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(第二部)第四章 光と闇
01 その頃の地球(青葉視点)
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窓際に置かれた鉢植えの、植物の葉が朝日に透けている。
緑を含んだ爽やかな光がベッドに眠る少年を照らした。
枕元で鳴るアラーム音に少年はもぞもぞと起き上がる。
明るく染めた髪と勝ち気で意思が強そうな目元が印象的な少年だ。彼は大きく伸びをして欠伸をすると、面倒そうに着替えを始める。
ふと、何気なく少年は窓際の鉢植えに目をやると、腕を伸ばして指で軽く植物の枝を弾いた。
「……異世界って、マジかよ。樹兄」
今は不在の兄を思い出して呟く。
「青葉ー、早く起きなさい」
「はーい」
部屋の外から世話焼きの母親の声がする。
青葉は適当に返事をして立ち上がった。
もうすっかり目は覚めていた。
各務家の次男、青葉は兄の樹と三歳ほど年が離れている。
樹が失踪してしまってからも、青葉は樹がいなくなる前と同じ生活を続けていた。
それは樹の両親も同じだ。
青葉を通した「異世界に行ってきます」という樹の説明に納得した訳ではないが、本人がいない以上、憶測でものを言っても仕方ない話だ。
中学校に登校した青葉はいつも通り授業を受けた。
授業が終わり、学校から出ようとした青葉は、校門のところに他校生らしき少年がいたので足を止めた。一旦は無視して通り過ぎようとしたところ、声を掛けられる。
「おい、お前、樹の弟?」
兄の名前を呼ばれて、仕方なく立ち止まる。
「誰、あんた?」
青葉は見知らぬ他校の男子生徒を前に首を傾げた。
「け、敬語使えよ! 俺はお前より年上だぞ! 樹と同級生だ」
「ああ、そうなんだ。見えないなー」
その男子生徒は童顔で背も低く、中学生と言っても通じそうだった。だが良く見ると制服が兄と同じだ。本当に年上らしい。
しかし青葉は年上に敬語を使わない主義だった。
「それで、何の用?」
「な、なんか小生意気っつうか、樹の弟の割に可愛くないというか」
「良く言われるよ。ところでお兄さん、用がないなら俺は帰りたいんだけど」
要領を得ない会話に、青葉はちょっと苛々した。
すると男子生徒の後ろから髪の長い大人びた女子生徒が現れる。
「ごめんね、青葉君。ちょっとお兄さんのことで話したいことがあって」
「分かりました」
綺麗なお姉さんの登場に青葉は即答した。
「てめっ、俺と態度が違うじゃねえか!」
「女性には優しくがモットーですから」
「お前、本当に樹の弟かあ? いや、あいつの弟らしいって言えばそうなんだけどよ。偉そうなところとか」
「良く言われるよ」
青葉は年上二人に先導されるまま付いて行って、駅前にあるハンバーガーショップに入った。
男子生徒の名前は、梶浦智輝、女子生徒の名前は北川結菜というらしい。
「青葉君は、お兄さんのこと、どこまで知ってるの?」
冷たいドリンクカップの蓋にストローを差しながら、結菜の問に、青葉は話の内容を察する。
「ああ……異世界のことですか」
「って、軽いよ!」
智輝はほとんど逆ギレの勢いで突っ込んだ。
青葉は「元気な人だな」と密かに呆れる。
「樹君がいつ帰ってくるか、聞いてる?」
「いいえ。あの兄のことだから、散々寄り道してるんじゃないですか」
メロンソーダをストローでかき混ぜながら、青葉は答えた。
あの兄は、見知らぬお婆さんの荷物を持ちながら道を聞くお姉さんの対応をしたり、とにかく色々お人好しなのだ。
「そうか……」
「気になるなら、追いかければいいじゃないですか」
