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(第二部)第四章 光と闇
06 変わるもの、変わらないもの
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ソフィーは一目散に走って、銀髪のエルフの胸に飛び込んだ。
「おばあ様!」
「ソフィー、お帰り。無事で何よりだ」
セリエラはその銀髪以外は「おばあ様」と呼ばれるのに不似合いな若々しい容貌をしている。姉妹のように見えるエルフの二人は再会の抱擁を交わした。セリエラは目尻を下げてソフィーの金髪を撫でる。
樹達は、自分達がエルフの里の中にいることに気付いた。
光の壁を越えた時にセリエラの魔法で空間を飛び越えたようだ。
太い樹木が立ち並び、その樹木の枝の上に家屋が建てられている。周囲が森だから当然かもしれないが、エルフの家屋は木造建築だった。各家の前に白抜きで紋様が描かれた旗が下がっている。何かのまじないだろうか。枝から街灯の代わりらしいランプが吊り下がっていて、ランプの明かりがエルフの里の街並みを幻想的に照らしている。
セリエラはひとしきりソフィーを撫でた後、顔を上げた。
「イツキ坊やも、おかえり」
「ただいま、セリエラさん。色々聞きたいことがあるんだけど」
「私も積もる話があるよ。しかし、他の子達は疲れてるようじゃないか」
夜中に起こされ、走らされた詩乃や王子は疲れて眠たそうだ。
上級の精霊演舞を連発した英司も青ざめた顔をしている。
「ようこそ、客人達。ゆっくり休んでいくといい。ソフィー、家の中を案内してあげなさい」
「はーい」
ソフィーが先導して、セリエラの家に入る。
樹以外の面々は客室に通されて休むことになった。
夜散歩することが多い樹は一人だけ元気だ。セリエラは樹を居間に案内してハーブティーを煎れる。ソフィーは久しぶりの自室で寝ているので、居間にいるのは二人だけだった。
「セリエラさん、あの結界は……」
「ああ、アンデット系の魔物が大量発生していてねえ。やむなくオレイリアの森のエルフの里周囲に強力な結界を張っているのさ」
薬草や魔導書が転がっている部屋で、雑貨の中から樹はソファーを発掘する。ここは掃除をしていなかったらしい。
ソファーに座って林檎の香りの茶に口を付ける。
「それにしても昼間もずっと封鎖してるのは、他にも訳があるんでしょう」
「そうさね。最近の人間達は、精霊を石に閉じ込めて道具にする。私達エルフは精霊の血を引く民だ。とてもそんな酷いことをする連中とは、付き合えない」
いわゆる鎖国。
昔の日本が外国との交流を断っていた時期があったように、オレイリアのエルフはこの数十年で人間と交流を断っていたらしい。
「ここ百年ほどで人間の考え方も、エルフの考え方も変わったね。そういえばイツキ……」
「?」
「……僕と契約しようなんて百年早い」
ぶっ、と樹は茶を吹き出しそうになった。
「百年経ったねえ」
「言われた当人が忘れてるのに! セリエラさんも忘れて下さい!」
「どうしようかねえ」
それは以前、この居間で樹がソフィーに言った台詞だった。
赤面して頭を抱える樹をからかうセリエラ。百年経っても樹は彼女に勝てそうになかった。
詩乃は寝る前にどうしても気になることがあって、英司の部屋に向かった。王子様はベッドに放り込んだ後の行動だった。
「英司!」
「……なんだよ」
割り当てられた部屋で寛いでいた英司がぎょっとする。
「さっきの何? なんであんな……英司の癖にモンスターと戦えるのよ!」
魔物をばっさばっさと双剣で薙ぎはらう英司は大変格好良かった。見たことのない幼なじみの勇姿に不覚にもときめいてしまうほど。
「樹君は精霊だそうだけど、英司もまさか」
「違う! 俺はあいつと違って普通の人間だ」
詩乃に答えながら、英司は内心自分に突っ込みを入れた。普通の人間? 神に選ばれし元勇者は、普通の人間の枠に入るのだろうか。
「あれは精霊魔法だよ!」
「魔法?」
質問攻めにあった英司は、途中で寝かせてくれと降参した。
精神的な体力が持たない。
翌朝、朝日が昇った頃に、セリエラの家の戸を誰かが叩いた。
家主のセリエラが対応に出ると、そこにいたのは里長を務める若いエルフの男がいた。セリエラはこの里の長老だが、ご意見番のような立場で、実務を取り仕切っているのは若い彼だ。
「ソレイユ、朝からなんだい」
里長のソレイユを前に、セリエラはしかめ面だ。
薄着が多いセリエラは寝起きもあって胸元を大きくはだけた服を着ている。真面目な里長は目をむいた。
「セリエラ様、またそんな恰好を! はしたない!」
「ああ、うるさいねえ」
「それよりも人間を里に入れたというのは本当ですか? いくら貴方でもやっていいことと、悪いことがある!」
ソレイユは家に泊まっている複数の人間の気配を感じていた。
客人に聞こえるようにわざと大きな声で話している。
「堕落した人間どもとは今後いっさい関わらないと、里の方針でそう決まったはずです!」
「あんたは融通がきかないねえ。私の客にケチをつけるんじゃないよ」
セリエラは横柄な態度で追い返す。
扉を閉めた彼女に、騒ぎで起きて来た樹は声を掛けた。
「エルフの考え方が変わったって、こういうことですか」
