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遠征から帰還した俺を待っていたのは、あどけなさが残る少し高い声でも、黒曜石のように凛と輝く瞳でもなく、随分と皺の寄った紙きれ一枚だ。
紙を差し出した同期のノードはまるで部下を叱責するような大声で何か訴えているのに、言葉の理解が追いつかない。
頭全体に靄がかかったようで、何も考えられない。
華奢な体の割にいつも枠からはみ出すほど力強い字を書く子だった。
それを指摘するとすかさず頬を膨らませ「字くらい大きくなりたいもん」と目を潤ませたのは一体いつまでだったろう。
上官、ルシウス・ローガン。
本人、テオ・サミュエル。
生涯愛すと決めた者の名が、俺の名と共に除隊願に力強く残されていた。
テオは見事なまでに一切痕跡を残さなかった。
恐らく徹底的に顔と素性を隠し、街から街へと移動したのだろう。
昔から隠れ鬼が得意な子だ。
その当時はまだ子どもだからと行動範囲を制限できていたというのに、俺のいない間に成人を迎えたあの子の行き先を、俺は見当さえつける事ができない。
どれだけ探し回っても何一つ情報を得られず時間だけが過ぎていき、共に探してくれていた者も、一人、また一人と減っていく。
ついには隊長やノードから手を引けと言われる始末だ。
さらにこの二人からは「あり得ない話だと思うが」の前置きから始まり、テオへの無理強いを疑われた。
身の潔白を証明するため事の顛末を詳細に語る途中、赤面した当人達に止められた。
あの夜は、確かに言葉で同意を取って始まったわけじゃない。
あれはαとΩの本能そのものだ。
もちろん決してそれを盾にあの子に無体を強いたつもりはない。
理性と本能の狭間で出来うる限りの愛を囁き、長年に渡り溜め込んでいた想いの丈を告白してテオはそれを受け入れてくれたように思う。
俺の言葉に涙を流し喜びを口にするテオの顔と言ったら────月並みではあるが────、天使か妖精か疑うほど。
頬は紅潮し赤みの強い唇は淫靡なまでに湿り気を帯びる。
部屋全体がテオの甘い香りに包まれ、細い腕を必死に伸ばして俺に縋り付く様は"夢のよう"としか言いようがない。
正直に言うと俺の理性は我慢の限界、スレスレだった。
幼い頃からスキンシップが多く嬉しい反面、彼が成長するにつれ────本人にその気は無かっただろうに────まるで理性を試されているかのよう。
無防備に寄せられる体は柔らかく、はにかむ笑顔は甘さそのもの。
白い肌は騎士になるための鍛錬で日に日に焼け、筋肉は決して多くないが体が引き締まる。
テオが少年から青年へと成長していく様は、本当に美しかった。
俺の理性を保つためだけの理由で彼が十歳を越えた頃から距離を取った。
分かりやすく眉を垂らす彼の姿に何度も心折れそうになったが市民の模範となる騎士の俺が、未成年に手を出すわけにはいかない。
自分の理性が信用ならないなんて本当に笑えない話だが、それほどまでにテオはとても魅力的で、何にも代え難い俺の全てだった。
成人を迎えた彼を完全に囲い込もうと出来うる限りの準備を着々と進めていた。
本人が勘付いて多感な時期に動揺を与えてしまってはいけないと考え、テオには内緒で郊外に一軒家を買い、同時にプロポーズするために指輪も買った。
王都騎士になった俺の後を追い、家を出た当時から使っている鞄一つに収まるだけの荷物しか持たないあの子が一体どこへ行ったのか。
そもそもどうして俺の前からいなくなってしまったのか、情けないことだがまだ分からずにいる。
どうして、こうなったのだろう。
もしかするとあの夢のような夜は、全てテオを想うが故の俺の妄想で本当に夢だったのかもしれない。
職務時間外の全てテオを探すために使い、何の成果もあげられないまま彼がいなくなって三年を目前にしたある日、第一王子から一人で執務室へ来るよう声がかかった。
齢二十二歳の第一王子アーノルド・リシュタイン様は騎士隊の総長であり、毎日訓練場に顔をお出しになり、騎士達にも気さくに声を掛けてくださるような出来たお方。
少々掴みどころがないというか、いつも天真爛漫でいらっしゃるというか・・・、またそこが殿下の長所とも言えるのだが、一言で言えば行動が読めない部分がある。
昨年有難いことに第二騎士隊の隊長を拝命してから、こうして執務室へ呼ばれることも何度かあった。
でもそれはいつも副長のノードと共にであって、こうして一人で向かうのは初めてのこと。
何か不敬にあたるようなことをしてしまっただろうかと、内心動揺していたのだが────────。
「最近、北の聖女様の体調があまり良くないみたいなんだ。」
立ったままでは何だから、と何度も着席を促され渋々座った俺への第一声。
これはいわゆる世間話なのだろうかと考え、瞬時に否定する。
殿下は毎日分刻みで恐ろしい量の職務をこなす超人だ。
わざわざ一介の騎士を呼び、世間話なんぞする時間はない。
だからと言って気の利いた返答ができない自分が情けない。
そうでしたか・・・と、肯定でも否定でもない言葉を絞り出すのがやっとだった。
「現聖女様は先代の血縁者なんだけど、元々体が弱かったみたいでね。見かねた先代様が補助に入ってくれて結界を張るのもやっとって感じらしい。」
「は、はあ・・・、なるほど・・・」
「でも先代様もそろそろ体力的に厳しいみたい。だから残りの聖力を別のもう一人に譲渡して現聖女を完全二人体制にするのはどうだろうか、だって。ねえ、ルシウスはどう思う?」
「・・・ど、どうと私に言われましても・・・」
そもそもこういった類の話を相手が殿下と限ったわけでなく、これまでされたことも自分からしたこともない。
聖力の話をするのであれば第二騎士隊の自分より、神官と繋がりが深い第一騎士隊にする方が得策だ。
第一騎士隊は各地域の神殿の警備も担う上、現隊長のリンド殿は現職で神官を兼任する優秀な者。
年中魔物を相手に血に塗れる俺達第二とは職務内容も各々が保有する知識も違うことだろう。
「で、殿下・・・そういう話であれば、わ、私ではなくリンド殿をお呼びになった方が、」
「それでね、僕この間『誰か適任者がいるんですかぁ~?』って手紙を出したわけ。で、これが昨日届いた北の先代様からの返事。どう?ルシウスも読む?」
「?!い、いえっ!そのように重要なお手紙を、わ、私が読むわけには・・・っ」
「・・・ええ?そう?ルシウスは興味を・・・いや、興味しかないと思うんだけどなぁ・・・?」
「・・・???」
一通の手紙をひらひらと動かす殿下の話の意図が全くもって分からない。
これは殿下には何らかの理由があって俺を試しているのだろうか・・・?
