いを飛ばしてきましたよ。迎撃にはシャクール・バルデスが出ました」

川沿いから距離を取った天幕の中で、バーナード・ロブギンスはヴァン・エストラーダからの報告を受けていた。

「そうか、もう少し引き付けてから来ると思っていたが、想定よりもずいぶん早いな」

「そうですね。まだ氷は50メートル程度しか張られてません。帝国からすれば、例えば川の中腹辺りまで引き付けてから仕掛けた方がいいんじゃないんですかね?氷を割って川に落とせば、体力型なんてほとんど無力化できるのに」

川を渡り始めれば帝国が攻めて来る。それは十分に想定していた事であるため、ヴァンもロブギンスも驚く事はなかった。だが帝国が行動に移るまでの早さだけは想定よりもはるかに早かったため、その一点だけはヴァンもロブギンスも眉を寄せた。

「ふむ、おそらく上級魔法を警戒してるんだな。ヴァン、会議でも言ったがここから向こう岸までおよそ1500メートルだ。そこまで魔法を届かせる事は不可能、途中で推進力を失って川にドボンだ」

「・・・なるほど、つまりこっちもある程度近づかなければ攻撃ができない。だからですね。我が軍が攻撃魔法の射程に入る前に叩いておくと?」

ヴァンの返答にロブギンスは満足そうに頷いた。

「そういうこったな。だがワシらも対策は当然うってある。なんだか分かるな?」

確認するように目を向けるロブギンスと一度目を合わせると、ヴァンは空を見上げて答えた。

「はい。そのための四勇士、シャクール・バルデスですね」

「そうだ。ワシはあいつがガキの頃から知っているが、歴代の四勇士の中でも抜きんでた魔力を持っている。クインズベリー最強の黒魔法使いと言っていいくらいだ。帝国軍とはいえ、雑兵が100や200集まっても到底かないやしねぇよ」

「確かにそうですね。ですがその貴重な戦力であるバルデス一人に、こんな序盤で負担をかけるのもよくないので、空中戦用に待機させていた黒魔法使い達も飛ばしますが、よろしいですね?」

すでに黒魔法使い達は準備を終えて待機している。飛ばしておいてもよかったのだが、上下関係のきっちりしている治安部隊で生きてきたヴァンは、上官であるロブギンスの許可を求めた。
独断行動をせず、報告と連絡と相談を確実に行うところも、ゴールド騎士のフェリックスがヴァンにまとめ役を任せた理由の一旦である。

「ああ、それはもちろんやってくれ。いいか、群れには必ずリーダがいる。シャクールは必然的にそいつの相手をする事になるだろう。黒魔法使い達には、シャクールがそいつに集中できる場を作るように言っておけ」

「群れのリーダー・・・なるほど、分かりました。ではそのように指示しておきます。あとは状況を見ながらですが、このまま川を凍らせながら進軍させますね」

ヴァンは天幕を出ると、待機している黒魔法使い達の元へと向かった。
その後ろ姿を見送ると、ロブギンスも椅子から腰を上げた。そして天幕から一歩外へ出ると、顔を上げて空を見た。


「・・・シャクール、この川を渡るにはお前の力が必要だ。頼んだぞ」

見つめる視線の先に青い空が広がっていて、口にした男の姿は見えない。
だがそのほんの数秒の後、轟音と共に空で大きな爆発が起こり、雲を吹き飛ばして大気を震わせた。







「フッ、どうした帝国の諸君?ずいぶん威勢の良い事を言っていたが、その程度か?」

風の吹く空の中、右手の平から灰色の爆煙を立ち昇らせ、シャクール・バルデスは自分の前に立ち並ぶ、帝国の黒魔法使い達を見やった。
その数はざっと見ただけでも数百人に及ぶ事は分かる。だがそれに対してシャクールはたった一人でありながら、全く臆する様子を見せる事もなく、不敵な笑みさえも浮かべている。


