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留学準備編
08 竜の子供
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ユエリをスミレの家に送り届けた後、アサヒは学院の中にある寮に戻った。今日は密度の濃い1日だったなと思う。
レイゼン家の別邸に連行されたり、アウリガの間者と戦ったり、体力には自信のあるアサヒも今日は疲れた。
横になるとすぐに眠気がおそってくる。
「アサヒ」
翌朝、カズオミに起こされて目が覚めた。
着替えずに寝たので服にシワが付いている。
寝ぼけまなこをこすっていると、見かねたカズオミが水を持ってきた。
「起きて、アサヒ。ヒズミ様が呼んでる」
「ヒズミが?」
さては昨夜の、アウリガの間者との交戦の件だろうか。
もうばれたのかな耳が早い、と思いながらアサヒは身支度をして、ヒズミが待つ学院内の執務室へ向かった。
扉をノックすると「入れ」と言われる。
礼儀作法を考えてみると、どっちが上司で部下なんだか分からない。ヒズミ様と、様を付けて呼ぶのも違和感があるので呼び捨てにしてしまっているし、と頭をひねるアサヒだった。
上等な家具に囲まれて座るヒズミは相変わらず偉そうだ。
「今朝、野生の竜が複数、島の南端に漂着しているという報告があった」
「野生の竜?」
どうやら昨夜の件とは関係ないらしい。
きょとんとするアサヒに、ヒズミは続ける。
「野生の竜をなだめられるのは、竜の巫女と竜王だけだ。スミレ様を連れて今から島の南端へ飛んで欲しい」
竜騎士のパートナーの竜以外にも、野生で人間と関わらずに生きている竜達がいる。彼らは島の外の激しい気流が渦巻く世界で生きているため、時折、天気が悪い時など気流に揉まれてしまって、傷付いて島に打ち上げられるのだ。
漂着した竜は傷を負っていて機嫌が悪く、一般人や男性の竜騎士が近付くと怒る。だが、竜の巫女が触れれば大人しくなる。
竜の巫女とは野生の竜と交流できる、竜に好かれる素質を持つ女性がなる職業である。
不思議と竜紋は女性には現れず、女性は竜騎士になれない。その代わりに竜と触れあえる女性は、竜の巫女となる。
「分かった。じゃあ行ってくる」
「……昨日の件は、帰ってきたら聞かせてもらおう」
さっさと居心地の悪い部屋から出ようとしたアサヒの背中に、ヒズミの一言が突き刺さる。レイゼン家に連行された件か、はたまた月下の交戦の件か。
逃げるが勝ちだと直感したアサヒは、ヤモリと白水晶の剣を持ってすぐに学院を出た。
昨日、何度も往復したスミレの家に行く。
「スミレ、島に野生の竜が漂着してるらしいんだけど」
「まあ大変、すぐに参りましょう」
スミレは準備をすると言って家の中に引っ込む。
待っている間、所在なさそうにしているユエリと目が合った。
「ユエリも来る?」
「え……いいの」
「竜に下手に近寄らなきゃ、大丈夫じゃないか。俺もスミレもいるし」
彼女を一人にしておくのはまずい気がして、アサヒはユエリも誘うことにした。準備を終えたスミレと共に、ヤモリが変身した竜に乗って空へ飛び立つ。
島の南端は切り立った崖と浮遊する岩がつづく地帯で、岩の上に何体か竜が横たわっているのが見えた。
「足場が悪いな……スミレ、平気か?」
「巫女修行できたえておりますゆえ、心配無用です。はっ!」
やたら気合いの入った掛け声と共に、スミレは数メートル下の地面へすたっと着地を決める。
「おお、すげえ……」
「スミレさん、腹筋割れてたから」
「マジで?」
筋肉で負けていたらどうしようと、アサヒはしょうもないことで不安になった。
「アサヒ様、この竜、動けないようですので移動を手伝っていただけますか?」
「すぐ行く!」
スミレの思い切りの良さに呆然としていたアサヒだが、手伝いを頼まれて我に返り、自分もヤモリが変身した黒い竜から飛び降りた。
赤い体液を流して横たわり、崖から落ちそうになっている竜を、首ねっこをつかんで引き上げる。
「よいしょっと!」
竜達はアサヒを見て驚いたようだが、暴れたりしなかった。
竜王は野生の竜達にとっても特別なのだ。
傷ついた竜達を安定した大きな岩場に集めたアサヒは、ちょっと離れた場所でチョロチョロ動く白い玉を見つけた。
近付くとそれは尖った木にからまった白い竜の子供だった。
「キューキューッ」
「どんくさい奴だな」
鳴いている竜の子供を木から外してやる。
自由になった竜の子供はなぜかアサヒの腕の中に飛び込んでくる。幼いからか柔らかくてふわふわの、丸い竜の子供だった。
「キュッ!」
白い竜の子供に引っ付かれてアサヒは苦笑する。
子供をくっ付けたままだと仕事ができない。
ふと思い付いて、離れたところで様子を見ているユエリを呼び寄せる。
「ユエリ! これ、持っててくれないか?」
「え?!」
竜の子供を渡されたユエリは困惑する。
白い竜の子供も不満そうに「キューン」と鳴いたが、一応大人しくユエリの腕の中に収まっていた。
救助活動をしていたスミレが戻ってくる。
「ユエリさん、噛みつかれたりしていませんか」
「大丈夫よ。この子、とっても大人しいわ。竜を触るのは初めてだけど、皆こうなの?」
心配そうなスミレに、ユエリは竜の子供を抱えながら返事をする。
「竜を触るのは初めて? ユエリさん、巫女に選ばれたりしなかったのですか。子供でも竜がそんな大人しくなるなんて、ユエリさんには巫女の素質がありそうなのに」
