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(第二部)第五章 君に贈る花束
08 君を一人にしない
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死者の群れが光の粉になって消滅していく。
圧倒的な力の気配が広間に満ちた。
「待っていたわよ、イツキ」
死の精霊エルルは、樹だけを見ている。
英司は双剣をひくと「無事だったんだな、樹」と声を掛けた。
樹はエルルから視線を逸らさずに答える。
「まあね。久しぶり、智輝、結菜も」
「ってか、今この世界はどうなってんだよ。天空神ラフテルの奴も何も言ってこないし」
智輝が眉根を寄せて言った。
そういえば、と樹も疑問に思う。
神殿は天空神ラフテルの場所だ。
そこに死の精霊エルルが我が物顔で君臨している状況は一体どういうことだろう。
「ふふふ。天空神ラフテルなら、ここよ」
エルルは上機嫌で片手に持った黄金のキューブを掲げてみせた。
「ここ?」
咄嗟に意味が分からず、樹は問い返す。
「封じ込めてやったの! この魔晶石に! あははっ、これで世界は私のものになったのよ!」
天空神ラフテルは、黄金のキューブに封印されてしまったらしい。
英司達は驚愕した表情になった。
「嘘だろう……?!」
「本当のことよ。私とイツキの力を合わせて、封印の魔晶石を作ったの。ありがとう、イツキ。協力してくれて」
エルルは嫣然と微笑む。
協力した覚えは無い、と指摘しようとして、樹は思い出した。
カノン王と戦った時に負けたと見せかけて力の一部をトカゲの尻尾切りのように置いて行ったのだ。
「まさか、あの時の……」
「ええ、そうよ。言ったでしょう。私とあなたで力を合わせれば、天空神を倒せると」
「……」
「長年の仇敵は封じた。後は邪魔な人間達を滅ぼすだけ」
人間を滅ぼす、という台詞に、英司達の間に緊張感が走った。
エルルは平然と続ける。
「人間は木を伐り、森を焼き、自然を破壊する。やがて私達、精霊をも殺し尽くすでしょう。異世界人のカノン王がそうしようとしたように。イツキ、あなたが生まれた世界に精霊はいない。そうでしょ?」
「……ああ」
地球には精霊はいない。
エルルが示唆する環境破壊、人間が自然を壊しつつある地球の状況を思い描いて、樹は苦々しく肯定した。
「だったら、そうなってしまう前に、私達が人間を石にして滅ぼしてしまいましょう。精霊の世界を守るために!」
エルルは樹に手を差し伸べた。
「イツキ、私を助けて。私達は同じ精霊でしょう? それとも……あなたは自分が人間だと思っているの?」
人間か精霊か、あなたはどちら? とエルルは樹に問いかけた。
樹はすぐに答えず広間を見回す。
床に転がった紫水晶がチカリと光った。
「カノウキヨハルを石にしたのか……自由に動ける鈴虫の方が幸せだったかもな」
それはどうだろう。
聞いていた者達は疑問に思ったが、シリアスな空気に口には出して突っ込むことはできなかった。
「鈴虫なんてどうだっていいでしょう。真面目に私に答えて、イツキ」
話題を逸らされてエルルが不満そうにする。
「一緒に、人間を滅ぼしてくれるよね?」
「断る。そんな面倒くさいこと、誰がするか」
樹は面倒だと断った。
後ろで聞いていた英司達はほっと安心している。
「邪魔なものを単純に無くしてしまえばいいなんて、子供の発想だ。そんなことに賛成できない」
「イツキ、あなた、人間と精霊のどちらの味方なの?」
「僕は、生命を司る世界樹の精霊だ。人間とか精霊とか、どっちでもいい。どっちも同じ"命"じゃないか」
樹の言葉に、エルルは怒りの形相になった。
「やっぱりあなたは人間の味方なのよ! がっかりしたわ!」
人間の味方という訳ではないのだが、感情的になったエルルにとってはどちらも同じ意味なのだろう。
彼女はヒステリックに言い募った。
「だいたいなんで世界樹はいつも人間を選ぶのよ! いくら精霊に近い魂を持って生まれた人間だからって、要はやっぱり人間じゃない。私は貴方を認めない!」
「……」
エルルはそう言い放つと、白く華奢な腕を掲げた。
その手の先に先端に三日月型の刃が付いた細長い柄を持つ精霊武器が現れる。