「く、くそ!なんだこいつ!?」
「何人やられた!?」
「今のが爆裂弾か!?桁違いの威力だったぞ!」

帝国の黒魔法突撃部隊は数百人規模だった。任務は上空からクインズベリー軍の足場を破壊する事。
もちろんクインズベリー軍が反撃に出てくる事も予想できていた。仕掛けてくるなら迎え撃つ。全員がその心構えを作っていた。

だが予想に反して現れた勢力は、たった一人の銀髪の男だった。魔法使いならば誰もが身に纏うローブではなく、白いシャツに黒いロングパンツという、いささか場違いな服装だった。だが風魔法で空を飛んでいるのだから、この男が黒魔法使いだという事は察しがついた。

実力主義の帝国において、この場に立つ黒魔法使いは一人一人が確かな力を持つ兵士である。
クインズベリーの黒魔法使い達が何人向かってきても、互角以上の戦いができると自信を持っていた。

だが自分達の前にたったのは、ローブすら纏っていない場違いな男ただ一人だった。

さっさと始末して先を急ごう。そう考えた帝国の黒魔法使い達だったが、そこで思いもよらぬ攻撃を受けたのだった。


「フッ、たった数発の爆裂弾でこれか?力こそ全てと謳っているが、よくもほざけたものよ」

シャクール・バルデスは正面に向けていた右腕を下ろし、手の平から立ち昇る煙を払うと、帝国軍を憐れむように鼻で笑った。
この余裕もシャクールの立場からすれば無理の事だった。牽制程度に撃った数発の爆裂弾だったが、被弾した帝国兵はその一発でことごと撃ち落とされ、川へと消えていったのだから。

「な、なんだと!?」
「馬鹿にしやがって!」
「やっちまえ!ちょっと強くても所詮一人だ!囲んで撃て!」

統率された動きで輪になりシャクールを囲むと、黒魔法使い達は両手をシャクールへ向けて魔力を漲らせた。

「フッ、あの爆裂弾で私との力量の差が分からんとはな。やはりその程度だったという事か。数ばかりいても戦いには勝てんという事を教えてやろう」

「撃てぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーッツ!」

ニヤリと笑うシャクールに向けて、包囲網を敷いた帝国の黒魔法使い達が、一斉に攻撃魔法を撃ち放った!

荒ぶる炎が、渦を巻く風の刃が、鋭い氷の槍が、巨大な破壊の光弾が、四方八方から逃げ場なくぶつけられる!
数十数百発もの魔法が衝突するエネルギーは凄まじく、台風のごとく吹き荒れる風によって頭上の雲は消し飛ばされ、直下の川は衝撃によって大きくかき乱された。爆炎が空を真っ赤に染めて、太陽よりも赤々と地上を照らしている。

「ははははははははは!どうだ!これだけの魔法を受けてはひとたまりも・・・ぐっ!?」

高笑いを上げた帝国の黒魔法使いだったが、ふいに背中を押されるような衝撃に言葉が切れる。

「ぐっ・・・ふっ・・・こ、れは・・・・・っ!?」

視線を落とすと腹を貫いた氷の槍が、真っ赤な血を滴らせていた。
それを認識した瞬間に襲って来る凄まじい痛み。喉の奥から込み上げて来たものを吐き出し、震える体を倒れないようになんとか堪えながら後ろを振り返ると、そこには攻撃魔法の一斉射撃を浴びせたはずの銀髪の黒魔法使いがすました顔で立っていた。

「あれで逃げ場を無くしたつもりか?遅過ぎて話しにならんぞ」

「ば・・・かな・・・・・」

呆れたように軽く息をつくシャクールを目にし、その黒魔法使いはもう一度血を吐くと、そのまま力を失ったように真っ逆さまに川へと落下していった。

「や、野郎!あんなところに!」
「くそっ!逃がすな!撃て!撃てぇぇぇーーーーーッツ!」

シャクール・バルデスが包囲網を抜け、仲間の一人を仕留めた事に気付いた帝国兵達が声を上げた。
魔力を込めた手を向けて再び、火、氷、風、爆の攻撃魔法を撃ってくるが、それら全てをシャクールは躱し、反撃で一人、また一人と確実に帝国兵を川へ沈めていく。


