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学院編
03 分かりやすい再会フラグ
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ヤモリを竜に変身させてはみたものの、アサヒは内心冷や汗を流していた。
入学の餞別にセイランにもらった剣は、宿屋に置いてきてしまった。魔術だけで戦うのは心もとない上に、竜の姿のヤモリと一緒に戦ったことが無いからヤモリに何ができるか分からない。今だってヤモリはぼーっと立っているだけだ。ハッタリである。
一方、敵の男は戦い慣れた様子で、三又の槍を手に悠然と立っている。
素人目に見ても強そうだ。
「……お前、名前は何という?」
アサヒの竜をじろじろ眺めていた男が問いかけてくる。
「名前を名乗れっていうなら、自分から名乗ったらどうだ」
「失礼した。私はヒズミだ。ヒズミ・コノエという」
見知らぬ男に身元を知られるリスクを避けるため、質問に質問で返したアサヒだったが、予想に反して男は即答した。
一人称が、私。
苗字があるってことは貴族か。
仕方なくアサヒは返事をする。
「アサヒ」
「……そうか」
ヒズミと名乗った男は何やら感慨深そうに頷いた。
「分かった。この場は私が退こう」
「は?」
「命拾いをしたな、ユエリ。今日は人を殺したくない気分だ。私の機嫌の良い内に疾く立ち去るがいい」
勝手に自己完結した男はそう言って颯爽と身をひるがえす。
「アサヒ、学院でまた会おう」
男はおよそ普通の人間ではあり得ない身のこなしで屋根の上まで跳躍すると、相棒らしき深紅の竜に乗ってさっさと去っていった。
物騒なことを言っていた割にあっさりした引き際だった。
「なんなんだよ、いったい」
アサヒは困惑して頭をかく。
「……あなたは一体何を考えているのですか! 丸腰で戦いの最中に割って入るなんて、自殺行為ですよ!」
黒服の女性がアサヒに向かって咎めるように言う。
彼女の名前は、確かユエリと言ったか。
「でも割って入らなきゃ君は死んでたよ? 感謝くらいして欲しいな」
「頼んでません!」
助けたのに、怒られている。
不条理を感じつつ、アサヒは反論をあきらめた。
背後で黒い竜が尻尾を揺らす。竜は狭い路地につっかえて動きにくい様子だった。あのまま戦闘に突入していたら、どうなっていただろう。
「それにしても変わった竜の姿ですね。4枚の翼の竜は初めて見ました」
「そんな珍しいの?」
「ええ。それに悪魔のように真っ黒。目立ちそうですね」
首をひねって頭上を見上げると、視線が合った竜は首をかしげた。仕草が幼児のようにあどけなくて可愛らしい。自分の竜ながら、この知能の低さはどうかと思う。
「……ヤモリ、お前の姿、目立つんだってよ」
『……』
「もうちょっと、こう、地味にならねえ?」
アサヒは相変わらず竜と判明しても、ヤモリをヤモリと呼んでいた。ヤモリの方も自分の名前を自己申告しないので、全く問題ない。問題といえばハナビが「もっと格好いい名前を付けたらいいのに」と嘆いていたくらいだ。
地味にならないかと言われた竜は、首をもう一度、逆方向にかしげる。数度まばたきすると、いきなり身体をふるわせ始めた。
何をしてるんだと見守るアサヒの前で、竜の色が変わる。
漆黒の夜空の色から、落ち葉のような地味な茶色へ。
金色の角は浅い灰色へ。
翼は4枚から2枚へ。
「おお……!」
竜は地味になった。
「し、信じられない……あなたの竜は本当に何なの?!」
変身した竜を見上げてユエリがぽかんとする。
「まあいいじゃないか、細かいことは気にするなよ」
「気にするわ! 本当にあなた何なの?!」
アサヒの言葉にユエリは頬をひきつらせる。
動揺のせいか言葉使いが素になっているようだ。
「せっかく地味になったから、こいつで家まで送っていくよ?」
ヤモリを指して誘うと、ユエリは首を振った。
「いいえ……これ以上あなたを巻き込めないわ。気持ちだけ受け取っておきます」