肩を落とす智輝に、青葉は淡々と言う。
異世界の話をする時点で、目の前の二人も向こうに行く手段を持っているだろうと察しての発言だ。
「だけど……俺はもう、勇者じゃない」
「はあ?」
漫画かゲームの話をしているのだろうか、と青葉は一瞬思った。
「家族を放って異世界へ行く理由が無いだろ」
「友達が心配だから迎えに行く、ってのは理由にはならないんですか?」
目の前の年上の男は、何か苦悩しているらしい。
だが青葉にとっては答えはとても簡単だった。
「ただ行きたい、でもいいじゃないですか。何をうじうじ悩んでるんですか? 見ていて面倒くさいですよ」
「は、はっきり言うわね……」
結菜は正直な青葉におののいている。
「そっか。……そうだよな。よし、俺は樹を迎えに異世界へ行く」
智輝は顔を上げて決意した表情になった。
隣の結菜は嬉しそうにしている。
なんとなく二人は付き合っているのだろうか、と青葉は気になった。
「……結局、俺に何のご用でしょうか」
「樹君が出て行った時、ハプニングがあって充分に話せないままだったの。だから樹君の家族はどうしてるのかな、って気になって」
「ふーん」
青葉が改めて問うと、結菜が目的について話してくれる。
気のない返事をする青葉を、智輝が不思議そうな顔で見た。
「ふーん、ってそれだけか。もっとこう、驚いたり、色々聞いてきたり……」
「樹兄のすることだから」
どうせあの兄は好きなように行動するに決まってるのだ。各務家の家族は皆好き勝手に生きるタイプだから、青葉にとって兄の行動自体には疑問はない。さすがに異世界というのは、驚いたが。
「あ、異世界に迎えに行くっていうんなら、手紙書くから樹兄に渡してくれません?」
「手紙?」
「恨みつらみをぎっしり書きこんでやるんだ」
沢山、文句を言いたいことがある。
笑顔でそう言って年上二人に依頼すると「お前、やっぱり樹の弟だわ」と言われた。
失礼な。俺は樹兄と違って、いたって常識人だぞ。
緑を含んだ爽やかな光がベッドに眠る少年を照らした。
枕元で鳴るアラーム音に少年はもぞもぞと起き上がる。
明るく染めた髪と勝ち気で意思が強そうな目元が印象的な少年だ。彼は大きく伸びをして欠伸をすると、面倒そうに着替えを始める。
ふと、何気なく少年は窓際の鉢植えに目をやると、腕を伸ばして指で軽く植物の枝を弾いた。
「……異世界って、マジかよ。樹兄」
今は不在の兄を思い出して呟く。
「青葉ー、早く起きなさい」
「はーい」
部屋の外から世話焼きの母親の声がする。
青葉は適当に返事をして立ち上がった。
もうすっかり目は覚めていた。
各務家の次男、青葉は兄の樹と三歳ほど年が離れている。
樹が失踪してしまってからも、青葉は樹がいなくなる前と同じ生活を続けていた。
それは樹の両親も同じだ。
青葉を通した「異世界に行ってきます」という樹の説明に納得した訳ではないが、本人がいない以上、憶測でものを言っても仕方ない話だ。
中学校に登校した青葉はいつも通り授業を受けた。
授業が終わり、学校から出ようとした青葉は、校門のところに他校生らしき少年がいたので足を止めた。一旦は無視して通り過ぎようとしたところ、声を掛けられる。
「おい、お前、樹の弟?」
兄の名前を呼ばれて、仕方なく立ち止まる。
「誰、あんた?」
青葉は見知らぬ他校の男子生徒を前に首を傾げた。
「け、敬語使えよ! 俺はお前より年上だぞ! 樹と同級生だ」
「ああ、そうなんだ。見えないなー」
その男子生徒は童顔で背も低く、中学生と言っても通じそうだった。だが良く見ると制服が兄と同じだ。本当に年上らしい。
しかし青葉は年上に敬語を使わない主義だった。
「それで、何の用?」