「そうさ。人間を見下したりし始めてね、困ったものさ」
銀髪のエルフはふうっと溜息をついてみせた。
「おばあ様!」
「ソフィー、お帰り。無事で何よりだ」
セリエラはその銀髪以外は「おばあ様」と呼ばれるのに不似合いな若々しい容貌をしている。姉妹のように見えるエルフの二人は再会の抱擁を交わした。セリエラは目尻を下げてソフィーの金髪を撫でる。
樹達は、自分達がエルフの里の中にいることに気付いた。
光の壁を越えた時にセリエラの魔法で空間を飛び越えたようだ。
太い樹木が立ち並び、その樹木の枝の上に家屋が建てられている。周囲が森だから当然かもしれないが、エルフの家屋は木造建築だった。各家の前に白抜きで紋様が描かれた旗が下がっている。何かのまじないだろうか。枝から街灯の代わりらしいランプが吊り下がっていて、ランプの明かりがエルフの里の街並みを幻想的に照らしている。
セリエラはひとしきりソフィーを撫でた後、顔を上げた。
「イツキ坊やも、おかえり」
「ただいま、セリエラさん。色々聞きたいことがあるんだけど」
「私も積もる話があるよ。しかし、他の子達は疲れてるようじゃないか」
夜中に起こされ、走らされた詩乃や王子は疲れて眠たそうだ。
上級の精霊演舞を連発した英司も青ざめた顔をしている。
「ようこそ、客人達。ゆっくり休んでいくといい。ソフィー、家の中を案内してあげなさい」
「はーい」
ソフィーが先導して、セリエラの家に入る。
樹以外の面々は客室に通されて休むことになった。
夜散歩することが多い樹は一人だけ元気だ。セリエラは樹を居間に案内してハーブティーを煎れる。ソフィーは久しぶりの自室で寝ているので、居間にいるのは二人だけだった。
「セリエラさん、あの結界は……」
「ああ、アンデット系の魔物が大量発生していてねえ。やむなくオレイリアの森のエルフの里周囲に強力な結界を張っているのさ」
薬草や魔導書が転がっている部屋で、雑貨の中から樹はソファーを発掘する。ここは掃除をしていなかったらしい。
ソファーに座って林檎の香りの茶に口を付ける。
「それにしても昼間もずっと封鎖してるのは、他にも訳があるんでしょう」
「そうさね。最近の人間達は、精霊を石に閉じ込めて道具にする。私達エルフは精霊の血を引く民だ。とてもそんな酷いことをする連中とは、付き合えない」
いわゆる鎖国。
昔の日本が外国との交流を断っていた時期があったように、オレイリアのエルフはこの数十年で人間と交流を断っていたらしい。
「ここ百年ほどで人間の考え方も、エルフの考え方も変わったね。そういえばイツキ……」
「?」
「……僕と契約しようなんて百年早い」
ぶっ、と樹は茶を吹き出しそうになった。
「百年経ったねえ」
「言われた当人が忘れてるのに! セリエラさんも忘れて下さい!」
「どうしようかねえ」
それは以前、この居間で樹がソフィーに言った台詞だった。
赤面して頭を抱える樹をからかうセリエラ。百年経っても樹は彼女に勝てそうになかった。
詩乃は寝る前にどうしても気になることがあって、英司の部屋に向かった。王子様はベッドに放り込んだ後の行動だった。
「英司!」
「……なんだよ」
割り当てられた部屋で寛いでいた英司がぎょっとする。
「さっきの何? なんであんな……英司の癖にモンスターと戦えるのよ!」
魔物をばっさばっさと双剣で薙ぎはらう英司は大変格好良かった。見たことのない幼なじみの勇姿に不覚にもときめいてしまうほど。
「樹君は精霊だそうだけど、英司もまさか」
「違う! 俺はあいつと違って普通の人間だ」
詩乃に答えながら、英司は内心自分に突っ込みを入れた。普通の人間? 神に選ばれし元勇者は、普通の人間の枠に入るのだろうか。
「あれは精霊魔法だよ!」
「魔法?」
質問攻めにあった英司は、途中で寝かせてくれと降参した。
精神的な体力が持たない。
翌朝、朝日が昇った頃に、セリエラの家の戸を誰かが叩いた。
家主のセリエラが対応に出ると、そこにいたのは里長を務める若いエルフの男がいた。セリエラはこの里の長老だが、ご意見番のような立場で、実務を取り仕切っているのは若い彼だ。
「ソレイユ、朝からなんだい」
里長のソレイユを前に、セリエラはしかめ面だ。
薄着が多いセリエラは寝起きもあって胸元を大きくはだけた服を着ている。真面目な里長は目をむいた。
「セリエラ様、またそんな恰好を! はしたない!」
「ああ、うるさいねえ」
「それよりも人間を里に入れたというのは本当ですか? いくら貴方でもやっていいことと、悪いことがある!」
ソレイユは家に泊まっている複数の人間の気配を感じていた。
客人に聞こえるようにわざと大きな声で話している。
「堕落した人間どもとは今後いっさい関わらないと、里の方針でそう決まったはずです!」
「あんたは融通がきかないねえ。私の客にケチをつけるんじゃないよ」
セリエラは横柄な態度で追い返す。
扉を閉めた彼女に、騒ぎで起きて来た樹は声を掛けた。
「エルフの考え方が変わったって、こういうことですか」
「そうさ。人間を見下したりし始めてね、困ったものさ」
銀髪のエルフはふうっと溜息をついてみせた。
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