彼女は毅然として断ると、しっかりした足取りで闇の中へ歩き出す。
アサヒはその背中に声を掛けた。
「なあ、また会えるかな?」
「会える訳ないでしょう。あなたとは、これっきりよ!」
そう断言して、ユエリは去っていく。
「……そうかなあ」
二度と会わないだろうというユエリの言葉に、アサヒは首をひねった。ヒズミと名乗った男の去り際の言葉から推測するならば。
「すぐに再会しそうな気がするんだけどな」
夜の散歩は結局ばれなかった。
翌日、アサヒは学院の使いの男に連れられて、学院の土を踏んだ。
緑の蔦に覆われた石壁が、学院の敷地をぐるりと囲っている。敷地内には古ぼけた三階建の洋館が複数あり、空を貫くような高い塔が中心に建っていた。
洋館の中に案内されたアサヒは、軽く筆記テストを受ける。
テストの後は、テスト結果は知らされずにすぐに応接室のような部屋に通された。そこで制服や教科書を渡され、説明を受けた。
学生は、竜騎士なら竜紋の等級、貴族なら家の格によって3つのクラスに割り振られる。一つのクラスは竜騎士と貴族の合同で、竜騎士は別に特別な授業がある。
学年による区分けは無く、クラスには様々な年齢の学生がいる。
クラス分けは以下の通り。
三等級はテラ。
テラは名もなき星を示す言葉だ。制服の襟元には菱形の星を表したバッジが付く。
二等級はラーナ。
ラーナは月を示す。バッジは三日月を模したものになる。
一等級はソレル。
ソレルは太陽を示す。バッジは放射線状の光を放つ円をかたどったものだ。
制服は地球でいうところのブレザータイプに近かった。暗い色の上下は質の良い柔らかい素材で、上着の裾は長め、ズボンは伸縮性があって動きやすい。
制服に着替えたアサヒは、校内地図を片手に一人で寮へ向かう。孤児出身の三等級ということで、寮までの案内を付けてもらえなかった。
校内を歩いていると、蜂蜜色の長い髪を左右でまとめた女子生徒と出会った。柔らかそうな滑らかな髪が、耳の上あたりに飾り付き紐でとめられて肩口で揺れている。
「あ、あなたは……!?」
それは昨夜の黒い忍び装束の女性、ユエリだった。
入学の餞別にセイランにもらった剣は、宿屋に置いてきてしまった。魔術だけで戦うのは心もとない上に、竜の姿のヤモリと一緒に戦ったことが無いからヤモリに何ができるか分からない。今だってヤモリはぼーっと立っているだけだ。ハッタリである。
一方、敵の男は戦い慣れた様子で、三又の槍を手に悠然と立っている。
素人目に見ても強そうだ。
「……お前、名前は何という?」
アサヒの竜をじろじろ眺めていた男が問いかけてくる。
「名前を名乗れっていうなら、自分から名乗ったらどうだ」
「失礼した。私はヒズミだ。ヒズミ・コノエという」
見知らぬ男に身元を知られるリスクを避けるため、質問に質問で返したアサヒだったが、予想に反して男は即答した。
一人称が、私。
苗字があるってことは貴族か。
仕方なくアサヒは返事をする。
「アサヒ」
「……そうか」
ヒズミと名乗った男は何やら感慨深そうに頷いた。
「分かった。この場は私が退こう」
「は?」
「命拾いをしたな、ユエリ。今日は人を殺したくない気分だ。私の機嫌の良い内に疾く立ち去るがいい」
勝手に自己完結した男はそう言って颯爽と身をひるがえす。
「アサヒ、学院でまた会おう」
男はおよそ普通の人間ではあり得ない身のこなしで屋根の上まで跳躍すると、相棒らしき深紅の竜に乗ってさっさと去っていった。
物騒なことを言っていた割にあっさりした引き際だった。
「なんなんだよ、いったい」
アサヒは困惑して頭をかく。
「……あなたは一体何を考えているのですか! 丸腰で戦いの最中に割って入るなんて、自殺行為ですよ!」
黒服の女性がアサヒに向かって咎めるように言う。
彼女の名前は、確かユエリと言ったか。
「でも割って入らなきゃ君は死んでたよ? 感謝くらいして欲しいな」
「頼んでません!」
助けたのに、怒られている。
不条理を感じつつ、アサヒは反論をあきらめた。