それとも何かの隠語か・・・?
そんなことを考えていると殿下はくすくすと笑いをこぼし「相変わらず真面目だなぁ」と手紙の封を開けた。
そして手紙にはこう書かれていたんだよと、概要を口にし始める。
《三年ほど前、保護したΩの男性がいます。歳はもうすぐ二十一。黒い瞳が凛と輝く、とても可愛らしい方です。いまだに信じていませんが、どこかで騎士をしていたと聞きました。彼が戦う姿なんてとても想像できませんが、騎士よりも何よりも強く美しい、目を惹かれるものがあります。》
落ち着いた殿下の声を聞きながら、頭の中ではテオのことばかり考えていた。
間違いない。
この手紙は、テオのことを指している。
意識とは関係なく手が震え、握りしめた手のひらに血が滲む。
焦点さえ定まらない俺の思考を引き戻したのは紛れもなく殿下自身。
先ほどと同じように、今度は封を開けた便箋をひらひらと風に揺らしながら、まるで俺の本心を見透かしたような声色で話し続けた。
「聖女様の結界はいわば北の要塞だ。こうなったからには直接聖女様方と話がしたくてね。リンドは立場上王都を離れられない。だから、」
「行きます。行かせてください。お願いします。」
「・・・ふ、」
「いつ出立でしょう。今からでも構いません。例え私一人でも、命に変えて殿下を必ずお守りいたします。」
「・・・・・・」
「・・・殿下?」
ふるふると肩を揺らした殿下は、突然大口を開け笑い始めた。
そのあまりの音量に執務室の外で見張りをしていた騎士が思わず扉をノックし安否を確認するほど。
そのノックに、大丈夫だよ~と気安く答えた殿下は浮かんだ涙を指で拭うと目尻を下げ、俺に微笑みかける。
どこから俺の情報を得たのだろう。
・・・いや、あれほど騒いでおきながら今更何を言っているのだ。
テオを見つけ出すためなら、もう何だっていい。
どんな話であろうと乗ってやる。
「出立は、んー・・・そうだな、悪いけど二日後だ。魔物が多い地区を通るからルシウスとノード、あと一人選んでくれ。それといつもの近衞騎士を連れて行く。どうだい?」
「・・・かしこまりました。出立日が早まりそうでしたらいつでもお声掛けください。」
「あははははっ!ルシウス、君もちゃんと欲のある男だったんだね。安心したよ。」
「っ、も、申し訳、ありません・・・っ」
「謝る必要はない。僕も・・・、ミアがいなくなったらと考えただけで息ができないから・・・、まあ、逃したとしても絶対────・・・あ。何でもないよ!あははっ!」
「・・・っ、はい・・・」
準備よろしくね!と微笑んだ殿下に見送られ、執務室を後にする。
先ほど、ほんの、本当にほんの一瞬感じた威圧感のある気配。
あれは間違いなく、αの執着に塗れたフェロモンだった。
Ωを護ろうとするαの本能。
愛する人を独占しようと画策する、ただの男。
「・・・殿下も欲があって何よりだ。」
ついうっかり盲言を口にしてしまい、ハッとする。
慌てて周囲を見渡し誰にも聞かれていないことを確認してからホッと息を吐いた。
相変わらず俺の胸は早鐘を打ち、頭の中はテオのことで埋め尽くされていた。
きっとテオは北にいる。
次から次へと頭を埋め尽くすように浮かぶ甘く恐ろしい言葉が口の端から溢れないよう喉の奥に仕まいこむ。
もし本当にテオと再び会えたのなら────、その時は言葉を口にしよう。
記憶の中のテオのあの甘い香りが悪戯に鼻孔をくすぐった。
聞こえてきた誰かの足音で無意識に立ち止まっいたことに気づき、俺はようやく前を向く。
腹の奥で煮えたぎる甘い熱は、とどまることを知らない。
覚悟しておけと頭に浮かぶ独り言は、決して口にしなかった。
「っん、ちょっ、ルシウス!俺、ま、ま、待ってって言って、あっ、」
「だから待たないと言っているだろう。これは仕置きだ。」
「~~~っ、お、俺悪いことしてなっ、ひっ、んんっ、」
「・・・・・・そうか。ならば仕置きではなく褒美ということにしておこう。」
「#$€%×☆?!」
先代聖女ルーシー様夫妻、アーノルド殿下、そして────コルン。(すまない、ノードも)
全員合意の上でテオを自宅へ送り届けることを許された俺は、挨拶もそこそこに食堂を後にした。
テオの体を抱え上げるなんて容易いものだ。
肩口で暴れ回る真っ赤なテオからは先ほど強い抑制剤を口にしたというのにすでに甘いフェロモンが漏れ出していて、舌を噛まないでくれと願いながら急ぎ借家へと向かった。
着いたのはよくある長屋仕様の建物の二階、角の部屋。
両隣の部屋はルーシー様の配慮だろうが空室で、これならいくら騒いでも大丈夫だなとテオに告げ、頬にキスをすると彼は目を丸くして声の代わりに口を忙しなく開け閉めしていた。
こじんまりとした小さな部屋は物が少なくきちんと片付けられていて、至るところから愛らしい二人暮らしの気配がする。
そこに突然横入りするようで申し訳ないと一応・・・一応テオには謝罪し、華奢な体に似合った大きさのベッドへ担いでいた体を転がした。
覆い被さる俺から目を逸らそうと、大急ぎで目を回し始めるテオの視線を固定せるため彼の顔の両隣に手をつく。
ゆっくりと顔を近づけ鼻先に口付けると、観念したとばかりに黒曜石の瞳がこちらを向いた。
ようやく目が合った瞳にはみるみるうちに涙が浮かび、それを堪えようとしてなのか赤い唇を噛み締めていた。
