【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O

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「ラファドだ。開けてくれ。」






ノック音がしてすぐ、声がした。
その瞬間、ガーディナーとリーシュの頭上には「???!」という文字が浮かぶ。
さすがにそれを断るわけにもいかず、慌てて眼力を抑える息子と、少しホッとした父。
近くに控えていたメイドに扉を開けるよう命じた。



本来ならばこちらからラファドの元へ行かなければならないのだから、この慌てっぷりは仕方がない。
王子と一貴族、身分が違うのだから当然である。




重々しい扉が開くと、1人の美青年が立っていた。
短く切られた銀の髪、綺麗な濃紺の瞳、切長な目元、薄めの口元、リーシュよりも20cmは高いだろうか、騎士のような立派な体格の人物こそ、第3王子のラファドだった。

リーシュはラファドと目が合った瞬間、さっきまで自分が怒っていたことも、父に悪態をついていたことも忘れていた。
王族の"貫禄"というものを間近で初めて見たのである。




日頃王都にも王宮にも来ない辺境伯爵の親子は格式のある挨拶や場所には不慣れだ。
とにかく二人は最敬礼の状態で形式に則った挨拶をし、頭を下げた。




「・・・そんなに、畏まらなくていい。顔を上げて2人ともソファにかけてくれ。」




愛想のない、と言ったら不敬にあたるだろうか。
あまり抑揚のない口ぶり。
だが威厳のあるラファドの言葉にガーディナーとリーシュは顔を上げる。
そしてすぐ、ラファドと向かい合うようにしてソファに座った。





「ラファド様、お久しぶりでございます。直接お会いするのはいつぶりでしょうか。」

「ああ、久しぶりだな。」

「この度は我がギデオン家のリーシュに大変名誉な任をいただき、心から感謝いたします。」

「今回はことを急かして申し訳ない・・・リーシュ殿も急なことで驚かれただろう?だがこうして来てくれた・・・とても嬉しい。」

「・・・・・・っ!」





ラファドがリーシュに向かって、ふわりと微笑む。その優しい笑みにつられて、リーシュも微笑んだ・・・が、まずいぞ。もう決まった話になっている、とリーシュは内心かなり焦っていた。



てっきり、顔を合わせた瞬間、ラファドから人違いを指摘され晴れて自由の身になれると思っていたのだが、本当に自分で間違いがないようだ。
しかもラファドのリーシュを見る目が本当に嬉しそう。
冷たい印象を持たれやすいであろうラファドから、喜びが滲み出ている。
隠しているつもりだろうがだだ漏れだ。
リーシュは"いつ・どこで"ラファドに気に入られたのだろうか・・・と身に覚えがないものだから軽いパニック状態だった。





「・・・っ、は、はじめまして。リーシュ・ギデオンと申します。この度は・・・あの・・・ええと。殿下の専属魔法士に私を、とのことですが・・・本当に、わ、私で間違い・・・アリマセンカ・・・・・・?」




最後はかなり小さめの声になってしまったが、リーシュは思っていたこと口にした。




まず、はじめまして・・・だよな?
そして本当に僕で合ってるよな?
頭の中はグルグル稼働しっぱなしだ。




リーシュの言葉を聞いてラファドは形の整った眉をやや下げて、困ったような顔をした。





「・・・"はじめまして"か。」

「は、はい・・・」

「そうだな。直接こうやって言葉を交わすのも顔を合わせるのも初めてだ。」

「そ、そうです・・・ですから、」
「私が自分であなたを選んだんだ。戸惑っているかもしれないが、専属魔法士は君以外考えられない。」

「へっ、えっと、」

「どうか・・・この通りだ。受けてくれないだろうか。」

「・・・・・・!!?」



一国の王子が頭を下げている。
これは・・・まずい、本気だ。
リーシュもガーディナーも慌てっぷりを隠せない。
今日はなんだか慌ててばかりの親子である。





「ででで、殿下!頭を上げてください!」

「・・・どうか、頼む。」

「そっ、そのように臣下に頭を・・・・・・・・・ああ!わ、わかりました。お受け致します!ぼ、ぼく、い、いえ、わ、私のようなもので本当に宜しければ謹んでお受け致します!」





リーシュの言葉を聞くなり凄い勢いで顔を上げ、隠しきれない喜びを身体全体に纏わせたラファドは一言「嬉しい・・・」と呟いた。
そして「私のことはラファドと呼んでくれ」とふわりと微笑む彼に、リーシュはまた慌てることになる。





こうして第3王子専属魔法士のリーシュが誕生したのだった。
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