まるで死神の鎌のようなそれを、少女は軽々と振り回した。弧を描く刃が紅い光を放つ。
樹は静かに片手を前に差し出す。澄んだ銀の輝きを放つ長剣が姿を現した。
「死になさい!!」
エルルは叫んで上空から精霊武器を振り下ろす。
三日月型の刃と銀の長剣がぶつかり合う。
ギインと耳鳴りのような音が響き、二人の精霊武器から光の波紋が広がる。
樹の周囲には碧の生命の光が。
死の精霊エルルは闇を背負っている。
精霊武器を境に、明暗の境界線が生まれている。
「私の方がずっと永い時間を生きてきた。私の方が多くのことを知っている。だから私の方が強いのよ!」
暗闇が重量を増す。
巨人の足で踏まれるような圧迫感に樹は歯を食いしばって耐えた。
精霊としての力はエルルの方が上だ。
樹は天空神の言葉を借りれば「生まれたばかり」。人間としても十数年を生きた子供に過ぎない。数百年、もしくは数千年の間存在し続けている死の精霊に比べれば、ひよこも良いところだろう。
だが、だからと言って、ここで負けて良い理由にはならない。
「……都合の悪いものは切り捨てて」
「?」
「自分を救世主みたいに錯覚して、思いあがって……でも、一人で考えると間違えることがあるんだ。僕はただの人間として生まれたから、それを知っている。世界樹は孤独の中に立つことはできない」
樹はいつか言われた言葉を口にする。
新しい世界樹とつながり本当の精霊となった時から、この世界を守りたいと思った。
たとえ元いた地球の家族を捨てたとしても。
だが、成り行きで英司と一緒に異世界に戻ることになり、英司と旅をするうちに気付いた。
精霊になったとしても、樹は樹で、ただの人間に過ぎないことを。
「だから、君を一人にしない」
「え……」
一瞬、境界線がたわんだ。
樹の持つ世界樹の精霊武器が光の粒となってかき消える。
死の精霊の鎌が樹の胸を突いた。
血の代わりに噴き出した虹色の唐草模様が、立体的な円形を描いて樹を中心に広がる。
死の精霊の闇を受け止めるように、虹色の輝きが神殿を包み込んだ。
「イツキ!!」
何が起きているのか、様子を見ていた英司達が口々に名前を呼ぶ。
光が眩しさを増し目を開くのが困難なほどになった。
やがて光が止んだ後、そこには樹の姿もエルルの姿も無かった。
圧倒的な力の気配が広間に満ちた。
「待っていたわよ、イツキ」
死の精霊エルルは、樹だけを見ている。
英司は双剣をひくと「無事だったんだな、樹」と声を掛けた。
樹はエルルから視線を逸らさずに答える。
「まあね。久しぶり、智輝、結菜も」
「ってか、今この世界はどうなってんだよ。天空神ラフテルの奴も何も言ってこないし」
智輝が眉根を寄せて言った。
そういえば、と樹も疑問に思う。
神殿は天空神ラフテルの場所だ。
そこに死の精霊エルルが我が物顔で君臨している状況は一体どういうことだろう。
「ふふふ。天空神ラフテルなら、ここよ」
エルルは上機嫌で片手に持った黄金のキューブを掲げてみせた。
「ここ?」
咄嗟に意味が分からず、樹は問い返す。
「封じ込めてやったの! この魔晶石に! あははっ、これで世界は私のものになったのよ!」
天空神ラフテルは、黄金のキューブに封印されてしまったらしい。
英司達は驚愕した表情になった。
「嘘だろう……?!」
「本当のことよ。私とイツキの力を合わせて、封印の魔晶石を作ったの。ありがとう、イツキ。協力してくれて」
エルルは嫣然と微笑む。
協力した覚えは無い、と指摘しようとして、樹は思い出した。
カノン王と戦った時に負けたと見せかけて力の一部をトカゲの尻尾切りのように置いて行ったのだ。
「まさか、あの時の……」
「ええ、そうよ。言ったでしょう。私とあなたで力を合わせれば、天空神を倒せると」
「……」
「長年の仇敵は封じた。後は邪魔な人間達を滅ぼすだけ」
人間を滅ぼす、という台詞に、英司達の間に緊張感が走った。
エルルは平然と続ける。
「人間は木を伐り、森を焼き、自然を破壊する。やがて私達、精霊をも殺し尽くすでしょう。異世界人のカノン王がそうしようとしたように。イツキ、あなたが生まれた世界に精霊はいない。そうでしょ?」
「……ああ」
地球には精霊はいない。
