異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第五章 君に贈る花束

09 樹の答え

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 死の精霊エルルは全力で精霊武器を振るった。
 同じ最高位の精霊である樹を過小評価していない。
 だから持てる力をつぎこんで、本気で相手を倒すつもりで攻撃したのだ。
 樹は途中で精霊武器を消し、エルルの刃を自分の身体で受けた。
 その瞬間、虹色の光が広がる。

 エルルと樹は、一瞬で世界樹の空間に転移していた。
 樹が自分の精霊の能力を使って場所を変えたのだ。

 死の精霊の全力の攻撃の余波も含め、樹は包み込むようにその攻撃ごと世界樹へ転移させていた。
 結果、荒れ狂う闇の炎が世界樹の枝を焼き、幹に損傷を与えている。
 巨大な世界樹の一角が炎で焼失した。
 青々と茂って丸く盛り上がった緑の天蓋の一部が欠け、黒く変色した幹が痛々しい姿を見せている。
 
 エルルは状況を把握して茫然とする。
 彼女は精霊として、本体を傷つけられる痛みや恐怖を知っていた。
 樹を倒そうとはしていたが、本体さえあれば精霊は何度でも復活できるのは分かっている。樹の本体である世界樹を傷つけるつもりは無かったのだ。

「あ……」
「……っつ」

 歩いて数歩の場所で、樹が地面に尻もちをついたまま、胸を押さえて荒い息を吐いている。
 
「な、なんで、こんなことしたのよっ」
「……」
「私に倒されても、貴方は本当に死ぬ訳じゃないのよ? せいぜい数十年、眠りにつくだけじゃない。消滅したって、種子さえあれば次の世界樹の精霊が生まれる」
「……」
「でも世界樹本体が種子を残さないまま枯れたら、本当に死んでしまう! なんでこんな危険なことを」

 青白い顔をした樹は眉をしかめてエルルを睨んだ。

「あー、うるさい」
「イツキ……?」
「死のうが生きようが僕の勝手だろ」

 よろよろ立ち上がろうとする樹を、エルルは信じられないように見つめる。

「死が怖くないの?」
「怖くないわけあるか。けど、そんなものより何が出てくるか分からないソフィーの手料理の方が百倍怖い」

 意味が分からないといった顔をする死の精霊。
 樹は何とか真っ直ぐ立つと、エルルに向かって話しかけた。

「これで気が済んだか」
「ど、どういうことよ」
「自分で気付いていないのか。君は寂しがって、人やものに八つ当たりしてただけだ。もう良いだろう、最高位の精霊は君一人じゃなくなったんだから。話を聞いて欲しいならそう言えばいいし、喧嘩したいなら今みたいに受けて立ってやる」

 その言葉を聞いたエルルは目を丸くした。
 言い返す言葉が思いつかないようで、口をパクパクさせる。

「わ、分かったように……」
「はいはい。とりあえず、天空神の魔晶石は没収だな」
「あ! いつの間に」

 いつの間にか、樹の手の上には黄金のキューブがあった。
 天空神ラフテルを封じ込めた魔晶石だ。
 エルルは顔を赤くしたり青くしたり、百面相している。
 動揺した彼女を、樹は興味深そうに眺めた。

「なんだ、泣きそうになってる顔は可愛いな、君。いつもそのくらい素直だといいのに」
「!?」
 
 白い髪の少女はぎょっとしたように後ずさる。

「〇△×な*+!!!」

 言葉にならない悲鳴をあげると、少女の姿はふっと消えた。
 どうやら本体のもとに逃げ帰ったらしい。
 
「ふっ、完全勝利」

 樹は痛みを我慢して笑うと、手のひらの黄金のキューブに力を込めた。
 石の表面に光の線が走ってひび割れる。
 天空神ラフテルを封じた魔晶石は砕け散った。

『……こんな状況で私を解放するとは。自殺行為じゃないかな』

 金色の髪と瞳をした少年が、樹の前の空中に現れる。
 天空神ラフテルだ。
 今の樹と世界樹は、死の精霊との戦いで弱っている。
 今、天空神に攻撃されれば防ぐことはできないだろう。
 だが、樹は恐れることなく天空神を見上げた。

「天空神。聞きたいことがある」
『なんだ』
「僕の力が手に入ったら、何をするつもりだったんだ?」

 神々は精霊の力を奪い、人間を支配してきた。
 前に樹と会った時は「世界樹の精霊の役割と力を私に渡せ」と言ってきたのだ。
 樹の問いかけに、天空神は金色の瞳を細めた。

『……私とユピテルは、もともとこことは違う世界から漂流してきた。私達はただ、失われたものを取り戻したいだけだよ。君の生命を創造する力があれば、私達が元いた世界にいた生き物を作れるかもしれない』

 天空神の返事を聞いた樹は、はあっ、と息を吐いた。

「なーんだ。そんなことか」
『そんなこと、だと?!』
「僕の方で作ってもいいぞ。危険な生き物だと困るが。具体的には、どんな生き物を作ってどういう世界を再現したいんだ?」
『む……私がいた世界では』

 樹の質問に答えて天空神が話し出す。
 どうやら元の世界のことを誰かに話したくて仕方なかったらしい。
 樹が合いの手を入れて、話を膨らませるので、話は意外に盛り上がった。
 小一時間ほど、天空神と樹は話し込んだ。

「へえ、一角獣あたりは普通にいいんじゃないか。この世界にいないのが不思議なくらいだ。今度作ってみようか」
『作ったら私に渡して欲しい。お前が作った歩くカブもどき、あれもなかなか可愛らしかった』
「それ褒めてるのか」

 サトウキビのつもりがサトウダイコンになり、ダイコンではなくカブになり、四本脚が生えて歩き出してしまった失敗作を思い出して、樹は目を遠くした。
 話に満足したらしい天空神は空に舞い上がる。

『……イツキよ。私はお前を見くびっていたようだ。死の精霊を力づくで止めるものかと思っていたが』
「そんな腕相撲みたいなこと誰がするか」
『ふっ。だが、お前の考えは悪くない。お前は精霊を、死の精霊は魔族を、私は人を守ろう。我等が均衡バランスを保つ。異なる考え方のものが、時にぶつかり合い、時に手を取り合って共存する。それが世界、そう考えるのだな』
「……どうかな。僕は自分の好きなように行動しているだけだよ」

 樹の答えに、天空神が笑う。
 金髪の少年の姿は青空に同化するように薄くなって消えた。

「ああ、疲れたーー」

 少年の姿が消えたのを見届けると、樹は草むらにごろりと転がった。
 我慢していたが思っている以上に世界樹の損傷がひどい。身体がじくじくと痛み、重い。油断すると眠ってしまいそうなほど消耗していた。
 眠ってはいけない。
 精霊の眠りは深く長い。
 世界樹の傷を癒すために眠れば、数十年、数百年の時が経ってしまう。
 精霊や神はともかくとして樹の友人は樹が目覚めるのを待ってくれないだろう。
 このまま眠ってしまえば永久の別れになってしまう。
 それが分かっていても精霊の本能が樹に眠りを要求している。

 瞼が落ちて意識が現実から遠ざかる。
 樹は必死にそれに抗った。


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