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6.夢の途中
夢の途中②
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こちらでも窓際のソファ席を案内された。二人がけのソファはボックス型となっていて、周りからは目を隠すような構造になっていた。
ゆっくりと二人だけの世界を楽しめるような配慮なのだろう。
「目がキラキラだな」
「だって、本当に最高のサービスです。まるでお姫様にでもなったみたい。やっぱり最高のサービスは人を癒すんですねぇ。私もそう在りたいです」
「本当に勉強熱心だな。何を飲む?」
とても雰囲気のよいバーだ。
「やはりカクテルでしょうか」
「そうだな。ここのバーテンダーはなかなか腕がいいはずだぞ」
そう聞いて、莉緒はわくわくしてしまった。
そんな横顔を見られていたらしく、一緒に熱心にメニューを見ていたらふわりと頬を指の背で撫でられた。
「な、なんです?」
「にこにこして、楽しそうで嬉しそうで、しかも仕事には真面目だし。最高の彼女だと思っていたところだ」
莉緒は五十里に向き直る。
「とても素敵なお顔立ちで、優しくてこんなところに連れてきて下さって甘々な彼氏も最高です」
「たまらない。愛おしい。今すぐでも欲しいくらいだ」
「今すぐはダメです。バーを堪能してからです!」
五十里は手にあごをのせて、緩く笑う。
「バーを堪能したらそのあとはもらっていいの?」
──なんてことを言ってしまったんだろう!
莉緒は真っ赤になる。
「違います! そういう意味じゃなくて!」
くつくつと五十里の肩が揺れている。
「五十里さんはたまにいじわるですよね」
莉桜はふくれて見せた。そんな莉桜にも五十里はくすくす笑っている。
「莉緒の反応が可愛いからな。悪気はないんだ。好きなカクテルを選んだらいい」
「五十里さんはどうしますか?」
「やっぱりここはマティーニだろう。マティーニはバーテンダーの腕で味が左右されるから」
莉緒にはマティーニは大人っぽ過ぎる。
「カンパリオレンジにします」
「いいカクテルを選んだな」
「いい、ですか?」
「カクテル言葉って知ってるか?」
こくりと莉緒は頷く。カクテル言葉とはカクテルごとにつけられた象徴的な言葉のことだ。
「知っています。花言葉のようなものですよね」
「マティーニは『知的な愛』」
五十里にぴったりだ。
「カンパリオレンジは『初恋』だ」
どきん、としてしまう。
「なんか……ぴったりでどきっとしました」
「初恋?」
「実はお付き合いするの、初めてなんです。大学まで女子校で、そのまま社会人になってしまったので」
五十里は軽く目を見開いている。
「よくそれで交際をOKしたな」
「お付き合いはしたことないですけど、接客業を三年やってきていろんな人を見ていますから」
いろんな人を見てきた莉桜だからこそ分かる。五十里は大人で本当に魅力的な人だ。
「お眼鏡にかなって大変光栄だ。今後もぜひ期待に応えたいね」
動揺を見せない対応は莉緒ですら惚れ惚れとするくらいだ。
五十里ならば、いつも莉緒の期待以上の答えをくれる。
物足りなくないかな? と思ってしまうが五十里の莉緒を見る甘やかな表情などからはそういったものは感じられなかった。
運ばれてきたカクテルをまた乾杯と言ってグラスを重ね、お互いに飲む。
カンパリ独特の苦味と甘み、それからオレンジの爽やかさがのど元をすうっと降りていった。
「おいし……」
「さっきもワインを飲んでいたし、まあまあ強いんだな」
莉桜は五十里を上目遣いでちらりと見た。
「たしなむ程度です」
「良いたしなみだな」
「恐れ入ります」
「おかげでとても楽しい時間を過ごせた」
ゆっくりと二人だけの世界を楽しめるような配慮なのだろう。
「目がキラキラだな」
「だって、本当に最高のサービスです。まるでお姫様にでもなったみたい。やっぱり最高のサービスは人を癒すんですねぇ。私もそう在りたいです」
「本当に勉強熱心だな。何を飲む?」
とても雰囲気のよいバーだ。
「やはりカクテルでしょうか」
「そうだな。ここのバーテンダーはなかなか腕がいいはずだぞ」
そう聞いて、莉緒はわくわくしてしまった。
そんな横顔を見られていたらしく、一緒に熱心にメニューを見ていたらふわりと頬を指の背で撫でられた。
「な、なんです?」
「にこにこして、楽しそうで嬉しそうで、しかも仕事には真面目だし。最高の彼女だと思っていたところだ」
莉緒は五十里に向き直る。
「とても素敵なお顔立ちで、優しくてこんなところに連れてきて下さって甘々な彼氏も最高です」
「たまらない。愛おしい。今すぐでも欲しいくらいだ」
「今すぐはダメです。バーを堪能してからです!」
五十里は手にあごをのせて、緩く笑う。
「バーを堪能したらそのあとはもらっていいの?」
──なんてことを言ってしまったんだろう!
莉緒は真っ赤になる。
「違います! そういう意味じゃなくて!」
くつくつと五十里の肩が揺れている。
「五十里さんはたまにいじわるですよね」
莉桜はふくれて見せた。そんな莉桜にも五十里はくすくす笑っている。
「莉緒の反応が可愛いからな。悪気はないんだ。好きなカクテルを選んだらいい」
「五十里さんはどうしますか?」
「やっぱりここはマティーニだろう。マティーニはバーテンダーの腕で味が左右されるから」
莉緒にはマティーニは大人っぽ過ぎる。
「カンパリオレンジにします」
「いいカクテルを選んだな」
「いい、ですか?」
「カクテル言葉って知ってるか?」
こくりと莉緒は頷く。カクテル言葉とはカクテルごとにつけられた象徴的な言葉のことだ。
「知っています。花言葉のようなものですよね」
「マティーニは『知的な愛』」
五十里にぴったりだ。
「カンパリオレンジは『初恋』だ」
どきん、としてしまう。
「なんか……ぴったりでどきっとしました」
「初恋?」
「実はお付き合いするの、初めてなんです。大学まで女子校で、そのまま社会人になってしまったので」
五十里は軽く目を見開いている。
「よくそれで交際をOKしたな」
「お付き合いはしたことないですけど、接客業を三年やってきていろんな人を見ていますから」
いろんな人を見てきた莉桜だからこそ分かる。五十里は大人で本当に魅力的な人だ。
「お眼鏡にかなって大変光栄だ。今後もぜひ期待に応えたいね」
動揺を見せない対応は莉緒ですら惚れ惚れとするくらいだ。
五十里ならば、いつも莉緒の期待以上の答えをくれる。
物足りなくないかな? と思ってしまうが五十里の莉緒を見る甘やかな表情などからはそういったものは感じられなかった。
運ばれてきたカクテルをまた乾杯と言ってグラスを重ね、お互いに飲む。
カンパリ独特の苦味と甘み、それからオレンジの爽やかさがのど元をすうっと降りていった。
「おいし……」
「さっきもワインを飲んでいたし、まあまあ強いんだな」
莉桜は五十里を上目遣いでちらりと見た。
「たしなむ程度です」
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「恐れ入ります」
「おかげでとても楽しい時間を過ごせた」
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