「フッ、どうした帝国よ、その程度では私一人に全滅だぞ?どうやら買いかぶっていたようだな。これでは私が出てくるまでもなかったぞ」


最初こそ勢いにまかせて攻撃していたが、自分達の攻撃はかすりもせず、相手の反撃によって何人、何十人もの魔法兵を撃ち落とされてしまった。徐々に数を減らしていっている現実に、帝国軍の黒魔法使い達はとうとう怯みだす者が現れた。


「くっ、ま、まさかこんな・・・このままじゃ・・・っ!?」

じりじりと後ずさりを始めたその黒魔法使いは、背中が誰かにぶつかった事で振り返った。


「いってぇー・・・」

そこに立っていたのは、鋭い金色の目をした男だった。
年齢は二十歳になったかどうかくらいに見える。身長は170センチ程だろう、腰まで伸びた白に近い金色の髪、両耳にはいくつものピアスの輪が光っており、下唇の左側にも一つピアスが付いている。
そして深紅のローブを身につけている事から、この男が帝国の幹部クラスだと認識できた。

「あ・・・フ、フラナ、ガン・・・・・」

「おい、ちゃんと周り見て動けよ?後ろ向いたままじゃぶつかんだろ?」

フラナガンと呼ばれた男は、その魔法兵が自分にぶつかった事に対して怒りは見せなかった。
注意はしてもその口調は、散歩にでも誘うような軽いものだった。

「あ、す、すまない、その、次からは気を付けるから」
「あ、そうだ、こうすれば背中も見えんだろ?」

謝罪の言葉を口にする魔法兵を無視するように、フラナガンは魔法兵の額に右手の人差し指を当てた。

「ひっ!や、やめ・・・!」
「あ?人にぶつかっといてただで済むわけねぇだろ?」

それまでのヘラヘラとした態度から一転し、恐ろしく低い声で脅しをきかせると、フラナガンの金色の目がギラリと光った。

次の瞬間、正面を向いていた魔法兵の首が勢いよく背中まで曲がった。

骨の砕ける鈍い音が響き、魔法兵の目、鼻、口から血が噴き出す。そして微かな呻き声を漏らすと、魔法兵の体から力の全てが抜けて、頭から川まで落下していった。



「・・・なんだ、あいつは?」

異様な魔力を感じ取ったシャクールは、その力の発言元であるフラナガンと魔法兵の一部始終を見ていた。

指先一つで人の首を真後ろにまで捻じ曲げる。

それは黒魔法使いとして、一国の頂点に立ったとも言える四勇士のシャクール・バルデスですら、見抜けない異質な魔力だった。

今までシャクールと撃ち合っていた帝国の魔法兵でさえ、フラナガンの纏う異様な空気に飲まれ、身動きが取れなくなっている。


「あ~・・・面倒くせぇ。お前らがさっさと倒さねぇから、俺が出るしかねぇじゃねぇか。まぁ、確かにまぁまぁ強ぇみてぇだから、お前らじゃ無理っぽいけどよ」

フラナガンは仲間である魔法兵達を一瞥すると、肩をすくめて前に進み出た。


「・・・貴様がこの群れのリーダーか?」

自分の前に立った真紅のローブの男に、シャクールは指先を突き付けた。


「あ?群れ?・・・あ~、まぁそうだね、群れっちゃ群れか。まぁよ、リーダーってのは置いといて、俺が一番強ぇってのは間違いねぇな。てめぇを倒せば俺の仕事は完了だからよ、軽く死んでもらうぜ」

「そうか、その何とも説明し難い異様な魔力、やはり私が来て正解だったな。この四勇士シャクール・バルデスが貴様を軽く死なせてやろう」


力を込めてもう一度指先を突き付けると、フラナガンの金色の目が射貫くように鋭くなり、そしてシャクールに向けて怒鳴り声をぶつけた。

「指さしてんじゃねぇぞコラァァァァァーーーーーーッツ!」

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