入りすぎた力を掬い取るように唇を舐めとると、とうとう瞳から雫が落ちていく。
美しい以外の言葉が浮かばない。
再びこうしてテオに触れることができたと考えるだけで俺まで鼻の奥がツンとする。
だがしかし、これ以上俺のような大男の情けない涙を見せるわけにはいかない。
急いで上を向き呼吸を整えていると、突然テオのしなやかな指が俺の頬を撫でてきたものだから、慌てて鼻を啜りテオの方を向いた。
濡れた黒曜石の中に、間違いなく俺がいる。
テオは俺の手を取り何か考えたあと、恐る恐る唇を寄せた。
手のひら、手の甲、手首に腕。
傷跡が残る場所をまるでなぞるようにキスをしながら、少しずつ体を起こす彼に倣い、俺も同じように体を起こし向かい合って座る。
何度も何度も空を行き来した瞳が、ようやくこちらを向いたのはしばらく時間を置いた後。
ぎゅ、と力強く握られた手は随分と汗ばみ、呼吸も少し荒くなっていた。
「・・・・・・き。」
「・・・大きな声で、もう一度。」
「っ、すき。ルシウスが、だ、大好き。かっ、勝手にいなくなって、わ、悪かった・・・ご、ごめんなさい・・・」
「・・・次、いなくなった時は鎖で項保護帯を繋ぐからな。」
「・・・・・・もう絶対、いなくならないけど、ル、ルシウスがしたいなら・・・別につ、繋いでもいいし・・・あ、もちろん、コルンには恥ずかしいから、な、内緒で・・・」
「・・・は?」
「で、でも、次のヒート来たら、ルシウスに、ここ・・・噛んでもらうからあれも必要なくな────」
テオの言葉を塞いだのは噛み付くような俺の熱。
歯がぶつかりカチッと音が鳴り、驚いて開いた口に舌を捩じ込んだ。
俺が甘い口の中を堪能する中、テオの小さな舌は行き場を失い彷徨うばかり。
頭を撫でるようにゆっくりと舌を絡ませると、警戒心を解いた猫のように擦り寄ってくるのが堪らなく愛おしい。
溢れそうになる唾液をごくりと嚥下する音が生々しく耳に響く。
固く瞑っていたテオの目が片方だけほんの少しばかり開いた瞬間に、視線がかち合う。
慌てたように胸元を押し退け糸を引きながら離れた唇を追うように、華奢な体をベッドへ押し付けた。
「なっ、何で目ぇ開けて・・・っ!?」
「何でって・・・見ないと勿体無いだろう。一秒たりとも見逃したくない。」
「っ、ばっ、バカなんじゃ、っ、んあ、ひっ、」
「・・・まあ、少しは肥えたか・・・。テオは食が細いからなぁ・・・」
「~~~っ、ままま待って!俺、まだ、ひ、ヒートじゃっ、んう、う、」
うっすらと肋骨が浮き出た胸下をなぞると、弓のように背中がしなる。
ボタンを順に外していく俺の手を必死で止めようとする小さな手を握り、今度は俺が口付けた。
テオの左手の薬指を本人の許可も取らず口に含み、必死に加減をしながら噛んだ指には俺の歯形がうっすらと残った。
「ヒートじゃないと、俺はテオを抱けないのか?」
「っ、だっ、だく・・・?!」
「・・・これだけ待ったんだ。ああ・・・、日付が変わる前に必ず一度は休憩すると約束しよう。腹も減るしな。」
「日付って・・・、ま、まだっ、昼、なんだけ、っ、ひゃっ、」
背中に手を這わすとテオの口から一段と甲高い声が出た。
そのことに一番驚いたのは本人のようで、うるうると潤んだ瞳からまた雫が溢れていく。
こんな時まで察しが悪い子だ。
────そんな顔を見せられて、我慢できるわけがないというのに。
自分の中で僅かにつながっていた理性という名のか細い糸が、ぷつん、と切れた。
テオのシャツのボタンがいくつか弾け飛ぶのが見えたが、構っていられない。
衣服に隠れ、本来の白さを保っていた艶かしい肌にいくつもの赤い執着を残す。
その赤を目にして酷く安心する俺は、頭がおかしいのかもしれない。
そして俺以上におかしいのは、テオだ。
痛みが走る程好き勝手に肌を吸われているのにも関わらず、口からは歓喜ばかり。
嬉しい、夢みたい、と溢すテオを口を塞ぎ、下穿きに手を伸ばした。
すでに泥濘んでいた窄みに、恐る恐る指を這わせる。
最初は羞恥で抵抗していたテオも段々目が蕩け、甘い鳴き声を上げるようになった頃には、きゅっと固く口を結んでいたそこも俺を受け入れる準備ができていた。
自分でも目を覆いたくなるほど膨張した陰茎を見て、テオはごくりと生唾を飲む。
ここに来て一抹の不安がよぎった俺は、無理ならすぐに言うんだぞ、テオの体が優先だ、と謎の躊躇を口走る。
そしてあまりにしつこい俺に痺れを切らしたのは、テオの方。
寝そべったまま俺の胸を容赦なく足蹴にし、両手で肩を掴み俺の体を押し倒す。
まるで全てを晒すような格好で俺に跨り見下ろすテオは、これまでの記憶にはない、夜の香りを纏う男の顔をしていた。
「テ、テオ、これでは自重で、か、加減が、」
「し、しなくていい・・・もうっ、言わすなよ!お、俺だって・・・会えないと・・・思ってたから、ずっとルシウスの夢ばっか見て、が、我慢してたん、っ、ひっ、んう゛ううっ!!?」
「・・・・・・っ、これはお前が、煽ったせいだからな・・・?!」
「っ、あ、あっ、まっ、ううぅう、なんでぇ?!!俺っ、イッ、イって、ひぃっ、」
「・・・せいぜい後悔しとけ・・・っ!」
咽せ返る甘い香りで頭の血管が切れそうだ。
下から突き上げるたびテオの鈴口からとろとろと白濁液がこぼれ落ちる。
