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(第二部)第四章 光と闇
08 果たすべき役割
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オレイリアの森はエターニア王国から南下した場所にある。
この森の北の方に岩が円形に並んだ場所があり、そこが魔界への出入り口になっていることは、魔法や歴史に詳しい者は知っていることだった。なぜなら、そこから現れた魔族達がロステン王国とセイファート帝国を滅ぼしたのだから。
夜になると森の周囲にアンデットモンスターが現れるのも、その名残である。
魔界に遠征して魔王を討ち取ろうとするエターニアの者達も、まさにその場所を目指して進軍していたのだ。
王都と瞬時に行き来できるテレポートの魔道具を使って、カノン王は遠征軍と共に進んでいた。食料などの物資もテレポートの魔道具を応用して運搬すれば良い。彼らは樹達の想像以上に早くオレイリアの近くに来ていた。
「おお、あれがオレイリアの森か! 精霊がたくさんいるらしいな」
「カノン王、エルフが内部から結界を張っているので、中には入れませんよ」
「結界? そんなもの……壊せばいいじゃないか」
精霊魔法に詳しい部下の進言を、カノン王は無邪気に遮って言う。
「あの森は宝の宝庫だ。精霊がたくさんいる! 見逃さない手はない。魔界に行く前に、魔晶石を集めてレベリングしようじゃないか」
この世界の者には分からない言葉を織り交ぜて、カノン王は笑った。
部下が怪訝そうにするも、カノン王は気付いていない。
彼は地球では普通のサラリーマンだった。
うだつの上がらない、管理職未満の仕事をしていた。上に立ったことはない。ゆえに、下のものが何を考えているか、本当の管理職が何をするか知らない。
異世界は、彼が趣味で遊んでいたゲームの延長線上にある。
選ばれし勇者のカノンは人々に崇拝され、王として祭り上げられ、すっかりこの世界を「何もかもが上手くいくゲームの世界」と錯覚してしまっていた。
けして馬鹿ではないエターニア王国の兵士たちが、王の挙動に不信感を持っていたとしても……それ自体、カノンもとい加納清春には想像の及ばぬことであった。
森を覆う結界の揺らぎに、エルフ達はざわめいた。
ちょうど樹とソフィーは旅立つ前だった。昼に出て、夜にオレイリアの北にある奇石群に行ってそこから魔界へ渡るつもりだったのだ。
「……セリエラ様! 人間の一団が結界を破ろうとしています!」
「乱暴な奴らだねえ」
「これだから人間どもは!」
真昼から夕方に移る前の刻限。
まだ青い空に火花が走る。鳥たちが異変を感じて羽ばたいた。
空を見上げるセリエラの表情は険しい。
里の中央で里長ソレイユとエルフ達が騒いでいる。
「人間の一団……まさか」
『そのまさかじゃよ』
様子を見ている樹のもとに、フクロウが舞い降りる。
上空から状況を観察してきたらしい。
『エターニアの遠征軍じゃ。近くに来ておる』
樹達は顔を見合わせた。
このままではエルフ達とエターニアの人間達の全面戦争になりかねない。
「……俺が出る。あんた達エルフの代わりに、エターニアの奴らと話をする」
進み出たのは、英司だった。
彼は里の往来で騒いでいるエルフ達をかき分け、ソレイユの前に出る。
里長ソレイユは目を見張った。
「人間が何を……」
「人間だからだよ。それにこちらにはアルファード王子もいる。誤解されるかもしれないが話す価値はある」
「ぼ、僕?!」
「王子様なんだろ! だったら、お前の役割を果たせ!」
英司の叱咤に、アルファードはびくりと硬直する。
少し唐突に厳しいことを言い過ぎているかもしれない、と樹は感じた。
