15 / 16
15
しおりを挟む
ラズワルドからラファドに出された条件は3つ。
一、リーシュが専属魔法士を拒んだ場合、それに応じること
一、リーシュを悲しませるようなことは絶対にしないこと
一、身につけるものは事前にラズワルドと相談して決めること
リーシュが王宮に来てから毎日身につけているローブのデザインはラファドとラズワルドの合作だ。
王族の瞳の色である紺色という点は変えられないが、刺繍柄に関しては自由に決めて良いことになっている。
ラファドの髪色である銀色の刺繍糸を使い、身の安全を願う伝統的な紋様、リーシュの好きな古代魔法学(情報提供者はラズワルド)に使われていた文字をアレンジした図案が使われた。
これにも相当な時間をかけたが、耳飾りは更に厄介だった。
何度ラファドが試作品を作ってもなかなかラズワルドのOKが出なかったのである。
『リーシュの魅力が全然わかっていません』
『ここの部分はもっと曲線を出して、リーシュの儚さを表現していただかなくては』
『新しいデザインを考えてください』
何度目かわからない文のやりとり。
ラファドはため息をついて自分のセンスの無さとラズワルドの執念に肩を落とす日々だった。
「あの時おっしゃっていた"面倒なこと"は兄上が絡んでいたのですね。本当に申し訳ないです・・・」
ちぎろうとした朝食のパンを皿に置き、リーシュはラファドに頭を下げた。
ギデオン領から王宮に戻って、もう2週間が過ぎた。
リーシュはずっと気になっていた"面倒なこと"の内容をようやく知ることができたのである。
お互いの気持ちを確認したあの日。
帰り際に「また王宮でな」とリーシュの額に堂々と口付けたラファド。
唖然とするガーディナー。
立ったまま気絶するラズワルド。
あははと笑って見ているジョシュア。
ため息をつくハンナ。
見送りはかなり騒々しいものになったが、王族一行は用事を済ませ、すぐに帰っていった。
ガーディナーとラズワルドからはラファドとのことを根掘り葉掘り聞かれたが清々しい表情で、「僕は王宮に戻って一生ラファド様のお側にいます。婚約の手続きはまた後ほど。」なんて言い切るリーシュに、2人はまたまた唖然としたのはまた別の話。
リーシュは元々自分の決めた道をずんずん進んでいくかなり前向きな人間だ。
本来のリーシュの姿に戻り、喜ばしい反面、「こ、こ、こ、こ、婚約ぅ?!」と動揺を隠しきれない父と兄。
あの時の2人の顔を思い出し、ふふっ、と笑いを溢したリーシュをラファドは優しい眼差しで見ていた。
残りの朝食を食べすすめながら、今日の予定を確認する。
「今日の午前中はアルベルト様の補佐でしょうか?私もご一緒してよろしいですか?」
「ああ、もちろん。一緒に行こう。その前に渡したいものがあるから、朝食を食べ終わった後、俺の部屋に寄ってくれ。」
「・・・?わかりました。」
珍しくラファドは先に朝食の席を立った。
リーシュもあと少し残っていたパンとソーセージを口に入れ、朝食を済ませると自分部屋に戻る。
準備を整え、紺色のローブを羽織ってラファドの部屋へ向かった。
一、リーシュが専属魔法士を拒んだ場合、それに応じること
一、リーシュを悲しませるようなことは絶対にしないこと
一、身につけるものは事前にラズワルドと相談して決めること
リーシュが王宮に来てから毎日身につけているローブのデザインはラファドとラズワルドの合作だ。
王族の瞳の色である紺色という点は変えられないが、刺繍柄に関しては自由に決めて良いことになっている。
ラファドの髪色である銀色の刺繍糸を使い、身の安全を願う伝統的な紋様、リーシュの好きな古代魔法学(情報提供者はラズワルド)に使われていた文字をアレンジした図案が使われた。
これにも相当な時間をかけたが、耳飾りは更に厄介だった。
何度ラファドが試作品を作ってもなかなかラズワルドのOKが出なかったのである。
『リーシュの魅力が全然わかっていません』
『ここの部分はもっと曲線を出して、リーシュの儚さを表現していただかなくては』
