いじめられ勇者が世界を救う!?〜双子のいじめられっ子が転生した先で亡国の女王を助け、世界を救うと言うありふれた話〜

アンジェロ岩井

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第一部 第三章 ドラゴンを従えし王

ザビーネ王女の微笑

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体から高貴なオーラのようなものを放っている女性は二人と目が合うと、スカートの裾を両手で摘み、丁寧に頭を下げた。
「申し遅れたわね、私の名前はザビーネ。ザビーネ・フォン・ヴァイス・クロインツよ」
自身の女王に敵対する大きな家の片方の王女であると確認されるなり、二人は互いの武器に手を当てようとする。
恐らく、剣や杖を取り出せばもう止められないだろう。背後に佇む上品な雰囲気を纏う女性に向かって斬りかかっていくに違いない。恐らく、ザビーネも二人に襲い掛かられる事を想定している筈だ。
だが、彼女は全身から殺気を放つ二人を見ても動じる様子は見せない。
それどころか、小さくて形の良いピンク色の唇の端を吊り上げて笑っていた。
ザビーネが一通り笑い終わると同時に、彼女は第二声を口に出す。
「あら、ごめんなさいね。驚かせちゃったかしら?怖がらせるつもりはなかったんだけれど」
ザビーネは今度は口元に手を当てて小さく笑う。
「失礼ですが、あなた様はこんな所で何をしに来たのですか?」
ユーノは杖を突きつけて尋ねる。杖を突き付けられても彼女は表情を崩さない。あくまでもポーカーフェイスを浮かべたままだ。
少しばかり考える素振りを見せてから、再び口元を緩め、
「そうね、あの子の監視のためとでも言おうかしら?私の出した霧に上手く掛かったかなって」
「霧ですって!?」
マートニアは思いもよらぬザビーネの返答に眉を大きく上げた。
「ええ、私があの人から教わった魔法なの。あなた達の言う……」
その言葉を聞いた瞬間にマートニアは無言で剣を抜いてザビーネへと向かって行く。
だが、彼女のピカピカと光る鋼の剣はザビーネの体は貫く事はなかった。
目の前に、純黒の刃質を携えた剣を持つ茜色の鎧を纏った剣士の一人に邪魔をされてしまったために。
マートニアは歯を食いしばりながら、相手の剣を受け止める。ビリビリとした感触が彼女の両手を伝わって全身に伝わっていく。まるで、止めようとも止められない伝染病のようだ。
丸い顔の男はサメのような鋭い目でマートニアをジロリと眺めて、大きく自身の持つ剣を振り払う。
マートニアは思いもよらぬ力に振り飛ばされてしまう。
鎧を纏った可憐な騎士が剣を杖に起き上がろうとした時だ。
男の剣が彼女の首元にまで迫る。思いもよらぬ事態に彼女は目を開いて唾を飲み込む。
何か抗議の声を上げようとした時だ、背後のユーノ・キルケが顔色を変えてこちらに向かって行く。
その際に男の視線が僅かにユーノに逸れた。マートニアは両手に剣をしっかりと握っている事に気がつくと、男の首元にまで剣を振り上げて行く。
だが、男は即座に剣をマートニアの剣へと狙いを戻して、再び打ち合う。
剣と剣が火花を散らし合う。右に左に剣と剣がぶつかっていく。
マートニアはこの時に改めて自身の体の中に過去の英雄に深い感謝の念を送った。もし、マートニアの体の中にブリュンヒルデという英雄が居なければ、彼女は剣で応戦する事は出来なかったであろう。
彼女の奥底で体を操るブリュンヒルデは目の前の強豪の剣を弾き返していく。
そして反撃にも転じようとしていた。
数え切れないほどの打ち合いを重ねた末に彼女の剣は男の首の右横に迫っていた。
男は今度は地面を蹴って大きく後退して、マートニアの、ブリュンヒルデの剣を交わす。
そしてすかさず反撃に転じた。男は大きく剣を振り上げてマートニアの右横を狙う。
マートニアは慌てて右に剣を進めて、男の剣を防ぐ。
男の剣を防いだ時に彼女は今までにない倦怠感を感じた。その時に彼女の脳裏に連想されたのは極めて絶望的な言葉だった。そう『疲労』の二文字。
やはり、疲れていたのだろう。男の剣は重い。ブリュンヒルデがサポートをしているとは言え人間の体では限界がきたのかもしれない。
マートニアは男の剣を塞ぎながら、頭の中で疲れを打ち消す事を考え始めた。
彼女の頭の中でかつて向こうの世界で生きていた時に好きだったアニメの主題歌が歌い出された。
かつて自分が好きだったお姫様のキャラ。
マートニアはいじめられる中で、彼女の強さと気高さに憧れを持っていた。
あのお姫様の事を考えると、自然と勇気が湧いてきた。マートニアは歯を食いしばって男に向かって剣を向けていく。
マートニアは男に向かって夢中で剣を振るう中で、男が何やら口元を動かしている事に気付く。
マートニアは慌てて距離を取ったが、遅かったらしい。気が付けば、彼女は背後に吹き飛ばされ、ユーノが待機する馬車の近くの大きな大木に体を打ち付けてしまう。
信じられないとばかりに目を見開くユーノに向かってザビーネは言った。
「そうだわ、自己紹介が遅れたわね、彼の名前はマクシミリアン・フォン・クロプシュタット。偉大なる魔道士の一人にして我が国最高の剣士。お父様が私の護衛に付けてくださったの」
マクシミリアンは挨拶代わりに鋭く黒色の剣の先端を二人に突き付けた。
剣を杖に木の前から立ち上がろうとするマートニアを左手で静止して、右手に愛用の杖を持ってマクシミリアンとザビーネの前に立ち塞がる。
「失礼ですが、これ以上マートニアさんを傷付けるのなら、私が容赦致しませんわよ?なんなら試しますか?ですが、ご注意の程を私だって偉大なる魔道士の一人ですわ。簡単には破れなくたってよ」
ユーノは微笑を浮かべていたが、宝石のように美しく輝く瞳には火薬庫の火薬を吹き飛ばしかねない程の強力な火が宿っていた。
ザビーネはそれを見るなり、再び意味深な笑顔を浮かべて、
「確かにね、そこのお嬢ちゃんはともかく、あなたを相手に戦えばこちらもただでは済まなそうだわ、いきましょうマクシミリアン」
ザビーネが踵を返すと、鎧で全身を覆ったマクシミリアンはそれに続いて前の道を戻って行く。
このままこの場を去ると思われたザビーネはもう一度二人の方に向き直り、
「そうだわ、一ついい事を教えておきましょうか。この霧はと繋がっているのよ。簡単に言えば、とでも言えばいいかしら、私の得意な魔法でね。小さい頃にあの子を何度も未知の世界に連れて行ったわ、懐かしいわね、あの頃の事を思い出すなんて」
彼女は遠い目で霧に覆われた空を眺めていたが、マートニアは拳を握りしめてザビーネに向かって叫ぶ。
「ふざけないでよ!そんなのただのいじめだわ!」
「失敬ね!私がちゃんと保護者として付いて行ったわよ」
ザビーネはマートニアに向かって言い訳じみた主張を繰り出して今度こそ去って行く。
ザビーネは徐々に晴れていく霧を目で追いながら、頭の中で見知らぬ世界に取り残されたガラドリエルの事を考える。
あの子は見知らぬ世界でも女王として振る舞っているだろう。だからこそ、あの子は女王に相応しいのだ。
彼女は可愛い妹のような存在。ザビーネの方が8歳ばかり年上なのにも関わらず幼い頃の彼女は本当に自分によく懐いていた。一人っ子のザビーネからすれば目の中に入れても痛くない存在。
それがガラドリエルだ。自分は彼女と敵対する存在にあるにも関わらず彼女がこの大地を支配するのを応援したい気持ちがあった。だが、彼女を困らせたい。彼女の泣き顔を見たい。そんな鬱積とした感情があるのも事実。
ザビーネのガラドリエル観には二つの感情が同居していた。
だからこそ、ザビーネはオットー死亡後のガラドリエルの追討を志願したのだ。
この屈折とした彼女への愛を満たすために。
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