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(第二部)第三章 ここからもう一度
11 虜の庭
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その日、王城の前には多くの人が詰めかけて人混みが出来ていた。
兵糧を積んだ馬車や兵士達。見送りに来ている家族が城を取り囲む。
群衆を見渡せる城のバルコニーで、軍服を着たカノン王が演説をした。
「ツェンベルンは魔族の侵攻を受けた。その報復のため、また人間の脅威となる魔族達に打撃を与えるため、部隊を編成し魔界に遠征することとする! 我々の平和な世界を取り戻すのだ!」
王が腕を振り上げて叫ぶと、民衆が熱狂して歓声をあげた。
「王自ら戦線に赴かれるとは……」
「大丈夫だよ。ちゃんと考えてある」
こうして、カノン王は反対する家臣を振り切り、騎士や兵士と一緒に遠征に出発した。
詩乃は遠征にはついていかなかった。
これまで通り、アルファード王子の侍女のような仕事をしている。
雑用に忙殺されながら、詩乃は密かに悩んでいた。
英司に会いたい。でも、会って何を話そうか。
「……どうしたの、シノ?」
ぼうっとしていた詩乃は、アルファード王子の声で我に返った。
王子は十歳くらいの年頃の可愛らしい少年である。複雑な生まれ育ちだが、その影響を感じさせない天真爛漫な性格をしており、詩乃はこの王子を気に入っていた。
「ねえ、シノ。僕、兄様がいない内に行ってみたい場所があるんだ!」
王子は詩乃の手を引っ張って歩き始める。
詩乃は困ったが、手荒に振り払うことも出来ないので為すがままだ。
「ニャー」
いつも詩乃の側にいる猫が、足元に並んで付いてきている。
幼い王子は、ずんずん王宮の奥の立ち入り禁止エリアに進む。
手を引かれて歩きながら詩乃は、辺りの風景に違和感を覚えていた。道の両端に妙にリアルな、動物を模した石像が立っている。
「この辺りから歌が聞こえてくるんだけど……」
「歌?」
異世界の言葉に慣れていない詩乃だが、歌という単語を聞き取って不思議に思った。
透明なガラスのような板で囲まれた温室に二人は迷い込む。
温室の中には歪な針金の鳥籠があり、人間と同じ大きさの青い鳥が尾羽を垂らして、悲しげに歌っていた。鳥の翼の何枚かはうっすら発光している。
「鳥さんだー」
王子が興味深そうに鳥を見上げた。
「……ここは立ち入り禁止だよ」
突然、王の声がした。
いつの間に来たのか、遠征に出たはずのカノン王がそこに立っている。
「え? どうして」
「瞬間移動のアイテムで、いつでも国に戻って来られるのだ。この温室は私以外の者が入ったら分かるようになっている」
詩乃は慌てて頭を下げた。
「勝手に入ってすみません!」
「さあて、どうしようかな」
不穏な空気をまとう王の姿に、詩乃は嫌な予感を覚える。
猫が詩乃を守るように前に出て唸った。
「ニャー!」
猫の輪郭から光が生まれ、背中に四枚の光の翅が現れる。
その姿を見てカノン王は目を輝かせた。
「おお、精霊だったのか! しかも中位以上じゃないか! 詩乃、その子を掴まえてくれないか。そうしたら君に素敵なアイテムを作ってあげよう!」
「……何を言ってるの?」
詩乃は王の言動に嫌悪を覚えて後ずさる。
彼の言葉は端々に知らない内容を含んでいる。それでも、猫を素材にアイテムを作ろうと言っているのだけは分かった。しかもそれを、詩乃に贈ろうと言っている。
自分が悪趣味なことを言っている自覚は無いのだろうか。
「止めて! ここで見たことは話さないから、猫さんに何もしないで!」
王の視線は光を放って唸る猫に向いている。
詩乃は王の視線から庇うように、しゃがんで猫を抱えようとした。
「逆にしよう、詩乃。その精霊を私にくれるなら、ここに侵入したことは不問にしようじゃないか」
「嫌よ!」
「仕方ないな……これも、レアアイテムのためだ」
王は腰の剣を抜いて、詩乃を片手で押し退け、剣で猫を刺そうとした。さすがに同じ地球人の詩乃を剣で斬るのは抵抗があるらしい。
体格の良い男性に乱暴に身体を押されて、詩乃は尻餅をついた。
目の前で王が猫に向かって剣を振りかぶる。
「やめてーーっ!」
彼女は悲鳴を上げる。
その声に呼応するように、どこからか炎の矢が降って、王と猫の間に割り込んだ。
石畳の上で金色の炎が燃え上がる。
「……女の子をいじめるなんて最低です! お仕置きですぅ!」
「……珍しく狙い通りの場所に矢が飛んだな」
その場で揉めていた王と詩乃、そして脇でおろおろしていたアルファード王子は顔を上げて、炎の矢が飛んできた方向を見る。
「りゅ、竜?」
それは巨大な白い竜のような生き物だった。
滑らかな純白の毛並みに包まれた胴の長い獣が、空に浮いている。温室の壁を一部壊して入って来たらしい。獣の背には、上位の精霊であることを証明する六枚の翅が光を放っている。
竜の背中には二人の人物が乗っていた。
一人は眼鏡の青年。詩乃と同じように地球から来た樹という学生だ。
もう一人は見覚えのない金髪にウサギ耳の少女だ。詩乃は異世界に来て早々に王の庇護下に入ったため、樹の連れであるエルフの少女とは、あまり面識が無かった。ウサギ耳の少女は、金色の炎を発する弓矢を凛々しく構えている。
「上位精霊だと……?!」
我に返った王は、欲望に満ちた目で白い竜を見た。
