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5島連盟編
20 竜王会議
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勝手にずかずかと上がりこんできた水竜王ピンインは、勝手に空いている椅子を引き出して座ると、勝手にアサヒの前に置いてあるお茶とお茶請けの菓子をうばった。
「あっ!?」
ヤモリを押さえるために飲食していなかったアサヒは、自分の分を奪われて茫然とする。
ピンインは器から茶を飲み干すと「ぷはーっ」とまるで労働明けによく冷えた麦酒をあおったように、満足そうな顔をした。
真っ赤な金魚が彼の肩口でフワフワ浮かんでいる。
竜王が三人に増えたので、同席していたカズオミとケリーは強張った顔をして沈黙を守っていた。
彼らを気の毒に思いつつも、同じ竜王であるアサヒには遠慮する理由がない。
「お前ずっこいぞ!」
「む。てっきり私のために残されていたのかと思ったが」
ピンインは本当にそう思っているようだった。
無邪気な表情で首をかしげられて、アサヒは追及を諦める。
カズオミにもらった銅貨をヤモリに食わせながら、ピンインに聞いた。
「それで。海竜王がなんだって?」
「うむ。奴は竜ではない」
「竜じゃない? じゃあ、幻獣の類か? それとも……」
「分からん」
竜以外にも風竜王が飼っていたパズスのような魔物が、この世界には存在する。
アサヒの知る限り、人間と竜と魔物や幻獣が、この世界に生きるもののすべてだった。
しかし水竜王は首を振る。
リヴァイアサンはそのいずれでもない、と。
「私は洪水の直後くらいに、あれに接触を試みたことがある。しかし、あれとは会話が成立しなかった。言葉を話さぬ獣、というものとも違う。獣でさえ感情があり心があるものだ。あれは心が感じられなかった」
「心が無い……?」
謎かけのような言葉に困っていると、さらに階段をトントンと登ってくる音がして、扉が開いた。
「やあ、お揃いだね」
「風竜王?!」
青銀の髪の少年がにこやかに部屋に入ってくる。
少年の肩には青い小鳥がとまっていた。
彼は風竜王アネモスだ。
「竜王が4人……あと一人そろえば全員集まるな」
土竜王スタイラスが顎をさすりながら言う。
アサヒは思わず、部屋にいる面々を見回した。どういうことか分からないが、本来、自分の島を離れない竜王が4人もそろって、この場所にいる。
アネモスは土竜王の言葉に「そうだね」と頷くと、ふところから、ぐったりとしている金色の蛇を出した。
「そいつ、光竜王の相棒じゃないのか……?!」
「うん、そうみたい。ふらふら一匹で飛んでたから、拾ってきたよ」
金色の蛇は机の上に載せられると、力ない様子でとぐろを巻いた。
相棒の竜騎士から離れないはずの竜が、なぜ光竜王から離れてここにいるのだろう。
「ウェスペの奴、どうしたんだ?」
「それも含めて話そうか。僕らが全員ひとつところに集まって話すのは数百年ぶりじゃない?」
竜王せいぞろいの様相に、カズオミとケリーは場違いと感じたのか席を立つ。二人は部屋の外に出て行った。空いた席にアネモスが座る。出て行ったカズオミ達が手配したのか、すぐにお茶とお菓子の追加が運ばれてきた。
茶を飲みながら、アネモスは金色の蛇を拾った状況と、蛇から聞いた光竜王の情報について話し出した。
光竜王はリヴァイアサンの力を得ようとして海に向かい、逆にリヴァイアサンに囚われてしまったらしい。思わぬ展開に、アサヒ達の間に沈黙が落ちた。
そもそも……光竜王は5つの島の平和を乱す敵であった。
「良いではないか。あれがいなくなって世界は平和になることだろうよ」
水竜王ピンインは、フンと鼻息も荒くそう言い放った。
「だいたい自業自得だ。人のものを盗んで、海竜王の力も盗もうなど、強欲にもほどがある」
「……確かにそうだが光の島の民はどうする」
土竜王スタイラスは思慮深げに発言する。
「竜王がいなくなった島は荒れるだろう。他の島だろうが、そこには多くの人々が暮らしている。女王のみの統治で上手くいかなくなった場合、難民が我らの島に押し寄せてくるかもしれない」
他の島のことと一概に他人事として片付けられないと、スタイラスは難しい顔をした。
ピンインは半眼になると、腕をあげてニコニコしている青銀の髪の少年を指した。
「そんなもの、同盟国のアウリガが何とかするだろう! 風竜王、貴様が光の島も治めれば良い。話は簡単だ! ほら、領土が広がって良いだろう!」
「えー、僕、自分の島だけで手いっぱいなのに、光の島までいらないよ」
だいたい僕だって光竜王に封じられていたのに。
被害者じゃないか。
と、アネモスは唇を尖らせる。
「アサヒはどう思う?」
「ふえっ?!」
「あ、アサヒって呼んでいい、炎竜王? 僕のことも気軽にアネモスって呼び捨てにしてほしいなあ」
過去の竜王同士の付き合いがあるからか、アネモスは妙に親しい様子で声を掛けてくる。
水竜王は土竜王と、炎竜王は風竜王と、それぞれ昔から親交があった。
光竜王だけは孤高を保っていたのである。
「うーん」
アサヒは腕組みした。
