会社員だった俺が試しに選挙に出てみたら当選して総理大臣になってしまった件 権力闘争編

もっちもっち

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嵐の前

一発で変わる政治

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「私を馬鹿にして、ただで済むと思ってはいけないのだよ」

門関幸太郎は、かつて総理の座を降りて以降の、静かな屈辱の日々を思い返していた。

彼の元を訪れる者は日に日に減り、表向きの「尊敬」と裏腹に、その実、門関の影響力を過去の遺物と見なす輩も増えていた。
「いざというときは、門関先生に再登板を――」と語っていた者たちも、今や誰も振り返らない。

その中でも、秋屋。
露骨に距離を取り、門関のかつての政策をことごとく否定するような言動を繰り返していた。
それをテレビで見ながら、彼は静かに怒りを噛み殺していた。

「阿相の心胆を――せいぜい、寒からしめてやれ」

これはメシア計画とは別の、門関の「意地」であった。

ある日、水園寺家の間壁が一人の青年の家に上がりこんでいた。

「君、頭いいじゃないか。東大、法学部? すごいなあ」
言葉巧みに持ち上げながら、彼の心の弱さを探る。

その青年――高学歴ながら就職もできず、家に籠もっていた男は、次第に門関の差し出す“正義”という甘言に染まっていく。

「君のような優秀な人材が、世の中で評価されない。おかしいよな? でも、それを変える方法がある。国家のために、悪を討つんだ」

「……国家のために、阿相を……?」

「そう。君ならできる」
間壁は、青年に銃を手渡した。無骨な鉄の塊。どこで手に入れたのかは聞かせなかった。

「これは遊びじゃねえ。わかってんのか?」

「……わかった」

「失敗したら、そっちを使え」
そう言って、もう一つ、小型のリボルバーを机に置いた。
そして、間壁が部屋から出ると青年は宝物を手にした子供のように鉄の塊を大事そうに抱え込んだ。

「これで幸房様を見逃してくださるんですね」
「ああ。約束だ」
門関の手下は間壁にそう言い放つと闇へと消えていった。

そのころ、総理・阿相元春は長野県の補選応援演説のため、地方へ赴いていた。

「今回の選挙は、地元の皆さんの声を――」

彼にしては珍しく、有権者との距離を縮めようとしていた。
カメラの前でにこやかに手を振り、子どもに頭を下げて握手する。
選挙スタッフは、「うちのボスも丸くなったな」と笑っていた。

そのときだった。

「パン」

乾いた銃声が響いた。
空気が裂け、世界が一瞬止まる。

SPの怒号が飛ぶ。観客が悲鳴を上げる。暗殺者はすぐに取り押さえられた。
銃を撃ったのは、震える手をした一人の青年だった。

阿相首相は胸を抑え、崩れ落ちた。
銃弾はわずかに逸れたものの、動脈をかすめ、出血が激しかった。
病院への搬送が間に合い、命は取り留めた――が、総理職の続行は困難とされた。

その夜、ネットは蜂の巣を突いたような騒ぎだった。
「現職総理、銃撃される」
「犯人は高学歴無職の若者」
「またか…」「今度はリアルだったか」

情報が錯綜し、拡散されていくなか、古味良一はひとり静かにニュース速報を見つめていた。

――犯人は、自分と同世代・・・・!

それが胸に、深い鉛のように沈んだ。

「また、か……」

かつて夢を持ち、何者かになりたかったはずの誰かが、
絶望の果てに銃を取った――それが悲しかった。

そして、そんな若者さえ利用する「誰か」の存在に、強い怒りが芽生えていた。

古味は、拳を握った。

「このままでは終わらせない」

次の総理を決める総裁選が、予定よりも早く行われることになる。
嵐の幕が、ついに上がろうとしていた。
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