『新しいデザインを考えてください』
何度目かわからない文のやりとり。
ラファドはため息をついて自分のセンスの無さとラズワルドの執念に肩を落とす日々だった。
「あの時おっしゃっていた"面倒なこと"は兄上が絡んでいたのですね。本当に申し訳ないです・・・」
ちぎろうとした朝食のパンを皿に置き、リーシュはラファドに頭を下げた。
ギデオン領から王宮に戻って、もう2週間が過ぎた。
リーシュはずっと気になっていた"面倒なこと"の内容をようやく知ることができたのである。
お互いの気持ちを確認したあの日。
帰り際に「また王宮でな」とリーシュの額に堂々と口付けたラファド。
唖然とするガーディナー。
立ったまま気絶するラズワルド。
あははと笑って見ているジョシュア。
ため息をつくハンナ。
見送りはかなり騒々しいものになったが、王族一行は用事を済ませ、すぐに帰っていった。
ガーディナーとラズワルドからはラファドとのことを根掘り葉掘り聞かれたが清々しい表情で、「僕は王宮に戻って一生ラファド様のお側にいます。婚約の手続きはまた後ほど。」なんて言い切るリーシュに、2人はまたまた唖然としたのはまた別の話。
リーシュは元々自分の決めた道をずんずん進んでいくかなり前向きな人間だ。
本来のリーシュの姿に戻り、喜ばしい反面、「こ、こ、こ、こ、婚約ぅ?!」と動揺を隠しきれない父と兄。
あの時の2人の顔を思い出し、ふふっ、と笑いを溢したリーシュをラファドは優しい眼差しで見ていた。
残りの朝食を食べすすめながら、今日の予定を確認する。
「今日の午前中はアルベルト様の補佐でしょうか?私もご一緒してよろしいですか?」
「ああ、もちろん。一緒に行こう。その前に渡したいものがあるから、朝食を食べ終わった後、俺の部屋に寄ってくれ。」
「・・・?わかりました。」
珍しくラファドは先に朝食の席を立った。
リーシュもあと少し残っていたパンとソーセージを口に入れ、朝食を済ませると自分部屋に戻る。
準備を整え、紺色のローブを羽織ってラファドの部屋へ向かった。
145
あなたにおすすめの小説
冷酷なアルファ(氷の将軍)に嫁いだオメガ、実はめちゃくちゃ愛されていた。
水凪しおん
BL
これは、愛を知らなかった二人が、本当の愛を見つけるまでの物語。
国のための「生贄」として、敵国の将軍に嫁いだオメガの王子、ユアン。
彼を待っていたのは、「氷の将軍」と恐れられるアルファ、クロヴィスとの心ない日々だった。
世継ぎを産むための「道具」として扱われ、絶望に暮れるユアン。
しかし、冷たい仮面の下に隠された、不器用な優しさと孤独な瞳。
孤独な夜にかけられた一枚の外套が、凍てついた心を少しずつ溶かし始める。
これは、政略結婚という偽りから始まった、運命の恋。
帝国に渦巻く陰謀に立ち向かう中で、二人は互いを守り、支え合う「共犯者」となる。
偽りの夫婦が、唯一無二の「番」になるまでの軌跡を、どうぞ見届けてください。
虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした
水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。
強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。
「お前は、俺だけのものだ」
これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
追放されたので路地裏で工房を開いたら、お忍びの皇帝陛下に懐かれてしまい、溺愛されています
水凪しおん
BL
「お前は役立たずだ」――。
王立錬金術師工房を理不尽に追放された青年フィオ。彼に残されたのは、物の真の価値を見抜くユニークスキル【神眼鑑定】と、前世で培ったアンティークの修復技術だけだった。
絶望の淵で、彼は王都の片隅に小さな修理屋『時の忘れもの』を開く。忘れられたガラクタに再び命を吹き込む穏やかな日々。そんな彼の前に、ある日、氷のように美しい一人の青年が現れる。
「これを、直してほしい」
レオと名乗る彼が持ち込む品は、なぜか歴史を揺るがすほどの“国宝級”のガラクタばかり。壊れた「物」を通して、少しずつ心を通わせていく二人。しかし、レオが隠し続けたその正体は、フィオの運命を、そして国をも揺るがす、あまりにも大きな秘密だった――。
【完結済】氷の貴公子の前世は平社員〜不器用な恋の行方〜
キノア9g
BL
氷の貴公子と称えられるユリウスには、人に言えない秘めた想いがある――それは幼馴染であり、忠実な近衛騎士ゼノンへの片想い。そしてその誇り高さゆえに、自分からその気持ちを打ち明けることもできない。
そんなある日、落馬をきっかけに前世の記憶を思い出したユリウスは、ゼノンへの気持ちに改めて戸惑い、自分が男に恋していた事実に動揺する。プライドから思いを隠し、ゼノンに嫌われていると思い込むユリウスは、あえて冷たい態度を取ってしまう。一方ゼノンも、急に避けられる理由がわからず戸惑いを募らせていく。
近づきたいのに近づけない。
すれ違いと誤解ばかりが積み重なり、視線だけが行き場を失っていく。
秘めた感情と誇りに縛られたまま、ユリウスはこのもどかしい距離にどんな答えを見つけるのか――。
プロローグ+全8話+エピローグ
過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件
水凪しおん
BL
「君といる未来こそ、僕のたった一つの夢だ」
製薬会社の研究員だった月宮陽(つきみや はる)は、過労の末に命を落とし、魔法が存在する異世界で15歳の少年「ハル」として生まれ変わった。前世の知識を活かし、王立セレスティア魔法学院の薬草学科で特待生として穏やかな日々を送るはずだった。
しかし、彼には転生時に授かった、薬草の効果を飛躍的に高めるチートスキル「生命のささやき」があった――本人だけがその事実に気づかずに。
ある日、学院を襲った魔物によって負傷した騎士たちを、ハルが作った薬が救う。その奇跡的な効果を目の当たりにしたのは、名門貴族出身で騎士団副団長を務める青年、リオネス・フォン・ヴァインベルク。
「君の知識を学びたい。どうか、俺を弟子にしてくれないだろうか」
真面目で堅物、しかし誰より真っ直ぐな彼からの突然の申し出。身分の違いに戸惑いながらも、ハルは彼の指導を引き受ける。
師弟として始まった二人の関係は、共に過ごす時間の中で、やがて甘く切ない恋心へと姿を変えていく。
「君の作る薬だけでなく、君自身が、俺の心を癒やしてくれるんだ」
これは、無自覚チートな平民薬草師と、彼を一途に愛する堅物騎士が、身分の壁を乗り越えて幸せを掴む、優しさに満ちた異世界スローライフ&ラブストーリー。
悪役令息(Ω)に転生したので、破滅を避けてスローライフを目指します。だけどなぜか最強騎士団長(α)の運命の番に認定され、溺愛ルートに突入!
水凪しおん
BL
貧乏男爵家の三男リヒトには秘密があった。
それは、自分が乙女ゲームの「悪役令息」であり、現代日本から転生してきたという記憶だ。
家は没落寸前、自身の立場は断罪エンドへまっしぐら。
そんな破滅フラグを回避するため、前世の知識を活かして領地改革に奮闘するリヒトだったが、彼が生まれ持った「Ω」という性は、否応なく運命の渦へと彼を巻き込んでいく。
ある夜会で出会ったのは、氷のように冷徹で、王国最強と謳われる騎士団長のカイ。
誰もが恐れるαの彼に、なぜかリヒトは興味を持たれてしまう。
「関わってはいけない」――そう思えば思うほど、抗いがたいフェロモンと、カイの不器用な優しさがリヒトの心を揺さぶる。
これは、運命に翻弄される悪役令息が、最強騎士団長の激重な愛に包まれ、やがて国をも動かす存在へと成り上がっていく、甘くて刺激的な溺愛ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる