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(第二部)第四章 光と闇
07 魔法を使いたい
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エルフの里長ソレイユの訪問で起こされた樹達は、それぞれ身支度を整えてセリエラの家のダイニングに集まった。
朝食の時間である。
木の実やナッツを練り込んだパンと、レモンの香りがするお茶が食卓に並んでいる。
「……英司、ずるい。私も精霊魔法が使えるようになりたい」
昨夜の英司の雄姿を目撃した詩乃は、朝からぶつぶつ言っている。
「僕も魔法を使いたい……」
アルファード王子も頬を膨らませて、すっかりただのお子様になっていた。
「精霊魔法か。エイジに教えてもらえば良いじゃないか。私の見たところ、エイジは上級の精霊演武まで使えるようだ。人間では珍しい」
セリエラは英司を見てほほ笑んだ。
一方の英司は渋い顔だ。
「どうせ地球に帰るんだから、精霊魔法なんて必要ないだろ」
「何それ?! 私、地球には帰らない! 異世界でスローライフを満喫するんだから!」
「は?! ちょ、お前いい加減にしろよ詩乃!」
「英司の癖に私に指図しないで! 樹君に英司の黒歴史を聞いちゃうわよ!」
指を突き付けて叫ぶ詩乃に、英司はぎぎぎっと首を回して樹を見る。
「樹……」
「まあ、なんだその……いいんじゃないか、異世界に定住しても」
「いいわけないだろ! 何言ってるんだお前も!」
常識人を自称する英司は憤った様子で叫ぶ。
にわかに口喧嘩の雰囲気になってきた食卓に、セリエラは「元気な子たちだね」と笑い、ソフィーは「修羅場ですぅ」と興味津々だ。
「地球にいた時も外国に留学してそのままそっちに定住する人もいただろ。それが異世界になって、ちょっと遠くなっただけじゃないか」
「ちょっとか?」
英司は納得できないらしく渋い顔だ。
ティーカップを持ち上げながら、樹は続けた。
「だいたい、英司。君はこの世界では並ぶ者のない氷の精霊魔法の使い手じゃないか。地球よりこっちの方が生きやすいし、詩乃さんも守りやすいだろう」
「う……」
「地球でサラリーマンをするより、こっちで精霊魔法の研究していた方が楽しいと思うが」
樹は人間と契約する上位精霊が少ないことを知っている。
勇者だからと言って、上位精霊は軽々しく契約をしたりしない。やはり相性の良し悪しがある。英司は元勇者だということを別にしても、珍しい上位精霊との契約者で上級の精霊演舞の使い手なのだ。
樹の指摘に、英司は痛いところを突かれたようによろめく。
「確かに、異世界でずっと暮らしていけたらいいなー、と思わないでもないが」
「だろ?」
英司は頭を抱えて悩んでいる。
「……どうしたいか、オレイリアでゆっくり考えて決めたらいいさ。君達が考えている間に僕は魔界に行ってくるとするよ」
樹が落ち着いた声で締めくくるように言った。
ソフィーが慌てて立ち上がる。
「私も樹と一緒に行く! 絶対一緒に行くんだもん、置いていかないで!」
「はいはい」
樹は危険の多そうな魔界へ、詩乃や王子を連れていくつもりはなかった。英司は詩乃と一緒にいたいだろうし、そうなると同行者はソフィーのみになるだろう。
百年の月日のうちに魔界へのゲートの位置は変わってしまった。
現在の魔界へのゲートは、オレイリアの森の北で満月の晩に開くのだという。
満月は明後日だ。
樹とソフィーは旅の準備を、それ以外の面々はエルフの里で樹達の帰りを待つことになった。
朝食の後、アルファード王子は泊まっていた部屋の中を駆け回って何か探していた。
ベッドの下を覗き込んだり棚の裏を見たりする王子様の姿に、詩乃はどうしたのだろうかと不思議に思う。
「アルファード様、どうしたの?」
「イタチがいないのだ……」
王子は樹に手渡されたイタチの精霊を思いのほか気に入ったようだ。
今朝から姿が見えないので探していたらしい。
「ああ、あの精霊なら元いたところに帰ったんじゃないか。精霊は本体から離れて長い間行動できないんだよ」
通りかかった英司が説明した。
精霊とは自然の木や泉に宿るもので、宿ったものを離れられない。精霊魔法の使い手と契約を結べば、いつでも手元に召喚できるようになる。
アルファードは思い悩むような表情で少し黙ると、意を決したように顔を上げ英司に訴えた。
「どうやったら、また会えるのだ?」
「精霊魔法の使い手になれば呼び出せるが……」
「魔法の使い方を教えてくれ!」
断る理由はないので、英司は精霊魔法の初歩について、王子に説明し始める。
「まずは自然に宿る精霊の意思を感じるところから……っておい!」
「自然か! 外に出ればよいのだな!」
アルファードは精霊を探して家の外へ飛び出した。
急いで詩乃も王子を追いかける。
エルフの里は昼間でも薄暗い。
日光を木の枝葉が遮って、丸い木漏れ日がそこかしこに落ちている。
道の左右に小さな露店が出ていてエルフ達が往来していた。
「人間か」
「……」
エルフ達は詩乃や王子を見て、顔をしかめる。
面と向かって出ていけとは言われないが嫌な雰囲気だ。
