異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第四章 光と闇

09 決闘

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 オレイリアに侵入しようとしているエターニアの軍勢は、空から降りてくる生き物に気付いて声を上げた。

「なんだあれは……白い……竜?!」

 それは巨大化した白いイタチの精霊だった。
 背中には王子と英司が乗っている。
 エターニアの人々は困惑して白い竜を見上げる。地球の日本では白い生き物は縁起が良く、竜は人間の味方に描かれることが多いが、この世界でも白は神聖さを現す色だった。
 精霊は魔物だという認識もあるとは言え、白い竜は魔物扱いするには余りにも神々しい。

「あ、あれはこの前の上位精霊!」

 六枚の光の翅を広げた竜の姿に、カノン王は喜色満面となる。
 その視線に気付いた英司は顔をしかめた。
 王子より精霊の方を見ている。

「探していたんだぞ。向こうから現れるなんて都合がいい」
「兄様!」
「おや? アルファードじゃないか」

 声でようやく、背に乗っているアルファードに気付いた。
 ちなみに、叔父上だとか陛下だとか呼ばれたくないという酷く個人的な理由で、カノン王はアルファードに自分を兄と呼ばせている。

「兄様、止めてください! この森にはエルフが住んでいるのです! 彼等の領地を脅かすようなことは」
「アルファード、その竜はお前が捕まえたのか? 譲ってくれないか」

 カノン王はアルファードの言葉の内容をろくに聞いていない。
 どこまでも無邪気である。
 こんな人物が王で大丈夫かと、英司はエターニアの未来を心配してしまう。

 今までカノン王がうまくいっていたのは、魔物が優勢の今のこの世界では国を広げるだけで良かったからだ。他の国と交渉したり、領土を奪い合うような人間同士の争う機会は無かった。
 魔物相手に力押ししていれば、便利なアイテムで国土を開拓すれば、それだけで国民は納得して付いてきた。そこには人間同士の知略戦や駆け引きは必要なく、気品も品格も不要だった。

「兄様、竜じゃなくて、精霊です。そうじゃなくて、オレイリアの森に手を出さないで下さい。ここに生きる者の生活が……」

 アルファードはとてもまともな事を言っている。
 王の側で控える家臣達の中には、誘拐された王子がどうして突然現れて話し出したのか、疑問に思う者もいた。
 しかし精霊に夢中になっている王と、説得しようとしている王子、目の前の竜が敵か判断しかねている王の部下達、それぞれがどうしようもなく食い違ってしまっている。

「もういい」

 英司は噛み合わない会話を遮った。
 話が通じないなら、相手に合わせるまでだ。

「カノン王、この白い竜は俺のものだ。欲しいなら俺と決闘しろ。あんたが勝ったら、竜はやろう」
「エイジさん?!」
「その代わり、俺が勝ったらオレイリアの森から出て行け!」

 驚く王子を押し退けて宣言する。
 カノン王は目を輝かせた。
 このぐらい単純な方が分かりやすいらしい。

「ようし、その決闘、受けて立つ!」

 意気揚々と剣を抜く王に、英司は溜め息を吐いた。
 白い竜から飛び降りるのと同時に精霊武器スピリットアームを召喚する。氷の刃を持つ双剣がその手に現れた。

「なんだかなあ。天空神ラフテルも何だってこんな阿呆を勇者に選んだんだ。追い詰められて間違ったのか」
「何だと」

 英司の言葉に、カノン王はムッとする。
 馬鹿にされていることは分かったようだ。

「NPCの分際で生意気だぞ!」
「あ? あんたここがゲームの世界だと思ってるのか?」
「……そういえば、見覚えがあると思ったら、君は地球から来たんだっけな」

 近くで英司の顔を見たカノン王は、英司のことを思い出したようだ。
 ゲーム用語が通じることに気付いて調子を変える。

「だが単に地球から迷い込んだだけでは、神の加護を受けた私の敵じゃない。ここはゲームの世界じゃない、と君にそのまま返そう」

 自分は勇者だ。
 そう自信たっぷりに宣う王に、英司は目を細めた。

「あんた、同じ勇者と戦ったことはないのか?」
「勇者は世界に一人だろう」
「ああ、なるほど。そういう設定だと思ってるのか。ははっ」

 英司は失笑を漏らした。

「何がおかしい!」
「残念だったな。神は勇者を何人でも召喚できる。俺は百年程前のセイファート帝国で召喚された勇者だ」
「まさか。そんな話は天空神から聞いてないぞ」
「あの神様は都合の悪いことは言わないからな……仕方ない。先輩として、馬鹿な後輩に勇者の戦い方ってやつを教えてやるよ」

 強い冷気が、英司の踏みしめた後の大地を凍てつかせる。
 霜柱を踏みしめながら、氷剣の勇者は優雅に双剣を舞わせる。
 鋭い氷の針が敵に向かって雨のように降り注いだ。




 少し離れたところから樹は仲間達と戦いを見守っていた。
 英司は果敢に攻めているが、カノン王の周囲に自動的に精霊の力による防壁が展開されるため、決定打を与えられずにいる。防壁は精霊魔法ではなく、何か道具を使った力のようだ。
 時折カノン王から放たれる雷を、英司は水の壁を避雷針代わりに使ってうまく防いでいる。
 英司の攻撃は鋭いが軽い。相手を叩き潰す威力には欠ける。
 そしてカノン王は技術も知略もないが馬力だけはあるようだ。雷撃も防壁も力強く、途切れる様子が無い。
 戦いは予想外に長引いていた。

「英司は大丈夫なの?」

 詩乃が不安そうに胸の前で手を組む。
 樹は指の先で眼鏡を撫でた。

「本当は英司の方が強いんだがな。カノン王は何かアイテムを使ってズルをしている」
「ズルって」
「とは言え、英司なら時間を掛ければ何とかするだろう。問題はその時間が無いことだ」

 樹は空を見上げた。
 昼の光は陰って夕闇が迫りつつある。
 黄昏時たそがれどきの冷たい風が身体を撫でる。ぞわりと戦慄を覚えて詩乃は肩をすくめた。同時に樹の言葉の意味を悟る。

「まさか……」
「そうだ。夜になれば」

 夜になれば、生命無き魔物の群れがオレイリアを席巻せっけんする。



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