背後で黒い竜が尻尾を揺らす。竜は狭い路地につっかえて動きにくい様子だった。あのまま戦闘に突入していたら、どうなっていただろう。
「それにしても変わった竜の姿ですね。4枚の翼の竜は初めて見ました」
「そんな珍しいの?」
「ええ。それに悪魔のように真っ黒。目立ちそうですね」
首をひねって頭上を見上げると、視線が合った竜は首をかしげた。仕草が幼児のようにあどけなくて可愛らしい。自分の竜ながら、この知能の低さはどうかと思う。
「……ヤモリ、お前の姿、目立つんだってよ」
『……』
「もうちょっと、こう、地味にならねえ?」
アサヒは相変わらず竜と判明しても、ヤモリをヤモリと呼んでいた。ヤモリの方も自分の名前を自己申告しないので、全く問題ない。問題といえばハナビが「もっと格好いい名前を付けたらいいのに」と嘆いていたくらいだ。
地味にならないかと言われた竜は、首をもう一度、逆方向にかしげる。数度まばたきすると、いきなり身体をふるわせ始めた。
何をしてるんだと見守るアサヒの前で、竜の色が変わる。
漆黒の夜空の色から、落ち葉のような地味な茶色へ。
金色の角は浅い灰色へ。
翼は4枚から2枚へ。
「おお……!」
竜は地味になった。
「し、信じられない……あなたの竜は本当に何なの?!」
変身した竜を見上げてユエリがぽかんとする。
「まあいいじゃないか、細かいことは気にするなよ」
「気にするわ! 本当にあなた何なの?!」
アサヒの言葉にユエリは頬をひきつらせる。
動揺のせいか言葉使いが素になっているようだ。
「せっかく地味になったから、こいつで家まで送っていくよ?」
ヤモリを指して誘うと、ユエリは首を振った。
「いいえ……これ以上あなたを巻き込めないわ。気持ちだけ受け取っておきます」
彼女は毅然として断ると、しっかりした足取りで闇の中へ歩き出す。
アサヒはその背中に声を掛けた。
「なあ、また会えるかな?」
「会える訳ないでしょう。あなたとは、これっきりよ!」
そう断言して、ユエリは去っていく。
「……そうかなあ」
二度と会わないだろうというユエリの言葉に、アサヒは首をひねった。ヒズミと名乗った男の去り際の言葉から推測するならば。
「すぐに再会しそうな気がするんだけどな」
夜の散歩は結局ばれなかった。
翌日、アサヒは学院の使いの男に連れられて、学院の土を踏んだ。
緑の蔦に覆われた石壁が、学院の敷地をぐるりと囲っている。敷地内には古ぼけた三階建の洋館が複数あり、空を貫くような高い塔が中心に建っていた。
洋館の中に案内されたアサヒは、軽く筆記テストを受ける。
テストの後は、テスト結果は知らされずにすぐに応接室のような部屋に通された。そこで制服や教科書を渡され、説明を受けた。
学生は、竜騎士なら竜紋の等級、貴族なら家の格によって3つのクラスに割り振られる。一つのクラスは竜騎士と貴族の合同で、竜騎士は別に特別な授業がある。
学年による区分けは無く、クラスには様々な年齢の学生がいる。
クラス分けは以下の通り。
三等級はテラ。
テラは名もなき星を示す言葉だ。制服の襟元には菱形の星を表したバッジが付く。
二等級はラーナ。
ラーナは月を示す。バッジは三日月を模したものになる。
一等級はソレル。
ソレルは太陽を示す。バッジは放射線状の光を放つ円をかたどったものだ。
制服は地球でいうところのブレザータイプに近かった。暗い色の上下は質の良い柔らかい素材で、上着の裾は長め、ズボンは伸縮性があって動きやすい。
制服に着替えたアサヒは、校内地図を片手に一人で寮へ向かう。孤児出身の三等級ということで、寮までの案内を付けてもらえなかった。
校内を歩いていると、蜂蜜色の長い髪を左右でまとめた女子生徒と出会った。柔らかそうな滑らかな髪が、耳の上あたりに飾り付き紐でとめられて肩口で揺れている。
「あ、あなたは……!?」
それは昨夜の黒い忍び装束の女性、ユエリだった。
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