会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件 権力闘争編

もっちもっち

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嵐の前

水園寺家の再会

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水園寺家の私邸――都内某所にある古風な洋館の一室。
分厚いカーテンが光を遮り、昼間だというのに部屋は黄昏のような暗さに沈んでいた。
重厚なドアを開けると、かすかな消毒液の匂いとともに、静まり返った空気が迎えた。

そこに、父・水園寺幸房はいた。
寝台の上。動かぬ体。
襲撃を受け倒れてから、もう数日が過ぎていた。

「……親父」

義光はゆっくりと近づき、寝台脇の椅子に腰かけた。
返事は、ない。
ただ、無機質な管とモニターの明滅だけが、命の継続を静かに示していた。

「門関さんに言われたよ。君の父上はもう終わった、ってさ」

義光は、わずかに口角を上げた。
それは自嘲でもあり、決意でもあった。

「俺ね……“メシア”になれって言われたんだ。
世間が望む総理になって、時代を導けって」

幸房の目は閉じられたまま。だが、どこかで聞いているような錯覚があった。
かつて何度も受けた、あの鋭い視線を思い出す。

「おかしいよな。親父が生きてるのに、俺が“総理”になる話が来るなんて。
昔だったら、夢にも思わなかった」

義光は、机の上に置かれた古い家族写真に手を伸ばした。
そこには、まだ若々しい幸房と、無邪気に笑う自分が並んでいた。
幼い頃は、その背中を無条件に信じてついていった。
だが今は――。

「もう、親父の影の中にはいたくないんだ。
“あの水園寺の息子”じゃなくて、“俺自身”で立ちたいんだよ」

そのとき、父のまぶたがぴくりと揺れた。
それがただの痙攣なのか、意識の微かな反応なのか――判断はつかない。

「親父。俺は、あんたのためにやるんじゃない。
でも、あんたの背中をずっと見てきたから、今の俺がいる。
……だから、この先は俺のやり方でやる」

義光は立ち上がり、父の手をそっと取った。
しわ深い掌は、あまりに軽く、そして冷たかった。
子どもの頃、握られたときに感じたあの力強さは、もうなかった。

「だから……もうおとなしく見ていてくれ。
この時代に、息子がどうやって“闘う”かを……な」

義光は背筋を伸ばし、まるで壇上に立つ政治家のように静かに一礼した。

そして、何も言わぬ父に背を向け、扉を開ける。
日差しの強い廊下が、まるで違う世界のように眩しく広がっていた。

政界という修羅場へ向かう義光の瞳は、異常なほどギラギラと光っていた。
その光は、父から受け継いだものか、それとも――父を超えるための炎なのか。
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