ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
89 / 120
5島連盟編

05 叱られる竜王

しおりを挟む
 なぜ学院で水竜王とカードゲームをしていたかというと。

 予想通りというか、無邪気で破天荒な水竜王ピンインは「出発まで暇じゃ。アサヒよ街を案内せい」と言い出した。
 学生のアサヒは日中付き合っている時間が無い。竜王の仕事もあって寮には竜騎士達も押し掛けてくる。
 そこでアサヒは思いきって学院に水竜王を連れてきたのだった。

 ひととおり学院内を散策した後、何かゲームは無いのかと言うピンインに、アサヒは学院の備品からカードゲーム用の紙の札一式を持ち出して、一室にこもってピンインと遊び始めた。
 ちなみに竜騎士同士の遊びだと模擬戦になってしまうことが多いのだが、アサヒとピンインは暗黙の了解でその選択肢は避けている。竜王同士が戦うと、うっかり本気になって島が壊れてしまったら洒落にならない。

 こうして負けず嫌いのピンインと数時間に渡るカードゲームが続いた。
 いい加減、飽きてきたアサヒがゲームの種類を変えようと思ったところで、部屋の扉がバタンと開いた。
 部屋に入ってきたのは深紅の髪をした鋭い雰囲気の青年と、がっしりした身体付きの異国の男だ。

「ここは立ち入り禁止……って、ヒズミに……セイラン?!」
「げっ」

 保護者の登場に、竜王二人はそろって青くなった。

「アサヒ。お前が部屋を勝手に占拠してゲームをしていると報告があった。学院長からも苦情が来ている」
「うっ」

 仁王立ちになったヒズミに淡々と責められて、アサヒはうめいた。
 兄弟だと明かしてからヒズミは開き直ったのか、良くも悪くも遠慮がなくなってしまった。竜王の絶大な権力も実の兄には通用しない。こうなると分かっていれば告白タイムを延期したのに。

「ピンイン様」
「せ、セイラン! 私はちゃんとハンカチとバナナを鞄に入れて外出したぞ」
「誰が遠足の持ち物チェックをすると言いましたか。他所よその島に迷惑を掛けて……帰りますよ」

 同じアントリアだからか、ピンインとセイランは顔見知りらしい。こっちも盛大に怒られている。
 眉を下げていたピンインは、ガバッと顔を上げるとアサヒを見た。

「私はアサヒと一緒にコローナに化粧品を買いに行くのだ! そう約束したのだ!」
「ふえっ?!」

 矛先がこっちに向いてアサヒは冷や汗をかいた。
 周囲の視線がアサヒに集中する。

「そんなことを約束したのか」

 腕組みしたヒズミが眉間にシワを寄せる。
 これはまずい流れだ。
 アサヒは保身に走ることにした。

「いやー、あはは。なあ、ピンイン。化粧品は逃げないし、ひとまずアントリアに帰って皆を安心させたほうが良いんじゃないか。ほら、アントリアの竜騎士達も心配してるってさ!」

 ピンインを説得するように言うと、彼は着物の裾をさばいて威勢よく立ち上がった。

「いやだっ、私は帰らぬ! どうせそう言って、コローナに行かせぬつもりだろう。アサヒ、いや炎竜王! 貴様も私をたばかるか……!」
「誤解だよ、ピンイン」
「うぬぬ。かくなる上は私と勝負しろ、炎竜王! 私が勝ったらコローナに連れていけ!」
「はあ、またそれ? 勝負って何するの?」
「水泳だ!」
「勝てる訳ねー。っていうか、ピクシスに泳げるような場所ほとんど無いし」

 アサヒはピンインが散らかしたカードを拾い集め始めた。そっけなくすると、ピンインは子どものようにシュンとした。
 急に肩を落として悲しそうになる。

「……アサヒ、貴様も同じ竜王なら分かってくれると思ったのに。私もたまには島の外に出たいのだ。けれど竜騎士どもがうるさくて、外に出られぬ……」

 アサヒは何だか胸が痛くなってカードを拾う手を止める。島の外に出られないのはアサヒだって同じだ。理由を付けて強引に行かないと、竜騎士達に止められてしまう。
 水竜王の本音の暴露に、部屋の中に沈黙が落ちた。
 沈黙を破ったのは、ヒズミのため息だった。

「……セイラン殿、あなたには二つの選択がある。水竜王を連れ帰るか、それとも付いていくか」
「良いのか、ヒズミ殿。火の島は」
「我らが王の勝手には困ったものだが、さすがに何も言わずに出て行ったりはしない。そうだな、アサヒ?」

 ギロリと睨まれる。
 水竜王みたいに勝手に家出するんじゃないぞ、と釘を刺されているのだ。アサヒは震え上がった。

「も、もちろん。あはは」

 から笑いしているとヒズミの視線が外れた。

「今回は捕虜返還が表向きの目的のため、快適な船旅とは言いがたいが、それでも良ければ火の島としては水竜王陛下がいらしても問題ない。席を用意する以外、ご自身の面倒は自分でみてもらうことになるが」

 セイランは返事に迷っているようだ。
 立ったままの水竜王陛下は地団駄を踏んだ。

「私は行くったら行くのだ。譲らぬぞー!」

 まるで子供だ。
 アサヒは、竜王を探して駆け回っているだろう竜騎士達にせめてもの援護をすることにした。

「とりあえずピンインがここにいるって、ハヤテ辺りにアントリアに伝令に行かせたら」
「それが妥当だろうな。しかし、火の島、水の島の両方で竜王不在となると……」
「大丈夫だよ。失敗したばっかりで、また攻めてきたりはしないさ。ましてや俺達が行く先はアウリガだし。敵さんがこっちに来る余裕なんかない。な、ピンイン」
「そ、そうであるぞ。アサヒの言う通りだ、うん」

 ヒズミの懸念に答えながらピンインを見ると、水竜王陛下は視線を宙にさ迷わせている。どうやら自島の防衛については何も考えてなかったらしい。大丈夫かアントリア。

「とりあえずこの部屋から出ようぜ。学院の外でどこか良い場所……」
「アサヒ、お前は授業を受けるように」

 水竜王の世話を口実にサボれるかと思ったのだが、そうは問屋が卸さなかった。ヒズミに追撃されたアサヒは失意に肩を落とした。




 
 
しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...