それを指で掬い取り鈴口に塗りつけると、テオは胸を突き出すように背中を仰け反らせ、はくはくと口を動かすことしかできない。
華奢な体が逃げないよう、手で腰をがっしりと掴む。
あと少しで一周できてしまうのではないかと思うほど細い腰は小刻みに痙攣し、しっとりと汗ばんでいた。
まさか序盤からここまで容赦なく攻められるとはテオも思っていなかったのだろう。
口からは涎を垂らし、目を蕩けさせ、力の入らない手で掴まれた腰を振り払おうと踠くものの、全く意味をなさない。
────こうなれば、残るは実力行使。
何度も、何度も抽送を繰り返し、俺の匂いを体に染み込ませる。
息も絶え絶えなテオの口に時折水を含ませながら、体の芯まで俺の体を教え込むのをやめない。
そうして日付が変わる頃、すっかり声を枯らしたテオは俺の腕の中でうとうと視線を彷徨わせ、目を擦る。
一通り綺麗に体を拭いてはいるが、華奢な体、白い項には噛んだ本人、噛まれた本人も驚くほどの噛み痕や赤い痕が残り、俺は内心少し・・・少しだけ、反省。
赤くなった目元にキスをしてテオを抱きしめると、小さな笑い声が聞こえてきた。
俺は腕の中に視線を移し今にも閉じてしまいそうな瞼の間から見え隠れする黒曜石の瞳を発見し、思わず破顔する。
柔らかな黒髪を指で梳かし、形のいい頭を撫でる。
もう片方の手で背中をとんとんと叩いてみるものの、なかなかこの瞼は下りてくれない。
「どうした?寝ていいんだぞ。無理をさせてしまったのは俺だが・・・」
「・・・・・・ルシウス、いなくならない・・・?」
「・・・何?」
「だって・・・俺幸せすぎて、また夢だったら・・・、もう、どうすればいいか・・・」
「・・・少し待ってろ。」
「・・・?」
ベッドから立ち上がり、脱ぎ捨てた隊服と荷物の方へ向かう。
何かないかと探し回り、ようやく見つけたのは麻製の紐。
罪人を縛るでも、落とし物を引っ張り上げるでも、何かと使いやすい汎用性のある紐を手にしベッドへ戻った俺を、上半身を起こしたテオは首を傾げて見ていた。
好きな方を出せ、と俺に言われるがまま差し出したテオの細い手首と俺の手首をキツく結ぶ。
キョトンとした顔で結び目を見つめるテオをベッドへ倒し、先ほどと同じように小さな体を包み込んだ。
「ナイフじゃないと切れないようにした。」
「あ、そ、そう・・・」
「これでもう一人で動けない。夢の俺はこんな馬鹿げたことはしなかっただろう?だからもう寝なさい。」
「・・・うん。」
「テオに悪夢はもう見せない。俺にも・・・どうか見せないでくれ。」
鼻をすする音と共に、うん、と何度も小さな声がした。
遠慮がちに背中に回された手は俺がするのと同じようにゆっくりと上下して、温もりを分けてくれた。
しばらくそれを繰り返すうちに、テオの手は止まり腕の中からすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえ始める。
起こさないようにこっそりと覗き込むと緩やかに弧を描き安心しきったテオの寝顔が、確かにそこにある。
これを人は幸せと呼ぶのだろう。
自然と浮かぶ涙を拭うことさえ忘れていた俺はテオの安らかな寝息につられ、甘く穏やかな夢へと旅立っていた。
----------------☆
北の大地には聖女改め聖人と呼ばれる聖力を持った人物が二人、そのうちの一人には第一王子からの命を受け、王都から馳せ参じた護衛騎士がついた。
新しい聖人には護衛騎士をつけるよう、私が王子に助言した。
何なりと、と言ったからには約束を果たしてもらわなければならない。
あの時の王子の顔を思い出すと、今でも笑いが出てしまう。
さてこの聖人と騎士、二人の間には三人の子どもがいる。
それはもう目に入れても痛くないほど愛らしく、尊い存在そのものだ。
あの恩恵にあやかれた私たち夫婦も、どれほどの愛をもらったことだろう。
他者の気持ちを読み取るのは容易いことではない。
少しの食い違いやすれ違いが大きな軋轢を生み、苦しい思いをしてきたことを私はこの目で見てきた。
だがしかし、彼らは乗り越えた。
今日も北の大地の平和を願いながら、温かく、そして幸せに満ち溢れた時間を共に過ごしていることだろう。
そう私は信じ、心から願っている。
~第七代 聖女手記より一部抜粋~
----------------☆
おしまい
紙を差し出した同期のノードはまるで部下を叱責するような大声で何か訴えているのに、言葉の理解が追いつかない。
頭全体に靄がかかったようで、何も考えられない。
華奢な体の割にいつも枠からはみ出すほど力強い字を書く子だった。
それを指摘するとすかさず頬を膨らませ「字くらい大きくなりたいもん」と目を潤ませたのは一体いつまでだったろう。
上官、ルシウス・ローガン。
本人、テオ・サミュエル。
生涯愛すと決めた者の名が、俺の名と共に除隊願に力強く残されていた。
テオは見事なまでに一切痕跡を残さなかった。
恐らく徹底的に顔と素性を隠し、街から街へと移動したのだろう。
昔から隠れ鬼が得意な子だ。
その当時はまだ子どもだからと行動範囲を制限できていたというのに、俺のいない間に成人を迎えたあの子の行き先を、俺は見当さえつける事ができない。
どれだけ探し回っても何一つ情報を得られず時間だけが過ぎていき、共に探してくれていた者も、一人、また一人と減っていく。
ついには隊長やノードから手を引けと言われる始末だ。