「巫女の素質……?」
故郷のアウリガでは竜に触る機会がなかったユエリは、スミレに巫女の素質があると言われて困惑した。
レイゼン家の別邸に連行されたり、アウリガの間者と戦ったり、体力には自信のあるアサヒも今日は疲れた。
横になるとすぐに眠気がおそってくる。
「アサヒ」
翌朝、カズオミに起こされて目が覚めた。
着替えずに寝たので服にシワが付いている。
寝ぼけまなこをこすっていると、見かねたカズオミが水を持ってきた。
「起きて、アサヒ。ヒズミ様が呼んでる」
「ヒズミが?」
さては昨夜の、アウリガの間者との交戦の件だろうか。
もうばれたのかな耳が早い、と思いながらアサヒは身支度をして、ヒズミが待つ学院内の執務室へ向かった。
扉をノックすると「入れ」と言われる。
礼儀作法を考えてみると、どっちが上司で部下なんだか分からない。ヒズミ様と、様を付けて呼ぶのも違和感があるので呼び捨てにしてしまっているし、と頭をひねるアサヒだった。
上等な家具に囲まれて座るヒズミは相変わらず偉そうだ。
「今朝、野生の竜が複数、島の南端に漂着しているという報告があった」
「野生の竜?」
どうやら昨夜の件とは関係ないらしい。
きょとんとするアサヒに、ヒズミは続ける。
「野生の竜をなだめられるのは、竜の巫女と竜王だけだ。スミレ様を連れて今から島の南端へ飛んで欲しい」
竜騎士のパートナーの竜以外にも、野生で人間と関わらずに生きている竜達がいる。彼らは島の外の激しい気流が渦巻く世界で生きているため、時折、天気が悪い時など気流に揉まれてしまって、傷付いて島に打ち上げられるのだ。
漂着した竜は傷を負っていて機嫌が悪く、一般人や男性の竜騎士が近付くと怒る。だが、竜の巫女が触れれば大人しくなる。
竜の巫女とは野生の竜と交流できる、竜に好かれる素質を持つ女性がなる職業である。
不思議と竜紋は女性には現れず、女性は竜騎士になれない。その代わりに竜と触れあえる女性は、竜の巫女となる。
「分かった。じゃあ行ってくる」
「……昨日の件は、帰ってきたら聞かせてもらおう」
さっさと居心地の悪い部屋から出ようとしたアサヒの背中に、ヒズミの一言が突き刺さる。レイゼン家に連行された件か、はたまた月下の交戦の件か。
逃げるが勝ちだと直感したアサヒは、ヤモリと白水晶の剣を持ってすぐに学院を出た。
昨日、何度も往復したスミレの家に行く。
「スミレ、島に野生の竜が漂着してるらしいんだけど」
「まあ大変、すぐに参りましょう」
スミレは準備をすると言って家の中に引っ込む。
待っている間、所在なさそうにしているユエリと目が合った。
「ユエリも来る?」
「え……いいの」
「竜に下手に近寄らなきゃ、大丈夫じゃないか。俺もスミレもいるし」
彼女を一人にしておくのはまずい気がして、アサヒはユエリも誘うことにした。準備を終えたスミレと共に、ヤモリが変身した竜に乗って空へ飛び立つ。
島の南端は切り立った崖と浮遊する岩がつづく地帯で、岩の上に何体か竜が横たわっているのが見えた。
「足場が悪いな……スミレ、平気か?」
「巫女修行できたえておりますゆえ、心配無用です。はっ!」
やたら気合いの入った掛け声と共に、スミレは数メートル下の地面へすたっと着地を決める。
「おお、すげえ……」
「スミレさん、腹筋割れてたから」
「マジで?」
筋肉で負けていたらどうしようと、アサヒはしょうもないことで不安になった。
「アサヒ様、この竜、動けないようですので移動を手伝っていただけますか?」
「すぐ行く!」
スミレの思い切りの良さに呆然としていたアサヒだが、手伝いを頼まれて我に返り、自分もヤモリが変身した黒い竜から飛び降りた。
赤い体液を流して横たわり、崖から落ちそうになっている竜を、首ねっこをつかんで引き上げる。
「よいしょっと!」
竜達はアサヒを見て驚いたようだが、暴れたりしなかった。
竜王は野生の竜達にとっても特別なのだ。
傷ついた竜達を安定した大きな岩場に集めたアサヒは、ちょっと離れた場所でチョロチョロ動く白い玉を見つけた。
近付くとそれは尖った木にからまった白い竜の子供だった。
「キューキューッ」
「どんくさい奴だな」
鳴いている竜の子供を木から外してやる。
自由になった竜の子供はなぜかアサヒの腕の中に飛び込んでくる。幼いからか柔らかくてふわふわの、丸い竜の子供だった。
「キュッ!」
白い竜の子供に引っ付かれてアサヒは苦笑する。
子供をくっ付けたままだと仕事ができない。
ふと思い付いて、離れたところで様子を見ているユエリを呼び寄せる。
「ユエリ! これ、持っててくれないか?」
「え?!」
竜の子供を渡されたユエリは困惑する。
白い竜の子供も不満そうに「キューン」と鳴いたが、一応大人しくユエリの腕の中に収まっていた。
救助活動をしていたスミレが戻ってくる。
「ユエリさん、噛みつかれたりしていませんか」
「大丈夫よ。この子、とっても大人しいわ。竜を触るのは初めてだけど、皆こうなの?」
心配そうなスミレに、ユエリは竜の子供を抱えながら返事をする。
「竜を触るのは初めて? ユエリさん、巫女に選ばれたりしなかったのですか。子供でも竜がそんな大人しくなるなんて、ユエリさんには巫女の素質がありそうなのに」
「巫女の素質……?」
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