会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件 権力闘争編

もっちもっち

文字の大きさ
15 / 19
嵐の前

門関の誘いと古味の決断

しおりを挟む
現在、永田町はメシア騒ぎと次の総裁選の話で持ちきりだ。
そんな中、古味はついに門関から呼び出される。

もう、ばっくれようか。
いや、ばっくれるにしてもこんな狭い界隈でどこに逃げればいいのか。
国会議事堂ではすれ違うし、あれだけテレビでお互いの名前と顔を見せ合っては、話したことがなくても知り合いのようなものだろう。

逃げ場などない――だから、覚悟を決めて会うことにした。

時間は夜。
だが、部屋の空気は妙に明るかった。壁に仕込まれた間接照明が、柔らかく二人の顔を照らしている。
だが、その明かりの下で向き合う二人の間には、光では届かない濃い影が漂っていた。

「やあ、古味君。呼び出してすまなかったね。だが、どうしても話しておきたいことがあってね」
門関幸太郎がとっくりを傾けながら、微笑んだ。政治の場に長年身を置いてきた者特有の、重たくも飄々とした笑顔。

古味良一は、黙って正面に座る。
背筋を張ったまま、おちょこに指先すら伸ばさない。

この男が何を話しに来たか――すでに察していた。

「君のことは、ずっと見てきたよ。世論の空気も、君の発信も――特に最近は面白い」

「はあ……」
古味の返事は、気の抜けたような一言。だがその目は警戒を解いていなかった。

「義光君を、次の総理に据えようと思っている。…まあ、正確には“据えることにした”というべきか」
門関がひと呼吸置く。声は柔らかいが、決定を告げるそれは鉄のように重かった。

「だがね、その次が肝心なんだ。国を担うには、熱と希望が必要だ。若さが必要だ。…そうだろう?」

古味は視線を逸らさない。
わざと鼻で笑うように息を吐く。

「つまり、私に“その次”を、やれと?」

「そういうことだ」
門関は指先でテーブルをとん、と軽く叩いた。
「君は元は会社員だった。民間出身。そういう人間が時代を変えていくというのも、一興だろう?」

古味はわずかに肩をすくめた。
(お前の“興”に付き合うために、俺は政治家やってんじゃねえ)

「それは、義光さんを後ろから操ったあと、私も操るという意味ですか?」

「まさか。私はもう表には出ないよ。だが……若者を総理にする。それが、私がこの国に残す最後の仕事になるだろう」
一瞬だけ、門関の声に翳りが差した。
だが古味は、その言葉の“匂い”を見逃さなかった。
(裏で糸を引く奴ほど、最後の仕事なんて言葉をよく使うもんだ)

古味は静かに、はっきりと口を開いた。

「――お断りします」

場の空気が変わった。
時計の針の音すら強く聞こえる。

「……そうか。それが君の答えか」
門関はとっくりを置き、表情を変えずに言った。
「だが、それは私を敵に回すということだよ」

古味は目を細める。
声には出さなかったが、心の中で中指を立てた。
“上等だ。やれるもんならやってみろ”――その意志を、全身で返す。

そして無言のまま、立ち上がった。
足音が静かに、だが確かに響いた。

俺は、ゆっくりとその場を去った。

背後で、門関は静かにグラスを回していた。
まるで、まだ駒はそろっている――と言わんばかりに。

外に出た瞬間、夜の空気が肌を打った。
昼間よりずっと冷たい。だが、それ以上に背筋にぞわりと走るものがあった。



(……妙に静かだ)

料亭「夕凪」の灯りは背後に遠ざかり、路地は暗い。
俺は無言で歩を進めた。靴音が石畳に響く。

そのとき――。

「お疲れさん、古味先生」

路地の陰から、男がひとり現れた。
濃いサングラスに黒いスーツ。夜に不釣り合いなその出で立ちは、逆に“仕事”の匂いを漂わせていた。

「……誰だ?」

「ただの送り役ですよ。親分からのな」

親分――。
俺は眉をひそめる。門関の手の者だとすぐに察した。

「ご丁寧なこったな。だが、俺は一人で帰れる」

「そうはいきませんよ。永田町は危ない。足をすくうやつは、どこにでもいる」

男はわざとらしくポケットに手を入れた。
その仕草に、俺の心拍数が跳ね上がる。

(銃か……いや、ナイフでもいい。どっちにしてもやばい)

緊張が走る。というか慌てたところで自分ではどうしようもない。
開き直って男を凝視していると、男はゆっくりとポケットから手を抜き
――取り出したのは、黒い封筒だった。

「……なんだ、これは」

「読めばわかります。門関先生からの“おみやげ”ですわ」

俺は受け取らず、ただにらみつけた。

「俺はもう断ったはずだ」

「断ったのは“今日の話”だろう。これは“次の話”だ」

男の声は低く、妙に含みがあった。
門関が一度断られただけで引き下がるはずもない。
むしろ、ここからが本番――そう言っているようだった。

「……チッ」

俺は小さく舌打ちすると、封筒を乱暴に奪い取り、懐に押し込んだ。

気になるな。俺の弱みか何かか?もしかして小切手?いやだとすれば余計困る。

そうこうしていると、男が立ち去る足音が夜に響いていった。

背後で男は薄く笑った。

「……親分の言う通りだ。まだ駒はそろってる」

料亭の障子の影。
おちょこに映る顔を見ながら門関幸太郎は、すべてを見透かしたように目を細めていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...