ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉

文字の大きさ
107 / 120
5島連盟編

23 後で土下座してもらうからな

しおりを挟む
 大丈夫かなあ。
 石柱の中心を貫くエレベーターを見上げて、アサヒは少しだけ悩んだ。

 普通の竜騎士は自分の中の魔力を消費して魔術を使う。竜騎士は生まれもった魔力の量によって魔術の使用限界が決まっている。
 しかし竜王は世界に満ちる無限の大気エアを消費して魔術を使う。リソースが無限にあるので強力な魔術も連発できるのだが、人間である竜王には体力や気力の限界がある。
 つまり炎竜王であるアサヒにも限界はある。

 いざという時に内側から石柱の壁をぶち抜いて脱出するために、体力は残しておかなければいけない。
 エレベーターを使って移動した先に、もしラスボスのような敵が待ち受けていたとして。その敵を撃破して、さらに脱出のための力を残しておけるだろうか。

「うーん。でもここまで来ておいて、手ぶらで帰るのも」

 次回、ここに来られるかは分からない。
 悩んだ末にアサヒはエレベーターに乗ってみることにした。

「お、上ボタンしかないじゃん。ということは頂上に何かあるのか。変なところに連れていかれませんように!」

 上向きの三角をていっ、と気合いを入れて押す。
 静かな振動と共にエレベーターが上昇した。
 最上階と思われる場所まで上昇すると、エレベーターが止まって扉が自動で開く。アサヒは開いた扉から通路へ踏み出した。
 通路の先には、大小様々な水晶が立ち並ぶ部屋があった。
 一際大きな水晶の中に人影を認めて、アサヒは立ち止まる。

「なんでこんなところに……ウェスぺ?!」

 海底に沈んだという話だが、石柱の中に取り込まれてしまっていたらしい。水晶の中に眠る金髪の男の姿を見つけて、アサヒは驚愕した。
 ポケットの中から金色の蛇が出てきて、宙に浮かぶ。

『炎竜王よ……我が友を解放してやってくれ』
「それは」
『伏して頼む。この通りだ』

 光竜王がこうなったのは自業自得の極みだが、相棒の竜に懇願されるとアサヒも良心が痛む。

「分かったよ。もともとそのために来たしな」
『感謝する』
「でも、俺は風竜王や水竜王みたいに解放の魔術は得意じゃないぞ」

 炎は破壊することしかできない。
 困って水晶を見上げると、金色の蛇は言った。

『それで良い。肉体という器が壊れたとしても、魂さえ無事であれば、我が友の魂は無限の大気エアに溶けて生命の循環に戻るであろう。そしていつの日か、我らは再び巡りあうのだ』

 分かりやすいように翻訳する。殺してもいいよ、転生するから。
 アサヒは頭をかいた。

「そりゃそうかもしれないけど。何なんだよ、お前ら!」
『?』
「もうちょっと、命を大事にしろよ! せっかく今を生きているんだから」

 言いながらウェスぺの入った水晶の前に立つ。

「何とか外側の水晶だけ壊してみるか……内なる大気エア、外なる世界コスモス

 黄金の炎が渦を巻くように水晶に絡みつく。
 炎の勢いを抑えながら、アサヒは願いを叶えるための鍵詞じゅもんを口にする。

「檻を穿て、炎よ! 命無きもののみを燃やし尽くせ!」

 詠唱は魔術のイメージを明確化して、威力を上げるためのもの。
 アサヒは燃やす対象を生き物以外と指定する。
 もしここが巨大な生き物のお腹の中なら、この魔術の炎は効かなかっただろう。だが機械でできた石柱の中で、ウェスぺを封柱ごと閉じ込めた水晶は無機物だった。
 炎に舐められた水晶が融解して水となる。
 解放されたウェスぺの身体が水溜まりの中に倒れた。

「やった成功!」

 金色の蛇がウェスぺの顔をつつく。
 少し間を置いて、かすかな呻き声と共に彼は目を開けた。のぞきこんだアサヒの顔を見上げて、ウェスぺは目を細める。

「よお、気分はどうだ?」
「最悪に決まっている……もしや君が私を助けたのか」

 上半身を起こすと、光竜王ウェスぺはアサヒを睨んだ。

「馬鹿か君は?! 私は君の敵だ! 余計なことをせずに殺せば良いものを!」
「はあ?! 感謝の言葉も無しか。本当に嫌な奴だなお前は!」

 アサヒはウェスぺの襟首をつかむと、彼の頬を思い切り固めた拳に殴り飛ばした。目覚めたばかりで抵抗する余裕もないウェスぺはまともに拳を受け、壁にぶつかって崩れ落ちる。

『む。盟友よ、再びノックアウトするのは良くないぞ。せめて自力で移動できるようにしておかないと。汝がこの男を背負うのか?』
「そうだった。ついつい力が入っちゃったぜ」

 肩に現れたヤモリが尻尾を揺らしながら提言する。
 立ち上がったアサヒは、膝をついたままのウェスぺを見下ろして握っていた拳を解いた。

「外に出たら土下座してもらうからな。お前はこの先、一生、俺の言うこと聞いて働いてもらう。これまでの分、きっちり詫びろ!」
「何だと?!」

 指差して宣言すると、ウェスぺは目を丸くした。

「具体的にはピクシスの復興に向けて資金の提供や名産物を格安で輸入させろ。あとは俺の両親の墓参り(俺も実は行ってないけど)とか……」
「下らん。島の復興はともかくとして、墓参りして何になる? 私も君も時間の流れに取り残されている。奴らは仮の親に過ぎないのに」

 嫌そうにそっぽを向きながら、ウェスぺは赤く腫れた頬をさすった。
 アサヒは彼を見下ろして腕組みする。

「親に仮も何もあるか。だからお前は駄目なんだよ」
「何?!」
「人類の未来? 地上を取り戻して過去の栄光を復活する? ふざけんな、もっと大事なものがあるだろ。何度繰り返しても、この人生は一度きりなんだ。お前は大切な人はいないのか?」

 アサヒの言葉に、光竜王ウェスぺは何か思いあたることがあったのか、胸にあてた手でポケットに入った球体をぎゅっと握りしめた。




しおりを挟む
感想 122

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら
恋愛
ルベロン国の第1王女として生まれたシャルレーヌは、引きこもっていた。 その理由は、見目の良い両親と双子の兄に劣るどころか。他の腹違いの弟妹たちより、不細工な顔をしているからだと噂されていたが、実際のところは全然違っていたのだが、そんな片割れを心配して、外に出そうとした兄は自分を頼ると思っていた。 それが、全く頼らないことになるどころか。自分の方が残念になってしまう結末になるとは思っていなかった。

処理中です...