竜の背に乗っている樹が、眼鏡を指で押し上げながら飄々と言う。
「やあ、カノン王。随分と素敵な庭だね。お邪魔するよ」
兵糧を積んだ馬車や兵士達。見送りに来ている家族が城を取り囲む。
群衆を見渡せる城のバルコニーで、軍服を着たカノン王が演説をした。
「ツェンベルンは魔族の侵攻を受けた。その報復のため、また人間の脅威となる魔族達に打撃を与えるため、部隊を編成し魔界に遠征することとする! 我々の平和な世界を取り戻すのだ!」
王が腕を振り上げて叫ぶと、民衆が熱狂して歓声をあげた。
「王自ら戦線に赴かれるとは……」
「大丈夫だよ。ちゃんと考えてある」
こうして、カノン王は反対する家臣を振り切り、騎士や兵士と一緒に遠征に出発した。
詩乃は遠征にはついていかなかった。
これまで通り、アルファード王子の侍女のような仕事をしている。
雑用に忙殺されながら、詩乃は密かに悩んでいた。
英司に会いたい。でも、会って何を話そうか。
「……どうしたの、シノ?」
ぼうっとしていた詩乃は、アルファード王子の声で我に返った。
王子は十歳くらいの年頃の可愛らしい少年である。複雑な生まれ育ちだが、その影響を感じさせない天真爛漫な性格をしており、詩乃はこの王子を気に入っていた。
「ねえ、シノ。僕、兄様がいない内に行ってみたい場所があるんだ!」
王子は詩乃の手を引っ張って歩き始める。
詩乃は困ったが、手荒に振り払うことも出来ないので為すがままだ。
「ニャー」
いつも詩乃の側にいる猫が、足元に並んで付いてきている。
幼い王子は、ずんずん王宮の奥の立ち入り禁止エリアに進む。
手を引かれて歩きながら詩乃は、辺りの風景に違和感を覚えていた。道の両端に妙にリアルな、動物を模した石像が立っている。
「この辺りから歌が聞こえてくるんだけど……」
「歌?」
異世界の言葉に慣れていない詩乃だが、歌という単語を聞き取って不思議に思った。
透明なガラスのような板で囲まれた温室に二人は迷い込む。
温室の中には歪な針金の鳥籠があり、人間と同じ大きさの青い鳥が尾羽を垂らして、悲しげに歌っていた。鳥の翼の何枚かはうっすら発光している。
「鳥さんだー」
王子が興味深そうに鳥を見上げた。
「……ここは立ち入り禁止だよ」
突然、王の声がした。
いつの間に来たのか、遠征に出たはずのカノン王がそこに立っている。
「え? どうして」
「瞬間移動のアイテムで、いつでも国に戻って来られるのだ。この温室は私以外の者が入ったら分かるようになっている」
詩乃は慌てて頭を下げた。
「勝手に入ってすみません!」
「さあて、どうしようかな」
不穏な空気をまとう王の姿に、詩乃は嫌な予感を覚える。
猫が詩乃を守るように前に出て唸った。
「ニャー!」
猫の輪郭から光が生まれ、背中に四枚の光の翅が現れる。
その姿を見てカノン王は目を輝かせた。
「おお、精霊だったのか! しかも中位以上じゃないか! 詩乃、その子を掴まえてくれないか。そうしたら君に素敵なアイテムを作ってあげよう!」
「……何を言ってるの?」
詩乃は王の言動に嫌悪を覚えて後ずさる。
彼の言葉は端々に知らない内容を含んでいる。それでも、猫を素材にアイテムを作ろうと言っているのだけは分かった。しかもそれを、詩乃に贈ろうと言っている。
自分が悪趣味なことを言っている自覚は無いのだろうか。
「止めて! ここで見たことは話さないから、猫さんに何もしないで!」
王の視線は光を放って唸る猫に向いている。
詩乃は王の視線から庇うように、しゃがんで猫を抱えようとした。
「逆にしよう、詩乃。その精霊を私にくれるなら、ここに侵入したことは不問にしようじゃないか」
「嫌よ!」
「仕方ないな……これも、レアアイテムのためだ」
王は腰の剣を抜いて、詩乃を片手で押し退け、剣で猫を刺そうとした。さすがに同じ地球人の詩乃を剣で斬るのは抵抗があるらしい。
体格の良い男性に乱暴に身体を押されて、詩乃は尻餅をついた。
目の前で王が猫に向かって剣を振りかぶる。
「やめてーーっ!」
彼女は悲鳴を上げる。
その声に呼応するように、どこからか炎の矢が降って、王と猫の間に割り込んだ。
石畳の上で金色の炎が燃え上がる。
「……女の子をいじめるなんて最低です! お仕置きですぅ!」
「……珍しく狙い通りの場所に矢が飛んだな」
その場で揉めていた王と詩乃、そして脇でおろおろしていたアルファード王子は顔を上げて、炎の矢が飛んできた方向を見る。
「りゅ、竜?」
それは巨大な白い竜のような生き物だった。
滑らかな純白の毛並みに包まれた胴の長い獣が、空に浮いている。温室の壁を一部壊して入って来たらしい。獣の背には、上位の精霊であることを証明する六枚の翅が光を放っている。
竜の背中には二人の人物が乗っていた。
一人は眼鏡の青年。詩乃と同じように地球から来た樹という学生だ。
もう一人は見覚えのない金髪にウサギ耳の少女だ。詩乃は異世界に来て早々に王の庇護下に入ったため、樹の連れであるエルフの少女とは、あまり面識が無かった。ウサギ耳の少女は、金色の炎を発する弓矢を凛々しく構えている。
「上位精霊だと……?!」
我に返った王は、欲望に満ちた目で白い竜を見た。
竜の背に乗っている樹が、眼鏡を指で押し上げながら飄々と言う。
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