1,295 / 1,560
1294 シャクール・バルデスが選んだ理由
しおりを挟む
「カカーチェ副団長、クインズベリー軍が川を凍らせ始めたようです。予定通り黒魔法使いを飛ばしますか?」
ユナニマス大川の川べりに立つ、痩せた年配の男の背中に声がかけられる。
「・・・ふぅむ、そのようじゃな。ここを渡るにはそれしかなかろうからな」
振り返った男の顔には深いシワが刻まれており、鼻の下と顎から伸びる白い髭が印象的だった。
歳の頃は70にはなっているだろう。年齢の割に頭髪量は多く、白くて長い髪の毛を一本の三つ編みにして流している。頬はこけており背も低く、体はあまり丈夫そうには見えない。
深紅のローブを身に纏っている事から、カカーチェと呼ばれたこの老人が、魔法使いである事が分かる。
「予定通り黒魔法使いの部隊を飛ばせ。しかしじゃ、ヤツらも馬鹿ではない。当然こっちが仕掛けてくる事は想定済みのはずじゃ。それを理解した上で川を渡るというからには、必ず対抗手段を用意しておると考えるべきじゃ。フラナガンも連れて行け」
「フ、フラナガンをですか?しかし、ヤツが大人しく言う事を聞くかどうか・・・」
「何のためにここへ連れて来たと思うておる?働いてもらうためじゃ。さっそく出番が来たのだから、むしろ喜ぶべきじゃろう?このアーロン・カカーチェが命ずる、ロバート・フラナガンを黒魔法使いの突撃部隊に連れて行け」
さっきまでの、どこかのんびりとして雰囲気から一転し、厳しい視線を向けて命令を下すカカーチェ。
その圧は目の前の兵の体をビリビリと打ちつけ、異を唱える事を許さなかった。
立って歩くための最低限の筋肉しかないような細い体付き、魔法使いとしても小さな背丈、この老人のどこにこれほどの威圧感があるのか不思議になるが、カカーチェの前に立っていた兵士は、全身から汗が噴き出し、足は震え、顔を青くして言葉を発する事さえできずにいた。
「・・・聞こえておるのか?もう一度言わねば分からんか?」
「ッ!は、はいッ!た、ただちにお命じの通りに致します!」
今すぐに返事をしなければならない。
静かだが命の危険さえ感じる程の圧をぶつけられ、兵の男はかろうじて言葉を絞り出した。
そして踵(きびす)を返すと、慌ただしくも急ぎ天幕を出て走って行った。
「・・・ふぅむ、ちと脅かし過ぎたかのう?」
足がもつれ転びそうになる兵士の後ろ姿を見て、カカーチェはヒゲを撫でながら一人呟いた。
「シャクール様、気になっていたのですが・・・どうしてパウンド・フォーではなく、ここユナニマス大川に来たのですか?」
黒魔法使い達が川を凍らせていく様子を見つめながら、サリーは隣に立つシャクール・バルデスに問いかけた。
「ああ、そう言えば話してなかったな。私とした事がうっかりしていたようだ。サリーに説明もなく決めてしまっては、サリーも気になって当然だな」
「いえ、そんな、シャクール様こそお気になさらないでください。私はただ、どうして戦いも始まっていないのに、ユナニマス大川を選ばれたのか気になっただけなのです」
四勇士は戦況を見極めて、パウンド・フォーかユナニマス大川のどちらかに加勢に入る。
そう決めたのに、シャクールは戦闘が始まってもいないうちに、ユナニマス大川への参戦を決めた。
それがサリーには疑問だったのだ。
「うむ、サリーの疑問はもっともだ。私がユナニマス大川を選んだ理由だがな、ここが危険だからだ。パウンド・フォーよりよっぽどな。だからこそ私の力が必要になる。この四勇士のシャクール・バルデスの力がな。私がいなければユナニマス大川は攻略できん。だから私はここに来た。納得できたかなサリー」
サリーに向きなかったシャクールは、右手の親指を自分の顔に向け、自信に満ち溢れた顔で言い切った。
その青い瞳をサリーも正面からじっと見つめると、ニコリと微笑んで口を開いた。
「はい、もちろんです。サリーはシャクール様を信じておりますから。ではもうこの戦場は、勝利が確約されたという事ですね」
「その通りだ。私がいる戦場には勝利しかない。敗北は向こう岸の愚かな帝国にくれてやろうではないか、リボンを付けてな」
ニッと笑い高らかなに笑うと、最前列で川を凍らせている黒魔法使いの一人が大きく声を上げた。
「あれは!・・・帝国だーーーッツ!帝国の黒魔法使いが来たぞーーーーーーッツ!」
まだ距離はある。
だが、対岸から空を飛んで向かってくる小さな影達、それは帝国の黒魔法使いに他ならなかった。
騒めくクインズベリーの兵達を見回すと、シャクール・バルデスは一歩前に出て声を上げた。
「うろたえるな!これは想定した状況であろう!?連中の相手はこのシャクール・バルデスが引き受ける!お前達はさっさと氷の道を作るがいい!」
そして後ろを振り返ると、自分を見つめるサリーに笑いかけた。
「フッ、さっそく私の出番だ。では行って来るぞ、サリー」
「はい、シャクール様、ご武運をお祈りしております」
足元に風を纏うと、シャクール・バルデスは勢いよく空へと飛び出した!
ユナニマス大川の川べりに立つ、痩せた年配の男の背中に声がかけられる。
「・・・ふぅむ、そのようじゃな。ここを渡るにはそれしかなかろうからな」
振り返った男の顔には深いシワが刻まれており、鼻の下と顎から伸びる白い髭が印象的だった。
歳の頃は70にはなっているだろう。年齢の割に頭髪量は多く、白くて長い髪の毛を一本の三つ編みにして流している。頬はこけており背も低く、体はあまり丈夫そうには見えない。
深紅のローブを身に纏っている事から、カカーチェと呼ばれたこの老人が、魔法使いである事が分かる。
「予定通り黒魔法使いの部隊を飛ばせ。しかしじゃ、ヤツらも馬鹿ではない。当然こっちが仕掛けてくる事は想定済みのはずじゃ。それを理解した上で川を渡るというからには、必ず対抗手段を用意しておると考えるべきじゃ。フラナガンも連れて行け」
「フ、フラナガンをですか?しかし、ヤツが大人しく言う事を聞くかどうか・・・」
「何のためにここへ連れて来たと思うておる?働いてもらうためじゃ。さっそく出番が来たのだから、むしろ喜ぶべきじゃろう?このアーロン・カカーチェが命ずる、ロバート・フラナガンを黒魔法使いの突撃部隊に連れて行け」
さっきまでの、どこかのんびりとして雰囲気から一転し、厳しい視線を向けて命令を下すカカーチェ。
その圧は目の前の兵の体をビリビリと打ちつけ、異を唱える事を許さなかった。
立って歩くための最低限の筋肉しかないような細い体付き、魔法使いとしても小さな背丈、この老人のどこにこれほどの威圧感があるのか不思議になるが、カカーチェの前に立っていた兵士は、全身から汗が噴き出し、足は震え、顔を青くして言葉を発する事さえできずにいた。
「・・・聞こえておるのか?もう一度言わねば分からんか?」
「ッ!は、はいッ!た、ただちにお命じの通りに致します!」
今すぐに返事をしなければならない。
静かだが命の危険さえ感じる程の圧をぶつけられ、兵の男はかろうじて言葉を絞り出した。
そして踵(きびす)を返すと、慌ただしくも急ぎ天幕を出て走って行った。
「・・・ふぅむ、ちと脅かし過ぎたかのう?」
足がもつれ転びそうになる兵士の後ろ姿を見て、カカーチェはヒゲを撫でながら一人呟いた。
「シャクール様、気になっていたのですが・・・どうしてパウンド・フォーではなく、ここユナニマス大川に来たのですか?」
黒魔法使い達が川を凍らせていく様子を見つめながら、サリーは隣に立つシャクール・バルデスに問いかけた。
「ああ、そう言えば話してなかったな。私とした事がうっかりしていたようだ。サリーに説明もなく決めてしまっては、サリーも気になって当然だな」
「いえ、そんな、シャクール様こそお気になさらないでください。私はただ、どうして戦いも始まっていないのに、ユナニマス大川を選ばれたのか気になっただけなのです」
四勇士は戦況を見極めて、パウンド・フォーかユナニマス大川のどちらかに加勢に入る。
そう決めたのに、シャクールは戦闘が始まってもいないうちに、ユナニマス大川への参戦を決めた。
それがサリーには疑問だったのだ。
「うむ、サリーの疑問はもっともだ。私がユナニマス大川を選んだ理由だがな、ここが危険だからだ。パウンド・フォーよりよっぽどな。だからこそ私の力が必要になる。この四勇士のシャクール・バルデスの力がな。私がいなければユナニマス大川は攻略できん。だから私はここに来た。納得できたかなサリー」
サリーに向きなかったシャクールは、右手の親指を自分の顔に向け、自信に満ち溢れた顔で言い切った。
その青い瞳をサリーも正面からじっと見つめると、ニコリと微笑んで口を開いた。
「はい、もちろんです。サリーはシャクール様を信じておりますから。ではもうこの戦場は、勝利が確約されたという事ですね」
「その通りだ。私がいる戦場には勝利しかない。敗北は向こう岸の愚かな帝国にくれてやろうではないか、リボンを付けてな」
ニッと笑い高らかなに笑うと、最前列で川を凍らせている黒魔法使いの一人が大きく声を上げた。
「あれは!・・・帝国だーーーッツ!帝国の黒魔法使いが来たぞーーーーーーッツ!」
まだ距離はある。
だが、対岸から空を飛んで向かってくる小さな影達、それは帝国の黒魔法使いに他ならなかった。
騒めくクインズベリーの兵達を見回すと、シャクール・バルデスは一歩前に出て声を上げた。