さらにこの二人からは「あり得ない話だと思うが」の前置きから始まり、テオへの無理強いを疑われた。
身の潔白を証明するため事の顛末を詳細に語る途中、赤面した当人達に止められた。
あの夜は、確かに言葉で同意を取って始まったわけじゃない。
あれはαとΩの本能そのものだ。
もちろん決してそれを盾にあの子に無体を強いたつもりはない。
理性と本能の狭間で出来うる限りの愛を囁き、長年に渡り溜め込んでいた想いの丈を告白してテオはそれを受け入れてくれたように思う。
俺の言葉に涙を流し喜びを口にするテオの顔と言ったら────月並みではあるが────、天使か妖精か疑うほど。
頬は紅潮し赤みの強い唇は淫靡なまでに湿り気を帯びる。
部屋全体がテオの甘い香りに包まれ、細い腕を必死に伸ばして俺に縋り付く様は"夢のよう"としか言いようがない。
正直に言うと俺の理性は我慢の限界、スレスレだった。
幼い頃からスキンシップが多く嬉しい反面、彼が成長するにつれ────本人にその気は無かっただろうに────まるで理性を試されているかのよう。
無防備に寄せられる体は柔らかく、はにかむ笑顔は甘さそのもの。
白い肌は騎士になるための鍛錬で日に日に焼け、筋肉は決して多くないが体が引き締まる。
テオが少年から青年へと成長していく様は、本当に美しかった。
俺の理性を保つためだけの理由で彼が十歳を越えた頃から距離を取った。
分かりやすく眉を垂らす彼の姿に何度も心折れそうになったが市民の模範となる騎士の俺が、未成年に手を出すわけにはいかない。
自分の理性が信用ならないなんて本当に笑えない話だが、それほどまでにテオはとても魅力的で、何にも代え難い俺の全てだった。
成人を迎えた彼を完全に囲い込もうと出来うる限りの準備を着々と進めていた。
本人が勘付いて多感な時期に動揺を与えてしまってはいけないと考え、テオには内緒で郊外に一軒家を買い、同時にプロポーズするために指輪も買った。
王都騎士になった俺の後を追い、家を出た当時から使っている鞄一つに収まるだけの荷物しか持たないあの子が一体どこへ行ったのか。
そもそもどうして俺の前からいなくなってしまったのか、情けないことだがまだ分からずにいる。
どうして、こうなったのだろう。
もしかするとあの夢のような夜は、全てテオを想うが故の俺の妄想で本当に夢だったのかもしれない。
職務時間外の全てテオを探すために使い、何の成果もあげられないまま彼がいなくなって三年を目前にしたある日、第一王子から一人で執務室へ来るよう声がかかった。
齢二十二歳の第一王子アーノルド・リシュタイン様は騎士隊の総長であり、毎日訓練場に顔をお出しになり、騎士達にも気さくに声を掛けてくださるような出来たお方。
少々掴みどころがないというか、いつも天真爛漫でいらっしゃるというか・・・、またそこが殿下の長所とも言えるのだが、一言で言えば行動が読めない部分がある。
昨年有難いことに第二騎士隊の隊長を拝命してから、こうして執務室へ呼ばれることも何度かあった。
でもそれはいつも副長のノードと共にであって、こうして一人で向かうのは初めてのこと。
何か不敬にあたるようなことをしてしまっただろうかと、内心動揺していたのだが────────。
「最近、北の聖女様の体調があまり良くないみたいなんだ。」
立ったままでは何だから、と何度も着席を促され渋々座った俺への第一声。
これはいわゆる世間話なのだろうかと考え、瞬時に否定する。
殿下は毎日分刻みで恐ろしい量の職務をこなす超人だ。
わざわざ一介の騎士を呼び、世間話なんぞする時間はない。
だからと言って気の利いた返答ができない自分が情けない。
そうでしたか・・・と、肯定でも否定でもない言葉を絞り出すのがやっとだった。
「現聖女様は先代の血縁者なんだけど、元々体が弱かったみたいでね。見かねた先代様が補助に入ってくれて結界を張るのもやっとって感じらしい。」
「は、はあ・・・、なるほど・・・」
「でも先代様もそろそろ体力的に厳しいみたい。だから残りの聖力を別のもう一人に譲渡して現聖女を完全二人体制にするのはどうだろうか、だって。ねえ、ルシウスはどう思う?」
「・・・ど、どうと私に言われましても・・・」
そもそもこういった類の話を相手が殿下と限ったわけでなく、これまでされたことも自分からしたこともない。
聖力の話をするのであれば第二騎士隊の自分より、神官と繋がりが深い第一騎士隊にする方が得策だ。
第一騎士隊は各地域の神殿の警備も担う上、現隊長のリンド殿は現職で神官を兼任する優秀な者。
年中魔物を相手に血に塗れる俺達第二とは職務内容も各々が保有する知識も違うことだろう。
「で、殿下・・・そういう話であれば、わ、私ではなくリンド殿をお呼びになった方が、」
「それでね、僕この間『誰か適任者がいるんですかぁ~?』って手紙を出したわけ。で、これが昨日届いた北の先代様からの返事。どう?ルシウスも読む?」
「?!い、いえっ!そのように重要なお手紙を、わ、私が読むわけには・・・っ」
「・・・ええ?そう?ルシウスは興味を・・・いや、興味しかないと思うんだけどなぁ・・・?」
「・・・???」
一通の手紙をひらひらと動かす殿下の話の意図が全くもって分からない。
これは殿下には何らかの理由があって俺を試しているのだろうか・・・?