「な、なんか小生意気っつうか、樹の弟の割に可愛くないというか」
「良く言われるよ。ところでお兄さん、用がないなら俺は帰りたいんだけど」
要領を得ない会話に、青葉はちょっと苛々した。
すると男子生徒の後ろから髪の長い大人びた女子生徒が現れる。
「ごめんね、青葉君。ちょっとお兄さんのことで話したいことがあって」
「分かりました」
綺麗なお姉さんの登場に青葉は即答した。
「てめっ、俺と態度が違うじゃねえか!」
「女性には優しくがモットーですから」
「お前、本当に樹の弟かあ? いや、あいつの弟らしいって言えばそうなんだけどよ。偉そうなところとか」
「良く言われるよ」
青葉は年上二人に先導されるまま付いて行って、駅前にあるハンバーガーショップに入った。
男子生徒の名前は、梶浦智輝、女子生徒の名前は北川結菜というらしい。
「青葉君は、お兄さんのこと、どこまで知ってるの?」
冷たいドリンクカップの蓋にストローを差しながら、結菜の問に、青葉は話の内容を察する。
「ああ……異世界のことですか」
「って、軽いよ!」
智輝はほとんど逆ギレの勢いで突っ込んだ。
青葉は「元気な人だな」と密かに呆れる。
「樹君がいつ帰ってくるか、聞いてる?」
「いいえ。あの兄のことだから、散々寄り道してるんじゃないですか」
メロンソーダをストローでかき混ぜながら、青葉は答えた。
あの兄は、見知らぬお婆さんの荷物を持ちながら道を聞くお姉さんの対応をしたり、とにかく色々お人好しなのだ。
「そうか……」
「気になるなら、追いかければいいじゃないですか」
肩を落とす智輝に、青葉は淡々と言う。
異世界の話をする時点で、目の前の二人も向こうに行く手段を持っているだろうと察しての発言だ。
「だけど……俺はもう、勇者じゃない」
「はあ?」
漫画かゲームの話をしているのだろうか、と青葉は一瞬思った。
「家族を放って異世界へ行く理由が無いだろ」
「友達が心配だから迎えに行く、ってのは理由にはならないんですか?」
目の前の年上の男は、何か苦悩しているらしい。
だが青葉にとっては答えはとても簡単だった。
「ただ行きたい、でもいいじゃないですか。何をうじうじ悩んでるんですか? 見ていて面倒くさいですよ」
「は、はっきり言うわね……」
結菜は正直な青葉におののいている。
「そっか。……そうだよな。よし、俺は樹を迎えに異世界へ行く」
智輝は顔を上げて決意した表情になった。
隣の結菜は嬉しそうにしている。
なんとなく二人は付き合っているのだろうか、と青葉は気になった。
「……結局、俺に何のご用でしょうか」
「樹君が出て行った時、ハプニングがあって充分に話せないままだったの。だから樹君の家族はどうしてるのかな、って気になって」
「ふーん」
青葉が改めて問うと、結菜が目的について話してくれる。
気のない返事をする青葉を、智輝が不思議そうな顔で見た。
「ふーん、ってそれだけか。もっとこう、驚いたり、色々聞いてきたり……」
「樹兄のすることだから」
どうせあの兄は好きなように行動するに決まってるのだ。各務家の家族は皆好き勝手に生きるタイプだから、青葉にとって兄の行動自体には疑問はない。さすがに異世界というのは、驚いたが。
「あ、異世界に迎えに行くっていうんなら、手紙書くから樹兄に渡してくれません?」
「手紙?」
「恨みつらみをぎっしり書きこんでやるんだ」
沢山、文句を言いたいことがある。
笑顔でそう言って年上二人に依頼すると「お前、やっぱり樹の弟だわ」と言われた。
失礼な。俺は樹兄と違って、いたって常識人だぞ。
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