「うろたえるな!これは想定した状況であろう!?連中の相手はこのシャクール・バルデスが引き受ける!お前達はさっさと氷の道を作るがいい!」
そして後ろを振り返ると、自分を見つめるサリーに笑いかけた。
「フッ、さっそく私の出番だ。では行って来るぞ、サリー」
「はい、シャクール様、ご武運をお祈りしております」
足元に風を纏うと、シャクール・バルデスは勢いよく空へと飛び出した!
0
あなたにおすすめの小説
俺! 神獣達のママ(♂)なんです!
青山喜太
ファンタジー
時は、勇者歴2102年。
世界を巻き込む世界大戦から生き延びた、国々の一つアトランタでとある事件が起きた。
王都アトスがたったの一夜、いや正確に言えば10分で崩壊したのである。
その犯人は5体の神獣。
そして破壊の限りを尽くした神獣達はついにはアトス屈指の魔法使いレメンスラーの転移魔法によって散り散りに飛ばされたのである。
一件落着かと思えたこの事件。
だが、そんな中、叫ぶ男が1人。
「ふざけんなぁぁぁあ!!」
王都を見渡せる丘の上でそう叫んでいた彼は、そう何を隠そう──。
神獣達のママ(男)であった……。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
正しい聖女さまのつくりかた
みるくてぃー
ファンタジー
王家で育てられた(自称)平民少女が、学園で起こすハチャメチャ学園(ラブ?)コメディ。
同じ年の第二王女をはじめ、優しい兄姉(第一王女と王子)に見守られながら成長していく。
一般常識が一切通用しない少女に友人達は振り回されてばかり、「アリスちゃんメイドを目指すのになぜダンスや淑女教育が必要なの!?」
そこには人知れず王妃と王女達によるとある計画が進められていた!
果たしてアリスは無事に立派なメイドになれるのか!? たぶん無理かなぁ……。
聖女シリーズ第一弾「正しい聖女さまのつくりかた」
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった
ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。
学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。
だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。
暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。
よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!?
……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい!
そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。
赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。
「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」
そう、他人事のように見送った俺だったが……。
直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。
「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」
――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【完結】奪われたものを取り戻せ!〜転生王子の奪還〜
伽羅
ファンタジー
事故で死んだはずの僕は、気がついたら異世界に転生していた。
しかも王子だって!?
けれど5歳になる頃、宰相の謀反にあい、両親は殺され、僕自身も傷を負い、命からがら逃げ出した。
助けてくれた騎士団長達と共に生き延びて奪還の機会をうかがうが…。
以前、投稿していた作品を加筆修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる