敏腕CEOは初心な書道家を溺愛して離さない

如月 そら

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13.臨む!

臨む!⑤

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 香澄がこの指輪を付けるときは願わくば、満面の笑顔であってほしい。
 それが神代の望みだった。そして神代はその指輪ケースをスーツの内ポケットに入れる。
 少し前まで香澄の手紙が入っていた場所だ。
 胸の上のその場所はいつも香澄を思うものが入っている場所となっていた。

 翌日、香澄がパフォーマンスをするショッピングセンターだ。
 腕時計を見ながらかなりの速足で神代は催事会場に向かっていた。前のアポイントが押してしまって、このショッピングセンターに到着したのが香澄のパフォーマンス開始時間ギリギリとなってしまったのだ。
 息を切らせて会場に向かうと拍手で迎えられている香澄と岡野の姿が目に入った。

 初めて見る香澄の袴姿はきりりとしていて、たいへんに美しい。周りも美人書道家二名によるパフォーマンスが珍しいのか、何人かスマートフォンで写真を撮っていた。
 神代も香澄の晴れ姿についカメラのシャッターを切る手が止まらない。

 岡野のパフォーマンスのあとが香澄のもので、きりっと白い紙を睨むように真剣に見つめる香澄に見惚れそうになりながら、つい口をついて声が出てしまった。
「香澄さん、頑張って……」
 それがまるで聞こえたかのように香澄がこくっと頷いて、自分の身長ほどもある大きな筆を持つ。きらきらと瞳を輝かせて、大きな筆を動かす香澄を目で追ってしまっていた。

 いつもはおとなしく、優しい雰囲気の香澄なのに書道をしているときはいつもきりりと芯が通っていて、自信に溢れた姿に凛々しさを感じるのだ。
 その場にいるみんなが香澄に釘付けになっていることにすら嫉妬しそうだ。
 今すぐ前に出て『彼女は俺のものだ』と言いたくなる。

 できあがった文字は『臨む』だった。先ほどのチャレンジとも重ねているのだとすぐに分かる。カタカナで文字数の多い作品と、漢字で同じような意味を持つ文字数の少ない作品。どちらも見事で素晴らしいものだった。
「神代CEO! お時間です」
 腕時計とにらめっこしていた高村に急かされて、香澄には声をかけることもできず、神代はその場を去った。
 香澄へ贈るつもりにしていた指輪が入っている内ポケットのある場所をとても温かく感じた。
 
 
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