「アルファード王子。このままではエルフと人間が争うことになる。君は、ソフィーやセリエラさんが嫌いかい?」
樹が腰をかがめて、戸惑う少年の顔を覗き込んだ。
優しい声で語り掛ける。
「精霊はどうだった? 君が触った精霊は魔物だったかな。もし君が、精霊が魔物ではないと、エルフが敵ではないと思うのなら、皆が争わないために力を貸して欲しい」
「イツキ……」
「君がやりたくなかったら、別にいいけど」
湖面のように凪いだ樹の声と視線に、アルファードは混乱していた気持ちが落ち着くのを感じる。
少年は自分を見るエルフ達と樹達の視線を受け止める。
そして、ゆっくり頷いた。
「し、仕方ないな」
それは少年の精一杯の強がりだった。
まだ変声していない少年の声は揺れている。
樹は少年の勇気を好ましく思った。
「ありがとう」
感謝の気持ちを伝えて、立ち上がる。
ことの成り行きに困惑しているエルフ達、その代表である里長ソレイユが問いかけてくる。
「お前達は、いったい何者だ?」
その問に、樹と英司は顔を見合わせて頷きかわす。
まだ樹が表に出る必要はない。
樹は一歩下がり、英司が前に出て名乗る。
「俺は、かつてセイファート帝国で召喚された勇者だ。彼はエターニアの王子。俺達が外の人間達と話す。だから、頼むから、人間を嫌いにならないでくれ」
エルフ達がどよめいた。
人間より寿命が長い彼等は、勇者についてもよく知っている。オレイリアの森は過去に勇者によって助けられたことが何度かある。
英司の名乗りと嘆願の言葉は、エルフ達の心に響いた。
「……そうか。エイジという名前に聞き覚えがあったと思ったら、セイファート帝国の、氷剣の勇者か」
なんだ「氷剣の勇者」って。樹はこっそり英司の横顔を見る。英司の頬が引きつっていた。きっと内心では恥ずかしい二つ名で呼ぶなと絶叫していることだろう。
「分かった。君達に、すべてを託そう」
里長ソレイユが言い、エルフ達が頷く。
こうして英司はアルファード王子と一緒に、森に押し入ろうとしているエターニアの遠征軍の前に出ることになった。
この森の北の方に岩が円形に並んだ場所があり、そこが魔界への出入り口になっていることは、魔法や歴史に詳しい者は知っていることだった。なぜなら、そこから現れた魔族達がロステン王国とセイファート帝国を滅ぼしたのだから。
夜になると森の周囲にアンデットモンスターが現れるのも、その名残である。
魔界に遠征して魔王を討ち取ろうとするエターニアの者達も、まさにその場所を目指して進軍していたのだ。
王都と瞬時に行き来できるテレポートの魔道具を使って、カノン王は遠征軍と共に進んでいた。食料などの物資もテレポートの魔道具を応用して運搬すれば良い。彼らは樹達の想像以上に早くオレイリアの近くに来ていた。
「おお、あれがオレイリアの森か! 精霊がたくさんいるらしいな」
「カノン王、エルフが内部から結界を張っているので、中には入れませんよ」
「結界? そんなもの……壊せばいいじゃないか」
精霊魔法に詳しい部下の進言を、カノン王は無邪気に遮って言う。
「あの森は宝の宝庫だ。精霊がたくさんいる! 見逃さない手はない。魔界に行く前に、魔晶石を集めてレベリングしようじゃないか」
この世界の者には分からない言葉を織り交ぜて、カノン王は笑った。
部下が怪訝そうにするも、カノン王は気付いていない。
彼は地球では普通のサラリーマンだった。
うだつの上がらない、管理職未満の仕事をしていた。上に立ったことはない。ゆえに、下のものが何を考えているか、本当の管理職が何をするか知らない。
異世界は、彼が趣味で遊んでいたゲームの延長線上にある。
選ばれし勇者のカノンは人々に崇拝され、王として祭り上げられ、すっかりこの世界を「何もかもが上手くいくゲームの世界」と錯覚してしまっていた。
けして馬鹿ではないエターニア王国の兵士たちが、王の挙動に不信感を持っていたとしても……それ自体、カノンもとい加納清春には想像の及ばぬことであった。
森を覆う結界の揺らぎに、エルフ達はざわめいた。
ちょうど樹とソフィーは旅立つ前だった。昼に出て、夜にオレイリアの北にある奇石群に行ってそこから魔界へ渡るつもりだったのだ。
「……セリエラ様! 人間の一団が結界を破ろうとしています!」
「乱暴な奴らだねえ」
「これだから人間どもは!」
真昼から夕方に移る前の刻限。
まだ青い空に火花が走る。鳥たちが異変を感じて羽ばたいた。
空を見上げるセリエラの表情は険しい。
里の中央で里長ソレイユとエルフ達が騒いでいる。
「人間の一団……まさか」
『そのまさかじゃよ』
様子を見ている樹のもとに、フクロウが舞い降りる。
上空から状況を観察してきたらしい。
『エターニアの遠征軍じゃ。近くに来ておる』
樹達は顔を見合わせた。
このままではエルフ達とエターニアの人間達の全面戦争になりかねない。
「……俺が出る。あんた達エルフの代わりに、エターニアの奴らと話をする」
進み出たのは、英司だった。
彼は里の往来で騒いでいるエルフ達をかき分け、ソレイユの前に出る。
里長ソレイユは目を見張った。
「人間が何を……」
「人間だからだよ。それにこちらにはアルファード王子もいる。誤解されるかもしれないが話す価値はある」
「ぼ、僕?!」
「王子様なんだろ! だったら、お前の役割を果たせ!」
英司の叱咤に、アルファードはびくりと硬直する。
少し唐突に厳しいことを言い過ぎているかもしれない、と樹は感じた。
「アルファード王子。このままではエルフと人間が争うことになる。君は、ソフィーやセリエラさんが嫌いかい?」
樹が腰をかがめて、戸惑う少年の顔を覗き込んだ。
優しい声で語り掛ける。
「精霊はどうだった? 君が触った精霊は魔物だったかな。もし君が、精霊が魔物ではないと、エルフが敵ではないと思うのなら、皆が争わないために力を貸して欲しい」
「イツキ……」
「君がやりたくなかったら、別にいいけど」
湖面のように凪いだ樹の声と視線に、アルファードは混乱していた気持ちが落ち着くのを感じる。
少年は自分を見るエルフ達と樹達の視線を受け止める。
そして、ゆっくり頷いた。
「し、仕方ないな」
それは少年の精一杯の強がりだった。
まだ変声していない少年の声は揺れている。
樹は少年の勇気を好ましく思った。
「ありがとう」
感謝の気持ちを伝えて、立ち上がる。
ことの成り行きに困惑しているエルフ達、その代表である里長ソレイユが問いかけてくる。
「お前達は、いったい何者だ?」
その問に、樹と英司は顔を見合わせて頷きかわす。
まだ樹が表に出る必要はない。
樹は一歩下がり、英司が前に出て名乗る。
「俺は、かつてセイファート帝国で召喚された勇者だ。彼はエターニアの王子。俺達が外の人間達と話す。だから、頼むから、人間を嫌いにならないでくれ」
エルフ達がどよめいた。
人間より寿命が長い彼等は、勇者についてもよく知っている。オレイリアの森は過去に勇者によって助けられたことが何度かある。
英司の名乗りと嘆願の言葉は、エルフ達の心に響いた。
「……そうか。エイジという名前に聞き覚えがあったと思ったら、セイファート帝国の、氷剣の勇者か」
なんだ「氷剣の勇者」って。樹はこっそり英司の横顔を見る。英司の頬が引きつっていた。きっと内心では恥ずかしい二つ名で呼ぶなと絶叫していることだろう。
「分かった。君達に、すべてを託そう」
里長ソレイユが言い、エルフ達が頷く。
こうして英司はアルファード王子と一緒に、森に押し入ろうとしているエターニアの遠征軍の前に出ることになった。
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