光竜王には散々な目にあわされた。両親を殺したのは風の島の竜騎士ゲイルだが、おそらく指示を下したのはウェスペだ。そういう意味ではウェスペも仇と言える。
これは放っておいても良いんじゃないか。
「あっ!?」
ヤモリを押さえるために飲食していなかったアサヒは、自分の分を奪われて茫然とする。
ピンインは器から茶を飲み干すと「ぷはーっ」とまるで労働明けによく冷えた麦酒をあおったように、満足そうな顔をした。
真っ赤な金魚が彼の肩口でフワフワ浮かんでいる。
竜王が三人に増えたので、同席していたカズオミとケリーは強張った顔をして沈黙を守っていた。
彼らを気の毒に思いつつも、同じ竜王であるアサヒには遠慮する理由がない。
「お前ずっこいぞ!」
「む。てっきり私のために残されていたのかと思ったが」
ピンインは本当にそう思っているようだった。
無邪気な表情で首をかしげられて、アサヒは追及を諦める。
カズオミにもらった銅貨をヤモリに食わせながら、ピンインに聞いた。
「それで。海竜王がなんだって?」
「うむ。奴は竜ではない」
「竜じゃない? じゃあ、幻獣の類か? それとも……」
「分からん」
竜以外にも風竜王が飼っていたパズスのような魔物が、この世界には存在する。
アサヒの知る限り、人間と竜と魔物や幻獣が、この世界に生きるもののすべてだった。
しかし水竜王は首を振る。
リヴァイアサンはそのいずれでもない、と。
「私は洪水の直後くらいに、あれに接触を試みたことがある。しかし、あれとは会話が成立しなかった。言葉を話さぬ獣、というものとも違う。獣でさえ感情があり心があるものだ。あれは心が感じられなかった」
「心が無い……?」
謎かけのような言葉に困っていると、さらに階段をトントンと登ってくる音がして、扉が開いた。
「やあ、お揃いだね」
「風竜王?!」
青銀の髪の少年がにこやかに部屋に入ってくる。
少年の肩には青い小鳥がとまっていた。
彼は風竜王アネモスだ。
「竜王が4人……あと一人そろえば全員集まるな」
土竜王スタイラスが顎をさすりながら言う。
アサヒは思わず、部屋にいる面々を見回した。どういうことか分からないが、本来、自分の島を離れない竜王が4人もそろって、この場所にいる。
アネモスは土竜王の言葉に「そうだね」と頷くと、ふところから、ぐったりとしている金色の蛇を出した。
「そいつ、光竜王の相棒じゃないのか……?!」
「うん、そうみたい。ふらふら一匹で飛んでたから、拾ってきたよ」
金色の蛇は机の上に載せられると、力ない様子でとぐろを巻いた。
相棒の竜騎士から離れないはずの竜が、なぜ光竜王から離れてここにいるのだろう。
「ウェスペの奴、どうしたんだ?」
「それも含めて話そうか。僕らが全員ひとつところに集まって話すのは数百年ぶりじゃない?」
竜王せいぞろいの様相に、カズオミとケリーは場違いと感じたのか席を立つ。二人は部屋の外に出て行った。空いた席にアネモスが座る。出て行ったカズオミ達が手配したのか、すぐにお茶とお菓子の追加が運ばれてきた。
茶を飲みながら、アネモスは金色の蛇を拾った状況と、蛇から聞いた光竜王の情報について話し出した。
光竜王はリヴァイアサンの力を得ようとして海に向かい、逆にリヴァイアサンに囚われてしまったらしい。思わぬ展開に、アサヒ達の間に沈黙が落ちた。
そもそも……光竜王は5つの島の平和を乱す敵であった。
「良いではないか。あれがいなくなって世界は平和になることだろうよ」
水竜王ピンインは、フンと鼻息も荒くそう言い放った。
「だいたい自業自得だ。人のものを盗んで、海竜王の力も盗もうなど、強欲にもほどがある」
「……確かにそうだが光の島の民はどうする」
土竜王スタイラスは思慮深げに発言する。
「竜王がいなくなった島は荒れるだろう。他の島だろうが、そこには多くの人々が暮らしている。女王のみの統治で上手くいかなくなった場合、難民が我らの島に押し寄せてくるかもしれない」
他の島のことと一概に他人事として片付けられないと、スタイラスは難しい顔をした。
ピンインは半眼になると、腕をあげてニコニコしている青銀の髪の少年を指した。
「そんなもの、同盟国のアウリガが何とかするだろう! 風竜王、貴様が光の島も治めれば良い。話は簡単だ! ほら、領土が広がって良いだろう!」
「えー、僕、自分の島だけで手いっぱいなのに、光の島までいらないよ」
だいたい僕だって光竜王に封じられていたのに。
被害者じゃないか。
と、アネモスは唇を尖らせる。
「アサヒはどう思う?」
「ふえっ?!」
「あ、アサヒって呼んでいい、炎竜王? 僕のことも気軽にアネモスって呼び捨てにしてほしいなあ」
過去の竜王同士の付き合いがあるからか、アネモスは妙に親しい様子で声を掛けてくる。
水竜王は土竜王と、炎竜王は風竜王と、それぞれ昔から親交があった。
光竜王だけは孤高を保っていたのである。
「うーん」
アサヒは腕組みした。
光竜王には散々な目にあわされた。両親を殺したのは風の島の竜騎士ゲイルだが、おそらく指示を下したのはウェスペだ。そういう意味ではウェスペも仇と言える。
これは放っておいても良いんじゃないか。
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