朝日に捧ぐセレナーデ 〜天使なSubの育て方〜

沈丁花

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さよならとこれから(静留side)

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“ありがとう、静留。コンサート、素晴らしかった。もう悔いはないよ。僕は行くね。”

黄昏時、どこかの川岸で、西弥が静留の頭を撫でながらそう言った。

“うん。またね、西くん。”

もう会えないことをわかっていながら、さようならとは言いたくなくて、静留はまたね、と紡ぐ。

いつもと同じように、青白い顔をした彼は少し寂しげに笑って。

彼が微笑んで手を振るのを、静留はただなにも言えず見つめていた。

______

「…よかった、やっと目を覚ました。大盛況だったよ。お疲れ様、和泉くん。」

目を開けると、静留は自宅のベッドの上にいて、梨花がほっとしたようにこちらを覗き込んでいる。

そこに、西弥の姿はもうない。

__あれ、僕…。

頬を涙が伝っているのに気がつき、静留は夢を見ていたのだと理解した。そういえばコンサートが終わった後、西弥の弟だと言う青年の腕に抱かれながら意識を手放したのだった。

「あのひとは…?」

そういえば、辺りを見回しても彼の姿が見当たらない。

「東弥さんのこと?彼なら、少し疲れたみたい。和泉くんのことをここまで運んだ後、真鍋先生の部屋で寝てくるって言ってたよ。」

「そっか…。」

__とうやさんって言うんだ。漢字は…西くんの名前と同じなら、東弥、かな…?
太陽って東から昇るんだっけ…?やっぱりお日様みたいな名前。

ぴったりの名前に、自然と口元が綻ぶ。

西弥とお別れをしたばかりなのに、不思議と気分は重くない。

「今回のリサイタルって、西くんとのお別れのためだったんだね。」

静留が言うと、梨花はしばらく気まずそうに目を泳がせてから、頷いた。

「曲目は真鍋先生が選んだの。何年か前のことだよ。」

__何年も…。

少し胸が締め付けられた。西弥はその何年か前から、静留より先に旅立つことをわかっていたのだろうか。だからこの曲をずっと前から選んでいたのだろうか。

「…西くん、喜んでくれたかな…?」

ふと、西弥に想いが伝わったがどうかが不安になる。

梨花は当たり前だよ、と無邪気に笑って、静留の肩をぽんと叩いた。

「絶対喜んだと思うよ。私まで泣いちゃった。ありがとう。」

「よかった…。梨花も、ありがとう。」

「どういたしまして。

じゃあ私、もう今日は帰るから、ちゃんとシャワーは浴びてね。あと、東弥さんが起きなくても冷蔵庫に入ってる何かをちゃんと食べてね。」

「うん。」

からんからんと玄関のドアの音が鳴り、梨花が出て行ったのがわかると、静留は再びピアノの椅子に腰掛けた。

先ほどまでは西弥に向けて弾いていたが、今度は東弥に向けて、感謝を伝えるために鍵盤を押す。

明るく優しく爽やかな、彼にぴったりの曲を。

これからも静留は彼のことを西弥と呼ぶけれど、今静留が一緒にいたいと願う相手は、紛れもなく東弥だから。
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