異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

文字の大きさ
51 / 97
(第二部)第四章 光と闇

06 変わるもの、変わらないもの

しおりを挟む
 ソフィーは一目散に走って、銀髪のエルフの胸に飛び込んだ。

「おばあ様!」
「ソフィー、お帰り。無事で何よりだ」

 セリエラはその銀髪以外は「おばあ様」と呼ばれるのに不似合いな若々しい容貌をしている。姉妹のように見えるエルフの二人は再会の抱擁を交わした。セリエラは目尻を下げてソフィーの金髪を撫でる。

 樹達は、自分達がエルフの里の中にいることに気付いた。
 光の壁を越えた時にセリエラの魔法で空間を飛び越えたようだ。

 太い樹木が立ち並び、その樹木の枝の上に家屋が建てられている。周囲が森だから当然かもしれないが、エルフの家屋は木造建築だった。各家の前に白抜きで紋様が描かれた旗が下がっている。何かのまじないだろうか。枝から街灯の代わりらしいランプが吊り下がっていて、ランプの明かりがエルフの里の街並みを幻想的に照らしている。

 セリエラはひとしきりソフィーを撫でた後、顔を上げた。

「イツキ坊やも、おかえり」
「ただいま、セリエラさん。色々聞きたいことがあるんだけど」
「私も積もる話があるよ。しかし、他の子達は疲れてるようじゃないか」

 夜中に起こされ、走らされた詩乃や王子は疲れて眠たそうだ。
 上級の精霊演舞を連発した英司も青ざめた顔をしている。

「ようこそ、客人達。ゆっくり休んでいくといい。ソフィー、家の中を案内してあげなさい」
「はーい」

 ソフィーが先導して、セリエラの家に入る。
 樹以外の面々は客室に通されて休むことになった。
 夜散歩することが多い樹は一人だけ元気だ。セリエラは樹を居間に案内してハーブティーを煎れる。ソフィーは久しぶりの自室で寝ているので、居間にいるのは二人だけだった。

「セリエラさん、あの結界は……」
「ああ、アンデット系の魔物が大量発生していてねえ。やむなくオレイリアの森のエルフの里周囲に強力な結界を張っているのさ」

 薬草や魔導書が転がっている部屋で、雑貨の中から樹はソファーを発掘する。ここは掃除をしていなかったらしい。
 ソファーに座って林檎の香りの茶に口を付ける。

「それにしても昼間もずっと封鎖してるのは、他にも訳があるんでしょう」
「そうさね。最近の人間達は、精霊を石に閉じ込めて道具にする。私達エルフは精霊の血を引く民だ。とてもそんな酷いことをする連中とは、付き合えない」

 いわゆる鎖国。
 昔の日本が外国との交流を断っていた時期があったように、オレイリアのエルフはこの数十年で人間と交流を断っていたらしい。

「ここ百年ほどで人間の考え方も、エルフの考え方も変わったね。そういえばイツキ……」
「?」
「……僕と契約しようなんて百年早い」

 ぶっ、と樹は茶を吹き出しそうになった。

「百年経ったねえ」
「言われた当人が忘れてるのに! セリエラさんも忘れて下さい!」
「どうしようかねえ」

 それは以前、この居間で樹がソフィーに言った台詞だった。
 赤面して頭を抱える樹をからかうセリエラ。百年経っても樹は彼女に勝てそうになかった。





 詩乃は寝る前にどうしても気になることがあって、英司の部屋に向かった。王子様はベッドに放り込んだ後の行動だった。

「英司!」
「……なんだよ」

 割り当てられた部屋で寛いでいた英司がぎょっとする。

「さっきの何? なんであんな……英司の癖にモンスターと戦えるのよ!」

 魔物をばっさばっさと双剣で薙ぎはらう英司は大変格好良かった。見たことのない幼なじみの勇姿に不覚にもときめいてしまうほど。

「樹君は精霊だそうだけど、英司もまさか」
「違う! 俺はあいつと違って普通の人間だ」

 詩乃に答えながら、英司は内心自分に突っ込みを入れた。普通の人間? 神に選ばれし元勇者は、普通の人間の枠に入るのだろうか。

「あれは精霊魔法だよ!」
「魔法?」

 質問攻めにあった英司は、途中で寝かせてくれと降参した。
 精神的な体力が持たない。





 翌朝、朝日が昇った頃に、セリエラの家の戸を誰かが叩いた。
 家主のセリエラが対応に出ると、そこにいたのは里長を務める若いエルフの男がいた。セリエラはこの里の長老だが、ご意見番のような立場で、実務を取り仕切っているのは若い彼だ。

「ソレイユ、朝からなんだい」

 里長のソレイユを前に、セリエラはしかめ面だ。
 薄着が多いセリエラは寝起きもあって胸元を大きくはだけた服を着ている。真面目な里長は目をむいた。

「セリエラ様、またそんな恰好を! はしたない!」
「ああ、うるさいねえ」
「それよりも人間を里に入れたというのは本当ですか? いくら貴方でもやっていいことと、悪いことがある!」

 ソレイユは家に泊まっている複数の人間の気配を感じていた。
 客人に聞こえるようにわざと大きな声で話している。

「堕落した人間どもとは今後いっさい関わらないと、里の方針でそう決まったはずです!」
「あんたは融通がきかないねえ。私の客にケチをつけるんじゃないよ」

 セリエラは横柄な態度で追い返す。
 扉を閉めた彼女に、騒ぎで起きて来た樹は声を掛けた。

「エルフの考え方が変わったって、こういうことですか」
「そうさ。人間を見下したりし始めてね、困ったものさ」

 銀髪のエルフはふうっと溜息をついてみせた。


しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。