エルルが示唆する環境破壊、人間が自然を壊しつつある地球の状況を思い描いて、樹は苦々しく肯定した。
「だったら、そうなってしまう前に、私達が人間を石にして滅ぼしてしまいましょう。精霊の世界を守るために!」
エルルは樹に手を差し伸べた。
「イツキ、私を助けて。私達は同じ精霊でしょう? それとも……あなたは自分が人間だと思っているの?」
人間か精霊か、あなたはどちら? とエルルは樹に問いかけた。
樹はすぐに答えず広間を見回す。
床に転がった紫水晶がチカリと光った。
「カノウキヨハルを石にしたのか……自由に動ける鈴虫の方が幸せだったかもな」
それはどうだろう。
聞いていた者達は疑問に思ったが、シリアスな空気に口には出して突っ込むことはできなかった。
「鈴虫なんてどうだっていいでしょう。真面目に私に答えて、イツキ」
話題を逸らされてエルルが不満そうにする。
「一緒に、人間を滅ぼしてくれるよね?」
「断る。そんな面倒くさいこと、誰がするか」
樹は面倒だと断った。
後ろで聞いていた英司達はほっと安心している。
「邪魔なものを単純に無くしてしまえばいいなんて、子供の発想だ。そんなことに賛成できない」
「イツキ、あなた、人間と精霊のどちらの味方なの?」
「僕は、生命を司る世界樹の精霊だ。人間とか精霊とか、どっちでもいい。どっちも同じ"命"じゃないか」
樹の言葉に、エルルは怒りの形相になった。
「やっぱりあなたは人間の味方なのよ! がっかりしたわ!」
人間の味方という訳ではないのだが、感情的になったエルルにとってはどちらも同じ意味なのだろう。
彼女はヒステリックに言い募った。
「だいたいなんで世界樹はいつも人間を選ぶのよ! いくら精霊に近い魂を持って生まれた人間だからって、要はやっぱり人間じゃない。私は貴方を認めない!」
「……」
エルルはそう言い放つと、白く華奢な腕を掲げた。
その手の先に先端に三日月型の刃が付いた細長い柄を持つ精霊武器が現れる。
まるで死神の鎌のようなそれを、少女は軽々と振り回した。弧を描く刃が紅い光を放つ。
樹は静かに片手を前に差し出す。澄んだ銀の輝きを放つ長剣が姿を現した。
「死になさい!!」
エルルは叫んで上空から精霊武器を振り下ろす。
三日月型の刃と銀の長剣がぶつかり合う。
ギインと耳鳴りのような音が響き、二人の精霊武器から光の波紋が広がる。
樹の周囲には碧の生命の光が。
死の精霊エルルは闇を背負っている。
精霊武器を境に、明暗の境界線が生まれている。
「私の方がずっと永い時間を生きてきた。私の方が多くのことを知っている。だから私の方が強いのよ!」
暗闇が重量を増す。
巨人の足で踏まれるような圧迫感に樹は歯を食いしばって耐えた。
精霊としての力はエルルの方が上だ。
樹は天空神の言葉を借りれば「生まれたばかり」。人間としても十数年を生きた子供に過ぎない。数百年、もしくは数千年の間存在し続けている死の精霊に比べれば、ひよこも良いところだろう。
だが、だからと言って、ここで負けて良い理由にはならない。
「……都合の悪いものは切り捨てて」
「?」
「自分を救世主みたいに錯覚して、思いあがって……でも、一人で考えると間違えることがあるんだ。僕はただの人間として生まれたから、それを知っている。世界樹は孤独の中に立つことはできない」
樹はいつか言われた言葉を口にする。
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だが、成り行きで英司と一緒に異世界に戻ることになり、英司と旅をするうちに気付いた。
精霊になったとしても、樹は樹で、ただの人間に過ぎないことを。
「だから、君を一人にしない」
「え……」
一瞬、境界線がたわんだ。
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死の精霊の鎌が樹の胸を突いた。
血の代わりに噴き出した虹色の唐草模様が、立体的な円形を描いて樹を中心に広がる。
死の精霊の闇を受け止めるように、虹色の輝きが神殿を包み込んだ。
「イツキ!!」
何が起きているのか、様子を見ていた英司達が口々に名前を呼ぶ。
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