異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第三章 ここからもう一度

12 天翔ける竜

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 温室に舞い降りた、六枚の光の翅を持つ白い竜。
 カノン王はその神々しい姿を見上げ、少年のように目を輝かせる。もはや彼は、先ほどまでターゲットだった猫の精霊の事を忘れ去っていた。

「上位精霊か?! 君、どうかその精霊を譲ってくれ!」

 竜の背で炎の弓矢を構えているソフィーは、隣の樹から漂ってくる冷気に身を震わせた。
 眼鏡を指でなぞりながら、樹は絶対零度の声音で答える。

「断る。お前みたいな男に渡す精霊は一匹たりとも持ち合わせてない。一昨日来やがれ、このスットコドッコイ」
「……イツキ、キャラが崩れてますぅ」
「ゴホン。精霊は売り物じゃありませんので、億積まれようが譲ったりしません。貴方みたいな馬鹿にはコンビニ菓子に同封の玩具くらいがお似合いですよ」

 言葉は丁寧になったが、内容はより過激になっている。
 しかし樹の皮肉が届いているのか、いないのか。
 気楽な笑顔を崩さずに、カノン王は剣を持ち上げる。

「くれないなら、戦って奪うまでだ! ははっ、面白くなってきたぞ!」

 王が剣を振ると、火花のような雷光が空を裂いた。
 光の速さで放たれた電撃は、しかし白い竜の手前で鏡面に当たったように跳ね返された。
 いつの間に精霊武器スピリットアームを召喚したのか、樹はその手に流麗な銀色の長剣を握っている。精霊武器で、カノン王が放った雷撃を退けたのだ。
 世界樹の剣をかざすだけで、その切っ先に触れた雷光は空中を曲がって砕け散る。
 二度、三度と雷光が轟いた。

「いったい、何がどうなってるの?」

 突如、始まった空中戦に、詩乃は猫を抱き寄せながら呆然とする。
 アルファード王子も詩乃の近くで、口をあんぐり空けて目の前の戦いを凝視している。

「……無事か、詩乃」
「英司?!」
「しーっ、静かに!」

 それは詩乃が会いたいと思っていた幼なじみだった。
 見慣れた学生服ではなく、今の彼はエターニアの騎士団に属する制服を着ている。真剣な顔をした英司は、今まで見た中で一番頼もしく見えた。
 上空で戦っている王に気付かれないように、姿勢を低くして木陰に隠れるようにしながら、英司は近づいてくる。

「樹がカノン王を引き付けてくれてるんだ。今の内に脱出するぞ」

 英司に腕を引かれて、詩乃は大人しく立ち上がった。

「シノをどこへ連れていくんだ?!」

 幼い王子は、いきなり詩乃の腰にばっと抱きついた。
 王子にしてみれば英司の方が不審者だから警戒するのは当然のことだ。ぴと虫のように詩乃にくっついた少年の姿に、英司は困った。

「うう、どうすんだよこれ。くそっ、迷ってる暇はねえ」

 少年を詩乃から引き剥がしている時間は無いと判断して、英司はくっついる少年ごと詩乃を小脇に抱えた。猫がひらりと英司の肩によじ登る。

「大人しくしてろよお前ら!」
「えええっ?!」

 驚く詩乃に構わず、英司は少女と少年と猫を抱えて走り出す。
 白い竜に向かって飛ぶ。


 精霊演舞スピリットダンスの下級第二種、跳躍。


 普通のジャンプではあり得ない距離をひと飛びして、英司は白い竜の背中に着地した。
 雷光を防いでいた樹が、声を上げる。

「クレパス、上昇するんだ! ソフィー、炎の矢を! 外れても構わないから」
『了解っす、親分!』
「外しません!」

 白い竜の正体は、イタチの精霊クレパスだ。クレパスは光の翅を広げて上昇する。エルフの少女は身を乗り出すと、炎の矢をつがえて連続で撃った。
 カノン王を狙ったようだが、炎の矢は激しく的を外して周囲の建物に落下した。

「にゃあああっ! 外しちゃいました!」
「そうなるだろうと思ったよ」

 樹はクレパスの背から飛び降りた。
 その瞬間、青年の背に花が綻ぶように八枚の光の翅が開いた。
 ちょうど雷撃が白い竜を追って光の蛇のように迫っている。空中を飛ぶ樹は、手にした精霊武器の剣を雷撃に叩きつける。尾を裂くように雷撃は二つに別れて左右に散った。

「せいっ!」

 振り下ろした剣の先から、緑の光を帯びた風が地上に降りる。
 地上の建物を燃やしていた炎が風に触れた途端に鎮火していく。
 燐光が花びらのように樹の周囲を舞った。

「八枚翅の……精霊……?」

 地上で見上げているカノン王がぽかんと間抜け顔をしている。

「カノン王。いや、日本人の加納清春。これ以上、精霊に手を出すな」
「お前はいったい何者なんだ?」
「僕は……」

 樹はふっと笑った。
 世界樹の精霊と言えば正体がばれて宜しくないだろう。
 精霊の王、最高位の精霊、そう自分から名乗るのは気が引ける。

「精霊の守護者ってところかな」

 そう答えて、素早く上昇する。
 我に返った王が追撃しようとしても届かない高さへと。




 クレパスは英司達を乗せて遥か上空を飛んでいた。
 自前の光の翅で追い付いた樹は、白竜クレパスの頭の横辺りに手をつく。クレパスの背中は、ソフィー、英司、詩乃、アルファード王子が乗っていて定員超過状態だ。樹は無理に白い竜に乗ろうとせず、光の翅を出しっぱなしのまま、自分の身は自分で浮かせることにした。

「お帰りなさい、イツキ!」

 ソフィーが手を振った。

「ヒヤヒヤしたぜ、樹。大丈夫だったか」
「ああ」

 英司は少し心配していたらしく、樹の姿を見て安堵した表情になる。

「これからどうする?」
「エルフの住む森オレイリアへ向かう」

 オレイリアにはソフィーの肉親のエルフ達が住んでいる。それに、オレイリア経由で魔界へ行く方法もあったはずだ。あの単細胞な王様と、短気な死の精霊がぶつかる前に何とかしたい。

「英司、これってどういう状況なの??」

 呆然とする詩乃に、英司が片目をつぶってみせた。

「異世界の冒険って感じがするだろ」
「世界を救う大冒険さ」

 樹は悪戯っぽい笑みを浮かべて追随した。

「一緒に行こう、詩乃さん」

 陽光を浴びて白い毛並みを輝かせながら、竜は雲の間を走り出した。


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