それとも何かの隠語か・・・?
そんなことを考えていると殿下はくすくすと笑いをこぼし「相変わらず真面目だなぁ」と手紙の封を開けた。
そして手紙にはこう書かれていたんだよと、概要を口にし始める。
《三年ほど前、保護したΩの男性がいます。歳はもうすぐ二十一。黒い瞳が凛と輝く、とても可愛らしい方です。いまだに信じていませんが、どこかで騎士をしていたと聞きました。彼が戦う姿なんてとても想像できませんが、騎士よりも何よりも強く美しい、目を惹かれるものがあります。》
落ち着いた殿下の声を聞きながら、頭の中ではテオのことばかり考えていた。
間違いない。
この手紙は、テオのことを指している。
意識とは関係なく手が震え、握りしめた手のひらに血が滲む。
焦点さえ定まらない俺の思考を引き戻したのは紛れもなく殿下自身。
先ほどと同じように、今度は封を開けた便箋をひらひらと風に揺らしながら、まるで俺の本心を見透かしたような声色で話し続けた。
「聖女様の結界はいわば北の要塞だ。こうなったからには直接聖女様方と話がしたくてね。リンドは立場上王都を離れられない。だから、」
「行きます。行かせてください。お願いします。」
「・・・ふ、」
「いつ出立でしょう。今からでも構いません。例え私一人でも、命に変えて殿下を必ずお守りいたします。」
「・・・・・・」
「・・・殿下?」
ふるふると肩を揺らした殿下は、突然大口を開け笑い始めた。
そのあまりの音量に執務室の外で見張りをしていた騎士が思わず扉をノックし安否を確認するほど。
そのノックに、大丈夫だよ~と気安く答えた殿下は浮かんだ涙を指で拭うと目尻を下げ、俺に微笑みかける。
どこから俺の情報を得たのだろう。
・・・いや、あれほど騒いでおきながら今更何を言っているのだ。
テオを見つけ出すためなら、もう何だっていい。
どんな話であろうと乗ってやる。
「出立は、んー・・・そうだな、悪いけど二日後だ。魔物が多い地区を通るからルシウスとノード、あと一人選んでくれ。それといつもの近衞騎士を連れて行く。どうだい?」
「・・・かしこまりました。出立日が早まりそうでしたらいつでもお声掛けください。」
「あははははっ!ルシウス、君もちゃんと欲のある男だったんだね。安心したよ。」
「っ、も、申し訳、ありません・・・っ」
「謝る必要はない。僕も・・・、ミアがいなくなったらと考えただけで息ができないから・・・、まあ、逃したとしても絶対────・・・あ。何でもないよ!あははっ!」
「・・・っ、はい・・・」
準備よろしくね!と微笑んだ殿下に見送られ、執務室を後にする。
先ほど、ほんの、本当にほんの一瞬感じた威圧感のある気配。
あれは間違いなく、αの執着に塗れたフェロモンだった。
Ωを護ろうとするαの本能。
愛する人を独占しようと画策する、ただの男。
「・・・殿下も欲があって何よりだ。」
ついうっかり盲言を口にしてしまい、ハッとする。
慌てて周囲を見渡し誰にも聞かれていないことを確認してからホッと息を吐いた。
相変わらず俺の胸は早鐘を打ち、頭の中はテオのことで埋め尽くされていた。
きっとテオは北にいる。
次から次へと頭を埋め尽くすように浮かぶ甘く恐ろしい言葉が口の端から溢れないよう喉の奥に仕まいこむ。
もし本当にテオと再び会えたのなら────、その時は言葉を口にしよう。
記憶の中のテオのあの甘い香りが悪戯に鼻孔をくすぐった。
聞こえてきた誰かの足音で無意識に立ち止まっいたことに気づき、俺はようやく前を向く。
腹の奥で煮えたぎる甘い熱は、とどまることを知らない。
覚悟しておけと頭に浮かぶ独り言は、決して口にしなかった。
「っん、ちょっ、ルシウス!俺、ま、ま、待ってって言って、あっ、」
「だから待たないと言っているだろう。これは仕置きだ。」
「~~~っ、お、俺悪いことしてなっ、ひっ、んんっ、」
「・・・・・・そうか。ならば仕置きではなく褒美ということにしておこう。」
「#$€%×☆?!」
先代聖女ルーシー様夫妻、アーノルド殿下、そして────コルン。(すまない、ノードも)
全員合意の上でテオを自宅へ送り届けることを許された俺は、挨拶もそこそこに食堂を後にした。
テオの体を抱え上げるなんて容易いものだ。
肩口で暴れ回る真っ赤なテオからは先ほど強い抑制剤を口にしたというのにすでに甘いフェロモンが漏れ出していて、舌を噛まないでくれと願いながら急ぎ借家へと向かった。
着いたのはよくある長屋仕様の建物の二階、角の部屋。
両隣の部屋はルーシー様の配慮だろうが空室で、これならいくら騒いでも大丈夫だなとテオに告げ、頬にキスをすると彼は目を丸くして声の代わりに口を忙しなく開け閉めしていた。
こじんまりとした小さな部屋は物が少なくきちんと片付けられていて、至るところから愛らしい二人暮らしの気配がする。
そこに突然横入りするようで申し訳ないと一応・・・一応テオには謝罪し、華奢な体に似合った大きさのベッドへ担いでいた体を転がした。
覆い被さる俺から目を逸らそうと、大急ぎで目を回し始めるテオの視線を固定せるため彼の顔の両隣に手をつく。
ゆっくりと顔を近づけ鼻先に口付けると、観念したとばかりに黒曜石の瞳がこちらを向いた。
ようやく目が合った瞳にはみるみるうちに涙が浮かび、それを堪えようとしてなのか赤い唇を噛み締めていた。
入りすぎた力を掬い取るように唇を舐めとると、とうとう瞳から雫が落ちていく。
美しい以外の言葉が浮かばない。
再びこうしてテオに触れることができたと考えるだけで俺まで鼻の奥がツンとする。
だがしかし、これ以上俺のような大男の情けない涙を見せるわけにはいかない。
急いで上を向き呼吸を整えていると、突然テオのしなやかな指が俺の頬を撫でてきたものだから、慌てて鼻を啜りテオの方を向いた。
濡れた黒曜石の中に、間違いなく俺がいる。
テオは俺の手を取り何か考えたあと、恐る恐る唇を寄せた。
手のひら、手の甲、手首に腕。
傷跡が残る場所をまるでなぞるようにキスをしながら、少しずつ体を起こす彼に倣い、俺も同じように体を起こし向かい合って座る。
何度も何度も空を行き来した瞳が、ようやくこちらを向いたのはしばらく時間を置いた後。
ぎゅ、と力強く握られた手は随分と汗ばみ、呼吸も少し荒くなっていた。
「・・・・・・き。」
「・・・大きな声で、もう一度。」
「っ、すき。ルシウスが、だ、大好き。かっ、勝手にいなくなって、わ、悪かった・・・ご、ごめんなさい・・・」
「・・・次、いなくなった時は鎖で項保護帯を繋ぐからな。」
「・・・・・・もう絶対、いなくならないけど、ル、ルシウスがしたいなら・・・別につ、繋いでもいいし・・・あ、もちろん、コルンには恥ずかしいから、な、内緒で・・・」
「・・・は?」
「で、でも、次のヒート来たら、ルシウスに、ここ・・・噛んでもらうからあれも必要なくな────」
テオの言葉を塞いだのは噛み付くような俺の熱。
歯がぶつかりカチッと音が鳴り、驚いて開いた口に舌を捩じ込んだ。
俺が甘い口の中を堪能する中、テオの小さな舌は行き場を失い彷徨うばかり。
頭を撫でるようにゆっくりと舌を絡ませると、警戒心を解いた猫のように擦り寄ってくるのが堪らなく愛おしい。
溢れそうになる唾液をごくりと嚥下する音が生々しく耳に響く。
固く瞑っていたテオの目が片方だけほんの少しばかり開いた瞬間に、視線がかち合う。
慌てたように胸元を押し退け糸を引きながら離れた唇を追うように、華奢な体をベッドへ押し付けた。
「なっ、何で目ぇ開けて・・・っ!?」
「何でって・・・見ないと勿体無いだろう。一秒たりとも見逃したくない。」
「っ、ばっ、バカなんじゃ、っ、んあ、ひっ、」
「・・・まあ、少しは肥えたか・・・。テオは食が細いからなぁ・・・」
「~~~っ、ままま待って!俺、まだ、ひ、ヒートじゃっ、んう、う、」
うっすらと肋骨が浮き出た胸下をなぞると、弓のように背中がしなる。
ボタンを順に外していく俺の手を必死で止めようとする小さな手を握り、今度は俺が口付けた。
テオの左手の薬指を本人の許可も取らず口に含み、必死に加減をしながら噛んだ指には俺の歯形がうっすらと残った。
「ヒートじゃないと、俺はテオを抱けないのか?」
「っ、だっ、だく・・・?!」
「・・・これだけ待ったんだ。ああ・・・、日付が変わる前に必ず一度は休憩すると約束しよう。腹も減るしな。」
「日付って・・・、ま、まだっ、昼、なんだけ、っ、ひゃっ、」
背中に手を這わすとテオの口から一段と甲高い声が出た。
そのことに一番驚いたのは本人のようで、うるうると潤んだ瞳からまた雫が溢れていく。
こんな時まで察しが悪い子だ。
────そんな顔を見せられて、我慢できるわけがないというのに。
自分の中で僅かにつながっていた理性という名のか細い糸が、ぷつん、と切れた。
テオのシャツのボタンがいくつか弾け飛ぶのが見えたが、構っていられない。
衣服に隠れ、本来の白さを保っていた艶かしい肌にいくつもの赤い執着を残す。
その赤を目にして酷く安心する俺は、頭がおかしいのかもしれない。
そして俺以上におかしいのは、テオだ。
痛みが走る程好き勝手に肌を吸われているのにも関わらず、口からは歓喜ばかり。
嬉しい、夢みたい、と溢すテオを口を塞ぎ、下穿きに手を伸ばした。
すでに泥濘んでいた窄みに、恐る恐る指を這わせる。
最初は羞恥で抵抗していたテオも段々目が蕩け、甘い鳴き声を上げるようになった頃には、きゅっと固く口を結んでいたそこも俺を受け入れる準備ができていた。
自分でも目を覆いたくなるほど膨張した陰茎を見て、テオはごくりと生唾を飲む。
ここに来て一抹の不安がよぎった俺は、無理ならすぐに言うんだぞ、テオの体が優先だ、と謎の躊躇を口走る。
そしてあまりにしつこい俺に痺れを切らしたのは、テオの方。
寝そべったまま俺の胸を容赦なく足蹴にし、両手で肩を掴み俺の体を押し倒す。
まるで全てを晒すような格好で俺に跨り見下ろすテオは、これまでの記憶にはない、夜の香りを纏う男の顔をしていた。
「テ、テオ、これでは自重で、か、加減が、」
「し、しなくていい・・・もうっ、言わすなよ!お、俺だって・・・会えないと・・・思ってたから、ずっとルシウスの夢ばっか見て、が、我慢してたん、っ、ひっ、んう゛ううっ!!?」
「・・・・・・っ、これはお前が、煽ったせいだからな・・・?!」