穏やかな気性のエルフ達は、セリエラの客人である樹達を部外者だからといって攻撃しなかった。しかし、積極的に関わってもこない。
微妙な雰囲気のまま二日が過ぎ、樹とソフィーが旅立つ前日になった。
朝食の時間である。
木の実やナッツを練り込んだパンと、レモンの香りがするお茶が食卓に並んでいる。
「……英司、ずるい。私も精霊魔法が使えるようになりたい」
昨夜の英司の雄姿を目撃した詩乃は、朝からぶつぶつ言っている。
「僕も魔法を使いたい……」
アルファード王子も頬を膨らませて、すっかりただのお子様になっていた。
「精霊魔法か。エイジに教えてもらえば良いじゃないか。私の見たところ、エイジは上級の精霊演武まで使えるようだ。人間では珍しい」
セリエラは英司を見てほほ笑んだ。
一方の英司は渋い顔だ。
「どうせ地球に帰るんだから、精霊魔法なんて必要ないだろ」
「何それ?! 私、地球には帰らない! 異世界でスローライフを満喫するんだから!」
「は?! ちょ、お前いい加減にしろよ詩乃!」
「英司の癖に私に指図しないで! 樹君に英司の黒歴史を聞いちゃうわよ!」
指を突き付けて叫ぶ詩乃に、英司はぎぎぎっと首を回して樹を見る。
「樹……」
「まあ、なんだその……いいんじゃないか、異世界に定住しても」
「いいわけないだろ! 何言ってるんだお前も!」
常識人を自称する英司は憤った様子で叫ぶ。
にわかに口喧嘩の雰囲気になってきた食卓に、セリエラは「元気な子たちだね」と笑い、ソフィーは「修羅場ですぅ」と興味津々だ。
「地球にいた時も外国に留学してそのままそっちに定住する人もいただろ。それが異世界になって、ちょっと遠くなっただけじゃないか」
「ちょっとか?」
英司は納得できないらしく渋い顔だ。
ティーカップを持ち上げながら、樹は続けた。
「だいたい、英司。君はこの世界では並ぶ者のない氷の精霊魔法の使い手じゃないか。地球よりこっちの方が生きやすいし、詩乃さんも守りやすいだろう」
「う……」
「地球でサラリーマンをするより、こっちで精霊魔法の研究していた方が楽しいと思うが」
樹は人間と契約する上位精霊が少ないことを知っている。
勇者だからと言って、上位精霊は軽々しく契約をしたりしない。やはり相性の良し悪しがある。英司は元勇者だということを別にしても、珍しい上位精霊との契約者で上級の精霊演舞の使い手なのだ。
樹の指摘に、英司は痛いところを突かれたようによろめく。
「確かに、異世界でずっと暮らしていけたらいいなー、と思わないでもないが」
「だろ?」
英司は頭を抱えて悩んでいる。
「……どうしたいか、オレイリアでゆっくり考えて決めたらいいさ。君達が考えている間に僕は魔界に行ってくるとするよ」
樹が落ち着いた声で締めくくるように言った。
ソフィーが慌てて立ち上がる。
「私も樹と一緒に行く! 絶対一緒に行くんだもん、置いていかないで!」
「はいはい」
樹は危険の多そうな魔界へ、詩乃や王子を連れていくつもりはなかった。英司は詩乃と一緒にいたいだろうし、そうなると同行者はソフィーのみになるだろう。
百年の月日のうちに魔界へのゲートの位置は変わってしまった。
現在の魔界へのゲートは、オレイリアの森の北で満月の晩に開くのだという。
満月は明後日だ。
樹とソフィーは旅の準備を、それ以外の面々はエルフの里で樹達の帰りを待つことになった。
朝食の後、アルファード王子は泊まっていた部屋の中を駆け回って何か探していた。
ベッドの下を覗き込んだり棚の裏を見たりする王子様の姿に、詩乃はどうしたのだろうかと不思議に思う。
「アルファード様、どうしたの?」
「イタチがいないのだ……」
王子は樹に手渡されたイタチの精霊を思いのほか気に入ったようだ。
今朝から姿が見えないので探していたらしい。
「ああ、あの精霊なら元いたところに帰ったんじゃないか。精霊は本体から離れて長い間行動できないんだよ」
通りかかった英司が説明した。
精霊とは自然の木や泉に宿るもので、宿ったものを離れられない。精霊魔法の使い手と契約を結べば、いつでも手元に召喚できるようになる。
アルファードは思い悩むような表情で少し黙ると、意を決したように顔を上げ英司に訴えた。
「どうやったら、また会えるのだ?」
「精霊魔法の使い手になれば呼び出せるが……」
「魔法の使い方を教えてくれ!」
断る理由はないので、英司は精霊魔法の初歩について、王子に説明し始める。
「まずは自然に宿る精霊の意思を感じるところから……っておい!」
「自然か! 外に出ればよいのだな!」
アルファードは精霊を探して家の外へ飛び出した。
急いで詩乃も王子を追いかける。
エルフの里は昼間でも薄暗い。
日光を木の枝葉が遮って、丸い木漏れ日がそこかしこに落ちている。
道の左右に小さな露店が出ていてエルフ達が往来していた。
「人間か」
「……」
エルフ達は詩乃や王子を見て、顔をしかめる。
面と向かって出ていけとは言われないが嫌な雰囲気だ。
穏やかな気性のエルフ達は、セリエラの客人である樹達を部外者だからといって攻撃しなかった。しかし、積極的に関わってもこない。
微妙な雰囲気のまま二日が過ぎ、樹とソフィーが旅立つ前日になった。
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