異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉

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(第二部)第五章 君に贈る花束

07 終わりを決めるもの

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 死の精霊の企みをアルスから聞いた樹は、すぐに世界樹に引き返した。
 アルスによると、死の精霊エルルは邪魔な人間や、思い通りに動かない魔族や精霊に失望しているらしい。
 彼女は命あるものを石に変え、自分に心地よい静止した世界を実現しようとしている。

「大変ですぅーー!」
「そうだな」
「早くエターニアに行かないと!」

 ソフィーは拳を握って叫んだ。
 対する樹は、なぜか生ぬるい表情で明後日を向く。

「……ここで重大な発表がある」
「どうされたのだ?」

 吸血鬼のアルスが、不思議そうにした。

「世界樹から地上に降りられるゲートは、エターニアまで最短でも数日掛かるんだ」
「そこはイツキ殿なら」
「そうだよイツキならビューンって!」

 ソフィーとアルスは期待に満ちた目で樹を見つめる。
 樹は咳払いした。

「君達、僕を、世界樹の精霊は何でもできると勘違いしてないか」
「え? 何でもできますよね」
「できるか!」

 樹は全く疑うことなく返答したソフィーの頭を軽く叩いた。

「僕にだって出来ることと出来ないことがあるんだよ。世界中どこにでも瞬間転移する力はさすがに無い」
「……そうすると、エルル様の計画に間に合わない……?」

 アルスが不安そうに呟く。
 世界樹の根元に立つ三人に沈黙が降りた。
 ややあって樹が胡散臭い笑顔で言う。

「まあ良いじゃないか。皆、石になったら静かになって万々歳だ」
「良くないのだ!」
「やっぱり駄目か?」
「駄目です!」
「うーん。空間転移ゲートを作るのは試したことないからなあ。ツェンベルンに作った畑を座標にして繋げてみるか? でもエルルの奴に妨害されるかも……」

 腕組みした樹は、うんうんと唸って考え込む。
 その時、笛の音のような鳥の鳴き声が響き渡った。

「なんだ……?」
「――樹君!」
 
 見た事の無い青い鳥の姿の精霊に先導されて、詩乃とアルファード王子を乗せた白い竜が飛んでくる。
 樹の立つ世界樹の枝に彼らは着地した。

「樹君、助けて! エターニアが、英司達が大変なの!」
「何?!」

 詩乃は世界樹の枝に飛び降りると、必死な表情で樹に駆け寄った。
 青い鳥の精霊が厳かに言う。

『世界樹の精霊様、どうかお力をお貸しください。エターニアの王都ツェンベルンに道は開いております』

 そう言われて樹は、少し目を閉じて世界樹と感覚をつなげ、付近の状況を確認した。
 彼女達が通ってきたと思われる空間転移ゲートが新しくできている。
 助けを呼ぶ人々の声なき叫びが、ゲートの向こう側から樹の元に届いた。
 死の精霊エルルが石にした人々の心の声だ。
 エルルには彼らの声が聞こえないのだろうか。
 こんな悲鳴を聞いて、心穏やかに過ごすことなどできそうにない。
 樹は目を開けた。
 
「――よし。行こう」

 樹の返事に、詩乃の顔がパッと明るくなる。
 青い鳥の精霊が『こちらです』と案内を始める。
 精霊達が見守る中、樹は光の翅を広げてツェンベルンにつながるゲートをくぐった。




 エターニアの王都ツェンベルンは黒雲に包まれている。
 黒雲の発生元である神殿の前で合流した英司、智輝、結菜は、それぞれの精霊武器を携えて神殿の奥へ踏み込んだ。
 神殿の内部はおぞましい死者の姿をしたモンスターに占拠されていた。
 三人はアンデットモンスターを倒しながら進む。

「……三十、三十一!」
「二十五」
「へっ! 俺の勝ちだな!」

 智輝は炎をまとった槍でモンスターを数匹まとめて薙ぎ払った。
 氷の双剣で戦う英司は「くそっ」と悔しそうだ。
 結菜は呆れた。

「倒した数を競ってどうするのよ」
「……まったくだわ。アンデットモンスターはすぐに復活するのに」

 唐突に会話に割って入る少女の声。
 いつのまにか三人は広い空間に足を踏み入れていた。
 そこは神殿の広間らしい。
 らしいというのは、暗闇に沈むその部屋は見たことのない内装になっていたからだ。
 床から赤黒い水晶のような結晶が何本も突き出ている。壁や天井にも鉱物が生えていた。屋内だというのに、まるで洞窟の中のように。
 柱状の結晶や鉱物はほのかに光を帯びているが、それでも部屋は不思議に暗い。震えるほどの冷たく深い闇が天井と床を覆っている。
 正面の水晶の柱に白い髪の少女が腰かけている。

「ようこそ、袋のネズミさん」

 少女がパチリと指を鳴らすと、智輝が倒して灰にしたモンスターが、まるで時間を巻き戻すように元に戻った。

「何?!」
「囲まれた……!」

 今まで倒したモンスターたちが出入口をふさぐ。
 三人は背中合わせに武器を構えた。

「死の精霊エルル、あんたが人間を片っ端に石に変えてるのか」

 英司は少女を見上げて問いかける。

「そうよ」

 死の精霊エルルが答える。

「人間にはうんざりしたの。昔は私を敬っていたのに、今は精霊のことを忘れて、神様神様……誰がこの世界を守ってやってると思ってるのよ」

 その言葉を聞いた智輝が、炎の槍を片手に持ったまま器用に肩をすくめる。

「だからって、全部石にするのは極端すぎくね?」
「……おお、智輝の癖に的を得た事を」
「英司、てめ」

 目の前でじゃれる智輝と英司に、エルルははっきり不愉快そうにした。

「貴方達、私の前でふざけないで! 目障りだわ、消えなさい!」

 言葉と共に白い炎の弾が飛んでくる。
 智輝達は散開して回避した。
 炎が舐めた場所にあった鉱物や床がごっそり消失する。

「げっ、なんだよこれ?!」

 威力が大きいとかそういう話ではなく、炎に当たった場所が喰われるように消えた。
 その異様さに気付いた智輝が声を上げる。

「やば……!」

 逃げる場所はない。
 四方八方から赤い目を不気味に光らせた死者が迫っている。

「私は炎の精霊ではなく、死の精霊。存在の消滅を司る精霊よ! この世界の命あるもの、形あるものはいつか必ず、終わりを迎える。それを決めるのは、この私!」

 死の精霊エルルは、八枚の光の翅を広げる。
 少女の周囲に白い炎が燃え盛った。

「……違うな。終わりを決めるのは、お前じゃない。命ある者、皆それぞが自分で決めることだ」

 暗くよどんだ空気を動かして風が吹く。
 風に乗って緑の葉が舞った。
 葉に込められた生命の力が、炎を相殺している。

「樹!」

 悠然とした足取りで碧の瞳の青年が現れる。
 青年の背中には八枚の翅が光り輝いていた。


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