「っ、あ、あっ、まっ、ううぅう、なんでぇ?!!俺っ、イッ、イって、ひぃっ、」
「・・・せいぜい後悔しとけ・・・っ!」
咽せ返る甘い香りで頭の血管が切れそうだ。
下から突き上げるたびテオの鈴口からとろとろと白濁液がこぼれ落ちる。
それを指で掬い取り鈴口に塗りつけると、テオは胸を突き出すように背中を仰け反らせ、はくはくと口を動かすことしかできない。
華奢な体が逃げないよう、手で腰をがっしりと掴む。
あと少しで一周できてしまうのではないかと思うほど細い腰は小刻みに痙攣し、しっとりと汗ばんでいた。
まさか序盤からここまで容赦なく攻められるとはテオも思っていなかったのだろう。
口からは涎を垂らし、目を蕩けさせ、力の入らない手で掴まれた腰を振り払おうと踠くものの、全く意味をなさない。
────こうなれば、残るは実力行使。
何度も、何度も抽送を繰り返し、俺の匂いを体に染み込ませる。
息も絶え絶えなテオの口に時折水を含ませながら、体の芯まで俺の体を教え込むのをやめない。
そうして日付が変わる頃、すっかり声を枯らしたテオは俺の腕の中でうとうと視線を彷徨わせ、目を擦る。
一通り綺麗に体を拭いてはいるが、華奢な体、白い項には噛んだ本人、噛まれた本人も驚くほどの噛み痕や赤い痕が残り、俺は内心少し・・・少しだけ、反省。
赤くなった目元にキスをしてテオを抱きしめると、小さな笑い声が聞こえてきた。
俺は腕の中に視線を移し今にも閉じてしまいそうな瞼の間から見え隠れする黒曜石の瞳を発見し、思わず破顔する。
柔らかな黒髪を指で梳かし、形のいい頭を撫でる。
もう片方の手で背中をとんとんと叩いてみるものの、なかなかこの瞼は下りてくれない。
「どうした?寝ていいんだぞ。無理をさせてしまったのは俺だが・・・」
「・・・・・・ルシウス、いなくならない・・・?」
「・・・何?」
「だって・・・俺幸せすぎて、また夢だったら・・・、もう、どうすればいいか・・・」
「・・・少し待ってろ。」
「・・・?」
ベッドから立ち上がり、脱ぎ捨てた隊服と荷物の方へ向かう。
何かないかと探し回り、ようやく見つけたのは麻製の紐。
罪人を縛るでも、落とし物を引っ張り上げるでも、何かと使いやすい汎用性のある紐を手にしベッドへ戻った俺を、上半身を起こしたテオは首を傾げて見ていた。
好きな方を出せ、と俺に言われるがまま差し出したテオの細い手首と俺の手首をキツく結ぶ。
キョトンとした顔で結び目を見つめるテオをベッドへ倒し、先ほどと同じように小さな体を包み込んだ。
「ナイフじゃないと切れないようにした。」
「あ、そ、そう・・・」
「これでもう一人で動けない。夢の俺はこんな馬鹿げたことはしなかっただろう?だからもう寝なさい。」
「・・・うん。」
「テオに悪夢はもう見せない。俺にも・・・どうか見せないでくれ。」
鼻をすする音と共に、うん、と何度も小さな声がした。
遠慮がちに背中に回された手は俺がするのと同じようにゆっくりと上下して、温もりを分けてくれた。
しばらくそれを繰り返すうちに、テオの手は止まり腕の中からすぅすぅと規則正しい寝息が聞こえ始める。
起こさないようにこっそりと覗き込むと緩やかに弧を描き安心しきったテオの寝顔が、確かにそこにある。
これを人は幸せと呼ぶのだろう。
自然と浮かぶ涙を拭うことさえ忘れていた俺はテオの安らかな寝息につられ、甘く穏やかな夢へと旅立っていた。
----------------☆
北の大地には聖女改め聖人と呼ばれる聖力を持った人物が二人、そのうちの一人には第一王子からの命を受け、王都から馳せ参じた護衛騎士がついた。
新しい聖人には護衛騎士をつけるよう、私が王子に助言した。
何なりと、と言ったからには約束を果たしてもらわなければならない。
あの時の王子の顔を思い出すと、今でも笑いが出てしまう。
さてこの聖人と騎士、二人の間には三人の子どもがいる。
それはもう目に入れても痛くないほど愛らしく、尊い存在そのものだ。
あの恩恵にあやかれた私たち夫婦も、どれほどの愛をもらったことだろう。
他者の気持ちを読み取るのは容易いことではない。
少しの食い違いやすれ違いが大きな軋轢を生み、苦しい思いをしてきたことを私はこの目で見てきた。
だがしかし、彼らは乗り越えた。
今日も北の大地の平和を願いながら、温かく、そして幸せに満ち溢れた時間を共に過ごしていることだろう。
そう私は信じ、心から願っている。
~第七代 聖女手記より一部抜粋~
----------------☆
おしまい
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turarin 様
3人のお子達の声を想像したら私も笑ってしまいました😂
しかも次は双子ちゃんなので、もう家の中カオスだと思います・・・笑
わ〜〜・・・さらに楽しい妄想広がりますねぇ・・・😚
最後まで読んでいただきありがとうございました!
ma2sa2 様
皆さん考えることは同じ🤝♡笑
獣甘々目指してがんばりますね!
101よしこ 様
ふふふ・・・欲張りコースをご希望ですね・・・?
善処いたします・・・♡